(※追記(8月23日):今回のブログエントリーについて様々なご指摘をいただき、それにより急落の理由が判明したと捉えています。つきましては、いただいたご指摘をもとに、その理由を記載します。また表題を『ワンオク、NiziU、あいみょん、DISH//…Spotifyで相次ぐ再生回数急落、その理由が気になる』から変更しました。)
(※追記(8月24日):追記において掲載したグラフおよび表において、清水翔太 feat. Taka「Curtain Call」の8月12日における順位を誤って記載していました。72位ではなく52位が正しい順位であり、グラフおよび表を正しいものに差し替えました。)
(※追記(8月31日):弊ブログにてこれまで、「Stay」の表記をザ・キッド・ラロイ feat. ジャスティン・ビーバーと記載しておりましたが、正しくはザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバーでした。訂正してお詫びいたします。)
音楽チャートを追いかけていると、時折不思議な現象に出会います。そのひとつが、この夏におけるSpotify再生回数の減少。東京オリンピックや大雨被害で全体の再生回数が減少したのとは異なり、特定の曲が急落するというものです。
7月以降、ONE OK ROCK「Broken Heart of Gold」および「Renegades」、NiziU「Make you happy」および「Take a picture」、あいみょん「桜が降る夜は」そしてDISH//「猫 ~ THE FIRST TAKE ver.~」が相次いで急落しています。主要曲のSpotify再生回数を日々追いかけていて時折この現象に出くわすのですが、この1週間に2曲が急落に至っていることから今回記載した次第です。
急落にはいくつか特徴があります。まずはその急落の幅が前日より3万回前後となっていること。そして急落のタイミングが曜日とは関係ないこと。通常Spotifyの再生回数は平日<土曜<日曜となるのですが、「Broken Heart of Gold」は7月11日日曜に、「猫 ~ THE FIRST TAKE ver.~」は8月21日土曜にそれぞれ急落しています。
そしてもうひとつの特徴は、再生回数が一時期10万を大きく上回っていたこと。「Broken Heart of Gold」は14万に達することはありませんでしたがその他の曲は18万を上回り、「Take a picture」に至っては25万を突破。ストリーミングのみならずビルボードジャパンの総合ソングスチャートにおいても存在感を示した曲が少なくありません。ただしいずれの曲も、ピークが過ぎた後に急落に至ってはいます。
再生回数が急落した曲はその後、なだらかに下降しているのも特徴です。しかしながらこの中で最も早く急落した「Broken Heart of Gold」でもその急落から2ヶ月も経過していないため、今後の動向を追いかける必要があります。
なぜこのような事象が起こるのでしょう。ともすればSpotifyには、米ビルボードソングスチャートが用いているようなリカレントルールがあるのかもしれません。一定週数以上ランクインした曲が決まった順位を下回ればチャートから消えるのがリカレントルールの特徴ですが、これはあくまで複合指標に基づく総合チャートに適用されるものであり、純粋な再生回数にて構成されるSpotifyデイリーチャートでは考えにくいでしょう。
最も想像しやすいのは、プレイリスト収録から外れること。より多くのユーザーが聴いている、影響力を持ったプレイリストから切り離されたことで再生回数の急落ということはあり得るかもしれません。ただしプレイリストは更新曜日が決まっていることが多く、曜日に関係なく急落していることを踏まえればこの可能性も高くはないでしょう。
ともすればSpotifyは何かしらのルールを設けているのかもしれません。その内容は公開されながら自分が見つけられていないだけかもしれませんが、仮に公開していないならばこの急落は個人的には違和感を抱きますし、なにより歌手側にとっては利益の低下等につながるゆえ不可解と思われておかしくありません。ルールがありながらも公開していないならば、Spotifyにはルールの公開を求めたいと思います。
(※追記(20時16分))
今回のブログエントリー掲載後、チャート分析や予想に長けたブログ【Billion HIts!】(→こちら)の担当者、あささんよりご指摘をいただきました。
Spotifyは「トップ50」の影響力が非常に大きいようでデイリー50位以内に入れるか否かで再生数が日量2万ほど異なります。急落した曲は何れもその数日前にデイリートップ50から脱落したという共通点があるものと思います。このためデイリー50位入りの壁が他のサブスクサービスと比べて非常に高く、
— あさ (@musicnever_die) 2021年8月23日
51位付近で足止めを食らってしまう新曲や上昇曲が少なくありません(「YOKAZE」や「愛を知るまでは」などは一度も50位以内に入れませんでした)。逆にひとたび50位以内に入るとその数日後には急上昇するケースが多いです。「踊」や「CITRUS」は足止め期間が長かったですが壁を超え急上昇しました。
— あさ (@musicnever_die) 2021年8月23日
非常に大きな気付きとなりました。そして調べてみると、あささんの指摘通りの結果が出ています。
今年7月以降における再生回数動向を見てみましょう。今回はブログの冒頭で急落したとして紹介したONE OK ROCK「Broken Heart of Gold」および「Renegades」、NiziU「Make you happy」および「Take a picture」、あいみょん「桜が降る夜は」、DISH//「猫 ~ THE FIRST TAKE ver.~」に加えて、YOASOBI「たぶん」も適用されていたので加えています。
一方で7月上旬までにリリースされ、現在までにチャートを急浮上した曲としてDa-iCE「CITRUS」、優里「シャッター」およびVaundy「花占い」を取り上げ、また51位以下を推移する曲として清水翔太 feat. Taka「Curtain Call」および平井大「Buddy」も加えています(あささんが紹介されていた変態紳士クラブ「YOKAZE」やあいみょん「愛を知るまでは」も、「Curtain Call」や「Buddy」と同種の動きをしているものと考えます)。
(なお、期間内に急落した曲としては他にRin音「snow jam」等が、急浮上した曲にはザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバー「Stay」等があります。)
表において青は急落、薄い青はトップ50落ちから急落までの期間、オレンジは20位以内への急浮上、薄いオレンジはトップ50入りから急浮上までの期間をそれぞれ示しています。
再生回数および順位の推移には大きな特徴があります。それは50位を一度下回ればその翌々日のデイリーチャートで必ず急落し、50位以内に浮上すればその翌々日以降にトップ20にエントリーするということ。あささんは『急落した曲は何れもその数日前にデイリートップ50から脱落したという共通点がある』と仰っていましたが、まさにその通りの結果が出ています。
この急落と急浮上に大きく作用するのが、トップ50プレイリストと言えるでしょう。
Spotifyでは各地域毎にデイリー上位50曲を上から順に並べたトップ50プレイリストを用意しており、上記は日本のものとなります(ブログの閲覧日に応じて、最新のデイリーチャートが掲載されます)。このトップ50プレイリストに入るかどうかが大きな鍵と考えます。
おそらくはライト層の影響も大きく反映されていると言えそうです。メディア露出やTikTokのバスが反映されやすい特性もあります。またヒットチャートを押さえる目的や、ともすれば有線放送代わりという使用目的もありそうです(ただし後者での使用目的は推奨されるべきではありませんが)。 https://t.co/qLpHQu34uG
— Kei (@Kei_radio) 2021年8月23日
同感です。リスト内のアーティストの顔も名前も知らないけれど、通勤時やジムではこのプレイリストを聴くという知人が何人かいます。ランキング番組の代わりとか。50曲の前半が最近のヒット、後半が過去1年くらいのヒットが入っていて丁度良いんだとか。
— みっちー(Mitchie) (@mint_n_orange) 2021年8月23日
有線放送代わりも確かにありそうですね。
トップ50プレイリストの使い方について、みっちー(Mitchie)さんから実例をいただきました。現在や最近のヒットを知る目的で、また通勤や運動しながら聴く方が多いのがこのトップ50プレイリストの特徴。また自分が想像したような、店舗で有線放送の代替として用いるところもあるかもしれません*1。となると、当該プレイリストはコアなファンよりもライト層の利用が多いことが推測されます。
たとえば8月23日のデイリーチャートは翌24日のおそらく夜にトップ50プレイリストに反映されます*2。となると、23日にトップ50落ちした曲は24日の夜には外れるためその曲は24日における再生回数が減り、25日になると一気に落ち込むことが想像できます。それを踏まえれば、トップ50プレイリストの効果は非常に大きいと言えるのです。
このブログエントリーでは当初、『ともすればSpotifyは何かしらのルールを設けているのかもしれません』として、非公開ならばそのルール公開希望の旨を書きました。しかし実際はトップ50入りするか否かが急落(さらには急浮上)の鍵であり、ルールは存在しないと言えます。ともすれば、トップ50(プレイリスト)漏れで急落する現象を"自然なリカレントルール発生"と言ってよいのかもしれません。
ルールがあるかもしれない、非公開ならば公開すべきとするこちらの判断に誤りがありました。Spotifyに対し、心よりお詫び申し上げます。
では、急落を招かないようにするにはどうすればいいでしょう。まず、そもそもトップ50に入っていない曲はその座を目指す必要があります。ただし、あささんが指摘されたようにSpotifyデイリーチャート50位と51位には壁があります。
8月に入ってからは50位と51位の差が3桁台である日が少なくありませんが、先月には2万を超える日もありました。ゆえに50位を目指すのは並大抵のことではありませんが、しかし一度50位以内に入ればトップ50プレイリストに登場し、ライト層を獲得することで急浮上のフェーズに入る可能性は高いと言えます。
一方で急落を避けるためには、40位台にとどまる曲が耐える(ためにも再生回数を伸ばす)必要があります。直近では3日続けて星野源「不思議」が50位に入っており、自然なリカレントルール適用の可能性があります。急浮上が見込まれる曲が51位近くまで上昇した際、また元来サブスクに強いBTSやYOASOBI等のリリース日のタイミングで、どれだけ再生回数を獲得するかが重要と言えます。
昨年春に主要サブスクサービスのランキング傾向を紹介しました。LINE MUSICが若年層主体に流行を取り込む一方Spotifyでは定番曲がヒットしており、後者はいわば保守的と言えるかもしれません。LINE MUSICは再生回数キャンペーンを用いることで対象曲が上位を占める傾向があり真の社会的ヒットを見極めるには注意が必要ですが、Spotifyにも急落/急浮上という独自の癖があることが今回明らかになりました。
そのSpotifyは新曲が上昇しにくい特徴があるため、Spotifyでのヒットは社会的なヒットにより近くなったと捉えていいでしょう。一方でランクダウンもしにくいSpotifyにおいて急落することは、総合面でもヒットから外れたと表現していいのかもしれません。紅蓮・疾風さんも、その表現を支持してくださっています。
「ヒットから外れる」という表現はまさにピッタリですね。
— 紅蓮・疾風 (@ideal_charts) 2021年8月23日
例えばSpotifyやHot 100で何日(何週)50位以内やトップ10を維持したかなどは重要ですね。
しかしながら「ヒット」という言葉には累積と、リアルタイムのものとがあり複雑ですね。
各デジタルプラットフォームやCDセールスにおいて、ランキングの特性は少なからず異なります。それぞれの持つ癖を知り、その上で複合指標であるビルボードジャパンソングスチャートを分析することが真の社会的ヒット曲を知る上で大事だと実感した次第です。
最後に。個人的には週単位でのトップ50を用意し、アーカイブ化すること(更新型ではなくその都度プレイリストを用意すること)も必要ではないかと考えます。
Apple Musicなどのサブスクの楽曲ランキングやBillboardなどの指標で、「○年にリリースされた楽曲に絞ったランキング」「直近○週間、○ヶ月にリリースされた楽曲に絞ったランキング」も追加されたら、より面白そうだし楽曲漁るの捗りそうだな…なんて思う
— 月去P (@TuKiSaRiP) 2021年8月23日
Spotifyのバイラル辺りは非常に重宝してる
あとは、○月のランキングのプレイリストみたいな感じで、毎週更新ではなく、毎月のチャートが永久保存版みたいになると、より嬉しいかも…
— 月去P (@TuKiSaRiP) 2021年8月23日
今朝このブログエントリーを一度掲載した後、月去Pさんがこのようなツイートを発信しており、強く賛同した次第。一度Spotify側にお詫びしたばかりの身が述べるのは説得力を有さないかもしれませんが、是非とも検討していただきたいと願うばかりです。