イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

日本でもっと様々な音楽が聴かれるためには? サブスクで新曲はどうやって気付かれるかを考える

日本のサブスクは新陳代謝がないという言説について、ここ最近様々な角度から考え続けています。昨日は過去曲が海外にて上昇する傾向を捉え、プレイリストを活用することもさることながら、その存在を知ってもらうことが重要であることについて記しました。

さて今回は、新曲が上昇するひとつのメカニズムについて取り上げます。

 

日本における最新2月17日付Spotifyデイリーチャートでは、今後の急上昇が見込まれる曲が確定しました。

50位の壁についてはツイート内リンク先にて紹介していますが、これはトップ50プレイリスト(厳密な名称は”トップ50 - 日本”)の登録ユーザーが多く、彼らにに優里「恋人じゃなくなった日」が新たにリーチすることで今後の上昇が予想可能ということです。

たとえば2月に入り50位の壁を越えたXG「SHOOTING STAR」(2月3日付で突破)は日本における最新2月17日付Spotifyデイリーチャートで30位、マカロニえんぴつ「リンジュー・ラヴ」(2月6日付で突破)は同20位、ヨルシカ「アルジャーノン」(2月14日付で突破)は同29位につけています。さらなる伸びに至ることができるかには差はありますが、50位の壁を突破することである程度の浮上が可能というのが共通した特徴です。

 

日本における最新2月17日付Spotifyデイリーチャートでは興味深い動きがみられます。

日本においては金曜が平日の中でも最も再生回数が低くなる傾向があります。これは海外が基本的に金曜がリリース日となり(音楽チャートも金曜集計開始)、新曲が金曜にきちんと聴かれるのとは異なり、日本は解禁日がバラバラであり(日本における週間音楽チャートが月曜集計開始という状況も解禁日に影響していると考えます)、また飲み会等の影響で金曜に音楽を聴く習慣が多くないことも影響しているゆえと考えます。

最新2月17日付における日本のSpotifyデイリーチャートでは50位以内において優里「恋人じゃなくなった日」以外は再生回数が前日より下がっているのですが、金曜の習性を踏まえてもその「恋人じゃなくなった」やYOASOBI「アドベンチャー」がここまで伸びるのはなぜでしょう。

こちらは昨日のブログエントリーでも紹介した、徒然研究室さんによるSpotifyプレイリストの分析ツイート。先述したトップ50プレイリストの登録者数の多さもよく解るのですが、この上位陣の中で10番目に高い”Spotify Japan 急上昇チャート”プレイリストに今回の上昇曲が含まれています。

上記画像はSpotifyによる公式プレイリスト、Spotify Japan 急上昇チャートより(リンクはこちら)。2月19日午前4時台の内容をキャプチャしたものとなります。Spotify Japan 急上昇チャートがどのタイミングで更新されるかは不明ですが、しかし追加日を踏まえれば日々更新ではないのかもしれません。

早ければ2月16日に更新されたこのプレイリストの影響により、優里「恋人じゃなくなった日」やYOASOBI「アドベンチャー」は上昇したと言っていいかもしれません。「アドベンチャー」においては2月15日付の初登場以降88→106→81位となっており、プレイリストが再フックアップにつながったと言えます。

日本における2月17日付Spotifyデイリーチャートでは他にも、LANA feat. Candee & ZOT on the WAVE「TURN IT UP」が再生回数前日比101.7%、ヨルシカ「アルジャーノン」が同98.6%等、急上昇プレイリスト序盤に配置された今月リリース曲が他の作品よりも高めに推移しており、新曲を”プレイリストを介して気付く”という動きがみられます。そしてトップ50プレイリストの存在が、新曲をさらに押し上げることにつながるのです。

(なお、BE:FIRST「Boom Boom Back」は日本の2月17日付Spotifyデイリーチャートで再生回数前日比90.6%と、他の曲より高くない状況です。同曲は2月12日日曜付でフラゲ的な形でエントリーし、初の24時間加算対象となった2月13日付で急上昇しますが、その後は再生回数の前日割れが続いています。コアファンが初日にきちんとチェックするというK-POPファンダム的聴取行動を、ライト層にどう拡げるかが重要な鍵でしょう。)

 

——プレイリストの話に移るのですが、「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」というランキングでは「Tokyo Super Hits!」「Hot Hits Japan」「Today’sTop Hits」「Spotify Japan 急上昇チャート」と、上位5つのうち4つが直近でヒットしている楽曲で固めたプレイリストになっています。これが「世界で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」になると、「Sleep」「Peaceful Piano」「lofi beats」「Deep Sleep」と、トップヒッツ系なプレイリストではなく、シチュエーションに合わせた4つのプレイリストが上位に来ています。コロナ禍になる以前と変わらぬ傾向とも言えますが、どのように捉えていますか?

 

「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」

1. Tokyo Super Hits!

2. This Is BTS

3. Hot Hits Japan

4. Today’s Top Hits

5. Spotify Japan 急上昇チャート

 

芦澤:もともとチル系やスリープ系が強かったのはその通りで、文化風習の違いとしか言えないかなと。日本では1980年代や1990年代のテレビ番組などで「ザ・ベストテン」「ベストヒットUSA」などが人気でしたし、国内外の音楽に関わらず「今、何がヒットしているのか?」を知りたいという欲求がすごく強い。日本人はランキングやヒットチャートを見て音楽を聴いていると言えますね。

昨年春の記事では、Spotify Japanで音楽部門を担当する芦澤紀子さんが『日本人はランキングやヒットチャートを見て音楽を聴いていると言えますね』と発言。トップ50プレイリストの存在感が未だ強いことを踏まえれば日本のユーザーはその傾向が他の国や地域より強いかもしれないと実感しています。そしてそのプレイリストに影響を及ぼすSpotify Japan 急上昇チャートもまた、チャートの一種というわけです。

Spotify Japan急上昇チャート

Spotify Japan急上昇チャート」は、デイリーチャートにランクインしている曲の中でも、前日と比較してリスナー数の増加率が高いものを示したランキングです。

「TOP200」とは当然ながら顔ぶれが大きく異なります。急上昇チャートには、”今この瞬間” を捉えた、ホットで勢いのある曲が並んでいるのです。

 

新曲について、最新曲のみをまとめたプレイリストで知ることも多くの曲がチャートインするために重要だと感じていますが、海外のように金曜リリースや音楽チャートの金曜集計開始が徹底されていない日本で新曲を真っ先に聴く習慣を身につけさせるのは難しいかもしれません。強力なファンダムを持つ歌手以外、いわばライト層が新曲をリリース日や解禁週に聴く習慣をどうつけさせるかが、音楽業界における課題でしょう。