イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードで次週首位初登場が見込まれる曲の背景とは、そして"真の社会的ヒット曲"を今一度定義する

ビルボードソングチャート予想担当者の中に、次週8月26日付(集計期間:8月11~17日)のチャートにおいて新たな首位獲得曲が登場するという指摘があります。

最新チャートで史上2位タイとなる16週目の首位を記録したモーガン・ウォレン「Last Night」およびルーク・コムズ「Fast Car」、そしてテイラー・スウィフト「Cruel Summer」が僅差で競う中、オリヴァー・アンソニー(もしくはオリヴァー・アンソニー・ミュージック)による「Rich Men North Of Richmond」が初登場で首位に立つと予想されているのです。

今年とりわけチャートで存在感を高めるカントリージャンルから登場した新鋭、オリヴァー・アンソニーは自主レーベルと思しきレコード会社より昨年デビュー。この「Rich Men North Of Richmond」の動画は、曲に圧倒されたというYouTubeチャンネル、radiowvから発信されています(チャンネルはこちら)。そしてこの動画が8月7日にアップされてから間もなく、同曲はバイラルヒットに至っています。

この曲がテーマに掲げるのは、過去に週6日、1日あたり12時間という長時間労働を強いられた自身の経験を踏まえた、労働者階級の怒りや嘆きです(歌詞は下記リンク先をご参照ください)。

そしてこの歌詞やパフォーマンスが注目され、急激な支持を集めたことで次週の米ビルボードソングチャートを制するという見方が生まれているのですが、この歌詞に賛同しているのがいわゆる強固な保守派の方々なのです。NBCニュースでは【無名のカントリー・アーティストのバイラル・ソングが保守派賛歌になるまで】という記事が用意されています。

The song's lyrics, a soulful expression of working-class frustrations while tearing into wealthy Washington elites, have made it an anti-establishment anthem, especially among blue-collar workers.

(この曲の歌詞は、裕福なワシントン・エリートを切り裂きながら労働者階級の不満をソウルフルに表現しており、特にブルーカラー労働者の間で反体制のアンセムとなった。)

(記事の翻訳にはDeepLを使用しています。)

 

急上昇の兆候等からは、上記NBCニュースでも記されているジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」が想起されます。3週前のソングチャートで2位に初登場を果たし、翌週キャリア初の首位に到達したこの曲は、過激なミュージックビデオが物議を醸したことを機に、その物議を経て強固な保守派が同曲を見つけそして支持したことが人気の基盤となっています(ミュージックビデオは下記リンク先をご参照ください)。

しかし、「Try That In A Small Town」は首位獲得の翌週、21位へと一気に後退。クリスマス関連曲を除けば首位から20位圏外への急落は、米ビルボードソングチャートの歴史においてこの曲が6作品目となります。その理由はダウンロード指標の高水準からの急落、およびストリーミングの大幅なダウンにあるのですが、その流れを踏まえてこのようなことを指摘しました。

曲への支持というよりも、保守派の加熱が反映された形での支持が、一方ではその熱量の持続につながらなかったものと考えます。ただしこのような形で上昇する曲(ミュージックビデオが物議を醸さずとも、保守派の団結力が反映される作品)は今後増えるかもしれません。

オリヴァー・アンソニーによる「Rich Men North Of Richmond」もまた、ダウンロード指標で高水準を記録するものと予想されています(下記ツイート参照)。加えてストリーミングにおいても、たとえばSpotifyでは8月12日付で35位に初登場すると9→3位と急伸しています。この動きもまた、ジェイソン・アルディーン「Try That In A Small Town」を彷彿とさせるのです。

歌手のファンよりも強固な保守派が大挙集まり、彼らが自分たちの勢いを示す曲として「Try That In A Small Town」そして「Rich Men North Of Richmond」に白羽の矢を立てたというのが私見です。別の予想担当者は、次週の米ビルボードソングチャートにおいて「Rich Men North Of Richmond」が大差で首位に立つと予想されています。

 

仮にオリヴァー・アンソニー「Rich Men North Of Richmond」は8月26日付米ビルボードソングチャートを初登場で制したならば、保守派の中でも強固な考えを持つ方がさらにその主張を高める可能性が強く、あくまで個人的にと前置きするならば危惧せざるを得ないと感じています。ただし、短期間で急落する可能性も考えられます。

中長期(年間、および"Greatest Of All Time"というオールタイムチャート)で上位に至らなければ、社会的ヒットとは呼び難いと考えます。

接触指標群、すなわちコアファン以上にライト層の支持を獲得することがロングヒットにおいて欠かせない米ビルボードソングチャートにあって、急落自体本来は考えにくいことなのです。

それを踏まえ、冷静に真の社会的ヒット曲に成るか(成ったか)を見極める必要がありますし、チャート管理者や分析者はその点こそ広く流布する必要があると考えます。ビルボードジャパンにおいてもロングヒットによる中長期チャートでの上位進出が社会的ヒットにおいてより重要と考えるに、日本でも同様の伝達が重要です。