イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパンアルバムチャート、最新週の3つのトピックから考える"米ビルボード計算方式採用"の必要性

このブログではビルボードジャパンについて、ソングスチャート(Hot 100)を主体にチェックしています。一方でアルバムチャートにも興味深い動きが。そこで最新5月4日公開分(5月9日付)ビルボードジャパンアルバムチャートから注目点を紹介します。

なおこの注目点を紹介するうちに、あらためてビルボードジャパンへのチャートポリシー(集計方法)変更を強く願うようになった自分がいます。

 

 

・"ユーミンカバー集"好調

JUJUさんによる松任谷由実さんのカバーアルバム『ユーミンをめぐる物語』が好調です。

登場7週目となる最新週は総合26位にランクイン。高い順位とは言い難いかもしれませんが、毎週上位に大量の新譜が初登場を果たしながらも翌週ダウンすることが多いアルバムチャートにあって、安定した動きと言えるでしょう。注目は構成3指標のうち最上位がルックアップということ。

最新5月4日公開分(5月9日付)ビルボードジャパンアルバムチャートにおけるルックアップ、上位20作品のCHART insightを上記に。ルックアップはパソコン等にCDをインポートした際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指し、フィジカルセールスに対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数の推測を可能とします。

このルックアップの上位20作品については、1つを除き5週以上ランクインした作品で占められており、また10週以上在籍する作品も多いことから、ロングヒットの要たる指標であると解ります。おそらくはレンタルによる接触での需要の高さが影響しているかもしれません。このロングヒットは、たとえば『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)の選考対象にも成り得ると考えられ、またアルバムのストリーミング需要も推測できます。

 

 

・総合首位作品のフィジカルセールスに偏った動きが鮮明

アルバムチャートにより深く注目するようになったきっかけは、4月27日公開分(5月2日付)におけるビルボードジャパンアルバムチャートのルックアップ指標誤り問題にあります。ルックアップがレンタル需要の可視化につながるという観点から、レンタル解禁に伴うポイント加点もみられたはずの藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』が当初ルックアップ未加点だった状況に疑問を呈したのが、ミス発覚のきっかけでした。

その後チャートは訂正されています(ただし訂正後のアナウンス等体制には疑問を抱いており、体制強化は必須と考えます)。総合首位のJuice=Juice『terzo』もルックアップが当初未加点でしたが、訂正されポイントに加わっています。しかし首位獲得週における『terzo』のルックアップ指標は、フィジカルセールスとの乖離が大きいものとなっています。

Juice=Juice『terzo』は初登場週において、フィジカルセールス首位に対しルックアップ14位。そして最新週において首位を獲得したラストアイドル『ラストアルバム』は、フィジカルセールス首位に対しルックアップが300位にも達せず、同指標加算対象外となっているのです。

6万8千枚以上を売り上げたラストアイドル『ラストアルバム』のルックアップに当初疑問でしたが、しかしこの乖離の激しさにはフィジカルセールス重視という歌手側の姿勢の反映も影響しているのではと考えます。通常盤以外の4形態はすべて同梱される映像盤/音源盤が異なり、封入特典もメンバー31名のうちひとりのフォトカードや生写真が用意される等を踏まえれば、ルックアップの低さは納得ができます(下記参照)。

おそらくは封入特典目当てで購入した方が多いだろうことが指標構成から見て取れますが、このような作品を真の社会的ヒットアルバムとみなすことには疑問を覚えるというのが正直な私見。セールスの多さは素晴らしいことですが、ビルボードジャパンアルバムチャートが真の社会的ヒットを示す鑑と乖離しているのではと考えるに至っています。

 

 

ガンダムカバー集、3作続けてデジタル後発という状況

森口博子さんによる『機動戦士ガンダム』シリーズのテーマ曲をカバーした作品集は今年、3作目がリリースされています。

CHART insightは黒が総合、黄色がフィジカルセールス、オレンジがルックアップを示していますが、遅れて登場した紫はダウンロードを指し、『GUNDAM SONG COVERS 3』はデジタル後発であることが判ります。デジタルはフィジカルリリースの4週間後となる4月6日に解禁されましたが、水曜解禁ゆえチャート5週目におけるダウンロード指標は5日分の加算にとどまり、複合指標に基づくチャートへの意識にも疑問を抱きます。

実際森口博子さん側は、『GUNDAM SONG COVERS』シリーズすべてでデジタル後発の姿勢を貫いています。

(『GUNDAM SONG COVERS』『GUNDAM SONG COVERS 2』のCHART insightは共に、初登場からの30週分を表示。)

GUNDAM SONG COVERS 3』のデジタルリリースは過去2作品よりも1週先んじてはいますが、それでもフィジカル優先の姿勢は変わっていないと言えるでしょう。

注目は『GUNDAM SONG COVERS 3』をデジタル解禁する際の森口博子さんのコメント(先述のリンク先参照)。『こんなに素晴らしいことが起こるなんて! シリーズ3作品全て、オリコンウィークリー3位以内にランクイン!』という言葉に複雑な心境を抱きます。ビルボードジャパンよりオリコンが、そしてフィジカルセールスの成績を明記することはデジタルよりも優先しているという意識の反映でしょう。

(歌手側がビルボードジャパンではなくオリコンを意識した例としては、めいちゃん「ラナ」も挙げられます(LINE MUSIC再生キャンペーンのさらなる係数処理適用、カウント除外も含め検討すべき…ビルボードジャパンに問う(5月7日付)参照)。歌手側のビルボードジャパンへの意識が薄い、もしくは世間への浸透度はオリコンのほうが上ゆえの発言かもしれず、ビルボードジャパンには認知度の上昇に奮起してほしいと強く願います。)

デジタル後発やオリコン重視の姿勢は以前も記しました。フィジカル好調は素晴らしいことですが、他方デジタル未解禁をマイナスに捉える方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。仮にデジタル後発の姿勢を維持するならば、ストリーミング同様接触行動であるレンタルの解禁日に合わせるほうがより好いのではとも考えますし、そもそもデジタルを同時解禁した際にフィジカルセールスが極度に下がるとは思えません。

 

 

 

3つの事例のうち後半2つはネガティブな見方と言えるかもしれませんが、その2つからは歌手側(レコード会社含む)のフィジカル優先の姿勢、デジタルはフィジカルを侵食しかねないという懸念が見えたと捉えていいかもしれません。一方でJUJU『ユーミンをめぐる物語』からは、ビルボードジャパンがアルバムチャートに米ビルボードのようなユニット換算方式を採用したならば、より上位にて安定しただろうことが推測できます。

ビルボードアルバムチャートは、アルバムセールス(デジタルおよびフィジカル)に加えて、ストリーミング(動画再生含む)および単曲ダウンロードそれぞれのアルバム換算分を加えたユニット単位で計算されます。尤も米ビルボードアルバムチャートにはユニット換算時の分母問題等がみられるため、仮に米に倣った換算方式を導入するならばその点はきちんと解決する必要があること等は、下記エントリーなどで紹介しています。

ビルボードジャパンは、一部コアファンの人気にとどまりがちなフィジカルセールスに偏った作品よりもデジタルに強い作品、接触が多くロングヒットする作品がより上位に登場するようなアルバムチャートにチャートポリシーを変更したほうが、社会的ヒットの鑑に成り得るのではないでしょうか。その点において、米ビルボードアルバムチャートに倣ったユニット換算方式を検討すべきと考えます。

ビルボードジャパンはアルバムチャートにおいてルックアップやダウンロード指標を導入、各指標の1単位におけるポイントに差を設けていることから、ユニットという概念は既に存在するゆえ、ストリーミング等のユニット換算分を追加しても違和感は少ないはずです(無論、事務作業等は少なからず煩雑になると思いますが)。ビルボードジャパンにはシミュレーションを行う等、一度議論の場を設けることを願います。