イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

この1週間のSpotifyにおけるJ-Popの特筆すべき動向を紹介し、日本の音楽業界への考えを提示する

社会的ヒット曲の鑑といえるビルボードジャパンソングスチャートにおいて、ロングヒットの要となるのが接触指標。中でもポイント面でより重要な役割を果たすのがストリーミングです。

上記は現在大ヒット中のOfficial髭男dism「Subtitle」、そして米津玄師「KICK BACK」の最新11月9日公開分(11月14日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおけるCHART insight。ポイント構成比をみれば、サブスク再生回数等に基づくストリーミング指標(青で表示)の重要度がよく解るはずです。

 

このストリーミング指標にデータを提供するデジタルプラットフォームのひとつがSpotify。2曲がリリースされて以降、日本や海外における注目すべき動きが目立っており、今回まとめてお伝えしていきます。

(なお使用するデータはログインが必要となります。自分はSpotify側に許可をいただき、使用させていただいています。)

 

 

Official髭男dism「Subtitle」の独走態勢

ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標では2000万回超えを2週連続で続けているOfficial髭男dism「Subtitle」。この強さはApple MusicやLINE MUSICよりもスタートダッシュが遅かったSpotifyでも表れています。

(Official髭男dism「Subtitle」が他のサブスクサービスよりもスタートダッシュが遅かったことについては、ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標首位曲再生回数におけるSpotify再生回数の割合から判断が可能。通常10%台後半となるこの数値において、「Subtitle」は前々週、前週が15%を割っていました。最新11月9日公開分(11月14日付)では16.0%に上昇しています。)

日本におけるSpotifyデイリーチャート、最新11月11日付までのおよそ4ヶ月間における上位曲の再生回数推移を上記に(最新日において16万回以上の再生回数を記録した14曲を抽出)。Official髭男dism「Subtitle」は同日リリースとなった米津玄師「KICK BACK」との差を徐々に拡げています。タイアップ先映像作品の人気の拡がり方の差(じわじわとか、ロケットスタートか)も影響しているとして、興味深い動向です。

日本におけるSpotifyデイリーチャートでは平日より土曜、土曜より日曜の再生回数が上昇し(平日でも祝日ならば上昇)、平日のうち金曜は下がる傾向にあります。その中で11月11日付においてOfficial髭男dism「Subtitle」は、50位以内の他曲にはほぼみられない再生回数上昇を達成。前日に『silent』第6話が放送された影響がはっきり可視化された形です(上記動画はその予告となります)。

「Subtitle」は11月6日付の日本におけるSpotifyデイリーチャートで過去最高の再生回数記録を達成していますが、最新11月11日付ではその記録にあと59回と迫っています。しかも今週火曜に平日では初となる50万回再生を突破すると、最新日まで4日続けて50万回台をキープ。ドラマの影響で金曜は上昇するとして、平日もこの数値が続くのは極めて異例です。

ビルボードジャパンによる次回11月16日公開分(11月23日付)ビルボードジャパンソングスチャートのストリーミング指標において、速報段階でOfficial髭男dism「Subtitle」が首位に立ち、再生回数は前週を上回っています。次週はKing & Prince「ツキヨミ」が総合ソングスチャートで最上位を狙う一方「Subtitle」はSpotifyにて自身が持つ最多再生記録を週末に更新しそうな気配ゆえ、高水準での首位争いとなることが予想されます。

 

 

・サブスクユーザーの拡大と再生回数の上昇

ビルボードジャパン各種チャートの2022年度に合わせ、同期間における日本のSpotifyデイリーチャートの50位および200位を定点観測したグラフがこちら。

ふたつのグラフのうち下側は200位のみを抽出したものですが、はっきり上昇していることが解ります(なお200位のみのグラフは、上側のグラフにおける200位を示したグラフと色が異なります)。

以前もこの件は指摘しましたが、その傾向はさらに強くなっています。米津玄師「KICK BACK」がオープニングテーマに起用されたテレビアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京)のエンディング曲が週替わりに登場しチャートを賑わせていることや、Official髭男dism「Subtitle」等の存在がサブスクで音楽を聴く習慣を根付かせたと言えるかもしれません。

またドラマ『君の花になる』(TBS)内に登場するボーイバンド、8LOOMはドラマと連動する形でこれまで3曲のシングルをデジタルリリース。日本におけるSpotifyデイリーチャートでは最新11月11日付で上記「Melody」を含む2曲が200位以内にエントリーしています(もう1曲も200位以内ランクインの実績有り)。今のリリース手段がドラマを介して認知されることも、サブスクユーザーを増やすことに繋がると言えるでしょう。

 

 

・藤井風「死ぬのがいいわ」、米Spotify週間チャートに登場

(上記は『YouTube登録者200万人超えを記念して、"LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE" 用に撮り下ろした「死ぬのがいいわ」の演出用映像』(上記動画の概要欄より)。)

タイでのTikTokによるバズを機に世界的な人気を拡げている藤井風「死ぬのがいいわ」が、11月4日金曜から10日木曜までを集計期間とするSpotify週間チャートにおいてアメリカで199位に初登場を果たしました。

(上記ツイートは、グローバルや米を主体とするSpotifyデイリーチャートを日々紹介するTwitterアカウント、Spotify Statsによるもの。 )

集計期間において藤井風「死ぬのがいいわ」の米Spotifyデイリーチャート登場は3日間のみでしたが、200位未満だった残り4日も安定していたと考えられます。当週はドレイク & 21サヴェージ(一部メディアではトゥエニーワン・サヴェジとも表記)『Her Loss』収録曲が大挙エントリーした中、「死ぬのがいいわ」が上昇したことは特筆すべきことでしょう。米津玄師「KICK BACK」も178位に入り、4週続けてエントリーしています。

これによりJ-Popは、世界配信された映像作品の関連曲(米津玄師「KICK BACK」)に加えて世界的なバズによってフックアップされた曲(藤井風「死ぬのがいいわ」)も米Spotify週間チャートに入りました。J-Popの複数ランクインは素晴らしいことであり今後の2曲の動向に注目すると共に、タイアップやバズがなくとも米チャートにランクインする曲の登場が日本の音楽業界のステップアップに欠かせないものと考えます。

 

 

最後に。Spotifyは有料会員のみならず無料会員も利用可能なサービスです。一方でビルボードジャパンや米ビルボード、グローバルチャートにおいて、ストリーミング指標への加算は有料会員による1回再生に重きが置かれます。

無料会員による再生でも利益は発生しますが、有料会員になればチャート面でも曲や歌手への恩恵が大きくなることを周知させる必要があります。ともすれば有料会員化をためらう方もいらっしゃるかもしれませんが、違法アプリ(一時期ほど話題にはなっていないと感じています)の撲滅共々”どうすれば作品に利益が入り、歌手が中長期的に活動できるか”を広く認識させることこそ、音楽業界にとって重要なことだと考えます。

ただし、サブスクやYouTubeを敵視する発言や、根底にそのような考えを持ち合わせた方の存在は理想の音楽業界へ向かう際の障壁となりかねません。ましてや地位を築き上げた方の無礼な発言ほど、日本の音楽業界に負の空気を送り込むものはないでしょうか。昨日の湯川れい子さんによる”音楽は無料で垂れ流し”発言はその最たるものだと痛感します。

これまでの実績に敬意を表す一方で、発言に問題があれば批判しその理由を提示することも必要で、双方は両立可能と考えます(ただし表現にあまりにも問題があれば、改善は厳しいとも思うのですが)。このブログでは日本の音楽業界改善を願い、ビルボードジャパンソングスチャートの周知等を引き続き行っていきます。