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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米ビルボードソングスチャートがチャートポリシー変更…テイラー・スウィフト不利?も、支持する理由を記す

ビルボードソングスチャート、次回発表分となる11月12日付にて変更が実施されます。今回は構成指標のひとつであるラジオのデータ提供元が変わるとのことで、ともすればチャートポリシー(集計方法)変更とまでは言えないかもしれませんが、その変化は小さくはないとみられています。

ビルボードにデータを提供するルミネートが、ラジオについてはBDSデータからメディアベースに提携先を変更し、これに伴いメディアベースのデータを次回11月12日付ソングスチャート(Hot 100)以降用いるようになります。ただし10月28日から30日までの前半3日間はこれまで通りBDSデータからとなり、10月31日にメディアベースに切り替わるとのことです。

 

さて、米ビルボードによるチャート紹介専用のTwitterアカウントに対して寄せられた声(引用リツイートの形)では、テイラー・スウィフトの写真をアイコンに使用したユーザーからの変更への嘆き、または怒りのツイートが複数みられます。今回はこのネガティブな反応をもたらしたチャートの変更点について考えます。

 

今回の米ビルボードによる切り替えをいち早く紹介したチャート予想者は、このデータ提携先の変更がラジオ指標のポイント増加につながると分析しています。

ラジオはアルバムのリード曲やシングル曲が強い傾向にありますが、予想が正しい場合に想定されるのが、最新11月5日付米ビルボードソングスチャートで史上初のトップ10独占を果たしたテイラー・スウィフトの急落。アルバム『Midnights』の初登場週に達成したこの記録はストリーミングのポイントだけでも独占可能だったと米ビルボードが報じていましたが、ラジオのポイントは「Anti-Hero」以外極めて低くなっています。

(上記リンク先にて、最新11月5日付米ビルボードソングスチャートトップ10全曲における3指標の数値を掲載。)

デジタル2指標がロケットスタートを切りやすい一方でラジオ指標はピークが最も遅い、初週のトップ10入りは極めて珍しいという特徴があります。またリード曲やシングル以外は伸びにくく、最新11月5日付米ビルボードソングスチャートにおいては「Anti-Hero」と他の曲でラジオ指標に著しい差が生まれています。

ビルボードソングスチャートにおいて好位置で初登場を果たす曲は、その翌週に急落する傾向がみられます。デジタルにおいてロケットスタートの反動がみられるのに対し、ラジオは伸びるとしてもデジタルのダウンを補完し切れないため。テイラー・スウィフト『Midnights』収録曲の登場2週目となる次回11月12日付米ビルボードソングスチャートでも、リード曲やシングル曲以外はこの傾向をなぞることが想定されます。

ゆえに、一部かもしれませんがテイラー・スウィフトのファンと思しき方のネガティブな反応は、ラジオデータ提携先の変更でラジオのウエイトが上昇し他の歌手のリード曲やシングル曲が上昇するならば尚の事、テイラー・スウィフト『Midnights』収録のリード曲やシングル曲以外がより大きくダウンする可能性を見越してのものと考えられるのです。

 

ネガティブな反応の一部に攻撃的なものもあり個人的には問題だと思うものの、その反応が全く理解できないというわけではありません。というのも、この変更には一部違和感を覚えるためです。今回の記事のリンクを下記に再掲します。

この記事は米ビルボード有料会員向けのものであり、その変更理由は一般には公開されていません。ビルボードジャパンも翻訳記事を出していないため元記事の詳細をお伝えすることはできないのですが(有料会員にのみ開示する内容の紹介はマナーに反します)、ただ一点だけどうしても気になることを挙げさせていただくならば、2022年度の年間ソングスチャートにおいてはBDSのデータが集計対象となるということなのです。

次回11月12日付は2022年度米ビルボード各種チャートにおいて52週目にあたり、おそらく今年度最終週と思われます。ならばラジオ指標のデータ提供先を切り替えるタイミングは2023年度初週でよかったかもしれません。また次回のチャートの集計期間途中でラジオ指標のデータ提携先を切り替えるとして、それを同じく今年度の年間チャートに反映させてもよいのではないでしょうか。

半ば実験的に週間チャートだけデータ提携先を切り替えるそのやり方が、あたかもテイラー・スウィフト『Midnights』収録曲のランクダウンを狙ったものであると邪推されてもおかしくはないでしょう。ゆえに、攻撃的な言葉の使用問題はあるとして、テイラーのコアファンによるネガティブな反応は理解できないわけではないのです。

 

ただそれでも、今回のチャートポリシー変更は支持できるというのが自分の考えであり、そもそも急落する曲が社会的ヒット曲とは言い難いということがその理由です。昨年9月にドレイクが米ビルボードソングスチャートでトップ10内に9曲を送り込んだ際、チャートが社会的ヒットと乖離しているという違和感を抱くならばチャート運営側が変わる必要があると以前提案しました。今回、その希望が叶っただろうと捉えています。

(上記ブログエントリーはテイラー・スウィフト『Midnights』収録曲の米ビルボードソングスチャートトップ10独占の翌日にアップしたものですが、ドレイクによる寡占記録の翌日にアップしたブログエントリーを再掲し、米ビルボードが常にチャートを自問自答しブラッシュアップしていくことの重要性を記しています。)

 

そのドレイクは、21サヴェージ(一部メディアやこのブログエントリーではトゥエニーワン・サヴェジとも表記)とのコラボアルバム『Her Loss』を一昨日リリース。11月19日付米ビルボード各種チャートに初登場予定ですが、今回のチャートポリシー変更により独占や寡占は難しいかもしれません。また独占や寡占を果たしたところで、リード曲以外は登場2週目にソングスチャートで急落する可能性が考えられます。

日本ではフィジカルセールス初加算に伴い急浮上する曲が多いことから、複数週(少なくともフィジカルセールス加算2週目まで)の動向をみて真の社会的ヒットと成るかを判断する必要があると記しています。とはいえ最善は、音楽チャートの1週分をチェックしただけで真の社会的ヒット曲が分かる構造にチャートが成ることでしょう。米ビルボードによる今回のチャートポリシー変更は、その形に近づいたと言えるかもしれません。

 

 

尤も予想担当者の見方が必ず正しいとは限らないため、まずは日本時間の明後日早朝に発表予定となる11月12日付米ビルボードソングスチャート速報をチェックし、その後数週の動向から今回のチャートポリシー変更の結果を見極めることとします。