先日、とあるラジオ番組に出演する機会をいただきました。この番組では最近、若手DJが自身の好きな曲や歌手を積極的にプレゼンする機会が多く、好きなものを紹介する際の眩しさを目にし、刺激を受けたことで自分にも機会があれば...というのがきっかけ。許可を戴いたことで今回、この1年の洋楽ヒットの傾向や流行を伝えるという、このブログに沿うような企画を用意しました。
お送りした曲はこちら。
① BTS「Butter」
② ハイエイタス・カイヨーテ「And We Go Gentle」
(DJによる個人的なレコメンド)
③ オリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」
④ フリートウッド・マック「Dreams」(1977)
⑤ マネスキン「Beggin'」(2017)
⑥ シルク・ソニック「Leave The Door Open」
⑦ ノーマニ feat. カーディ・B「Wild Side」
⑧ デュア・リパ feat. ダベイビー「Levitating」(2020)
⑨ H.E.R. 「Bloocy Waters」
(DJによる個人的なレコメンド)
それでは選曲理由等、解説していきます。
昨秋リリースした初の英語詞曲「Dynamite」で米ビルボードソングスチャートを制したBTSは、この「Butter」も同チャートを初登場で制覇。米では7週連続、日本では2週連続(通算4週)の首位を獲得しています。指標構成、いわゆる接触と所有の構成は日米で大きく異なり、その詳細はこのブロブに幾度となく記載していますが、BTSを中心としたK-Popの世界的な流行は間違いなく今の音楽業界の大きなトピックのひとつです。
③~⑤、⑥~⑧はいずれも大きな括り方が可能。前者はロックの復権であり、後者は過去のサウンドのアップデートと言えます。
ディズニープラスのドラマで主演し、今年本格的な音楽活動をはじめたオリヴィア・ロドリゴ。デビュー曲「Drivers License」では自身が大ファンと公言するテイラー・スウィフトの如き、自身の失恋体験を想起させる歌詞が注目されたことで米チャート8週連続首位を達成。そしてアルバムリリースの直前にリリースしたのがこの「Good 4 U」。
音楽ジャーナリストの柴那典さん(@shiba710)さんは、Real Sound(@realsoundjp)における #オリヴィア・ロドリゴ『#Sour』の記事にて、『アルバムの大きなポイントはその成功が「オルタナティブロックの復権」に結びつくだろうことだ』と述べています。https://t.co/JDg8jv5E50
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月27日
「Good 4 U」から見えてくるのはアヴリル・ラヴィーンの存在であり、柴那典さんも彼女の名を記事に載せています。そのアヴリルはウィローのアルバム収録曲に参加していますが、こちらも本格的なロックサウンド。このウィローという歌手の出自や立ち位置が実に興味深く、ユニバーサルミュージックの記事を以下に紹介します。
柴那典さんがロックの復権という表現をReal Soundの記事で用いたのを機に、下記ブログエントリーを記載しました。
このブログエントリー、字数等の関係で簡素化したのですが厳密には"支えるのはTikTokの興隆、ヒップホップ等他ジャンルとの融合、そしてストリーミング"であり、この3つがロックの復権を支えるキーワードと言えます。事実、オリヴィア・ロドリゴ「Good 4 U」においては米チャートで初登場首位を記録したときから最新週まで、ストリーミング指標が8週連続首位をキープしているのです。
ここ数年、音楽業界の主役はヒップホップだったと言えます。2017年、米音楽業界のトップジャンルでロックからその座を奪ったヒップホップ(R&Bも含まれますが)の最大の要因はサブスクや動画再生といったストリーミングの興隆であり、若年層が安価で音楽に触れられるようになりました。また音楽をスマートフォン1台で作成しネット上にアップできるようになった環境も大きく、ヒップホップとの親和性が高いと言えます。
また米英の音楽チャートはソングスチャートのみならずアルバムチャートでも、ストリーミング再生回数がユニットとして反映。ロックはフィジカル/デジタル問わず所有指標に強い一方、ストリーミングに強くなかったことで継続的なヒットに至りにくく、その点もヒップホップに有利となりましたが、その中でオリヴィア・ロドリゴのファーストアルバム『Sour』がロングヒットしているのは、時代の変化を感じるに十分です。
さらには、ヒップホップ畑のマシンガン・ケリーやザ・キッド・ラロイがロックにアプローチした作品をリリース。ポスト・マローンはフジロックフェスティバル出演時にアコースティックギターを叩き壊したり、最新曲に「Motley Crue(モトリー・クルー)」と名付け、またトラヴィス・スコットは来たるべきアルバムをサイケデリックロック的な作品にすると発表...人気ラッパーがこぞってロックに挑もうとしているのです。
ストリーミングは日本でもここ数年浸透してきたサービスですが、世界的なコロナ禍に伴い昨年(さらに)TikTokが流行したことで、TikTokでの人気の動画に使われた曲をストリーミングで聴くという流れが一層大きくなりました。その流れ自体は以前からもありましたが、そのTikTokを歌手側が積極的に活用するようになったのがここ最近と言えます。
昨年秋、43年ぶりにリバイバルヒットしたのがフリートウッド・マック「Dreams」。再浮上のきっかけはこの曲がTikTokの著名インフルエンサーに使われたことですが、その動画をバンドメンバーのミック・フリートウッドが真似したことでさらなるバズに至れたのです。動画は下記リンク先に掲載しています。
最近ではドレイクが「Toosie Slide」リリース前にインフルエンサーに曲を聴かせ、その曲で踊ってもらいTikTokに投稿したことでユーザーは未発表曲の存在に驚き、「Toosie Slide」への興味が一気に高まったことで米チャートを制する結果に。そしてTikTokを機に「Mood」が通算8週米チャートを制した24Kゴールデンは『自分の曲をソーシャル・メディアでプロモートしないなんて、怠け者か、無知のどちらかだよ』と語ります。
「Mood」はそのアレンジから、ロックチャートも制する大ヒット曲になりました。これらを踏まえれば、ロックの復権とはTikTokの積極的な活用をはじめ、ストリーミングとの親和性の上昇、そしてヒップホップ等との融合が大きな要素であることは間違いありません。
そんな中、現在伸びているのがイタリア出身のマネスキン。彼らは今年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストで優勝し一躍有名に。その勢いで新曲も伸びていますが、2017年にリリースした「Beggin'」の勢いが特に大きく、米ビルボードが昨年秋に新設したGlobal 200およびGlobal Excl. U.S.双方の最新チャートでトップ3入り。このグローバルチャートの登場が世界でヒットする曲の可視化に大きく貢献しているのです。
ちなみに「Beggin'」は元々、1967年にフォー・シーズンズがリリースした曲。メンバーのフランキー・ヴァリは同年ソロで「Can't Take My Eyes Off You (邦題:君の瞳に恋してる)」をリリースしています。ポップスのジャンルで生まれた曲をカバーする懐の深さこそ、ロックが広くジャンルを吸収し自分のものにしている証明と言えるでしょう。
ラジオの特集、その後半で主に紹介したのは過去のサウンドのアップデート。しかしながら、インスパイア源となる時代は多岐にわたります。
ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるシルク・ソニックのデビュー曲「Leave The Door Open」は通算2週に渡り米ビルボードソングスチャートを制覇。過去3作のアルバムすべてから首位曲を輩出したブルーノの歴史に新たな1頁が誕生しました。とりわけマーク・ロンソンとの「Uptown Funk!」以降、あらゆる時代のソウルミュージックを自己流に咀嚼してきただけに、今回の路線にも納得です。
重要なのは、このソウルミュージックを共に作ったDマイルの存在。ブルーノ・マーズと共に、昨年嵐に「Whenever You Call」を提供。ラッキー・デイやジョイス・ライス、ヴィクトリア・モネイ等R&Bの新鋭を手掛けるDマイルですが、彼の名をより広く浸透させたのがアカデミー賞とグラミー賞のダブル受賞にあることは間違いないでしょう。下記ブログエントリーにて紹介しています。
H.E.R.は先月、初のフルアルバム『Back Of My Mind』を先月リリース。こちらにはDマイルの名はありませんが、好事家の称賛を集めています。アルバム未収録ながらグラミー賞で最優秀楽曲賞を受賞した「I Can't Breathe」では、黒人差別の現状を訴え社会への問題提起を積極的に行う姿勢を強く感じます。個人的には、日本にこのような成熟したエンタテインメントが見られないと感じており、心から羨ましく思います。
実は昨日の放送において、社会への問題提起として選んだ曲は「I Can't Breathe」ではなくリル・ナズ・X「Montero (Call Me By Your Name)」だったのですが、時間の都合で割愛してしまいました。
「Old Town Road」が当初カントリーではないと指摘されたことでベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラスに助太刀してもらいカントリー度を高め、前人未到の米ビルボードソングスチャート19連覇を達成したリル・ナズ・X。元々ニッキー・ミナージュのファンアカウントを運営しバズの起こし方に長けていたのみならず、ナイン・インチ・ネイルズをサンプリング使用したことでロックとの融合も見られたわけです。
しかし世間からは一発屋のイメージが生まれ、本人もそれに悩んでいた模様。ですが、「Montero (Call Me By Your Name)」の米チャート制覇により自らそのイメージを打破することに成功しました。過去に苦悶してきた自身の名を冠し、同性愛(者)の性愛を謳ったこの曲に対しては少なからず反発の声が上がっていたのですが、それに対し時にユーモアを交えつつ毅然と反論するリル・ナズ・Xの姿がありました。
黒人、同性愛者そして女性等への差別が未だ蔓延る米において、エンタテインメントは苦しむ彼らの味方になります。女性が性愛を謳うカーディB feat. メーガン・ザ・スタリオン「WAP」は昨年米ビルボードソングスチャートを制したのですが、大統領選挙直前ということもあり、特に保守系政治家からの反感を買いました。しかし女性の味方として堂々と反論、民主党支持も表明したカーディの姿勢には拍手を贈りたいですね。
その「WAP」はミュージックビデオも印象的でしたが、そこに出演していたのが活動休止中のフィフス・ハーモニーのメンバー、ノーマニ。その彼女が3日前に復帰しリリースした「Wild Side」が衝撃でした。カーディ・Bを従えて放ったのはあまりにも官能的なR&Bであり、そこにはアリーヤ「One In A Million」(1996)のビートが刻まれていたのです。
サンプリングかは不明ですが、間違いなく2000年前後のR&Bを踏襲しているムーブメントの一環。最近ではジャスティン・ビーバーが新鋭R&B歌手のダニエル・シーザーとギヴィオンを従えた「Peaches」が米ビルボードソングスチャートを制していますが、この「Peaches」のリミックスにリュダクリス、アッシャーそしてスヌープ・ドッグが参加しており、まさにその時代の音よ再びという狙いが感じられます。
昨年大ヒットしたデュア・リパのアルバム『Future Nostalgia』より、後にダベイビーを迎えてシングル化された「Levitating」も紹介しました。昨年世界のチャートを席巻し数々の記録を成し遂げた(しかしその一方でグラミー賞に無視されたことも話題となってしまった)ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」同様、1980年代のサウンドをアップデートしたもので、ブリット・アワードでブリティッシュ・アルバム賞を獲得。
この曲は一度音楽賞でノミネートされたタイミングで一度ヒットした後、TikTokのバズで再浮上しています。一度として米ビルボードソングスチャートを制することはできていませんが、チャート予想者はこぞって、「Levitating」が年間チャートを制するだろうとみているのです。音楽賞の受賞やノミネート、TikTokのバズがこの曲への支持をより強くしていることが解ります。
そんなわけで、① K-Popの世界的な流行、② ロックの復権(ストリーミングの強さ、TikTokの興隆と歌手側の積極的な活用、およびヒップホップ等他ジャンルとの融合)、③ グローバルチャートの登場、④ 過去のサウンドのアップデート(特に1980年代、そして2000年前後のR&B)、⑤ Dマイルの躍進、⑥ 社会への問題提起を積極的に行う姿勢...これらがこの1年における洋楽ヒットの傾向ならびに流行と捉えています。
最後に、DJ陣のオススメとしてお送りした2曲を紹介。高校生DJのナラくんが勧めたのがハイエイタス・カイヨーテ「And We Go Gentle」。6年ぶりのオリジナルアルバムがフライング・ロータス主催のブレインフェーダー発であるというプレゼンになるほど、と。サンダーキャット等が在籍するレーベルであり、彼の言葉にレーベル買いという表現(このレーベルの作品は買って間違いなし、という考え)を思い出した次第です。
自分が選んだのはH.E.R. 「Bloody Waters」。初となるフルアルバム収録曲で、そのサンダーキャットが参加し、プロデュースにはケイトラナダの名が。漆黒のグルーヴに酔いしれること必至です。
ラジオで話す機会を事情により手放した自分ですが、音楽への知識や愛情に溢れた若きDJ陣に刺激を受け(また彼らが離れざるを得ない事情もあって尚の事)、彼らと共演したという思いで今回この場に立たせていただきました。スタッフの皆さんに心より感謝申し上げます。また、とりわけ高校生DJナラくんの知識の深さ、音楽への果てしなき愛情には強く感銘を受けました。
そして自分はあらためて、ラジオが好きだという感情を思い出しました。チャート紹介番組や新曲プレゼン等、機会があれば是非参加したいという意欲が再び芽生えた次第です。