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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

2022年度下半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲10選

2022年度下半期に社会的にヒットした、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲を選びました。J-POPについては12月9日に発表されたビルボードジャパンによる各種年間チャートを、海外の作品については日本時間の12月1日から2日にかけて発表された米ビルボードによる各種年間チャート、特にソングチャートおよびグローバルチャートを参考にしています。

2022年度上半期についてはこちら。

 

今回は6月から11月の間にヒットした作品を取り上げています。リリースタイミングはこの限りではありません。

 

 

2022年度下半期の社会的なヒット曲、もしくはチャートを語る上で欠かせない曲

 

 

SEKAI NO OWARI「Habit」

2022年度ビルボードジャパン年間ソングチャート11位。ミュージックビデオのダンスがムーブメントとなり拡散。中でもHIKAKINさんとのYouTubeコラボレーションが大きな話題を呼び、Official髭男dism「ミックスナッツ」との同日フィジカルリリース対決において首位を獲得したこと(6月29日公開分(7月4日付)で達成)は大きかったと言えます。

 

 

② Ado「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」

下半期リリースながらビルボードジャパンソングチャートで通算6週首位を獲得し、年間では7位に。ロングヒットが年間チャートの大きな原動力となる総合ソングチャートにおいて下半期リリース曲は不利となる中、米ビルボードにおけるハリー・スタイルズ「As It Was」のような勢いを示しています。特に映画公開以降の関連曲によるチャートの席巻は、Adoさんの年間トップアーティストチャート制覇に大きく貢献しました。

 

 

③ 藤井風「死ぬのがいいわ」

(上記はヴィジュアライザー。)

2020年のアルバム『HELP EVER HURT NEVER』収録曲がこの夏東南アジアのTikTokでブレイクを果たすと、その勢いは世界へ。米ビルボードによるグローバルチャートにランクインし、Spotifyにおいては2022年度において海外で最も多く聴かれたJ-POP作品となりました。ライブ映像等追加映像の公開やTikTokの活用等、主体的な施策実施も現在の安定した人気につながっています。

チャート成績は、音楽ジャーナリストの柴那典さんによるコラムをご参照ください。

海外におけるJ-POPの新たなヒットの形となった「死ぬのがいいわ」。そのバズが日本のテレビメディアでこれまできちんと紹介されていなかったことを残念に感じていましたが、『NHK紅白歌合戦』(NHK総合ほか)や同局のスペシャル番組がようやく可視化するだろうことを期待しています。

 

 

④ 米津玄師「KICK BACK」

テレビアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京)オープニング曲として大ヒットし、週間100位以内初登場からわずか7週で年間ソングチャート30位に登場。さらに二度目の首位獲得時である2022年度最終週には、自身の「M八七」(5月25日公開分(5月30日付)に続き2022年度で二番目に高い週間ポイントを記録しています。高いデジタルをフィジカルが後押しすることで、チャートアクションの理想形を示しました。

フィジカルリリースのタイミングでライブ映像を公開したこと、またソニーミュージック系列移籍後はじめてレンタル解禁をフィジカル発売の3日後に設定したことからも、米津玄師さん側のチャートアクションへのこだわりを感じます。特にフィジカルに強い歌手は「KICK BACK」における一連の施策を教科書にしていいのではないでしょうか。

 

 

Official髭男dism「Subtitle」

ビルボードジャパン年間ソングチャート4位の「ミックスナッツ」も重要ですが、より強固なヒット曲となるであろうこの曲を選出。デジタルリリースは米津玄師「KICK BACK」と同日。週間100位以内初登場週こそ敗れるものの、『silent』(フジテレビ)人気も相俟って年度内では4週総合ソングチャートを制覇。ストリーミングは4週連続で2000万回超えを達成し、サブスクユーザー数自体の上昇にもつながったと捉えています。

たとえばミュージックビデオ公開前に公式オーディオを用意したことで、(特に配信でチェックした)ドラマファンの動画への導線を作ったことも大きかったと言えるでしょう。年間ソングチャートでは27位に入り、2023年度の大ヒットも予想されます。

 

 

ケイト・ブッシュ「Running Up That Hill (A Deal With God)」

ストレンジャー・シングス 未知の世界 シーズン4』(Netflix)に用いられた1985年の作品が当時の米ビルボードソングチャートにおける最高記録(30位)を大きく上回る3位を記録し、キャリア最高位も更新。年間ソングチャートでは23位に入っています。ドラマのSpotifyにおける公式プレイリスト、その最上位にこの曲が配置していることもサブスクでの後押しになったと言えるでしょう。

 

 

⑦ リゾ「About Damn Time」

ヒットした理由のひとつがTikTokであり、リリース前からティザー(ティーザー)として活用。また好成績をSNSでシェアしコアファン等との連帯を高めることも好成績に寄与しました。ダンスクラシック的サウンドも支持され、米ビルボード年間ソングチャートで12位、ラジオ指標では10位を獲得するに至っています。

 

 

ビヨンセ「Break My Soul」

リゾ「About Damn Time」から米ビルボード週間ソングチャートで首位の座を奪ったのがビヨンセ「Break My Soul」。ドレイクのアルバム『Honestly, Nevermind』に通じるジャンルを超えたダンスサウンドが魅力的なアルバム『Renaissance』からのリード曲は、年間ソングチャート38位に。マドンナを迎え、彼女の米首位曲「Vogue」(1990)を用いたリミックスは「Break My Soul」の意義をより前面に押し出しています。

 

 

スティーヴ・レイシー「Bad Habit」

ジ・インターネットのギタリスト、スティーヴ・レイシーのソロ曲が米ビルボードで3週首位を記録し、年間では28位を記録。TikTokでのバズが歌手の認知度向上につながり、2017年リリースの「Dark Red」等もソングチャートで100位以内エントリーを果たしています。

一方でTikTokのバズの在り方に異を唱える声も上がっています。スティーヴ・レイシーのライブで観客が「Bad Habit」をシンガロングできなかったことに対し、チケットを獲れなかったコアファンを中心に非難が集まりました。曲の一部を、それも早回しでしか聴かないことが原因ではないかとして、その流行の発信源であるTikTokにも飛び火した形です。

しかしTikTokのバズはストリーミング指標(米では動画再生を含む)の制覇につながり、米ビルボードではこの指標にTikTokを含めていないことから、TikTokを悪とみなすのは違うというのが私見です(スレッドの形で記したツイートを下記に掲載)。早回し文化については現在日本でも登場してきており、ともすれば同種の問題が生まれるかもしれませんが、知るきっかけがそれだとしてもきちんと聴くよう勧めることが大事でしょう。

 

 

サム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」

リリース前にティザーを公開する施策についてはこの1年ちょっとの間に確立された感がありますが、サム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」についてもこの手法を用い、10月3日付米ビルボードソングチャートで3位、ふたつのグローバルチャートでは首位に初登場。終盤リリース曲は不利な年間ソングチャートにおいても、米そしてグローバルの3つのチャートすべてにおいて100位以内に登場しています。

「Unholy」は10月29日付で米ビルボードソングチャートを制し、サム・スミスにとっては初めて、キム・ペトラスにおいては米100位以内初エントリー曲にして頂点に立ったのみならず、『キムとサムはそれぞれが“Hot 100”史上初めてトランスジェンダーとノンバイナリーを公言するアーティストとして1位を獲得』(下記ツイート内リンク先より)。「Unholy」チャートイン後のキムの発言は、時代の変化そして自負を示しています。

 

 

以上10項目をお送りしました。

最後に。今回紹介したJ-POP5曲はすべて、米ビルボードが2020年秋に開始したグローバルチャートのうちGlobal 200で週間200位以内に登場し、またGlobal 200から米の分を除くGlobal Excl. U.S.ではAdo「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」が最高8位、米津玄師「KICK BACK」が同4位、Official髭男dism「Subtitle」が同10位にランクインを果たしました。しかしながらリリースタイミング等によっては上位を狙えたとも考えます。

そもそもデジタル解禁が海外でのリリースとイコールである以上、海外に向けての訴求も重要であり、日本でのグローバルチャート認知浸透も必須だと考えます。藤井風「死ぬのがいいわ」が日本のテレビメディアでほぼ発信されなかったことからも日本のエンタテインメント業界全体が抱える様々な意味での内向きさを痛感しましたが、これを改めることでJ-POPが2023年度以降広く世界に伝わるように成るものと期待しています。