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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジャニーズのサブスク解禁作品の動向をどう見るか…解禁前後のフィジカルセールスの推移から考える

今回のブログエントリーは、以前のコラボスペースおよびそのまとめエントリーの続きとも言えるものです。

 

 

4月6日公開分(4月11日付)のビルボードジャパンアルバムチャートは、KAT-TUNHoney』が制しています。

KAT-TUNの約2年半ぶり、10枚目となるオリジナル・アルバムは、当週104,990枚を売り上げてCDセールス1位、ルックアップで1位、ダウンロード数1,712DLで4位を記録している。

総合チャートを制したKAT-TUNHoney』は、リリース日にダウンロードおよびサブスク解禁を実施。シングルに続きアルバムでも、ジャニーズ事務所所属歌手でKAT-TUNが初めてフィジカルリリース日までに配信先を限定せずにデジタル解禁を行ったことになります。

デジタル解禁された『Honey』は『IGNITE』(2019)以来のオリジナルアルバムであり、その『IGNITE』の初週フィジカルセールスは107794枚(2019年8月7日公開分(8月12日付))。今作『Honey』はフィジカルセールス面では微減となっていますが、デジタルでは初週1712ダウンロードを記録しています。

この記録をどうみるか…私見を述べるならば、収益面で『Honey』は前作『IGNITE』を超える可能性は十分あると考えます。デジタルにおいてはジャケット等が不要でありそのコストがかからないこと、廃盤の概念が基本的に存在しないためいつでも手にしやすいこと、収録曲が再生されればその都度わずかでも確実に収入を得ることができること等が理由です。無論2作品における中長期的な動きも確認する必要があります。

 

一方、ジャニーズ事務所所属歌手で解禁先や期間等を限定しながらベストアルバムを解禁したKis-My-Ft2については、その1ヶ月後にリリースしたシングルも同様の限定を敷いた上でデジタル解禁を実施。2021年度におけるシングルの動向を下記ブログエントリーにて紹介していますが、それを見るとデジタル解禁後のシングルにおけるフィジカルセールスは解禁前より下がっている状況です。

初週フィジカルセールスはデジタル解禁した「Fear」が137484枚(2021年9月15日公開分(9月20日付))だったのに対し、解禁前の「Luv Bias」は217880枚(同年3月3日公開分(3月8日付)。またその前のシングル「ENDLESS SUMMER」は180763枚(2020年9月23日公開分(9月28日付))となっており、落ち込み幅は小さくないと言えます。

デジタルを一部でも解禁したことでライト層が購入を控えた可能性、またコアなファンの中にもフィジカルとしての所有からデジタルの接触に切り替えた方が少なくないことが考えられます。その一方、デジタル解禁前のシングル「Luv Bias」が突出しているとも言えるでしょう。

シングルの売上は様々な要因に左右されます。タイアップ先の大ヒット、著名な音楽家の提供、複数種リリース、特典の存在(特にライブ先行予約やメンバー単体のトレーディングカード封入が大きな影響を持つと考えます)、曲自体の評判等。「Luv Bias」は『オー! マイ・ボス! 恋は別冊で』(2021 TBS)主題歌に起用され、メンバーの玉森裕太さんが出演しドラマもヒットしたことでより大きな売上につながったと捉えています。

またベストアルバムからシングルまでのリリース間隔が1ヶ月しかなかったことで、シングル購入を諦めたという方もいらっしゃるかもしれません。

シングルセールスは近年デビュー組でも大きな波が生じています。SixTONESは「僕が僕じゃないみたいだ」「マスカラ」そして最新シングル「共鳴」における初週セールスが436911枚、504232枚、402093枚と推移。「マスカラ」はKing Gnu / millennium paradeの常田大希さん提供曲という話題性も影響したとみられますが、最新作「共鳴」における10万枚以上減少には驚かされます。しかし波の発生は他の歌手でも言えることです。

SixTONESと同日デビューしたSnow Manは最新シングル「ブラザービート」が今年度最大となる初週セールス、809082枚を記録。前作「Secret Touch」(750618枚)より5万枚以上売上を伸ばしたこの曲は、YouTubeでフルバージョンのミュージックビデオおよびダンスプラクティス動画を解禁。オーディオストリーミングでチェックした方も少なくなく、それがストリーミング指標300位以内ランクインにつながっています。

フル尺動画をオーディオストリーミングとして聴けばサブスク未解禁でもそれと同種の効果をもたらすわけで、ならばその状況下でフィジカルセールスが前作より5万枚伸びたという状況をどう捉えればいいでしょう。サブスクを解禁すればフィジカルセールスは微減するかもしれませんが、ストリーミング指標加点で可視化されたサブスク潜在ニーズを踏まえれば、デジタルがフィジカルを十分補完する役割を果たせるはずです。

 

ともすればKis-My-Ft2「Fear」のフィジカルセールス減少を踏まえ、歌手側そしてコアなファン層の中にもデジタルに懐疑的になる方はいらっしゃるかもしれません。しかしそもそもフィジカルセールス自体に波があり、様々な要因が波の大きさに影響を与えることを考慮する必要があるでしょう。

また「Fear」とダブルAサイドとなった「SO BLUE」がフィジカルセールスに先駆けてLINE MUSIC限定ながらデジタル解禁されたことがフィジカルセールスの減少に影響しているかもしれません。フィジカルを用意する曲のデジタル解禁はフィジカルリリースと同日にしたほうが売上枚数の減少幅を抑えられるのではないでしょうか。

 

 

さて、デジタルは廃盤の概念が基本的に存在せず、いつ何時でもフックアップされる可能性があります。

嵐によるフィジカルシングル「カイト」(2020)は東京オリンピックおよびパラリンピックが開催された昨年、デジタル指標中心に上昇しビルボードジャパン総合ソングスチャートでは25位まで再浮上しています。これはデジタルが解禁されたからこその現象ですが、「カイト」のデジタル化はアルバム『This is 嵐』(2020)での解禁まで待つことに。そのアルバムにおいても、デジタル解禁はフィジカル発売の1ヶ月後となっています。

ではデジタル解禁によってフィジカルセールスが落ちたかといえば、実はそうではありません。2020年12月6日までを集計期間とする12月9日公開分(12月14日付)以降4週分の『This is 嵐』のフィジカルセールスは7082→9514→9774→9810枚、ベストアルバム『5×20 All the BEST!! 1999-2019』においては993→1722→1872→3294枚と推移していきます。上昇度が最も高い週の集計期間5日目がデジタル解禁日に該当するのです。

無論フィジカルセールスの変動については先述した様々な理由に加え、嵐の場合は活動休止日が近づくにつれフィジカルで購入した方が増えたことも考えられますが、デジタル解禁が嵐への注目度を高めたことは間違いないでしょう。そしてデジタルも選択できるようになったことで、"(デジタルでのチェックもいいけど)フィジカルを購入する"という動機が生まれたことがフィジカルの売上増加につながったとも考えます。

 

 

一作毎のフィジカルセールスの推移を追うことも重要ですが、デジタル解禁した作品についてはフィジカルセールスがダウンした場合にデジタルで補完できているかもみる必要があります。そしてデジタル解禁がフィジカルセールスを押し上げた事例等を踏まえ、どうすれば総合的に伸びるかを考え実行する必要があるでしょう。

このタイミングでKinKi Kids堂本剛さんが、ソロプロジェクトとなるENDRECHERIとして初の配信シングル「LOVE VS. LOVE」をリリースするとアナウンスしています。デジタルのみでのリリースという事例も今後増えていくことでしょう。

デジタル解禁は意味がないから止めるという選択は自由ですが、デジタル利用ユーザーに対する不便の発生は、ユーザーの歌手側へのイメージ悪化を招きかねません。考え得ることを様々実行し、デジタルとの共存に努めてほしいというのが私見です。