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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

マイリー・サイラス「Flowers」の源流とも言える、グロリア・ゲイナー「I Will Survive」の近年の関連作品群をまとめる

昨日は2023年度上半期における社会的ヒット曲について、洋楽邦楽計10曲を紹介しました。

その中でも取り上げたマイリー・サイラス「Flowers」については、この曲のヒット以降いわゆるフォロワーも登場しているということを記しましたが、そのフォロワーのみならず、この曲の影響源とされるグロリア・ゲイナー「I Will Survive (邦題:恋のサバイバル)」に刺激された曲が「Flowers」の前にも登場していたことは注目すべきと考え、今回エントリーとしてまとめた次第です。

 

 

マイリー・サイラス「Flowers」は上半期を代表するヒット曲となり、現在も米ビルボードソングチャートでトップ10内をキープしています。

「Flowers」のヒットの理由は米ビルボードが分析(上記リンク先参照)。曲自体については『ジョーン・ジェットを思わせるハスキーボイスでの遠くに飛ばすような歌声』『オーガニックなサウンド』『楽器の生演奏を主体に、グロリア・ゲイナー「I Will Survive」のような70年代ディスコを参照しつつも、曲のイントロとアウトロにグリッチノイズを忍ばせるなどといった、あえてローファイな音像を目指すという現代的なプロダクションが施されている』と紹介されています(連載「lit!」第42回:マイリー・サイラス、カロル・G、d4vd、Gorillaz、スロウタイ……チャート内外で見つかる多様なヒット曲 - Real Sound(3月19日付)より)。

加えて「Flowers」からは、グロリア・ゲイナー「I Will Survive (邦題:恋のサバイバル)」を彷彿とさせる意志が感じられます。グロリア自身が「Flowers」に反応していることからも、「Flowers」が「I Will Survive」の流れを汲んだ曲と捉えていいでしょう。

そのメッセージ性は、この数週間で多くのスターたちも虜にしており、グロリア・ゲイナーは、「フラワーズ」を「忍耐強く取り組むことで成功するための強さを自分自身の中に見出すよう皆を後押ししてくれる」と称賛

また「I Will Survive」の流れを汲む他の作品、さらに「Flowers」の大ヒット以降にリリースされた曲(いわばフォロワー)においては、「Flowers」で挙げられた特徴のほかにも(一部は異なる部分もありますが)重厚なコーラスやスリリングなストリングスが挿入されているのも特徴と言えます。

 

 

さて、「I Will Survive」を歌ったグロリア・ゲイナーは世界で活躍する女性歌手にフックアップされており、ともすればそれが「Flowers」につながった可能性もあるかもしれません。

オーストラリア出身で1980年代から活躍するカイリー・ミノーグのアルバム『Disco』(2020)にて、翌年リリースした”Guest List Edition”に収録された「Can't Stop Writing Songs About You」にグロリア・ゲイナーが迎えられています。

興味深いのは、その『Disco』デラックスエディションに同じく収録されたジェシー・ウェアとの「Kiss Of Life」も、「Can't Stop Writing Songs About You」以上に解りやすいディスコティークであるということ。そのジェシーが今年リリースし好事家の間で高い評判を集めるアルバム『That! Feels Good!』からの先行曲、「Begin Again」における「I Will Survive」らしさ、終盤のドラマティックな展開は特筆すべきです。

(ちなみに「Begin Again」はシングルエディット(ミュージックビデオ使用バージョン)よりも、アルバムにも収録された長尺版のほうがよりドラマティックな展開ゆえお勧めです。リリックビデオはその長尺版となっています。)

 

K-POPにおいてもいわば先見の明が。IVEによる「After LIKE」は日本でもロングヒットしていますが、サビの後の間奏に「I Will Survive」が引用。同じくK-POP第4世代女性ダンスボーカルグループのLE SSERAFIMによる「UNFORGIVEN」がエンニオ・モリコーネ「The Good, The Bad And The Ugly (映画『続・夕陽のガンマン』メインテーマ)」を用いていますが、往年の名曲をいち早くサンプリングした意味でも重要です。

 

そのような流れの後に生まれた「Flowers」が文字通り花開いたことで、同曲やグロリア・ゲイナー「I Will Survive」を踏襲したと思しきフォロワーが春以降次々登場しています。

2018年リリースの「You Say」がクリスチャンミュージックチャートで大ヒットし、総合ソングチャートでも登場する等クロスオーバーヒットに至ったローレン・デイグル。その彼女が今年リリースしたセルフタイトルアルバムのラストを飾る「These Are The Days」では、まさに「I Will Survive」的アプローチが施されています。なおこの曲からはナールズ・バークレイ「Crazy」も想起した次第です。

そして映画『Frozen (邦題:アナと雪の女王)』で用いられた「Let It Go」で一躍有名となったイディナ・メンゼルによる新曲「Move」は、BPM速めのより解りやすいダンストラックとなっています。ミュージックビデオにて彼女が着るレインボーの衣装にも注目です。

DJ/プロデューサーのディプロによるディプロのリーダー作も見逃せません。ジョニー・ブルー・スカイズ(スターギル・シンプソンの変名)およびダヴ・キャメロンを迎えたシングル「Use Me (Brutal Hearts)」におけるストリングスのヒリヒリした質感もまた「I Will Survive」らしさを彷彿とさせます。

J-POPにおいても、フィロソフィーのダンスによるシングル「シュークリーム・ファンク」のカップリング曲である「It's show time」が「I Will Survive」らしさを感じさせます。特にサビ頭のメロディラインに「I Will Survive」が色濃く表れている印象です。ミュージックビデオはないため、巻末のプレイリストでチェックしてみてください。

 

 

毎週新曲プレイリスト(SpotifyによるNew Music Friday等)を聴くと、大ヒット曲に触発された曲が次々に登場してくるのを感じます。昨年はハリー・スタイルズ「As It Was」のフォロワーが多かったのですが、今年現段階では「Flowers」が、そして源流と言える「I Will Survive」がムーブメントと言えそうです。

 

しかし、ここにはグロリア・ゲイナーが現役であることも大きく影響しているのかもしれません。グロリアは3月に「I Will Survive」の新たなミュージックビデオを公開。歌声も力強く、凛としています。

また、ジェシー・ウェアのニューアルバムがキャリア最高位タイを記録したイギリスでは、カイリー・ミノーグが9月にリリースする『Tension』からの先行曲「Padam Padam」が最新ソングチャートにおいて実に12年ぶりとなるトップ10入りを果たしています。「Padam Padam」自体は「Flowers」や「I Will Survive」とは異なるタイプの曲ですが、マイリーへの流れを作ったベテランの意欲作が評価されています。

 

マイリー・サイラス「Flowers」、そしてグロリア・ゲイナー「I Will Survive」を基軸に、その前後の作品をチェックして相関図を作るのも楽しいかもしれません。そして「I Will Survive」、またカイリー・ミノーグ等のパフォーマンスからは、彼女たち(の作品)がLGBTQフレンドリーであることが解ります。イディナ・メンゼルが纏った衣装も、LGBTの尊厳そしてLGBTの社会運動を象徴する旗と同じレインボーカラーです。

「音楽は世界共通の言語」としばしば言われる。だとしたら、LGBTQを象徴する歌を形づくるものは何だろうか?

LGBTQのアーティストは、時代やジャンルを問わず、音楽界の最前線で活躍してきた。しかしポップ・ミュージックの世界では、そうしたアーティストたちが孤立感や他者との違いからくる苦しみ、さらにはLGBTQコミュニティや自らを愛する喜びを表現する手段を持っていた。

1969年6月28日にニューヨーク・シティで起きた「ストーンウォールの反乱」(この歴史的な事件をきっかけに、アメリカでは同性愛者の権利獲得運動が始まった)から50周年。それを記念して、LGBTQを象徴する曲20曲をご紹介しよう。

マイリー・サイラス「Flowers」は自身の私生活を彷彿とさせるという点でも、女性に向けた意味合いの強い作品かもしれません。一方でグロリア・ゲイナー「I Will Survive」はセクシャルマイノリティであるLGBTQ+コミュニティに寄り添い、生きる意味や意志を与えてくれる曲として今も鳴り続けています。女性の権利もまだ十分ではないと考えれば、「I Will Survive」の持つ意志や影響力の大きさを感じずにはいられません。

だからこそ、「Flowers」や「After LIKE」から「I Will Survive」を知った方には、上記LGBTQ+を讃えるアンセムや、特にカイリー・ミノーグがLGBTQ+フレンドリーであることを知ってもらいたいと思うと共に、他方日本でLGBTQ+の権利が十分ではないどころか差別を加速させ得る法案が可決されたことについて、曲に聴き惚れたならば尚の事「I Will Survive」の背景等を知った上で、考え、投票等の行動を実行してほしいと切に願います。今月はプライド月間ゆえ、より強く願うばかりです。

 

 

最後に、今回紹介した作品をまとめたプレイリストを掲載。自分がグロリア・ゲイナー版を知るきっかけとなった、シャンティ・サヴェージによるR&Bカバー版も添えています。