昨日は、洋楽の日本におけるヒットの法則について考えました。このきっかけとなったのが、ジョナス・ブルー feat. BE:FIRST「Don't Wake Me Up」のリリースです。
【#イマオト ブログ更新】#ジョナス・ブルー「#DontWakeMeUp」の #BEFIRST 参加版がリリース、新たな洋楽ヒットになるかもしれません(ここでの”洋楽”はK-Popを除きます)。
— Kei (@Kei_radio) July 15, 2022
この1年に @Billboard_JAPAN でヒットした洋楽を振り返り、ヒットの法則と重要指標を確認しています。https://t.co/d0d9351v42
オリジナルバージョンではジョナス・ブルーがアメリカのボーイズバンドであるホワイ・ドント・ウィーをフィーチャー。実はこの曲自体、『ジョナス・ブルーが年間を通して行うあらたなコラボレーションプロジェクト『Together』から年始にリリースされた最初の楽曲』となっています(『』内はBE:FIRST、ジョナス・ブルーの楽曲にフィーチャリング参加! メンバーコメントも到着 – THE FIRST TIMES(7月13日付)より)。
ジョナス・ブルー「Don't Wake Me Up」のような複数の客演(共演)参加バージョンの登場、海外では時折見られています。
ブルーノ・マーズはアルバム『24K Magic』(2016)から、「That's What I Like」を翌年シングル化。その際、パーティネクストドアやグッチ・メインがそれぞれ参加したバージョンが用意されました。
これにより「That's What I Like」はケンドリック・ラマー「Humble.」を破り、米ビルボードソングスチャートで首位の座に。リミックスの投入は、ストリーミング指標の15%アップをもたらしています。
エド・シーラン「Perfect」は、「Shape Of You」を収録したアルバム『÷ (Divide)』(2017)から4曲目となるシングル。このシングルカットにおいてビヨンセおよびアンドレア・ボチェッリをそれぞれデュエット相手として招き、米ビルボードソングスチャートを制しています。
ビヨンセ参加版が加算されたタイミングで、「Perfect」はエド・シーランとビヨンセの両者主演名義で米ビルボードソングスチャートを初制覇。その際のポイント前週比は構成3指標(ストリーミング、ダウンロードおよびラジオ)すべてで大幅に上昇しています。
一昨日ニューアルバム『Special』をリリースしたリゾ。ブレイクのきっかけとなったのは「Truth Hurts」(2017)でした。
「Truth Hurts」はTikTokを機に遅ればせながらブレイク。そしてリミックスの投入が後押しとなり、2019年9月にキャリア初の米ビルボードソングスチャート制覇を達成します。
2019年8月にラッパーのダベイビー、プロデューサー/DJのCIDがそれぞれ参加したリミックスを、翌月にはK-Popのボーイズバンド、AB6IXを招いたバージョンを投入。8月の2バージョン投入はポイント全体で前週比23%アップにつながり、自身初の米ビルボード首位をもたらしています。
米ビルボードや、米ビルボードが2020年秋に新設したグローバルのソングスチャートは様々なバージョンが合算され、最もポイントの多いバージョン名義で歌手名がクレジットされます。ここ最近は減った印象がありますが、米ビルボードではリミックス効果で首位に立つ曲が少なくなく、その座を狙えるタイミングで投入することを踏まえればリミックスが施策も兼ねていると言えるでしょう。
一方、ビルボードジャパンのチャートポリシーは、言語の違いを除き基本的に合算されません。ジョナス・ブルー「Don't Wake Me Up」は言語の違いのみと言えますが客演歌手が異なるため、ホワイ・ドント・ウィー版とBE:FIRST版とは別扱いとなるでしょう。これはザ・チェインスモーカーズ feat. ホールジー「Closer」の日本版リミックスに新田真剣佑さんが起用された際に合算されなかったことから、そう断定していいはずです。
(ザ・チェインスモーカーズ feat. 新田真剣佑「Closer」の動画はショートバージョン。それぞれのCHART insightについて、前者はこちら、後者はこちらで確認可能。上記はいずれも2020年2月12日公開分(2月17日付)からの30週分を表示しています。)
ホワイ・ドント・ウィー版は今年1月にラジオ指標が20位に入っておりCHART insightが確認できるゆえ、7月20日公開分(7月25日付)のビルボードジャパンソングスチャートにおいてBE:FIRST版が合算されるかに注目しましょう。
(ジョナス・ブルー feat. ホワイ・ドント・ウィー「Don't Wake Me Up」のCHART insightはこちら。1月12日公開分から6週続けて、また1週空けて再び総合ソングスチャートで300位以内に入り、黄緑で示されるラジオ指標が大きく寄与しています。なおビルボードジャパンの無料会員は、総合および各指標のいずれかが20位以内に入った作品におけるCHART insightを確認できます。)
今回の「Don't Wake Me Up」はジョナス・ブルーによるコラボレーションプロジェクトの一環。どちらからアプローチがあったかは分かりかねますが、BE:FIRST側はまたも面白い仕掛けを用意したなと感じています。日本において客演が異なる複数のリミックス登場をこれまでほぼ耳にしなかったことから、ともすれば今後のひとつの潮流となる可能性もあります。
ただ、ビルボードジャパンではリミックスを基本的に合算しません。”基本的に”と書いたのは、動画再生指標においては短尺版やTHE FIRST TAKE、ライブ版等で集計対象となる動画に付番されたISRC(国際標準レコーディングコード)が同じならば合算されるためであり、合算しないというチャート全体のチャートポリシーと矛盾していると言えます。
個人的にはビルボードジャパンも、米ビルボード等に倣い合算することを勧めます。その理由は以前も述べています。
【リミックスや客演文化の醸成】【海外作品の日本市場での流通拡大】【チャートの仕掛けや戦略の活性化】【新鋭歌手の認知度向上】【ヒップホップの人気拡大】【リミキサーの育成】【クラブカルチャーの復興】…すべて上手くいくことはないかもしれませんが、リミックスは何もチャートのみならず、音楽(市場)全体のカンフル剤になる可能性があると断言していいでしょう。
リミックスは作品自体の楽しさのみならず施策としても有効に作用しますが、それは合算するというチャートポリシー下で発動可能なものです。今回のジョナス・ブルー feat. BE:FIRST「Don't Wake Me Up」のリリースが昨日書いたような洋楽人気の上昇のみならず、ビルボードジャパンのチャートポリシーに一石を投じることになってほしいというのが素直な思いです。