(※追記(9時9分):ビルボードジャパンによる年間ソングチャートおよびアルバムチャートの解説記事が公開されました。それに合わせ、リンクが貼られたツイートを追加しています。)
12月は今年の音楽業界をチャートから振り返る企画が続きます。
今回は日本時間の12月1日木曜から翌日にかけて発表された、米ビルボードによる2022年度各種年間チャートをチェックします。集計期間は2021年11月20日付~2022年11月12付となります。 昨年の動向については下記ブログエントリーをご参照ください。
2022年度の米ビルボードによる主要チャート記事、およびビルボードジャパンの翻訳記事はこちら。
(翻訳記事は公開され次第紹介します。)
・年間ソングチャート
The Top #Hot100 Songs of 2022 💯 @GlassAnimals@Harry_Styles @thekidlaroi & @justinbieber @Adele @edsheeran @jackharlow @Latto @justinbieber @KodakBlack1k @eltonofficial & @DUALIPA
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See the complete year-end chart: https://t.co/Gfpdryr73J pic.twitter.com/V8FtO5IqBS【2022年 米ビルボード年間ソング・チャート】グラス・アニマルズ1位、ハリー・スタイルズ/ジャスティン・ビーバー&ザ・キッド・ラロイが続く https://t.co/2miHcoXGCf pic.twitter.com/DlseGicUkC
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) December 2, 2022
・年間アルバムチャート
The Top #Billboard200 Albums of 2022 🏆 @sanbenito @Adele @MorganWallen @taylorswift13 @EncantoMovie @Harry_Styles @oliviarodrigo @Drake @theweeknd
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— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) December 2, 2022
・年間アーティストランキング
The Top Artists of 2022 🌟 @sanbenito @taylorswift13 @Harry_Styles @Drake @MorganWallen @DojaCat @edsheeran @Adele @theweeknd @lilbaby4PF
— billboard (@billboard) December 1, 2022
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ソングチャートは100位まで、チャートを構成する3指標(ウエイトの大きい順に、サブスクリプションサービスの再生回数や動画再生回数等に基づくストリーミング、ラジオ、およびフィジカルを含むダウンロード)はそれぞれ75位まで紹介されています。下記はその年間ソングチャートおよび各指標の順位を一覧化した表となります。
それでは、今年度の10項目を取り上げていきます。
米ビルボード年間チャート発表、2022年度のチャートトピックス10項目
① グラス・アニマルズ「Heat Waves」、年間ソングチャートを制覇
20020年6月リリースのグラス・アニマルズ「Heat Waves」が年間ソングチャートを制しました。この曲はまずTikTokで話題となりグラス・アニマルズ自身も動画投稿に参加、翌年にはラジオにおいてクロスオーバーヒットとなり、最終的にはソングチャート100位以内登場59週目にして首位に到達。今年秋にはザ・ウィークエンド「Blinding Lights」を上回り、史上最長となる91週エントリーを達成しています。
グラス・アニマルズ、「ヒート・ウェイヴス」がHot 100史上最長91週目のチャートインを達成 https://t.co/sEehKwglMH pic.twitter.com/YYalMnx96i
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) October 19, 2022
グループ(デュオを除く)が年間ソングチャートを制したのは2009年度のブラック・アイド・ピーズ「Boom Boom Pow」以来13年ぶり。イギリス出身のグループとなると1983年度のポリス「Every Breath You Take」以来39年ぶりとなります。
② TikTokのバズによるヒット曲は今年も、そして新たな活用法の確立
グラス・アニマルズ「Heat Waves」のみならずTikTokによるバズ曲が今年度もソングチャートを賑わせていますが、その中で新たな動きが。この点については昨年度の総括エントリーでリル・ティージェイ feat. 6LACK「Calling My Phone」(2021年度年間33位)を例に紹介しましたが、リリース前のティザー(ティーザー)紹介、いわばチラ見せが今年度のヒット曲でさらに目立っている印象です。
いずれも今年度週間ソングチャートを制したリゾ「About Damn Time」(年間12位)やサム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」(年間98位 年度末のリリースゆえ次年度も引き続きランクインものとみられます)は共にTikTokでティザーを公開し大ヒットにつなげました。またエム・バイホルド「Numb Little Bug」は週間最高18位にとどまるも、年間では32位に到達。このヒットの一因にもTikTokのティザー公開が挙げられます。
③ 1980年代的アプローチ曲が引き続き流行
日本でもヒットしたザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」は昨年度の年間ソングチャートで12位となり、今年度は3位に。大ヒットの背景のひとつには1980年代的アプローチがハマったことが挙げられるのではないでしょうか。そのアプローチを伴って今年大ヒットしたのが、ハリー・スタイルズ「As It Was」(年間2位)でした。
「As It Was」は通算15週の首位を記録し、首位獲得週数は歴代4位に。アーハ(a-ha)「Take On Me」を想起させる軽快なサウンドがフォロワーを次々生んでいきました。「As It Was」は今年度の年間ソングチャートランクイン曲で唯一、構成3指標すべてにおいてトップ10入りを果たしています。
④ 大胆なサンプリング/引用曲の登場
ティザー公開が大ヒットに結びついた作品として、ジャック・ハーロウ「First Class」(年間6位)も挙げられます。この曲はファーギーがリュダクリスを迎え米ビルボードソングチャートを制した「Glamorous」(2007)を引用。今年度はこのような大胆とも言えるサンプリング使用曲が複数上位に進出したのも大きな特徴です。
ラトー「Big Energy」(年間7位)はトム・トム・クラブによる1981年のヒット曲「Genius Of Love」を用いていますが、リミックスではその「Genius Of Love」をサンプリング使用したマライア・キャリー「Fantasy」(1995)に倣い、マライア・キャリー本人に「Fantasy」の一節を歌ってもらっています(DJキャレドも客演で参加)。
さらにはベテランのエルトン・ジョンが存在感を発揮。デュア・リパとの「Cold Heart (PNAU Remix)」では自身の「Rocketman」(1972)、「Where’s the Shoorah ?」(1976)、「Kiss The Bride」(1983)および「Sacrifice」(1989)を用いています。年間ソングチャート10位に入ったのみならず、ストリーミング指標年間26位到達もまた興味深い動向です。
⑤ 映像作品タイアップ曲がヒット
世界的に大ヒットした映画『トップガン マーヴェリック』サウンドトラックに収録されたワンリパブリック「I Ain't Worried」が年間37位に登場。全指標40位以内に入り、バランスよくポイントを獲得しています。
またディズニーアニメ『Encanto (邦題:ミラベルと魔法だらけの家)』サウンドトラックより、カロリーナ・ガイタン、マウロ・カスティージョ、アダッサ、レンジー・フェリズ、ダイアン・ゲレロ、ステファニー・ベアトリス & エンカント・キャスト「We Don't Talk About Bruno (邦題:秘密のブルーノ)」が週間チャートを制覇。ディズニーアニメでは『アラジン』主題歌となったピーボ・ブライソン & レジーナ・ベル「A Whole New World」以来39年ぶりの首位となり、年間でも24位にランクインしています。
『Encanto』は昨年11月に映画が公開された、その1ヶ月後に配信が開始。どちらが週間チャート制覇により大きく貢献したかは判りかねますが、今年度は配信関連のヒット曲が複数生まれたのが特徴と言えます。
ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』のアニメ版、『アーケイン』(Netflix)において各話の冒頭で流れたイマジン・ドラゴンズ & J.I.D「Enemy」は年間15位に。また1985年にリリースされたケイト・ブッシュ「Running Up That Hill (A Deal With God)」は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4(Netflix)に用いられたことで週間3位を記録。リリース当時の週間30位を上回りキャリア全体でも最高位に到達、また年間でも23位に入っています。
⑥ バッド・バニーが年間アルバム/アーティストチャートを制覇
年間アルバムチャートはバッド・バニー『Un Verano Sin Ti』が制しました。全編スペイン語によるアルバムの年間チャート制覇は米ビルボード史上初となります。
バッド・バニー『Un Verano Sin Ti』は2022年度週間アルバムチャートにおいて通算13週もの首位を獲得し、ドレイク『View』の13週(2016)以来となる大記録を達成。さらには初登場から24週連続で2位以内をキープしています。
一方で今年度3週目に首位初登場を果たしたアデル『30』は年間2位に。首位獲得週はバッド・バニー『Un Verano Sin Ti』の半分以下となる6週です。
この2作品の差は年間アーティストランキングにも表れており、バッド・バニーが首位を獲得した一方でアデルは8位に。この要因がストリーミングにあることはストリーミング再生回数がユニット換算されるアルバムチャート、そして年間ソングチャートからも明らかです(バッド・バニーは総合100位以内に7曲、アデルは2曲がランクイン)。2022年度最終週のアルバムチャートにおいてはバッド・バニー『Un Verano Sin Ti』が3位だった一方、アデル『30』は149位となり大差がついています。
⑦ ジャンル別の得意/不得意な指標が曖昧に
昨年度の年間アルバムチャートを制したのはカントリー歌手のモーガン・ウォレンによる『Dangerous: The Double Album』。ストリーミングの強さが牽引し、今年度も3位にランクインしています。
カントリーは元々ラジオやダウンロード指標に強い一方でストリーミングに弱いと言われていましたが、若手を中心にその定説が覆されつつあります。実際、モーガン・ウォレンによる「Wasted On You」(年間19位)は3指標すべて23位までに登場し、3指標のうち最も順位が高かったのがストリーミングの14位でした。
(上記は”The Dangerous Sessions”と称した動画。)
一方でストリーミングに強い代わりにラジオに弱いとされてきたのがヒップホップですが、そのラジオ指標を年間で制したのが先述したザ・キッド・ラロイ & ジャスティン・ビーバー「Stay」(年間3位)。ヒップホップはポップ的な要素が強いほどラジオでも人気となり、同じく先程紹介したラトー「Big Energy」(年間7位)はラジオ指標6位、リル・ナズ・X「That's What I Want」(年間14位)は同9位にランクインしています。
ソングチャートの構成3指標には歌手別部門もあり、ドージャ・キャットは年間ストリーミング指標で11位だった一方、年間ラジオ指標では首位に。この年間ラジオ指標歌手別部門ではリル・ナズ・Xが6位、ジャック・ハーロウが8位、ラトーが9位、リゾが10位に入っており、クロスオーバー的要素を持つラッパーの強さが目立ちます。
一方でヒップホップ要素の強いコダック・ブラック「Super Gremlin」(年間9位)がラジオ指標でも35位に入ったことも、注目すべき点と言えます。
⑧ 週間ソングチャート下位でも年間上位/週間上位でも年間下位となる曲が存在
ビルボードジャパンソングチャートをこのブログにて紹介する際、週間単位で上位に入ってもロングヒットしなければ年間で上位に登場できず、社会的ヒットとは言い難いと幾度となく述べています。
その傾向は米ビルボードソングチャートにおいても言えることです(ただしヒットが継続しても下半期にリリースされた場合は年間での上位進出は厳しいのですが)。ドレイク feat. 21サヴェージ「Jimmy Cooks」(年間33位)やニッキー・ミナージュ「Super Frealy Girl」(年間56位)といった初登場首位獲得曲はラジオの強くなさが響き、年間で上位に登場することができませんでした。
他方、先述したエルトン・ジョン & デュア・リパ「Cold Heart (PNAU Remix)」(年間10位)は週間最高7位、リル・ナズ・X「That's What I Want」(年間14位)は同8位、そしてジャスティン・ビーバー「Ghost」(年間8位)は同5位という状況。週間で上位進出ができなかったとしても、主にラジオ指標の強さが年間上位登場を牽引する要素になることが解ります。
⑨ ラジオヒットの重要性
ひとつ前の項目に続く形となりますが、年間上位進出にとりわけ重要なのがラジオ指標でのヒットと言えるでしょう。
下記は今年度52週分における首位獲得曲の動向をまとめたもの。真ん中の表は各指標における総合首位獲得曲の数値、右の表は各指標毎の首位獲得曲となります。
週間ソングチャートの傾向として、初登場での首位獲得曲はラジオ指標で強くないことがよく解ります。デジタル2指標(ダウンロード指標はフィジカルセールスも含みます)は初登場時に高位置につけることができる一方、ラジオはどんなにロケットスタートができたとしても1か月以内にトップ10入りできること自体稀なのです。
初登場で首位に至った曲が連覇を達成しにくいのは、登場2週目にデジタル2指標がダウンし(特にダウンロードは急落の傾向)、その分をラジオ指標の上昇分だけでは補完しにくいため。ゆえに、ラジオ指標が高位置でスタートを切れるかも大事ですが、ラジオ指標の安定こそが重要となります。歴代4位となる15週もの首位を獲得したハリー・スタイルズ「As It Was」は、15週目の首位獲得時もラジオ指標を制しています。
また先程紹介したグラス・アニマルズ「Heat Waves」(年間1位)やエム・バイホルド「Numb Little Bug」(年間32位)等、TikTokでヒットした曲が次にラジオで支持を集めてロングヒットに至り、年間チャートでも上位に進出できています。「Numb Little Bug」はラジオ指標でトップ5入りを果たしており、週間トップ10入りを逃してもラジオヒットにより年間チャートで好成績を収められることを証明しているのです。
⑩ クリスマスソングが前年度の倍ランクイン
昨年度のソングチャートではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」が年間78位、ブレンダ・リー「Rockin' Around The Christmas Tree」が年間92位に登場していましたが、今年度はさらに2曲のクリスマスソングが100位以内にエントリー。「All I Want For Christmas Is You」は年間65位、「Rockin' Around The Christmas Tree」は年間80位に、そしてボビー・ヘルムズ「Jingle Bell Rock」が年間86位、バール・アイヴス「A Holly Jolly Christmas」が年間89位に登場しています。
マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」を除いてはいずれもストリーミング指標のみ年間75位以内に登場。ストリーミングの興隆に伴ってクリスマスソングがおよそ1ヶ月の間チャートを席巻する傾向が強まっており、年間ソングチャートにおけるクリスマスソングのランクイン倍増はまさにその証明です。
以上10項目を紹介しました。他にも特筆すべき内容があれば追記を予定しています。これまでの週間ソングチャートについては、以下のリンク先から辿ることができます。
興味を持たれた方は是非、様々なチャートをチェックしてみてください。そして2023年度も素晴らしい作品に出会えることを、今から楽しみにしています。