イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

音楽チャートの中身を知るとチャートチェックが楽しくなる(グローバルチャート編)

(※追記(2021年3月14日8時20分):表題を"LiSA「炎」の快進撃が期待できる "グローバルチャート"とは何か、まとめました"より変更しました。また、ストリーミング指標に新たに導入されるFacebook公式動画について追記しました。)

 

 

 

日本の方にも少しずつ、グローバルチャートの存在が浸透していると感じています。

日本時間の24日土曜未明に掲載された、最新10月24日付グローバルチャートでLiSA「炎」が初登場を果たしたという米ビルボードの記事は有料会員限定のため読むことができません(また仮に会員であっても、その内容を会員以外に提示することはルール違反のため翻訳できません)。とはいえ、実はグローバルチャートにおける日本人歌手を取り上げた記事は嵐「Whenever You Call」に次いで二度目であり、同じく有料記事だった「Whenever You Call」についてはビルボードジャパンが翻訳記事を用意したことから、「炎」についても取り上げてくださることを願うところ。その「Whenever You Call」についての日本での記事、ならびに「炎」の初登場順位や次週の動向予測については24日土曜付のブログにて取り上げています。

 

仮にLiSA「炎」が2種のグローバルチャートいずれかにトップ10入りを果たせば、快挙であることは間違いありません。ではそのグローバルチャートとは何か?について、あらためてまとめてみます。

(なお、はじめにお断りさせていただくならば、数週のチャート動向を踏まえて判明した定義等についてビルボードジャパン側に確認させていただいたのですが、自分の判断が正しいと断言していただくことができませんでした(ビルボードジャパンが更新するビルボードポッドキャスト宛に、Twitterを介して質問することが可能。米ビルボードビルボードジャパンとは異なるため断言しかねるというのが回答でした)。ですので、確証は持ち合わせているものの一部推測の部分もあるということをご理解いただければ幸いです。)

 

目次

グローバルチャートとはそもそも何か?

ビルボードが9月に新設した、世界規模でのヒット曲を示すチャートがグローバルチャート。まさしく世界全体のヒットを示すGlobal 200、そしてGlobal 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.の2種類が用意されています(Excl.は除外を意味するExcludeのこと)。この2つのグローバルチャートは、世界規模でヒットしている曲を複合指標によって可視化したチャートと言えます。

データの集計元は世界200以上もの地域。そのデータを米ビルボードに提供するMRCデータのディアナ・ブラウン氏は『世界的な最有力アーティスト、国際的にインパクトのある楽曲、そして米国外でどの曲がトレンドし始めるかなどに関するインサイトを業界に提供できるグローバル・チャートを発表することを大変嬉しく思います』とコメントしています(『』内は米ビルボード、世界200以上の地域のストリーミングとダウンロードに基づいたグローバル・チャート発足 | Daily News | Billboard JAPAN(9月15日付)より)。

発表はトップ10の速報が日本時間の火曜早朝、チャート全体の更新は同日夕方となります。ただし米で月曜が祝日の場合、翌日にずれ込むことがあります。

 

 

グローバルチャートの集計方法は?

ビルボードが設立したこともあり、その計算方法は基本的に同社が発表する米のソングスチャート(以下、Hot 100)に準じています。Hot 100からラジオエアプレイが除外され、ストリーミングとダウンロードの2指標で構成されているのがグローバルチャート。オリジナルバージョンとリミックス(客演追加バージョン等含む)が合算されているのもHot 100と同様です。曲のポイントのうち、客演追加バージョンの獲得分が多ければクレジットは客演追加バージョンとなります

計算方法は公表されていませんが、チャート予想者によって上記のように示されています。ビルボードジャパンのソングスチャートではサブスクの再生回数がストリーミング、ミュージックビデオ等の再生が動画再生という指標に分けられていますが、これらはHot 100でもグローバルチャートでもストリーミング指標としてまとめられます。ストリーミングにおいてはデジタルプラットフォームの無料会員による1再生と有料会員による1再生でウェイトが異なり、後者のほうが大きいため、より利益を上げている作品が上位に登場するという構造です。デジタルプラットフォームとは、所有指標であるダウンロードならばiTunes Store等、接触指標であるストリーミングならばApple MusicやSpotifyYouTube等を指します。たとえば1ヶ国のみで展開しているサービスも含まれていると思われますが、ただしその線引きは米ビルボードが決定しています。

YouTubeについてはミュージックビデオ等公式動画が加算対象となり、UGC(ユーザー生成コンテンツ)は対象外。UGCについては日本でも2021年度から加算対象外となるのですが、このUGC等についてはビルボードジャパンのYouTubeデータ取扱変更について、ポッドキャストではさらに細かな説明が行われていた(9月4日付)で記載しています。また2021年3月27日付(集計期間:3月12~18日)からはFacebookによる公式動画も加算対象となります。

Hot 100に準じて、集計期間も金曜が起点となっています(ちなみにHot 100におけるラジオエアプレイは月曜開始)。これはビルボードジャパンソングスチャートの月曜開始とは異なりますが、近年海外作品の解禁が基本的に金曜となっているのは海外チャートにおける集計期間との関連性が高く、一方で日本は未だCDセールスが基礎にあるためか、多くの作品がリリースされる水曜(そしてフラゲ日となる前日)を最大限にカバーできる月曜集計開始を基礎としているものと思われます。

そのCDセールスはグローバルチャートに含まれません。シングルCDが一般流通している国は限りがあります。加えて、Hot 100と異なり歌手のホームページにおける売上が含まれないのも特徴。Hot 100では今年、歌手のホームページ上で販売されたCD、レコードそしてカセットテープといったフィジカルセールスでもって初登場で、もしくは急浮上し首位を獲得した曲がいくつもありましたが、所有指標は持続性に乏しいため発売の翌週に急落、接触指標がその急落分をカバーし切れないために首位獲得の翌週にはトップ10圏外という作品がいくつもありました。米ビルボードでは、とりわけ顕著に用いられたフィジカル施策(到着に数週かかったとしてもフィジカル購入段階で売上が加算され、また購入段階で手に入るダウンロードも加算される仕組み)への対策として、Hot 100では購入時のダウンロードをカウント対象外、さらにフィジカルセールスは発送段階で加算する方式に変えています。そのチャートポリシー(ルールの意)変更後も、特に所有欲の高いファンが多いアイドル的位置付けの歌手の作品で所有指標の高さが見られますが、一方でグローバルチャートではフィジカルセールスは当初から加算対象外となっています。これは歌手のホームページで購入できるダウンロードについても同様です。

 

これらのルールにより、グローバルチャートは世界規模でのヒットを示す鑑となっていると言えます。今後、時代の流れ等に即してHot 100同様に細かなチャートポリシー変更が行われていくと思われます。

 

 

グローバルチャート、上位進出曲の特徴は?

このグローバルチャートですが、実は最新週以外は米ビルボードの有料会員のみが見られる仕様であり、最新週においても無料会員が見られるのは100位までとなっています。この点においてはとりわけ不親切感が拭えませんが、ビルボードジャパンが今後ホームページをリニューアルするタイミングでグローバルチャートをフォローするとのことですのでそちらに期待したいところです(日本人歌手のランクインも期待でき、注目が高まることが予想されるためフォローは必須と考えます)。なおこのフォローや、先述したUGC等についてはビルボードジャパンのFacebookにてアナウンスされています。

では、実際のチャートから動向を見てみましょう。最新10月24日付グローバルチャート、それぞれのトップ10はこのようになっています。

では、新設された最初の週、9月19日付ではどうでしょう。

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(9月19日付チャートにおける26位から100位については、米ビルボードが新設した2つのグローバルチャートの特徴とは? ビルボードジャパンや日本の音楽業界に対する願いを合わせて記す(9月18日付)をご参照ください。)

新設された週と6週目となる最新週で共にトップ10を果たしているのはGlobal 200が6曲、Global Excl. U.S.が7曲であり、ロングヒットの傾向があることが判ります。そしてその傾向は、前週(10月17日付)のチャートを踏まえ違う角度からも証明できます。

前週は米ビルボードアルバムチャートでトゥエニーワン・サヴェジ & メトロ・ブーミンのコラボ作が1位、BLACKPINKが2位となりました。米ビルボードのアルバムチャートは曲単位のストリーミングやダウンロードもアルバムに換算され、同時に各種ソングスチャートにも反映されます。一方で登場2週目にダウンロードが減り、その分をストリーミングでカバーできなければ急落するため、Global 200ではトゥエニーワン・サヴェジ & メトロ・ブーミン「Runnin」が9→33位、「Mr. Right Now」が10→26位に、BLACKPINK「Lovesick Girls」が2→11位にそれぞれダウンしています。

もっと分かりやすいのはジョーシュ・シックスエイトファイヴ × ジェイソン・デルーロ「Savage Love (Laxed - Siren Beat)」の動きで、10月17日付ではGlobal 200で1位、Global Excl. U.S.で3位だったものが最新週ではそれぞれ5位と3位に。そして前週にはBTSの記載がありましたが、今週はクレジットから外れています。これは10月17日週においてBTS参加版が初加算されたためですが、Hot 100では同週に所有指標が伸びた一方で接触指標に波及しなかったことから、翌週所有指標の急落を接触指標群がカバーできず、またBTS参加版のポイントが著しく下がったために彼らの名が消えています(参照:10月24日付米ビルボードソングスチャート、24Kゴールデン feat. イアン・ディオール「Mood」が初の頂点に(10月20日付))。この動きがグローバルチャートでも見られるのです。


【所有<接触指標】の重要性は、下位曲に1年以上前の曲がランクインしていることからも明らかです。Hot 100では一定期間以上ある順位を上回って在籍し続けた曲がその順位を下回ればチャートから除外されるというリカレントルールが適用されているため昔からの曲がエントリーし続けていることはほぼありませんが、グローバルチャートでは存在します。今後グローバルチャートにリカレントルールを設けるかは不明ですが、しかし長く愛される曲のランクイン傾向は確実にあるものと考えます。

 

 

グローバルチャートに日本人歌手はランクインする?

いや、実は既にランクインしていることをこのブログで幾度となく記載していますが、とりわけ大きな動きを示したのは嵐「Whenever You Call」とLiSA「炎」だというのは冒頭で紹介した通りです。

その他、現在までにランクインしている曲のうち最も安定しているのがYOASOBI「夜に駆ける」。Global 200では62位、Global Excl. U.S.では30位が最高位となり、新設以降6週連続でチャートインを果たしています。香港や台湾のSpotifyでもデイリー200位内に入っていますが、ほぼ日本のストリーミングとダウンロードだけで安定した地位を築いていると言えそうです。

この「夜に駆ける」はビルボードジャパンソングスチャートで特にストリーミングや動画再生に長けていますが、言い換えれば「夜に駆ける」並の高い接触指標を獲得しない限り、安定して上位に来ることはできないでしょう。一方で、嵐「Whenever You Call」はグローバルチャート両方で最高位を記録しましたが、初登場の翌週には少なくとも100位以内から姿を消しています。これは先述したように所有指標が極度に強い曲の特徴が強く表れた結果と言えます。

ならば、ダウンロードを大きく稼ぎつつ、高いストリーミングをキープすることが求められます。前者においては高位置に登場でき、そして後者にてロングヒットに至れるのです。

 

LiSA「炎」のグローバルチャートの上昇の可能性については、ここまで紹介したグローバルチャートの特徴を踏まえた上で、24日付ブログエントリーにて記載しています。嵐「Whenever You Call」の初登場週におけるストリーミングとダウンロードの数値も記載していますのであらためて紹介します。

 

 

グローバルチャートをどう捉えるべきか、そして日本人歌手がチャートインするためには?

先述したように、グローバルチャートは、世界規模でヒットしている曲を複合指標によって可視化したチャートと言えます。たとえばSpotifyにも世界での再生回数ランキングはありますが、大事なのは複合指標という点。このチャートが注目され認知度が高まれば、チャートの上位登場曲が世界中の音楽ファンに知られていくはずです。

グローバルチャートにおいては、ダウンロードを大きく稼ぎつつ、高いストリーミングをキープするのがヒットの鍵。前者ばかりが強いと短期的なヒットに終わってしまいますが、24日付ブログエントリーで記載したように日本におけるダウンロードセールスは他国より高いため、短期的にでも上位進出はあり得るのです。それを中長期的なヒットに昇華させるにはストリーミングの拡充が必須といえます。

歌詞を英語にしたり日本人に親しまれるメロディを排した曲が世界進出には必要という時代ではなくなっていますし、フィジカルを用意して在庫を抱えるリスクも必要ありません。BTS「Dynamite」のように英語詞曲を用意し米ビルボードソングスチャートに挑む例もありますが、以前から韓国語曲でHot 100にてトップ10入りを果たしていたことを踏まえれば(接触指標が伴わず、トップ10入りした翌週のダウン幅が大きかったという側面はありますが)、日本語であれどチャートインする可能性は十分あり得るのです。

 

ならばグローバルチャートに日本人歌手がチャートインするにはどうすればいいでしょうか。

歌手や作品単位で世界中に訴求することも可能でしょうが、たとえば日本の音楽業界が総じてプロジェクトを立ち上げ日本の音楽を勧めることを検討する必要はあると思います(たとえばサブスクサービスへのプレイリスト作成および訴求の働きかけ等)。映画やアニメーションは高く評価されている一方で、音楽にスポットが当たらない状況は至極勿体無いと思うゆえ、ならば一丸となって訴求するのはいかがでしょう。

また、日本の音楽業界がリリースタイミングを世界標準に合わせることも必要ではないでしょうか。他国に比べてCDセールスが強いのは悪いことではありませんが、それにこだわるからでしょうか、チャートの集計方法がオリコンはもとよりビルボードジャパンでも月曜になっている以上、たとえばビルボードジャパンソングスチャートで上位を狙うべく月曜解禁を徹底しても、グローバルチャートでは初週4日分のみが加算対象となってしまうのです。海外同様金曜リリースおよびチャート集計方法の金曜開始を徹底することは必要でしょう。これはレコード会社、チャート管理側双方が考えなければいけないことです。

ビルボードジャパンソングスチャートのような複合指標に基づくチャートが日本における社会的ヒットの鑑となっていることを、ビルボードジャパン自身が十分に訴求し日本での認知度を高めなければ、同様に複合指標から成るグローバルチャートの重要性を日本人に認識してもらうのは難しいかもしれません。ビルボードジャパンの、特にSNSを介した発信力の強化を願うところです。

そして、グローバルチャートがデジタルプラットフォームを集計対象とする以上、ダウンロード、サブスクそしてミュージックビデオの解禁は必須です。「炎」のチャートアクションの凄まじさを踏まえれば、ミュージックビデオをフルバージョンで解禁することも絶対に必要なのです。

 

 

 

以上、米が先月新設したグローバルチャートについてまとめてみました。まずは日本時間の明日発表されるグローバルチャートで、LiSA「炎」がどの位置に来るか注目しましょう。