イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

TikTok内でのヒット曲に変化、その理由を分析しつつ真のヒット曲とは何かを考える

日本のTikTokで人気となる曲の傾向が変わりつつあります。

ビルボードジャパンはTikTokと組んだ新たな音楽チャート、TikTok Weekly Top 20を昨年度よりスタートさせています(チャートの詳細はこちら)。そのチャート動向について、徒然研究室さんが以下のように分析しています。

この感覚は自分も漠然と抱いていましたが、実際に視覚化すると尚の事実感します。今回はTikTok Weekly Top 20における動向の変化を軸に、現在のTikTokの状況を考えてみます。

 

 

TikTok Weekly Top 20については、これまでのランクイン状況を表にまとめています。

最新4月5日公開分のTikTok Weekly Top 20ではYOASOBI「セブンティーン」が首位に。この曲は同日公開分のビルボードジャパンソングチャートで21位に初登場を果たしていますがTikTok Weekly Top 20では2週連続の首位となっており、TikTokで先行配信されていることが解ります。

YOASOBIが実施する動画投稿キャンペーンについては下記リンク先をご参照ください。YOASOBIの作品であれば「セブンティーン」に限らず応募は可能ですが、キャンペーン開始がTikTokでの「セブンティーン」先行配信日と同じであることから同曲の使用が高まったものと推測されます。

また3月29日公開分TikTok Weekly Top 20では同じく先行配信されたBE:FIRST「Smile Again」も4位に初登場。さらにその前週には来週フィジカルリリースされるSixTONES「ABARERO」も11位に初登場していますが、これらはTikTokでの先行配信というスタイルが浸透した証拠と言えそうです。このスタイルについては、3月15日公開分で2位に初登場したエド・シーラン「Eyes Closed」を紹介したエントリーにて記しています。

エド・シーラン「Eyes Closed」におけるTikTokの積極的なティザー公開は、海外で一般的な、そして日本でも浸透しつつあるチラ見せ公開の一環と言えます。

日本ではなとり「Overdose」等でもこの手法を展開。チラ見せ公開は正式リリースの渇望度を高め、またリリース時には既に曲が認知されているという効果を持ち合わせています。そのため、この施策は音楽チャートにおけるロケットスタートにつながると考えていいでしょう。

エド・シーラン、ニューアルバムのリード曲「Eyes Closed」の施策が興味深い(3月15日付)より

加えて、海外では曲名や歌手名を伏せてインフルエンサーに利用してもらい注目度を高めるという施策も。これを日本で踏襲したDa-iCE「スターマイン」については、昨日のエントリーで取り上げたばかりです。

「スターマイン」については下記ツイート内記事にもあるようにTikTokを意識して制作されたのみならず、リリース前の展開もまた海外の施策をなぞり、Da-iCE側がヒットに意欲的であることが解ります(ドレイク「Toosie Slide」等海外の施策を彷彿とさせることについては、"ジャニーズ&ボーイズグループから見る2022年音楽シーン"生配信で紹介した、音楽チャートにおける課題および提案(2022年12月17日付)でも記しています)。

優里「ビリミリオン」、Da-iCE「スターマイン」…アルバム直前リリースでなくともリード曲に据えることの重要性(4月7日付)より

 

とはいえTikTokで先行配信した曲が必ずしもリリース直後に大ヒットしているわけではなく、もっと言えばTikTok Weekly Top 20チャートを制した曲の大半がビルボードジャパンソングチャートでトップ10入りしていませんが、音楽業界におけるTikTokの使用方法が変わっていることは理解できます。そしてその使用方法の浸透が、徒然研究室さんが言及されている順位の変動係数上昇につながっているのかもしれません。

 

TikTok Weekly Top 20、そしてTikTokを介したヒットの理想形は、TikTok先行配信で浸透させた上で正式リリース直後に大ヒットすること、そしてリリース後もUGC(歌ってみたや踊ってみた等に代表されるユーザー生成コンテンツ)として長く愛されることであり、いずれにおいてもTikTokで触れた方がサブスクやYouTube等に聴取行動を移行させることが必要です。その誘導をどうするか、音楽業界のさらなる工夫が問われるでしょう。

 

 

最後に。TikTokについては中国企業によるアプリであること等を理由に、海外で政府のみならず広く国民全体においても使用禁止となる可能性が高まりつつあります。仮に禁止という事態となればエンタテインメント業界にも影響が及ぶことから、ともすればTikTokに頼らない形でのヒットの構築が急務かもしれません。