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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングスチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン年間トップアーティストチャートを分析、そこからみえてくるものとは

ビルボードジャパンは12月8日に2023年度各種年間チャートを発表。このブログでは発表当日にソングチャートを主体とした分析を実施したほか、ソングチャートは翌日、アルバムチャートは12月11日に詳しく紹介しています。

今回は、ビルボードジャパンの年間トップアーティストチャート(Artist 100)について、詳しくみていきます。

 

なお今回の各種年間チャート、そしてビルボードジャパンのチャートが人選に大きく関わるといえる『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)について、今週月曜に音楽インフルエンサーRYOさんとコラボスペース(Xでの生配信)を実施しました。アーカイブは下記ポスト内にありますので、是非チェックしてください。

 

 

ビルボードジャパンは上記ポスト内記事とは別に、ソングチャートやアルバムチャートと合わせた総括記事に関連した下記表を用意しています。トップアーティストチャート上位20組における指標構成は重要な意味を持つものと捉え、今回紹介した次第です。

(なおビルボードジャパンには、トップアーティストチャート単体の記事にもこの画像のリンクを用意することを願います。)

上記画層を踏まえ、総合100位までの表を作成しています。

年間トップアーティストチャートで上位20組にランクインした歌手のCHART insight(総合および構成指標の週間単位での推移)はこちら。

ビルボードジャパン年間トップアーティストチャート 上位20組のCHART insight>

 ※ 年間トップアーティストチャート、1位から順に掲載。

 ※ 年間チャート最終週(11月29日公開分)までの最大60週分を表示(一部例外あり)。

 ※ 順位、チャートイン回数およびチャート構成比は11月29日公開分を指します。

 ※ CHART insightの見方については、以下のポストをご参照ください。

 

(※YOASOBIについては2024年度初週(12月6日公開分)までの60週分を表示。) 

 

 

ビルボードジャパンはトップアーティストチャートの記事に『パターンからみるアーティストのプレゼンス力の上がり方』というタイトルを用意しています。プレゼンスとは存在感のことですが、そのプレゼンスを高めることの重要性を説くという業界向け的な表現となったのは、書き手を務めたが上席部長でチャートディレクターを担当する礒崎誠二さんだからこそでしょう。先日は下記セミナーも行われており、尚の事です。

一方で、このプレゼンス力を上げるという意識は、現在では歌手側(芸能事務所やレコード会社)のみならず、コアファンの方々も徐々に持ち合わせてきていると感じます。歌手の中にはコアファンの方々と運営について話し合う方もいらっしゃる模様です。また海外ではコアファンの方の運営と思しき歌手のチャート紹介アカウントが存在。チャート分析を踏まえたプレゼンス力向上は、海外で定番化しているといえるかもしれません。

(※一例として、ブレンダ・リーのファンによるチャート専用のXアカウントを紹介。ブレンダは1958年リリースの「Rockin' Around The Christmas Tree」が2023年12月9日付にて初めて米ビルボードソングチャートを制し、翌週も首位に。一方で12月23日付では2位が予想されており(→こちら)、それを踏まえて"ストリーミングを続け、また買ってください!"と呼びかけています。)

 

 

音楽チャートにおいてより重要となるのはロングヒットであり、接触指標を含むソングチャートにおいては"歌手のファンではないが曲は気になる"ライト層の支持が欠かせません。また、新曲リリース時に過去曲もフックアップされ、トップアーティストチャートにて階段を上るようにステップアップする軌道を描くことが理想形と考えます。この点は年間チャート振り返り時にNewJeansやLE SSERAFIMを例に挙げています。

実際、ビルボードジャパンの記事においてもNewJeansやLE SSERAFIMを例に、『K-POPガールズグループは、先のYOASOBIやMrs. GREEN APPLEに似た、ソングチャートでのプレゼンスを上げて、チャートインする傾向があることがわかる』とあります。デジタル、特に接触指標群の支持がプレゼンス力の維持そして向上につながることは、CHART insightからも解るでしょう。

 

記事では一方で、男性アイドル/ダンスボーカルグループについて『旧ジャニーズ、K-POPボーイズグループともに、フィジカルでポイントを積み上げて“Artist 100”にチャートインする傾向だった』と紹介。実際、男性アイドル/ダンスボーカルグループについては持続力が強くないことが上記CHART insightにおける総合順位の推移から見て取れるのみならず、週間トップ5入りした翌週に急落するという点でも目立つ状況です。

 

トップアーティストチャート上位20組の指標構成において、ストリーミング共々カラオケ指標上位10組がすべて登場しているのは興味深い点です。

冒頭の表を再掲しますが、今年度はソングチャートを制したYOASOBI「アイドル」、また第4四半期の初登場ながら年間17位に入ったAdo「唱」について、接触指標のみならずショート動画やカラオケにおける"活用"の強さが際立った曲が爆発的にヒットしたと紹介しました。

最も上昇するのが遅い一方で、支持されればロングヒットに至りやすいカラオケ指標については、上半期トップアーティストチャート振り返り時(→こちら)にて『コロナ禍が収まってきたこともあり今後さらに重要な位置付けに成っていくかもしれません』と記しました。今後のヒットにおいては接触、デジタルでの所有のみならず"活用"も重要となり、ヒットの長期化はさらに進むことでしょう。

 

その点において、男性アイドル/ダンスボーカルグループを主体とするフィジカルに強い歌手はヒットの長期化がますます課題になると考えます。トップアーティストチャート上位20組の指標構成をみると総合チャートとフィジカルセールス指標が最も比例しておらず、コアファンとライト層の乖離が発生していると考えて差し支えないでしょう。

それでも接触指標のひとつである動画再生においてSnow Man、King & Princeという旧ジャニーズ事務所所属歌手がワンツーを占めたのは興味深いことです。King & Princeはメンバー脱退という動きも比較的大きく作用したと考えますが、Snow Manにおいてはオリジナルアルバムのフィジカルがミリオンセールスを記録したこともあり、歌手自体のプレゼンス力の高さを感じるに十分です。

だからこそ、ストリーミングを解禁していればより伸びると考えるのは自然でしょう。フィジカルセールスが幾分ダウンするかもしれないとして、それを補えるだけのコアファンの熱量の高さがみられます。またトップアーティストチャート上位の歌手では動画再生とストリーミングが比例する傾向にあります。ストリーミングの解禁はライト層の獲得につながりやすく、ライト層からコアファンへの昇華も生み出すでしょう。

 

 

ジャニーズ事務所所属歌手は今後、デジタルについて明るくなっていく可能性があります。ただ、STARTO ENTERTAINMENT設立時の文言には疑念が残るということについてはスレッドの形でXに挙げています(最初のポストはこちら)。一方で旧ジャニーズ事務所以外の男性アイドル/ダンスボーカルグループにおいては、旧ジャニーズ事務所初代社長による性加害事件の社会問題化、そしてそれを踏まえメディアが厚遇/冷遇を省みるようになった結果、メディアへの出演が少しずつ叶い始めています。旧ジャニーズ事務所所属歌手とは別の形でライト層へのアプローチが高まるといえる2024年度は、男性アイドル/ダンスボーカルグループ全体の動向をこれまで以上に注視する必要があるでしょう。

 

その男性アイドル/ダンスボーカルグループの中で興味深いと感じているのがBE:FIRSTです。2023年度年間トップアーティストチャートでは26位を獲得しています。

BE:FIRSTにおいては2023年度におけるフィジカルセールスが「Smile Again」および「Mainstream」のシングル2枚のみ(SKY-HIさんとのスプリットシングルについては収録曲順の関係上、フィジカルセールス指標はSKY-HIさん側に加算されます)。その状況ながら、「Smile Again」のカップリング曲であり先行配信された「Boom Boom Back」も含め、3度のピークが生まれていることが上記CHART insightから解ります。

BE:FIRSTはデジタルの訴求に長け、また様々な動画公開や新曲リリース時におけるラジオ指標の着実な獲得を踏まえるに、主にコアファンの支持を受けてトップアーティストチャートが高く推移したと感じています。一方で「Mainstream」ではユーザー毎に高い再生回数ハードルが用意されるLINE MUSIC再生キャンペーンは未実施でしたが(別途キャンペーンは存在)、以降ストリーミングは比較的高く推移するようになっています。

これは先述したメディアの露出増加、「Boom Boom Back」および「Mainstream」に代表される音楽の独自性(J-POP的なメロディの落とし込みがない、この数年席巻するようなK-POPの作品とは異なるアプローチ、等)、またBE:FIRSTの生みの親でありエンタテインメント全体の改善に欠かせない存在となったSKY-HIさんへの信頼も背景にあるかもしれません。

音楽ジャーナリストの柴那典さんが昨日寄稿したコラムでは、YOASOBI共々BE:FIRSTを2023年の顔として位置付けています。年末音楽番組への露出も目立つ彼らの動向は気になるところです。

 

もう一組、藤井風さんの動向も興味深く感じています。藤井風さんがこの一年でリリースしたフィジカルは、2020年にリリースされたアルバム『HELP EVER HURT NEVER』のアナログ盤再発分に限られるのですが、その所有指標も長くヒットし、且つ接触指標群も安定。「Workin' Hard」そして「花」のリリースに伴い、先述したNewJeansやLE SSERAFIMに似たステップアップがCHART insightから見て取れます。

『HELP EVER HURT NEVER』のアナログ盤は今年6月9日に再発されていますが、藤井風さんはこの時期に、セカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(2022)収録の「ガーデン」の公式動画("Visual"と冠したもの)を用意しています(→こちら)。

この動きが過去作品への注目度、そして来るべき新曲への期待値も高めることにつながったのではと感じています。「ガーデン」は年間ソングチャート100位以内は逃すも週間では最高26位を記録、また2枚のアルバムはいずれも年間100位以内に登場しています(『HELP EVER HURT NEVER』は92位、『LOVE ALL SERVE ALL』は79位)。アルバムを長期的に訴求する動きが業界内で高まる中、この動きは特筆すべきといえるでしょう。

 

 

ビルボードジャパンの記事では、プレゼンス力上昇について『ソングチャートに比重をかけていくか、アルバムチャートのフィジカルに比重をかけていくか、の二極に分かれつつあるようにみえる』と紹介していますが、既発曲の流れを組む新曲の登場(BE:FIRSTの例はこちらを参照)や過去作品のアナログ化等に伴い、新曲のリリースまでに新旧様々な作品を訴求する流れを作ることも、プレゼンス力の増強につながるかもしれません。

 

 

最後に。ビルボードジャパンのトップアーティストチャートは『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の出演を左右する大きな要素に成り得るというのが、このブログにて導き出した結論です。

その点においてもチャートアクションの動向を知ることが重要であり、またライト層訴求に向けての改善は必須と考えます。その一環として、先述したブレンダ・リーのコアファンによると思しきチャートアクション分析が、日本においても行われるようになるものと期待します。