イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンおよびSpotifyの週間アルバムチャートを比較し、チャートポリシー変更の必要性を考える

このブログでは、時代に即してチャートポリシー(集計方法)を変更し続けたことで社会的ヒット曲の鑑となっているビルボードジャパンの各種チャートについて紹介し、時折さらなる変更の必要性を提案しています。最近ではトップアーティストチャート(Artist 100)の対象でもあるアルバムチャートに関し、米ビルボードのようなストリーミング(指標)の導入を議論する必要性について記載することが増えています。

たとえば上記エントリーでは2023年度におけるビルボードジャパンのアルバムチャートの総合および指標毎における首位作品、およびSpotifyの週間アルバムチャート(Top Albums)における3位までの一覧表を掲載し、その違いを踏まえた上で議論の必要性を説いています。今回はこの表の最新版を掲載すると共に、Spotify週間アルバムチャートについてはその範囲をトップ5まで拡げた表を用意し、今一度比較します。

 

 

2023年度におけるビルボードジャパンアルバムチャート、総合および指標毎の首位作品はこちら。

年度開始から現在に至るまで、総合チャートで連覇を果たした作品はなく、不連続を含め複数週首位の座に就いた作品は結束バンド『結束バンド』のみ。一方、Spotifyの週間アルバムチャートでは同じ作品が上位に安定していることが解ります。

Spotifyにおける1週間の区切りは金曜~木曜となります。なお、Spotifyの各種チャートについては下記リンク先をご参照ください。

 

Spotifyの週間アルバムチャートにおいては変動が少ないことに加えて、ヒット曲が多数収録されている作品が上位に進出しやすい構造であることが解ります。

最新チャートまで3連覇を達成しているMrs.GREEN APPLE「ANTENNA」はリード曲「Magic」や先行リリース曲が大ヒットを続けていることはこのブログで以前から紹介した通り。加えて「青と夏」や「僕のこと」もヒットを続け、ニューアルバムのリリース前から前作『ATTITUDE』(2019)も上昇しているのが特徴です。なお『ANTENNA』はデジタルを火曜に先行リリースしたことも、初週首位初登場の要因と考えます。

新曲の登場が過去作品をフックアップするのは、たとえばYOASOBI「アイドル」の大ヒットによってEP『THE BOOK』(2021)が週間トップ5に返り咲いたのが解りやすい事例といえます。

加えて、過去曲が新たにブレイクした際(この過去曲ブレイク自体がサブスク時代における大きな特徴ですが)、収録されたアルバムもフックアップされるのは、たとえばVaundy『strobo』(昨年の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)のパフォーマンスを機に大きくヒットした「怪獣の花唄」を含む2020年リリース作品)や藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』(「ガーデン」のヒットに伴い上昇した昨年発表のアルバム)からも明白です。

Spotifyの週間アルバムチャートではトップ5以外にも特徴が。たとえば7月20日までを集計期間とする最新チャートでは、『東京ディズニーリゾート(R)40周年 “ドリームゴーラウンド”ミュージック・アルバム 』が118→85位に上昇し最高位を更新。これは集計期間中に『音楽の日』(TBS)にてディズニー関連曲企画が行われたことが上昇の要因と考えていいでしょう。

広く支持を集める夏ソングを含むアルバムも上昇していますが、最新チャートではTikTokで人気を博している「熱帯夜」を含むRIP SLYMEのベストアルバム『GOOD TIMES』(2010)が150→125位に上昇。上記ディズニーアルバム共々週間最高位を更新しています。

 

これらを踏まえれば、接触から成るSpotifyのアルバムチャートが所有のみのビルボードジャパンアルバムチャートと大きく異なることが解るでしょう。この推移は同じビルボードジャパンでも、ソングチャートを含めたトップアーティストチャートに近いという印象です。

(上記はビルボードジャパンにおける2023年度のトップアーティストチャート、5位までのリストとなります。)

 

 

ひとつのサブスクサービスのみのチャートでは多少の偏りがあることは否めないでしょう(たとえばSpotifyには50位の壁という特徴が少なからず影響することについては、以前ブログにて紹介しています(→こちら))。しかしながら所有指標のみで構成されるチャートと比べれば、ソングチャートのヒットが反映され社会的ヒット作品が可視化されやすいのはともすれば接触指標に基づくチャートのほうかもしれません。

ソングチャートとアルバムチャートでは社会的ヒットの反映度が異なる、アルバムチャートは社会的ヒットと乖離しているという声も耳にします。また接触指標を集計対象に含む米ビルボードではチャートポリシーの見直しも必要とは考えるものの、支持される作品がロングヒットに至っていることは上記エントリーおよび掲載した表にて記したとおりです。

 

今回のエントリーが、複合指標から成るアルバムチャートの理想形を考えるきっかけになるならば幸いです。そしてビルボードジャパンに対しては、アルバムチャートのチャートポリシー変更について議論する場を設けることを願います。