動画の興隆を機に、昨年以降ブレイクを果たした歌手は数多く存在します。YOASOBIについては幾度となくブレイクの理由が分析され、また今月4日にはAdoさんや優里さんに関するコラムが掲載。後者については以前ここで取り上げています。
ざっくりまとめるならば、SNSでのエンゲージメントの確立や接触指標の強みがブレイク歌手の特徴と言えますが、その一方でビルボードジャパンソングスチャートを構成する8指標においてそこまで強くないかもしれない指標が存在します。それがTwitterです。
ビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標、3月31日公開(4月5日付)までの今年度各週20位までをまとめました。色はそれぞれ【青:ジャニーズ事務所所属歌手、薄い青:LDH所属男性歌手、緑:ジャニーズ事務所以外の男性アイドル歌手、ピンク:女性アイドル歌手、紫:K-Pop男性歌手、オレンジ:K-Pop女性歌手、黄:アニメ・声優・ネット発の歌手】となっています。表はかなり細かいため、CHART insightにて確認をお願いいたします。
今年のブレイク曲筆頭として挙げてよいAdo「うっせぇわ」もTwitter指標では最高5位というのが、このチャートを物語っていると言えるかもしれません。このTwitter指標について、上位陣の作品から特徴を挙げてみます。
・男性アイドル曲の強さが際立つ
ジャニーズ事務所所属歌手はシングルCDリリース週前後にTwitter指標が上昇する傾向がありますが、特に昨年デビューのSixTONESおよびSnow Manが突出しています。今年は共にシングルを1作リリースしていますが、Snow Manのほうがカップリング曲も上位に登場しやすいと言えます。また昨年で活動を休止した嵐も、デジタル解禁後の曲を中心に未だ高い勢いを誇っています。
ジャニーズ事務所所属歌手以外ではJO1が突出。特にこの2週は、今月リリースのシングル収録曲が複数上位に登場しています(シングル盤のタイトルは『CHALLENGER』であり、1曲目に配置されているのが「Born To Be Wild」)。シングル表題曲や1曲目に据えた曲に比べて目立ちにくいカップリング曲がここまで上位に登場するのは、コアなファンによるTwitter活動の成果が大きく表れたものと考えます。Twitter指標はひとつのツイートに一組の歌手と複数の曲を記載すると、そのすべての曲にポイントが付与されます。好きな歌手についてつぶやく際に複数曲をひとつのツイートに列記するファンが多いのはその仕組みを理解しているためと断定して好いでしょう。その歌手のファンの間で"ビルボード活動"等と称した動きがみられるのはまさにその証明と言えます。
・インパクトの強い映像作品の関連曲が上昇
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』主題歌となった宇多田ヒカル「One Last Kiss」が3月17日公開(3月22日付)のTwitter指標で4位に急上昇。同週は総合でも2位となっており、映画の勢いの凄まじさが反映された形です。また最新週でTwitter指標6位となったEve「廻廻奇譚」は総合でも6週ぶりにトップ10内に返り咲きを果たしており、新たな動画の投入が功を奏したことが総合そしてTwitter指標でもインパクトを与えたことが解ります。この点は先週ブログで紹介しました。
テレビパフォーマンスもインパクトを与えるに十分であり、特に目立つのが1月6日発表分(1月11日付)。年末年始を集計期間とする同週、日本レコード大賞を受賞したLiSA「炎」が2位、紅白初パフォーマンスを果たしたYOASOBI「夜に駆ける」が4位に入り、またその紅白ではじめて2番が明かされた星野源「うちで踊ろう」も8位に。『NHK紅白歌合戦』の視聴率を踏まえればもっと上位に進出してもおかしくないのですが、同週男性アイドル歌手の曲が複数ランクインしており、ファンによるTwitter活動の成果が如何に大きいかを理解することができます。
・アニメやネット発の曲と相性が好い
先述した「夜に駆ける」をはじめとするYOASOBIの曲や、Eveさんとヨルシカのsuisさんによる「平行線」もTwitter指標に登場。さらにはビルボードジャパンで今年度からスタートしたUGC(ユーザー生成コンテンツ)を対象とするUser Generated Songsチャートで「KING」が常に2位以内をキープするボカロP、Kanariaさんの「エンヴィーベイビー」もTwitter指標でこの1ヶ月間20位以内に登場しています。先述した「炎」や「One Last Kiss」のみならずYOASOBI「怪物」もランクインしており、アニメやネット発の曲が上位進出することが多くみられます。
7項目に色付けを施した結果、色付けしない曲がほとんどないことに驚かされます。そのうち星野源さんや三浦大知さんは以前からファンを主体とするTwitter活動に長けた方、ONE OK ROCKは映画主題歌に起用されることが判明したタイミングで上昇、レミオロメン「3月9日」はまさにその日付が集計期間に含まれる週に上昇していますが、彼ら以外でTwitter20位以内に登場する歌手はほぼゼロという状況です(最近では藤井風さんのファンによるTwitter活動が目立つ印象もあります)。そして昨年度以降総合チャートで19週連続トップ10内に滞在する優里「ドライフラワー」に至っては、一度としてTwitter指標20位以内に入ったことがないのです。
(上記チャート推移(CHART insight)は優里「ドライフラワー」の総合順位(黒の折れ線で表示)、ストリーミング(青)およびTwitter指標の順位(水色)を抽出したもの。)
優里「ドライフラワー」はサブスク再生回数に基づくストリーミング指標で最新週まで10週連続で首位を獲得しています。ファンとのエンゲージメントの確立に優れている優里さんですが、チャート推移を踏まえれば「ドライフラワー」がコアなファンによる接触(聴取)主体ではなく、ライト層へも波及する力があると言えるでしょう。
一方でTwitter指標上位の曲に「ドライフラワー」のようなロングヒットに至れないものが多いのは、コアなファンによるツイート活動がライト層へ波及しているとは必ずしも言い難いことを示していると言えるかもしれません。加えてジャニーズ事務所所属歌手においては大半の作品がサブスク未解禁だったりフルバージョンでのミュージックビデオも未解禁のため接触指標獲得につながらず、ライト層を巻き込みにくい状況を作り上げていると言えるでしょう。
ジャニーズ事務所所属歌手の作品はYouTubeでのミュージックビデオを1分から3分前後に伸ばし、且つその効果が動画再生指標にあらわれているのですが、おそらくはミュージックビデオをフィジカル同梱の映像盤でみてほしいという思いがフルバージョン未解禁の考えの根底にあることでしょう。その施策はフィジカルセールス指標が強いうちはまだ有効かもしれませんが現状でもロングヒットに至りにくい点、そしてフィジカルセールス指標のウェイトがいつか下がる可能性を見据えたものではないという点で、接触指標の充実は急務だと考えます。
ジャニーズ事務所所属歌手に限らず、コアなファンによるTwitter活動がビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標に十分反映されていることは今回の表ではっきり証明されています。ならば、音源解禁後の曲の動向とTwitter指標との乖離をどう埋めていくか、考え方をシフトしてみてはどうでしょうか。コアなファンの強固なつながりも素敵ですがライト層獲得へ目を向け、ライト層をコアなファンへと昇華させる仕組みづくりこそ重要でしょう。そのためには接触(指標群)の充実は勿論のこと、自発的に聴いてもらうための心理誘導も重要だと思うのです。たとえばアニメやネット発の曲が総合順位と比較的乖離していないことに、ヒントを見出だせるかもしれません。