"サブスクを味方に"を合言葉に、提案や私見を記載しようと思います。
サブスクは利益が出ない等を理由に、サブスクサービスへのネガティブな印象が歌手側から発せられています。おそらく解禁しない歌手や芸能事務所の背景にもあるだろうこの見方は、歌手側の発信のタイミングの度に話題になるのですが、自分はその発信に触れる度に"日本はいつまで前向きに成れないのか"と思ってしまうのが正直なところです。
2010年代前半以前のデビュー歌手、サブスクに慣れていないと表現していい歌手の方々がデジタルに後ろ向きであったり、果ては敵視さえする姿勢が、最終的には日本の音楽業界が世界に遅れを取った一因だと感じています。
— Kei (@Kei_radio) September 20, 2022
今回は1990年代に「愛の才能」が大ヒットした川本真琴さんによる、とても綺麗とは言い難い表現による非難を発端とした議論が生まれています。様々な音楽関係者がこの件を機に発信していますが、厳しい私見と前置きして書くならば、日本の音楽業界がデジタル化の流れに率先して乗ろうとしなかったことが、今にもつながっていると強く感じます。コピーコントロールCD等でみられた後ろ向きな態度は今も変わらない印象です。
サブスク1回あたりの再生に対する利益の少なさは音楽の発し手(レコード会社等含む)とサブスクサービスとの交渉が必要であり、解決によってはサブスク解禁する歌手も出てくるでしょう。また2010年代後半以降デビューの歌手はサブスクが当たり前の一方でCDを毎回出せるわけではないというスタートラインの差を、それ以前にデビューした歌手は知る必要がある等、上記ツイートを発端とするスレッドにて私見をまとめました。
そして、利益創出のために必要なことは他にもあります。それはサブスクユーザーのさらなる増加です。
この考えの基礎には、昨日のブログエントリーでも紹介した最新10月1日付米ビルボードソングスチャートが在ります。モーガン・ウォレン「You Proof」が6位、ルーク・コムズ「The Kind Of Love We Make」が8位に入り、ホットカントリーソングスチャートのトップ2が総合ソングスチャートで同時トップ10入りを果たしたのです。2000年以降5例目(2020年以降では4例目)となるの今回、面白い状況が生まれています。
注目すべきは、これまでの4例とは異なり、「You Proof」および「The Kind Of Love We Make」が共にポップおよびアダルトラジオでのプロモーションの助けを借りずに総合ソングスチャートでトップ10入りを果たしたこと。「All Too Well (Taylor's Version)」、「Fancy Like」や「I Hope」、さらに「Breathe」や「Amazed」はいずれもジャンルをまたいだ形でラジオのポイントを獲得していました。
モーガン・ウォレン「You Proof」、およびルーク・コムズ「The Kind Of Love We Make」の強さはストリーミングとカントリーエアプレイが大きく貢献しており、「You Proof」はストリーミング5位/カントリーエアプレイ3位、「The Kind Of Love We Make」はストリーミング7位/カントリーエアプレイ2位を記録しています。
とりわけルーク・コムズ「The Kind Of Love We Make」がカントリー色の強い作品ながら、ストリーミングを伸ばしているのは今らしいと感じた次第です。
カントリーは保守的と言えるジャンルであり、どちらかといえば年配の方が多く聴く傾向にあります。これまでストリーミングで強くなかったこのジャンルで、総合トップ10入りした2曲が共にストリーミングでもトップ10入りを果たしていることは特筆すべきことです。https://t.co/XK0jD2hWaU
— Kei (@Kei_radio) September 26, 2022
米ビルボードソングスチャートはストリーミング(動画再生含む)、ダウンロードおよびラジオの3指標で構成され、カントリーというジャンルはダウンロードおよびラジオが強い一方でストリーミングが弱いというのが定説と言えました。その中にあってここ数年はジャンルレスなコラボレーション等により、ポップジャンルにも浸透してきたと感じています。代表作品等については下記ブログエントリーで紹介しています。
(上記ブログエントリーの後、リル・ナズ・X「Old Town Road」が大ヒットしました。一時カントリーのチャートから外れたこの曲に対し、"この曲はカントリーだ"として加勢したのがベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスだったことも付け加えなければなりません。)
しかし今回のモーガン・ウォレン「You Proof」およびルーク・コムズ「The Kind Of Love We Make」はカントリー色が強い曲であり、ゆえにラジオでもポップやアダルト系ラジオ局で強くない状態です。その中にあって総合ソングスチャートトップ10入りに大きく貢献しているのがストリーミングだということは、特筆すべきことです。
いや、彼らのストリーミングヒットは必然だったと言えるでしょう。モーガン・ウォレンによる「7 Summers」が2020年8月29日付米ビルボードソングスチャートで6位に初登場を果たした際、原動力となったのがストリーミングでした。カントリーが強さを発揮するラジオはスロースターターのため総合チャートでの初登場トップ10入り自体が異例なのですが、同曲の躍進の背景にはサブスクサービスとの連携がありました。
This is badass. Thanks @Spotify pic.twitter.com/XRXAkzrd1U
— morgan wallen (@MorganWallen) August 14, 2020
モーガン・ウォレンは最終的に、「7 Summers」も収録したアルバム『Dangerous: The Double Album』が2021年度の米ビルボードアルバムチャートを制します。これは収録曲数の多さ(オリジナルバージョンは30曲、デラックスエディションは3曲追加)が有利になるチャートポリシーの影響もありますが、今のチャートでロングヒットの要となるストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)を維持したからに他なりません。
(※上記ブログエントリーで貼付したビルボードジャパンのホームページ内記事について、なぜかリンク先が表示されない状況が続いています。心よりお詫び申し上げます。)
またルーク・コムズは初のトップ10ヒットとなった「Forever After All」(2020)において、TikTokでのチラ見せ公開やリリース週の複数動画の発信が2020年11月7日付における米ビルボードソングスチャート2位初登場につながっています。TikTokはサブスクと連携しやすく、これがストリーミング指標2位獲得のひとつの原動力と言えるでしょう。
ジャンルを超えたコラボレーション等でカントリーをサブスク利用者(層)にも浸透させたこと、サブスクサービス等を用いた施策の実施が、カントリーをストリーミングで聴く習慣付けをもたらしたと言えるでしょう。最新米ビルボードソングスチャートではストリーミング上位曲の再生回数が多くないとも言えますが、逆に言えば安定して聴かれている曲が総合チャートで上位に進出しやすかったとも考えられます。
ルーク・コムズは32歳、モーガン・ウォレンは29歳という若さもストリーミングの強さの一因とは言えますが、保守的と言えるカントリーをを好む層の聴取先の変化はこの数年で培われたとのではないでしょうか。
ならば、日本でもこのアイデアを用い、サブスクユーザーを培うという中期的な施策を採るのは如何でしょう。
#モーガン・ウォレン は「7 Summers」が一昨年に総合トップ10入りした際、Spotifyの大型広告やApple Music内ラジオでのDJ担当等、サブスクサービスと組んだ(といえる)施策を展開しています。https://t.co/aHwWbtkDeq
— Kei (@Kei_radio) September 26, 2022
日本でもサブスクに強くないジャンルやベテランが施策を検討することを勧めます。
日本の場合はジャンルというよりも、2010年代前半以前の歌手、特にCD最盛期にヒットを飛ばした方々がサブスクで中々聴かれていないという状況にあります。今のヒット曲はイントロ等が短くなったと言われますが昔もノーイントロ曲等は少なくなく、またJ-Pop、もっといえば歌謡曲的メロディの落とし込み方等作り方のアプローチも共通項が多いと感じるため、デビュー年代がサブスクに大きく左右すると捉えています。
今の時代に呼応して動いた歌手はきちんとヒットを獲得しています。その代表例が #backnumber「#水平線」です。この点はブログ #イマオト でも述べています。https://t.co/6Uju3mBsac
— Kei (@Kei_radio) September 11, 2022
その中で2009年デビューのback numberはこの1年ちょっとでストリーミングヒットを連発するようになりましたが、施策の影響も大きいと感じています。上記ツイート内リンク先にあるような施策を歌手側が個別に行うこと、サブスクに慣れ親しむ若年層を取り込むことも重要ですが、歌手やレコード会社がタッグを組み、サブスクに慣れ親しんでいない且つ人口比率の高い中高年層をターゲットとすることもまた必要と考えます。
とりわけ、演歌歌謡曲のストリーミングヒットは乏しい状況だということは以前からブログエントリーで示しており、もっと言えばCDの複数種×時間差リリースはコアファンの絞り込みすら行わせかねません。中高年層はデジタルに疎く嫌悪感すら抱く方がいらっしゃるとして、しかし時間的ゆとり等を踏まえれば、音楽を気軽に、CDを買わずとも聴く楽しみを知らせることでユーザーに成る可能性はあるでしょう。たとえばこの秋のソニーミュージック演歌歌謡曲部門サブスク解禁は、その一助になるはずです。
ソニーミュージックの演歌・歌謡曲シングル204タイトル609曲、サブスク&ダウンロード解禁 https://t.co/7qnTXtAUKi pic.twitter.com/W4jvPqb2Yi
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) September 14, 2022
演歌歌謡曲のサブスク解禁が未だ不十分な中、ソニーミュージックの演歌歌謡曲部門が解禁されたことにより、たとえば現在夢グループのCMでおなじみの保科有里さんによるソニーミュージック時代の音源を聴くことができます(上記はシングル『バス・ストップ2』)。サブスクを中高年層に親しませるべく、夢グループやNHK総合『うたコン』等番組が(サービス紹介はできない分)動画等を作成したり、またはデイサービスやグループホーム等での認知浸透を図るべく営業するのも一案ではないでしょうか。
保守と呼ばれるカントリーが米ビルボードソングスチャートで十分な結果を残し始めていること、昨年度はアルバムチャートも制したことは、この数年でのカントリー×ストリーミングの結実と言えるでしょう。無理だと嘆いたり恨み節を吐く前に、やれることは沢山あるはずです。そして日本におけるサブスクユーザーはまだまだ増える余地があり、それを止めさせかねないようなマイナスイメージの発信は慎むべきです。