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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードジャパン最新動向】JO1「僕らの季節」が首位獲得、ロングヒットに向けてみえてきた課題とは

毎週木曜は、最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。

12月13~19日を集計期間とする12月22日公開(12月27日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。フィジカル関連指標初加算に伴い、JO1「僕らの季節」が首位を獲得しました。

JO1「僕らの季節」は、フィジカルセールス(シングル全体のタイトルは『WANDERING』)が自己最高となる初週51万枚を突破したことが牽引し、5作連続で総合首位を獲得しています。

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一方で、前週首位のAimer「残響散歌」は2位、そしてKing Gnu「一途」は4→3位に。ポイント前週比は前者が71.5%、後者が108.9%と好調に推移しています。

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「残響散歌」「一途」共にフィジカルリリースは先であり、そのフィジカルセールスを武器にJO1「僕らの季節」が勝ったと言えます。また同曲はダウンロード4位そしてストリーミング9位と共にトップ10入りしており、これは前作「REAL」の65位・48位(8月18日公開分(8月23日付))を大きく上回ります。ゆえにフィジカル/デジタル共に強く、次週も好調に推移するという見方があるかもしれません。

 

しかしながら、次週以降の動向において気になる点がふたつあります。それは【フィジカルセールスとルックアップの順位の乖離】および【ストリーミング再生回数におけるLINE MUSICの占拠率の高さ】です。

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ルックアップとは、CDをパソコン等にインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる回数を指します。このルックアップにおいて、最新チャートで51万枚を売り上げたJO1「僕らの季節」はなにわ男子「初心LOVE」(総合38位)に敗れています(上記CHART insightではルックアップ指標上位5曲を表示しています)。「初心LOVE」の今週のフィジカルセールスは1万2千枚を下回っています。

ルックアップはレンタル数および売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)の推測を可能とし、レンタル在庫数や回転数では「初心LOVE」が圧倒していると思わせるに十分です。とはいえ売上が「僕らの季節」のおよそ2.3%しかない「初心LOVE」がルックアップで勝るのですから、「僕らの季節」においてはユニークユーザー数の多くなさもまた想像可能と考えます。

JO1のシングルは在庫を導入しないレンタル店舗が多かった、もしくは導入したとしても在庫数が僅かという印象を抱いています。レコード会社がレンタルチェーンに働きかけることが可能ならば、レンタル在庫数を増やすよう要請することもルックアップ強化においては必要でしょう。

 

もうひとつのストリーミングに関する件は、以前紹介した内容に基づきます。

ビルボードジャパンによる最新チャートの集計期間のうち、月曜正午から日曜いっぱいまでの6日半に渡ってJO1「僕らの季節」のLINE MUSIC再生キャンペーン(再生回数キャンペーン)が開催されていました。

このキャンペーンが功を奏して「僕らの季節」のストリーミング指標が54→9位に躍進、588万を超える再生回数を記録した一方で、ストリーミング指標の集計対象となるSpotifyにおいては集計期間中に一度もデイリー200位以内に到達していません(日本におけるSpotifyデイリーチャートはこちらより確認可能です)。

無論これはクリスマスソングが大挙エントリーしたことで「僕らの季節」が200位以内に入れなかったということも考えられます。それを踏まえ、集計期間中に「僕らの季節」が毎日デイリー200位の再生回数に1回及ばなかったと仮定するならば、Spotifyでの再生回数は188346回となるのですが、その場合ストリーミング再生回数5888695回に対するSpotifyの比率は3.2%にとどまります。

一方で最新のストリーミングソングス指標を制したAimer「残響散歌」は全体におけるSpotifyの割合が15.1%。同指標2位の優里「ベテルギウス」(総合5位)は18.3%、同指標3位のマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」(総合11位)は18.8%、同指標4位のKing Gnu「一途」は18.4%となり、「僕らの季節」を大きく上回ります。ここから、JO1「僕らの季節」はLINE MUSICの占拠率が高いことが推測できるのです。

キャンペーン採用曲がキャンペーン終了後に急落する傾向を踏まえれば、ライト層が主に支える接触指標においてキャンペーン採用曲はコアなファンが再生のメインとなっていることが見て取れます。先述したBE:FIRST「Gifted. 」においてはコアなファンの再生がキャンペーン終了後も続くという特殊な動きを示しながら、最新チャートでは登場7週目にしてストリーミング指標59位となり、総合でも50位を割り込んでしまいました。

 

 

【フィジカルセールスとルックアップの順位の乖離】および【ストリーミング再生回数におけるLINE MUSICの占拠率の高さ】が、JO1「僕らの季節」の次週以降の動向に大きく影響するでしょう。一方で、週間ソングスチャートを制したのだから問題ないという声があるかもしれません。無論週間チャートを制するのは素晴らしいことですが、年間チャートではロングヒットがより重要となることは年間チャートをみれば明らかです。

JO1「僕らの季節」が週間ソングスチャートを制した直後、Twitterでは”ビルボ1位”という言葉がトレンド入りを果たしています。またTwitter指標では同曲が4連覇を達成、且つ複数曲が20位以内にエントリーしており、コアなファンの熱意が可視化されています。ゆえにコアなファンがビルボードジャパン制覇を目指したことやその頑張りには敬意を払いつつ、ならばその先を見据えることがより大事だということを提示します。

今回のチャート制覇をどうやってライト層獲得につなげるかこそ、中長期的活動を見据える上で必要なことではないでしょうか。ストリーミング、そしてルックアップにおけるレンタルはまさにそのライト層が主に支えるものであり、その強化および継続こそ重要です。

他方でフィジカルセールスばかりでは、また接触指標のストリーミングにおいてもコアなファンの頑張りによる再生回数がメインとなっていては、ライト層の取り込みが厳しく、曲が広く世間に浸透しないと考えます。曲の認知度は、2021年度ビルボードジャパン年間ソングスチャートにおける総合(→こちら)とフィジカルセールス(→こちら)との乖離や、双方のランクイン曲におけるカラオケ順位等を踏まえれば明らかでしょう。

 

 

ビルボードジャパン週間ソングスチャート制覇は十分な価値があります。ならばそれを武器に、その先を見据えた行動こそ採るべきでしょう。ビルボードジャパン側はLINE MUSIC再生キャンペーンによるブーストをはっきり意識しており、近い将来キャンペーン実施曲が有利になりにくいチャートポリシー変更を施すと考えます(個人的にはその変更を強く支持します)。そうなっても揺るがないようなライト層の獲得が望まれます。