イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

年末の音楽特番から地上波テレビ局の出演傾向を読む (2023年版)

昨年末、地上波で放送された大型音楽特番の出演者傾向を分析します。2022年については下記エントリーをご参照ください。

今回参考とした番組は以下の12番組、リンク先は番組ホームページおよび音楽ナタリー掲載のタイムテーブルとなります。なお『第56回年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京)については演歌歌謡曲主体という性質上からか、音楽ナタリーでの掲載はありません。また『2023 FNS歌謡祭』(フジテレビ)は第1夜および第2夜がありますが、双方に出演した歌手もいらっしゃることからそれぞれ1番組とし、合計12番組での比較となります。

 

・11月15日放送 『テレ東60祭!ミュージックフェスティバル2023 ~一生聞きたい!昭和・平成・令和ヒット曲100連発~』(テレビ東京)

・11月16日放送『ベストヒット歌謡祭2023』(読売テレビ / 日本テレビ)

・12月2日放送『ベストアーティスト2023』(日本テレビ)

・12月6日/13日放送 『2023 FNS歌謡祭 第1夜/第2夜』(フジテレビ)

・12月18日放送『CDTVライブ!ライブ!クリスマス4時間半スペシャル』(TBS)

・12月22日放送『ミュージックステーション SUPER LIVE 2023』(テレビ朝日)

・12月27日放送『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2023~』(日本テレビ)

・12月30日放送『輝く!日本レコード大賞』(TBS)

・12月31日放送『第56回年忘れにっぽんの歌』(テレビ東京)

・12月31日放送『第74回NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)

・12月31日放送『CDTVライブ!ライブ!年越しスペシャル!2023→2024』

 

それでは、年末音楽特番の出演歌手一覧表を下記に掲載します。6番組以上の出演は黄色で、1番組ながら『NHK紅白歌合戦』(以下”紅白”と表記)のみ出演は赤で表示しています。また客演や共演等、タイムテーブルにクレジットされた歌手も記載しています。その他配色については下記表をご参照ください。

 

 

 

今回の出演歌手一覧から見えてくることは何でしょう。

 

<2023年冬の地上波音楽特番、出演歌手の傾向について>

 

① 最多出演歌手はMrs. GREEN APPLEおよびBE:FIRST

6番組以上出演した歌手を黄色にて表示していますが、最多9番組に出演したのはBE:FIRSTおよびMrs. GREEN APPLEでした。続いてJO1、NiziU、乃木坂46緑黄色社会が8番組、新しい学校のリーダーズ、anoさん、キタニタツヤさん、Da-iCEが7番組で続いています。

今の社会的ヒット曲の鑑であるソングチャートを中心としたビルボードジャパンの2023年度年間チャートについては上記に掲載していますが、Mrs. GREEN APPLEは年間ソングチャート100位以内に10曲を送り込み、またソングチャートとアルバムチャートを合算したトップアーティストチャートでは2位に。「ケセラセラ」(年間ソングチャート23位)の日本レコード大賞受賞も適切であるといえます(日本レコード大賞の番組評は後述)。

2023年度のビルボードジャパン年間トップアーティストチャートではBE:FIRSTが26位に。高いとは言えないかもしれませんが、昨年度はアルバムリリースがなくフィジカルシングルは2枚のみという状況であり、その状況でのこの順位は比較的高いといえるでしょう。また2022年には未出演だった『ミュージックステーション』へも出演を果たしており、メディアの注目度やニーズの高さが出演本数から見て取れます。

 

 

② 旧ジャニーズ事務所所属歌手は出演番組数が減少

他方、2023年度は旧ジャニーズ事務所(現STARTO ENTERTAINMENT)所属歌手の出演が前年度に比べて多くないことが解ります。それも紅白のみならず、たとえば 『テレ東60祭!ミュージックフェスティバル2023 ~一生聞きたい!昭和・平成・令和ヒット曲100連発~』では夏特番の司会を担当した国分太一さんも外れています。

より顕著かもしれないのは、『ミュージックステーション SUPER LIVE 2023』において旧ジャニーズ事務所所属歌手が前年の14組から6組にとどまっていること。2022年においては出演歌手第2弾発表時に14組をまとめて発表していますが、2023年は出演歌手第1弾発表時に他の男性アイドル/ダンスボーカルグループと共に発表。ここからも、2023年における旧ジャニーズ事務所所属歌手へのメディア対応の変化が見えてきます。

 

さて、2023年大晦日の紅白については、視聴率の低下を踏まえてこのようなポスト内引用記事が登場していますが、今ではリアルタイム視聴率が全てではないことからも信憑性は乏しいと考えます。そもそも歌手側や紅白サイドに取材をしない段階で、報じるメディアとしての責務は果たしていません。

百歩譲り、記事での”決別宣言”が真実だとして、メディア全体の対応が変化していることはまずきちんと知るべきでしょう。そして仮に決別し、ネットでの活動に重点を置くのならば、尚の事音源のデジタル解禁は必須です。

 

 

③ YOASOBI、紅白まで「アイドル」を生披露しなかった件

YOASOBIは4番組に出演していますが、「アイドル」の生披露は紅白まで待つことになります。『輝く!日本レコード大賞』のほか、12月30日にNHK総合にて再放送された『NHK MUSIC EXPO 2023 完全版』においても「アイドル」はライブ映像が用いられていました(同番組のセットリストはこちら)。

音楽ジャーナリストの柴那典さんによるポストを紹介しましたが、たしかに”胆力”(物事に恐れない気力、の意)のある決定です。YOASOBI側は以前もEP『THE BOOK 2』をリリースした2021年、各番組にて異なる曲をパフォーマンスし最終的にEP収録の全曲を披露したという経緯があります(下記ポスト参照)。ただし2023年は「アイドル」が特大ヒットしたこともあり、NHK総合以外のテレビ局は悔しい思いをしたのではと考えます。

初の生披露の場となった紅白での「アイドル」のパフォーマンスは、最終的に大きな話題となりました。YouTubeでの短尺版テレビパフォーマンス映像の勢いについては徒然研究室さんも随時紹介していますが(下記ポスト参照)、他番組で披露しないことに対しメディアや視聴者が抱いていた(かもしれない)不満を、紅白での圧倒的なパフォーマンスが払拭したと捉えていいでしょう。

 

YOASOBI「アイドル」は、Apple MusicやSpotifyにて首位に返り咲いています。デイリーチャート200位までの再生回数が可視化されるSpotifyの動向をみると、視聴率は低下したとはいえ話題性の高い曲はきちんと上昇を果たしており(最新1月2日付は下記ポストを含むスレッドを参照)、その際たる動きがYOASOBI「アイドル」だといえるのです。

 

 

④ 紅白の人選は唯一無二

出演歌手一覧表では紅白のみに出演した歌手を赤で表示していますが、紅白のみの出演者はバラエティに富んでいます。

テレビ放送70年特別企画出演者(寺尾聰さん、薬師丸ひろ子さん、ポケットビスケッツおよびブラックビスケッツ)をはじめ、キャンディーズメドレーを披露した伊藤蘭さん、「白い雲のように」で有吉弘行さんと共演した藤井フミヤさんといったベテラン、エレファントカシマシ椎名林檎さん等の中堅、若手実力派のOfficial髭男dism、そして「絆ノ奇跡」がヒットしたMAN WITH A MISSIONおよびmiletさんも登場しています。

たとえば演歌歌謡曲が減ったことを踏まえ、メディアや市井からは非難する声が散見されますが、今回調査した番組の中では唯一といっていいほど年代やジャンルを問わないラインナップといえます。それだけでも、紅白の意義は大きいでしょう。

(一方で、たとえば演歌歌謡曲ジャンルについては、2023年リリース曲を披露した歌手が少なく、また企画ありきとなっていることは気になります。あくまで私見と前置きしますが、けん玉やドミノは面白いかもしれないものの、企画の存在が曲を聴くことへの集中力を削ぐのではと考えます。最善はこのジャンルから社会的ヒットが輩出され、企画等の演出を伴うことなく曲そのものを魅せることではないでしょうか。)

 

 

⑤ 番組毎の特徴と、違和感の背景にあるもの

出演歌手一覧表には各番組の特徴を取り上げていますが、12月中旬以降の特番については違和感を抱くものも少なくありませんでした。

CDTVライブ!ライブ!クリスマス4時間半スペシャル』内で紹介された年間オリジナルランキングについては、そもそも紹介が80位までであることや、チャートポリシーの不明瞭さについて上記で記載しています。またこの番組にて事前収録が増えているだろうことを見越してか、『ミュージックステーション SUPER LIVE 2023』が”すべて生披露”であることを訴求していることも気になっています。

年間チャートを紹介する番組としては、2022年に立ち上がった『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2023~』もありますが、そもそも副題に記されているようなアワードという性質を持ち合わせはいないこと等、5つの問題を下記エントリーにて提示しています。そしてアワード(音楽賞)である日本レコード大賞についても、以前から提示している問題点は一向に解決されないままです。

そして『第56回年忘れにっぽんの歌』については、ホームページにて『これまで以上に視聴者を裏切らない「絶対にはずさない名曲」をたっぷりお送りいたします』とあるのですが、まるで紅白への当てつけにみえると感じるのは考え過ぎではないでしょう。

しかし『第56回年忘れにっぽんの歌』には演歌歌謡曲界の若手と呼べる歌手がほぼ出演していません。たとえば男性演歌歌手の真田ナオキさんや辰巳ゆうとさん、2022年の日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞した田中あいみさんも含まれていません。真田さんや辰巳さんは、2023年度の年間USEN HIT演歌/歌謡曲ランキング(→こちら)でも30位以内に作品を送り込んでいます。

演歌歌謡曲ジャンルにおいては社会的ヒット曲がこの数年生まれているとは言い難い状況ですが、だからといってこのジャンルを専門に取り扱う番組が若手を取り上げず、その上で”視聴者を裏切らない”と提示するのはジャンル自体に失礼ではと感じます。この思考は、紅白出場歌手に対し”歌手を知らないから駄目”とみなす一部市井やメディアの考えに共通しているのではと感じており、強く異を唱えます。

 

 

2024年の年末音楽番組についても同様のエントリーを設ける予定です。それまでに、旧ジャニーズ事務所初代社長の性加害問題が解決に向かうこと、メディアが歌手の過度な厚遇/冷遇をやめフェアに扱うこと(特にヒット曲でもって出演を判断する際はビルボードジャパンのチャートを用いること)、そして他番組を敢えて持ち出し貶すことで良さを訴求する番組や、主に紅白に対しくさすだけのメディアが登場しないことを願います。