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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

マライア・キャリーとブレンダ・リーのクリスマス曲における施策とは、そしてチャート施策への見方を記す

11月に入ると、街は徐々にクリスマス仕様となっていきますが、米では既に11月1日からこのモードが高まっているといえます。

日本においては季節に関する曲について、ラジオの反応がとりわけ大きくなる一方でストリーミングはそれが薄い傾向にあります。他方、たとえば米ビルボードソングチャートではストリーミングが大きくなる傾向があり、たとえば同指標の一要素であるSpotifyでは最新10月31日付でトップ10にハロウィーン関連曲が4作品、いずれも急浮上にてランクインしています。

(ボビー・ピケット「Monster Mash」は79→3位、シチズンズ・オブ・ハロウィーン「This Is Halloween」は77→4位、マイケル・ジャクソン「Thriller」は106→7位に、いずれも前日から急上昇。またロックウェル「Somebody's Watching Me」は前日の200位圏外から9位に再浮上を果たしています。なお「Thriller」については他2バージョン、「Somebody's Watching Me」は別の1バージョンも200位以内に登場しています。)

上記ではハロウィーン当日の米Spotifyデイリーチャートトップ10の動向を記しましたが、翌日はハロウィーン関連曲がいずれもトップ10から脱落し、11月2日付では200位圏外となっています。一方で11月1日付同チャートではクリスマス関連曲が200位以内に6曲再登場を果たし、その中で最上位にはマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が登場しているのです(31位に再登場)。

 

マライア・キャリーといえば、ハロウィーンの終わり/クリスマスの始まりを告げる動画の投稿がここ数年の恒例となっています。下記ポストは11月5日12時の段階で表示回数が1億1千万回を突破しており、如何に注目を集めているかがよく解ります。ポストのリプライにもたくさんのパロディ動画がアップされていますが、それこそがマライア側の狙いと断言していいでしょう。

インターネット上では11月になると、世界中の利用者が「マライアの封印が解かれる」とし、同様のパロディー動画、画像を投稿。マライア自身もこのブームに乗っかり、凝った動画でファンの期待に応えた。

動画の投稿は、マライア・キャリーが「All I Want For Christmas Is You」と共に帰ってきた、”私の季節が来た!”ことを示しているといえます。何よりそのことはチャートで証明されているのです。

 

 

マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」は音楽業界のデジタル化、とりわけストリーミングの伸長に沿う形で近年大ヒットに至っています。その経緯については下記エントリーにてまとめています。

リリースから25年の時を経て2019年のクリスマスシーズンに遂に首位を獲得した「All I Want For Christmas Is You」は、2022年のシーズンまで毎年首位の座に就き、現時点で通算12週首位を獲得しています。ストリーミングの影響力の大きさを踏まえれば今年もクリスマス当日にかけて関連曲が伸びることは確実と考えますが、そこでロケットスタートを切るべくマライア側は話題性の高い動画を用意したものと考えます。

 

 

その「All I Want For Christmas Is You」が現時点で最後に首位を獲得した2023年1月7日付米ビルボードソングチャート(集計期間:2022年12月23~29日)では、実はちょっとした異変が起きていました。ストリーミング指標において、マライア・キャリーのクリスマス曲を上回った作品が登場したのです。

ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」(1958年リリース)は2019年12月以降通算9週目となる2位となり、ストリーミング指標では初の首位に達しています(なお同曲のストリーミングは4687万、そしてマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」は厳密には4689万5千を記録しているのですが、有料会員と無料会員とでの1回再生のウエイト差に基づき、指標化の際に首位となった形です)

ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」は総合ソングチャートでは未だ首位を獲得していないのですが、2022年のクリスマスシーズン最終段階でストリーミング指標を制しました。ラジオおよびダウンロードを含む総合の形ではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」に敗れながらも総合首位獲得に一筋の光明がみえてきたこともあってか、ブレンダ側は今年様々な施策を実行しています。

今月に入り、ブレンダ・リーは「Rockin' Around The Christmas Tree」のリリース65周年を祝して制作したミュージックビデオを公開。リリース当時は13歳だったブレンダ・リーは現在78歳ですが、ミュージックビデオを新たに用意するという施策は以前ここで紹介したアニメーションビデオ投稿のそれを彷彿とさせます。

加えてブレンダ・リーは、5曲入りのホリデーEP『A Rockin' Christmas With Brenda Lee』を今月3日にリリース。タイトルからも「Rockin' Around The Christmas Tree」が収録されていると想起しやすく、EP全体の再生回数を高める等の効果をもたらすものと考えます。

さらにはこのEPに、「Rockin' Around The Christmas Tree」のフィロウス(Filous)によるリミックス(厳密には”Reimagined”と表記)が収録されているのも注目です。実際は昨年リリースされた作品なのですが、EP収録に伴いその存在がより知られるようになることでしょう。米やグローバルのソングチャートは様々なバージョンが合算対象となるため、リミックスの存在もオリジナルバージョンを高めるには有効です。

 

なお、今回新たに用意された「Rockin' Around The Christmas Tree」のミュージックビデオには、カントリー歌手のタニヤ・タッカーおよびトリーシャ・イヤウッドがカメオ出演しています。両者のファンがブレンダ・リーの新作動画をチェックするという流れも生まれるかもしれません。

加えて、ブレンダ・リーは米NBCの特別番組『Christmas At The Opry』(12月7日放送)にてパフォーマンスを披露することも明らかになっています(Brenda Lee Shares Video For ‘Rockin’ Around The Christmas Tree’ - uDiscover Music(11月3日付)参照)。この番組効果も「Rockin' Around The Christmas Tree」に反映されることでしょう。

 

 

様々な施策は、その作品をより多くの方に気付かせることに有効に作用します。ともすれば今年のクリスマスシーズンは、マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」をブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が逆転するかもしれません。その動向に注目しましょう。

 

 

 

最後に。チャート施策、そしてコアファンによるチャート上昇に向けての過度な活動に対して考えを求めたいという意見を昨日いただきましたので、ここで回答します。

 

 

まず、歌手側による施策の実施は自由です。ただし歌手側による施策がコアファンに物理的、および精神的な負担を過度にもたらすものであってはならないと考えます。その範囲内ではコアファンのチャート押し上げの活動は許容できるものと考えます。

ただし現在は接触指標の継続的なヒット…すなわちライト層の獲得およびそのライト層による長い間の支持が社会的ヒット作品の基礎と成る中にあって、コアファンのチャート押し上げ活動はそこまで長くは続かないというのが私見です。加えて各指標の構成や数週分の動向からは、獲得ポイントに対するライト層支持の割合がある程度みえてくるものと考えます。

 

重要なのはチャート管理者側が、コアファン等の過度な活動が判明した際には早急にチャートポリシー(集計方法)を変更すること、また過度な活動が反映されにくいよう予めチャートポリシーを設定することでしょう。チャート施策は今後日本の歌手でも増え、コアファンのチャート押し上げ活動も活発化してくると思われますが、ならば尚の事、真の社会的ヒット作品とは何かをチャート管理者側が流布することが必須と考えます。

そして、チャート管理者側が実際にチャートポリシーを変更する際には、”できれば前もって” ”十分な説明を経て”実施することが重要と考えます。これは米ビルボードではほぼ行われていません。またビルボードジャパンでは、たとえばTwitter指標等の廃止アナウンス時にその理由をきちんと伝えていなかったこともあり(下記リンク先参照)、双方がチャート管理者として十分な責任を持ち合わせているか、強い疑問を抱いています。

 

Twitter指標等の廃止におけるビルボードジャパンの姿勢に対しては上記エントリーで問題提起し、その上で『まずはチャート施策が当たり前に存在することを受け入れることが大切です。推し活自体は否定しないとしていますが、過度なものをNGとするならばそれが反映されにくい形に前もってチャートポリシーを変えることが重要だったのではないでしょうか』と記しました。

コアファンのチャート押し上げに対する熱量はその大きさに違いはあれど、どの歌手においても共通して存在するはずです。チャート管理者側はそれを認めた上で(無論その存在を非難してはなりません)、チャートポリシー変更等について毅然と対応すること、そして真の社会的ヒットとはどういうものかをきちんと説明することが重要と考えます。

たとえばビルボードジャパンにおいては、アルバムチャートに接触指標を導入することもひとつの改善方法と成るでしょう。このブログでは、チャートにおいて改善が必要な点があればその都度記載し、提案を続けていきます。