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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

藤井風、紅白出場決定…「死ぬのがいいわ」のバズをテレビで可視化するNHKへの敬意と、民放への改善要望

12月5日月曜、『NHK紅白歌合戦』(以下”紅白”と表記)に藤井風さんが白組として出場することが発表されました。

昨年の紅白でも出場アナウンスが第一弾出演者発表から遅れてアナウンスされており(紅白のツイート参照→こちら)、藤井風さんの出演は特別感があるものと思わせるに十分でしょう。アルバム『LOVE ALL SERVE ALL』のヒット、そしてアーティストランキング(Artist 100)の順位変遷をみれば藤井さんの出演は妥当と言えます。このArtist 100における妥当性は、先月のブログエントリーでも紹介しています。

(なお上記ブログエントリーにて、紅白出場歌手発表直後にビルボードジャパンが発信した初登場10組のチャートアクションまとめ記事についても紹介しています。)

 

そして注目は、NHKのホームページにおける藤井風さんの紹介文にあります。

(以下、一部を抜粋。)

2022年は、ミュージシャンとして大きく羽ばたこうとあらゆる挑戦を続けてきました。

(中略)

そしてこの夏、2年前に発表された「死ぬのがいいわ」がネット上で注目を集め、23ヵ国の音楽チャートで1位を獲得。ストリーミングサービスでの月間リスナー数は邦楽アーティスト史上初の1,000万人を突破し、記録を次々と塗り替えています。世界中のファンが藤井 風の音楽とどのように出会い、その魅力にハマったのか?世界各国を取材し、その秘密に迫ります。

藤井 風の出場決定 | 第73回NHK紅白歌合戦(2022年12月5日付)より。なお『NHK紅白歌合戦』ホームページ内記事は後に消去される可能性があることから、キャプチャの上貼付しました。問題があれば削除いたします。

(上記はライブ映像。)

地上波テレビ局において、藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的バズに言及するのは『NHK紅白歌合戦』および『NHK MUSIC SPECIAL 藤井 風 いざ、世界へ』が初になるのではないでしょうか。実際、地上波テレビ番組(音楽番組や情報番組)にて「死ぬのがいいわ」のバズが取り上げられたのを見聞きしたことはありません。この世界でのバズは、藤井風さんの紅白出場発表日にビルボードジャパンが記事化しています。

(ちなみに、ビルボードジャパンが藤井風さんの追加出場アナウンス直後にそのチャート成績等を発信したことを興味深く感じています。紅白がビルボードジャパンのソングチャートを主体とする各種チャートを選考基準として重視する可能性は以前にも紹介しましたが、記事やコラムの迅速な発信は、紅白とビルボードジャパンの良好な関係性を十分に感じられるものではないでしょうか。)

「死ぬのがいいわ」における過去曲のバズ発生、海外(発信源はタイ)のTikTokから世界中に火が付いたこと、そして過去曲が米ビルボードのグローバルチャートに登場したことはいずれもJ-POPにおいて珍しく(グローバルチャートへの登場については初)、大きな意味や意義を持っているのです。そして藤井風さん側の追加動画投入等施策も功を奏しており、J-POPの新たな可能性が生まれていると感じています。

しかし、藤井風「死ぬのがいいわ」は7月下旬のバズ発生から現在に至るまで、ネットメディアが記事にしてもテレビで発信されることはありませんでした(そう断言していいでしょう)。それが特に日本において、話題性のさらなる上昇につながらなかったと感じています。これは非常に勿体ないことだと考えると共に、きちんと取り上げる紅白、そしてNHK側の姿勢は流石だと言えるのです。

 

 

藤井風「死ぬのがいいわ」の世界的バズがなぜ日本のテレビメディアで報じられなかったのかを考えるに、【レコード会社側のプレスリリース等情報提供が十分ではない】【テレビメディア側に話題を探る力が十分ではない】そして【テレビメディアが曲解を恐れて報じないことを是としたこと】が背景にあるのではという結論にたどり着いています。

プレスリリースの重要性、そしてそれが報じることにつながる点においては上記ブログエントリーで紹介し、逆に言えばプレスリリースがないと報じないのではという疑問も記しています。報じる側が音楽チャートへの知識を磨きアンテナの感度を高めることは必要であり、同時に音楽番組において有益な音楽情報を発信することもまた重要だと感じています。

そしてもうひとつの問題点が、【曲解を恐れて報じないことを是としたこと】。これについてはバズが拡がりをみせていた9月の段階でツイートしています。

上記は9月14日付ブログエントリー(下記参照)でも紹介しました。曲の真意を伝えればタイトルに納得していただけると思うのですが、ともすればメディアが曲解される可能性を恐れ、ならば触らないほうが吉としてスルーした可能性があります。死という表現を用いた愛の曲は多く存在しており、それら作品を例に「死ぬのがいいわ」を説明することもできるはずです(ブログではプレイリスト化したものも用意しています)。

 

「死ぬのがいいわ」はクリスマスソングが大挙上昇する中、現在でもグローバルのSpotifyデイリーチャートや米ビルボードによるグローバルチャートで存在感を放っています。クリスマスが過ぎた後、紅白等NHKの番組を経てこの曲が再浮上する可能性も考えられるため、良好な成績を収めた際はレコード会社側がプレスリリースを積極的に発信することを願います。

そしてテレビメディアには、積極的に掘り下げる姿勢および伝えることの責任を持ってほしいと強く感じます。NHK側が「死ぬのがいいわ」をきちんと取り上げることを選んだことで、NHKと民放との差を感じずにはいられません。

 

 

藤井風さんはこれまで紅白以外の音楽番組、たとえば『ミュージックステーション』(テレビ朝日)や『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)には出演していません。『報道ステーション』(テレビ朝日)でドラマ『にじいろカルテ』(2021)主題歌「旅路」を披露したことや、『藤井 風テレビwithシソンヌ・ヒコロヒー』(2022 テレビ朝日)でバラエティ番組に挑戦したことがありますが(曲も披露)、純粋な音楽番組となると紅白のみなのです。

上記は昨日の段階での、年末の民放地上波音楽特番における出演歌手一覧表。黄色は(現段階において)紅白のみの出演を指し、藤井風さんやVaundyさん等が該当します。Vaundyさんは『バズリズム02』(日本テレビ)等深夜の音楽番組には出演したことがありますが、『ミュージックステーション』や『CDTVライブ!ライブ!』には未だ出演していません。

(なお演歌歌手はほぼ紅白のみの出演という状況です(なお純烈は歌謡曲であり、また氷川きよしさんはポップスも歌うことから他番組にも出演していると考えられます)。今年の紅白の顔ぶれについて演歌歌謡曲が少ないと違和感を覚える方は少なくないようですが、ならばまず演歌歌謡曲がヒットし他の民放音楽特番から呼ばれるようになることが必要ではと考えます。ヒットすれば演歌等専門の特番も生まれるかもしれません。)

この傾向は、紅白が歌手にとって特に出演したい番組になっていることの表れかもしれません。邪推と前置きしますが、『ミュージックステーション』や『CDTVライブ!ライブ!』がVTRを多用し、出演者がリアクションする(そしてそれがワイプで抜かれる)ことを求められることに、すべての歌手が順応できるわけではないとも考えます。より純粋に音楽に特化した番組づくりが民放側には求められるのではないでしょうか。

 

 

今回の藤井風さんの紅白出場決定は、紅白の意義の高さ、ならびにアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』のヒットもさることながら「死ぬのがいいわ」の世界的バズが大きな意味を持っているということの証明に成り得ると考えます。そして同時に、民放音楽番組等が藤井風さんを招聘したくともできない状態ならば、民放局の音楽番組や情報番組等が変わる必要があるでしょう。今回の件を踏まえ、民放側の改善を願う自分がいます。