イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Spotify、平日におけるデイリー200位の再生回数が3日連続で記録更新…ここからみえてくることとは

ビルボードジャパンソングチャートにおいて週間単位での上位進出、さらにロングヒットや年間単位でのランクインに特に重要なのがストリーミング指標。このデータ提供元のひとつで、再生回数全体のおよそ2割を占めるSpotifyでは今週、注目すべき動向がみられます。

Apple MusicやLINE MUSIC等他のサブスクサービスの動向は解りかねますが、デイリー200位までの再生回数を可視化したSpotifyでの今回の記録達成は気になるところです。今回はこの背景を予想します。

 

 

大きな要因のひとつと考えるのは、ベテラン歌手の台頭。劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』主題歌のaiko「相思相愛」はトップ10内にランクインを続け、また宇多田ヒカルさんによるオールタイムベストアルバム『SCIENCE FICTION』はSpotifyの週間アルバムチャート(集計期間:5月10~16日)で8位にランクインしています。

加えて今週は、HYDEさんがMY FIRST STORYと組んだ「夢幻」(テレビアニメ『「鬼滅の刃」柱稽古編』(フジテレビ)オープニング主題歌)が月曜に、TM NETWORKのトリビュートアルバム収録のB'z「Get Wild」が水曜に、それぞれ200位以内に初登場。MY FIRST STORYを除く4組はいずれも1990年代以前にデビューしているという点で共通しています。

ベテラン歌手やコアファンの中にはサブスクに好い印象を抱かない方も少なくないと耳にします。4組の作品はすべてフィジカルが用意されているのですが、まず一度サブスクで聴いてみるという姿勢が、たとえばB'z「Get Wild」のチャートアクションからみえてきます(5月15日付で80位に初登場した翌日に173位へ後退)。サブスクから距離を置く傾向にあるベテラン歌手のコアファンの利用が、全体の底上げになったと考えます。

なおB'zのSpotify動向をkworb.netで確認すると(→こちら)、今回の「Get Wild」における80位がデイリーチャートでのキャリア最高位に。B'zはサブスク解禁が他の歌手より遅く、解禁後にリリースした作品もフィジカル先発/デジタル後発での解禁としていました。今回、TM NETWORKのトリビュートアルバムのフィジカル/デジタル同時解禁が最高位更新につながったと考えるならば、デジタル遅らせ施策は見直していいはずです。

 

 

Spotifyの平日におけるデイリー200位再生回数の記録更新は、ストリーミングヒット曲の多さもひとつの要因でしょう。さらに、大型連休後の上昇も注目すべき点です。実は昨年同時期にも、200位再生回数の記録更新が生まれていました。

日本では平日よりも土日祝日のほうがストリーミングが増える傾向にあり、ゴールデンウイークにてサブスクの良さに気付き、音楽を聴くようになった方が少なくないのではと考えます。昨年は5月16日以降3日連続でデイリー200位の再生回数が4万を超えた後、再び平日4万超えを果たすのは6月5日付まで待つことにはなるのですが、新規利用者がサブスクでの聴取を徐々に習慣化したことがここから見えてきます。

 

今年においても昨年同様、ストリーミングが一時的にダウンする可能性も考えられますが、今後は5万回再生が200位のボーダーラインとなりそうです。ユニバーサルミュージックグループ所属歌手の曲がTikTokでふたたび使用可能となり、バズ発生曲のサブスクへの移行がより活性化するだろうこともその根拠にあります。

ユニバーサルミュージック関連ではありませんが、TikTokで「全方向美少女」がバズを起こした乃紫(のあ)さんによる新曲「初恋キラー」が、最新5月16日付Spotifyデイリーチャートで早くもトップ10入りを果たしているのも興味深い事象です。

 

 

最後に。意地悪な見方かもと前置きした上で記すならば、仮にコアファンの方々が推す歌手の音楽チャート好成績を目的として再生回数をアップしようとしても、コアファンの力主体では上位進出が徐々に難しくなっていくことが今回の記録更新からみえてきます。曲は気になるがファンというわけではないライト層のコアファン化、そしてグレーゾーンのライト層化という昇華、昇格への尽力がより重要だと感じた次第です。

そしてもうひとつ。ビルボードジャパンはソングチャートの構成指標はすべて300位までをポイント加算対象としていますが、ストリーミングについては間口を拡げる必要があるとあらためて感じています。ビルボードジャパンがこのことを一度議論するよう願っています。