先週発表された日本ゴールドディスク大賞について、考えています。
✨「第37回日本ゴールドディスク大賞」発表✨
— 日本レコード協会広報 (@riaj_prinfo) 2023年3月9日
アーティスト・オブ・ザ・イヤー
🏆邦楽部門は #SnowMan が2年連続受賞!
🏆洋楽部門は #ザ・ビートルズ が過去最多8度目の受賞!
受賞作品・作品情報はこちら↓https://t.co/8532fZ5JSO#日本ゴールドディスク大賞#TheJapanGoldDiscAward2023
この音楽賞への言及はこれまで行っていませんでしたが、SNSにて洋楽部門が形骸化しているという発言を耳にしたことで、今からでも向き合わないといけないと感じた次第です。
大賞および各賞の概要を調べてみて、日本ゴールドディスク大賞に対し3つの違和感が生まれています。
・第37回日本ゴールドディスク大賞|THE GOLD DISCより
(概要がまとまっている画像をキャプチャし、用いています。問題があれば削除いたします。)
各賞の一覧については、こちら(PDF)に掲載されています。
各賞一覧にもあるように、選考基準は正味売上金額となります。ザ・ビートルズは昨年5枚組で2万円を超える『Revolver』の豪華盤を発売したことが功を奏した形であり、報道でもこのアルバムが採り上げられています。
日本で洋楽(K-POPを除く)の大ヒットが減っていることはブログでも紹介しています。また認知度の高い歌手でも国内盤リリースが世界の発売日から遅れる傾向が目立っています。日本ゴールドディスク大賞ではザ・ビートルズとクイーンが直近6年間の洋楽部門アーティスト・オブ・ザ・イヤーを分け合っており、現状を踏まえれば今後もデラックスエディションが登場する度にレジェンド歌手が受賞を続けるものと思われます。
この音楽賞ではストリーミングも扱われていますが、賞の概要を踏まえればストリーミングによる売上は正味売上実績に加味されていない可能性があります。デジタルプラットフォーム毎に1回再生当たりの利益が異なるだろうことがその理由かもしれませんが、昨年の配信売上が過去最高を記録し、且つストリーミングのシェアが高いこと(下記リンク先参照)を踏まえれば、ストリーミングを売上に含めることは必要と考えます。
(※ 音楽賞の概要を調べたものの、ストリーミングの売上が正味売上実績に組み入れられているという文言を発見することができませんでした。)
日本ゴールドディスク大賞の対象作品は、集計期間(2022年1月1日~12月31日。ニュー・アーティスト賞のみ2年間)にリリースされたもののみとなっています。たとえばビルボードジャパンで2022年度年間ストリーミングソングチャートを制したTani Yuuki「W / X / Y」、2位の優里「ベテルギウス」および3位のSaucy Dog「シンデレラボーイ」はいずれも2021年のリリースとなり、ストリーミング賞の対象から外れています。
ストリーミング時代にあってはリリースから時間を経過してもバズが生まれることが少なくありません。また2023年度はOfficial髭男dism「Subtitle」が年間ストリーミングソングチャートを制する可能性が考えられますが、日本ゴールドディスク大賞が対象期間にリリースされた作品のみを対象とするため次年度は「Subtitle」が候補から外れます。これでは流行を追うことは難しいのではないでしょうか。
基準があくまで正味売上金額であること、売上金額にはおそらくストリーミングは含まれないこと、そして集計期間外のリリース作品は含まれないこと…日本ゴールドディスク大賞に対する違和感はこの3点に集約されます。そして売上の数ではなく金額が基準となるためデジタルよりフィジカルが重視される(ことで時代錯誤感が高まりかねない)この賞が謳う”客観的な基準”という表現を、素直に受け入れ難いというのが私見です。
日本ゴールドディスク大賞がストリーミングの売上金額への組み入れを行うとして、それでもフィジカルの優位は変わらないものと思われます。日本のエンタテインメント業界自体の自浄が難しい中にあっては、この賞はこのまま続いていくことでしょう。ならば、需要の高まるストリーミングのヒットをきちんと評価する賞の創設ではないでしょうか。
個人的には、ストリーミングのヒットが社会的ヒット曲に成ることを示す音楽チャートを提供するビルボードジャパンが音楽賞を復活させ、大きく訴求することが必要だと考えます。この願いは以前からブログエントリーで記してきました。
日本ゴールドディスク大賞や日本レコード大賞の時代錯誤感(後者については以前指摘しています→こちら)が高まりつつも音楽賞側があまり変わろうとしないならば、ビルボードジャパン側はチャートや音楽賞を一度大きく打ち出す必要があると考えます。そうでなければ既存の音楽賞や音楽チャート等の自浄は難しいでしょう。
その際、ビルボードジャパンに必要なのは権威だと考えます。ビルボードジャパン側はメディアでのインタビューにてそれを持つことを好まない姿勢を度々示していますが、日本のエンタテインメント業界は権威ある賞を好み、市井も賞に違和感を抱きつつも受け入れているという印象です。ゆえに権威を示すことで賞の重要度を認識させつつ、革新を続けること、そしておごらないことが重要だと考えます。
仮に自分が音楽チャートの中枢にいるならば、自信を持って送り出す音楽チャートやそれに基づく音楽賞を、エンタテインメント業界を前向きに変えようとする方とタッグを組んで仕掛けるでしょう。