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米ビルボードは4週連続で獲得ユニット数が今年最高を更新…一方でユニットの内訳から見えてくるものとは

通常は本日、最新の米ビルボードソングスチャートやグローバルチャートの速報をお送りするのですが、米が月曜祝日につき発表を1日延期。そこで本日は、米ビルボードアルバムチャートについて振り返ってみます。

日本時間の月曜早朝に発表された最新6月4日付米ビルボードアルバムチャートは、ハリー・スタイルズ『Harry's House』が初登場で首位に立ちました。獲得ユニット数は50万を突破しています。

ビルボードジャパンの記事の見出しにもあるように、ハリー・スタイルズ『Harry's House』は1991年以降で最大となる182,000枚のレコードセールスを獲得。これが今年最大の週間ユニット数に至った一因となりますが、この4週間はいずれも首位獲得作品が今年最大の週間ユニット数を塗り替えています。

先月は、5月14日付でフューチャーの『アイ・ネヴァー・ライクド・ユー』が222,000、5月21日付でバッド・バニーの『Un Verano Sin Ti』が274,000、そして先週5月28日付ではケンドリック・ラマーの『ミスター・モラル&ザ・ビッグ・ステッパーズ』が295,500で3週連続、それぞれ今年の週間ユニット最高記録を更新したばかりだが、今週はハリー・スタイルズがそれらを大きく上回り、4週連続で記録を塗り替えている。

そこで今回、この4作品の初週ユニット数の内訳をみてみます。米ビルボードアルバムチャートはアルバムセールス(デジタルおよびフィジカル)のほか、動画を含むストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)、単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)の3指標で構成され、ユニットとして計算されます。

・5月14日付首位:フューチャー『I Never Liked You』(16→22曲入り)

  (チャート記事はこちら)

  獲得ユニット数 222,000 (セールス6,500、SEA214,000、TEA1,500)

・5月21日付首位:バッド・バニー『Un Verano Sin Ti』(23曲入り)

  (チャート記事はこちら 後述するジャック・ハーロウのアルバムも同週初登場)

  獲得ユニット数 274,000 (セールス12,000、SEA261,000、TEA1,000)

・5月28日付首位:ケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』(18曲入り)

  (チャート記事はこちら)

  獲得ユニット数 295,500 (セールス35,500、SEA258,500、TEA1,500)

・6月4日付首位:ハリー・スタイルズ『Harry's House』(13曲入り)

  (チャート記事はこちら)

  獲得ユニット数 521,500 (セールス330,000、SEA189,000、TEA2,500)

  (セールスのうちレコードセールス182,000)

 

TEAはアルバム収録曲が事前にヒットしていれば、アルバムリリースのタイミングでアルバムは買わずとも曲単位で購入する方が少なくない指標と言えます。5月21日付米ビルボードアルバムチャートではジャック・ハーロウ『Come Home The Kids Miss You』が113,000ユニットを獲得し3位に初登場を果たしましたが、その内訳はセールス8,000、SEA103,000およびTEA2,000と、こちらもTEAの数値が高くなっています。

ジャック・ハーロウはアルバムのリード曲としてリリースした「First Class」が4月23日付米ビルボードソングスチャートで首位に初登場し、その後も勢いをキープしています。上記ミュージックビデオがアルバムリリース日と同じ5月6日に解禁されたことも、アルバムがリリースされたことの意識付けに一役買ったと言えるでしょう。アルバムの購入はひとまず見送っても、曲の購入につながった可能性は高いと思われます。

ジャック・ハーロウ「First Class」の前の週に、こちらも初登場で首位に登場したのがハリー・スタイルズ「As It Was」。アルバム初登場までに計3週首位を獲得したことで、アルバム『Harry's House』の強力な宣伝効果につながったと言えます。リード曲やそれ以前のリリース曲が強力であれば、TEAの上昇につながるものと考えます。

 

なお、動画を含むストリーミング再生回数のアルバム換算分(SEA)、および単曲ダウンロードのアルバム換算分(TEA)は、アルバムの収録曲数に関係なく分母は一律となります。このチャートポリシー(集計方法)では曲数が多いほうが有利になり(ゆえにこのブログでは以前から、米ビルボードに対しチャートポリシー変更を求めています)、それを巧く用いた発売初週のデラックスエディションリリースという手法も時折登場します。

今回それを用いたのがフューチャー『I Never Liked You』。5月14日付米ビルボードアルバムチャートの集計期間初日にあたる4月29日金曜に16曲入りの作品がリリースされ、集計期間中の5月2日に6曲を追加したデラックスエディションが登場。これが特にSEAを上昇させた要因と言えるでしょう。

他方、同じヒップホップのケンドリック・ラマー『Mr. Morale & The Big Steppers』はデラックスエディションを登場させていません。これはおそらく前作『DAMN.』のピュリツァー賞受賞に代表されるように(ケンドリック・ラマーにピュリツァー賞 ヒップホップ歌手として初の受賞 | ハフポスト アートとカルチャー(2018年4月17日付)参照)、その18曲でひとつの作品(コンセプトアルバム)という考えゆえのことでしょう。

その作品としての強さが、『Mr. Morale & The Big Steppers』とフューチャーやバッド・バニーとのアルバムセールスの差になっている、すなわちひとつのパッケージとして手に入れたいという受け手の意識の差になっているものと思われます。なお『Mr. Morale & The Big Steppers』は発売週にフィジカルをリリースしていないため、デジタルダウンロードだけで3万5千を超えたということになります。

 

ハリー・スタイルズ『Harry's House』は13曲入りという収録曲数の多くなさがSEA20万未達の要因と思われますが、逆に言えば他の3作品に比べて曲数が少ない中では健闘したと言えるでしょう。そしてセールス面ではレコードセールス以外にも15万近くを売り上げており、コアファンを中心とした所有の高さも見て取れます。

6月4日付米ビルボードソングスチャートの発表は一日ずれることとなりましたが、『Harry's House』が曲数に対しSEAが高かったことを踏まえれば、ハリー・スタイルズが複数曲をトップ10内に送り込む可能性は十分考えられます。ストリーミングや単曲ダウンロードはソングスチャートでも構成指標となることから、アルバムの動向はソングスチャートにも反映されます。明日発表のチャートに注目しましょう。