イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「残響散歌」や「一途」のチャート下降度は大きくなっていないか…「夜に駆ける」「ドライフラワー」との違いを考える

昨日のブログエントリーにて、BE:FIRSTのストリーミング1億回再生突破曲「Bye-Good-Bye」の、一方では強くない部分があることを記しました。

その際、今年度上半期のビルボードジャパンソングスチャートで上位に入ったAimer「残響散歌」(上半期首位)およびKing Gnu「一途」(同3位)という今年度リリース曲と比較したのですが、実はこの2曲についても気になるところがあります。

特にAimer「残響散歌」はビルボードジャパン年間ソングスチャートを制する可能性もあると言われていますが、しかし6月8日公開分(6月13日付)の10位を最後にトップ10から離れています。これは2020年度年間ソングスチャートを制したYOASOBI「夜に駆ける」、そして翌年度を制した優里「ドライフラワー」と大きな違いと言えるのです。

 

では、YOASOBI「夜に駆ける」および優里「ドライフラワー」のビルボードジャパンソングスチャートにおけるCHART insightをみてみましょう。上段は総合300位以内初登場から最新9月21日公開分(9月26日付)まで、下段は総合100位以内ランクイン直前からの60週の動向です。

なおYOASOBI「夜に駆ける」は自死をテーマにした作品と言われているため、全国のいのちの電話|一般社団法人日本いのちの電話連盟のリンクを掲載します。掲載理由等はこちらで以前記しています。

総合ソングスチャートにおいては、Aimer「残響散歌」がトップ10入り通算24週、King Gnu「一途」が同15週に対し、YOASOBI「夜に駆ける」はトップ10入り通算66週、優里「ドライフラワー」に至っては同77週と大差がついています。「ドライフラワー」は後述する理由より、再度トップ10入りする可能性もゼロではありません。

 

今年度リリースの作品が強くない可能性、もしくは昨年度までの年間首位獲得曲が強すぎる可能性も考えられますが、その理由をいくつか挙げてみます。

 

 

たとえばカラオケ指標。CHART insightでは緑で表示されるこの指標、King Gnu「一途」では2月に41位まで上昇したものの、最新9月21日公開分(9月26日付)では300位以内に入らず加点されていません。最新週ではAimer「残響散歌」もカラオケ指標が20位に後退し、上昇までが遅いながらも大ヒットすると長期安定するこの指標が強いとは言い切れないのです。他方、優里「ドライフラワー」は現在もこの指標が2位に入っています。

 

また、ストリーミング再生回数が全体的に底上げされているのは大きなポイントと言えます。

上記はビルボードジャパンにおける2019年度以降のStreaming Songsチャート1位および10位の再生回数推移ですが、2019年度初週と比較した最新9月21日公開分(9月26日付)の1位における伸び率が500.7%に対し、10位は677.3%。ここ数週はAdo「新時代」が1千万回再生を突破していますが、仮に『ウタの歌 ONE PIECE FILM RED』関連曲がなければ1位の伸び率はさらに小さくなっていると考えられます。

おそらくはサブスクユーザーの拡大により、聴く曲の多様化につながったとみていいでしょう。全体が底上げされることでストリーミング上位曲が以前に比べて上位キープできにくくなっていることが、近年の曲がロングヒットしにくくなっている要因のひとつとして挙げられます。

 

ストリーミングを深掘りしてみましょう。最新9月22日公開分までのSpotify週間再生回数チャートをみると、200位以内に入っている作品はAimerさんが40位の「残響散歌」を含む3曲(コラボ作含む)、King Gnuが74位の「一途」を含む5曲、YOASOBIが38位の「夜に駆ける」を含む7曲(2名が個別名義で参加した曲は除く)、優里さんが25位の「ドライフラワー」を含む7曲となり、曲数および順位の面でも差が生じています。

また、期間は異なりますが9月12~18日を集計期間とするビルボードジャパンのStreaming Songsチャート(Spotifyを含む)では、100位以内に入っている作品はAimerさんが31位の「残響散歌」1曲のみ、King Gnuが72位の「一途」を含む5曲、YOASOBIが27位の「夜に駆ける」を含む4曲、優里さんが22位の「ドライフラワー」を含む5曲となっています。

King Gnuは「一途」のデジタルリリースの後、「逆夢」「カメレオン」「雨燦々」と連続リリースしたことが功を奏しています。そして優里さんにおいては「ドライフラワー」のほか、関連曲である「おにごっこ」が最新週にて初登場を果たしています。

優里さんサイドは「ドライフラワー」とつながった作品群を”優里の繋がる物語”として各サブスクサービスでプレイリスト化しています。このように大ヒット曲と関連する作品をリリースすることで、優里さんにおいては新曲「おにごっこ」の再生回数上昇のみならず既存曲の安定および再浮上につなげることも可能でしょう。ゆえに「おにごっこ」の勢いは「ドライフラワー」にも波及するものと考えられます。

加えて、優里さんは「ドライフラワー」が、YOASOBIは「夜に駆ける」が最初のブレイク曲であり、新曲等リリース時にそれらブレイク曲がフックアップされる流れも生まれているものと考えます。新曲リリースは既存曲にも少なからず影響を及ぼすことが、サブスク再生回数やビルボードジャパンソングスチャートにおけるポイントの推移から判っているため、新曲はブレイク曲に関連がないとしても影響を与えると言えます。

 

さらにはYOASOBI「夜に駆ける」、優里「ドライフラワー」ともにノンタイアップ曲であることもポイントでしょう。これはタイアップ先の人気に左右されないことを示しています。無論タイアップがつきその作品が大ヒットすることで曲も関連してヒットすることもあり、『鬼滅の刃 遊郭編』のAimer「残響散歌」や『劇場版 呪術廻戦 0』のKing Gnu「一途」はまさにその典型ですが、一方では作品終了後の反動も招きかねません。

YOASOBIやBUMP OF CHICKEN、そして『チェンソーマン』における米津玄師さん等、今秋開始のテレビアニメ担当歌手の豪華さは音楽フェス的も形容されています。アニメソングはヒットが確約されやすい環境にあるとして、一方で特に年間ソングスチャート進出に大事なのがアニメ終了後の曲の人気継続です。そのためには歌手自体のチャート面での人気上昇が図られなければならないでしょう。ゆえに歌手側の施策は必須です。

 

 

他にも様々な要因があると考えられますが、【カラオケ人気の差】【サブスクサービス利用者の拡大とストリーミング下位曲の再生回数底上げ】【歌手の認知度を押し上げたブレイク曲かどうか】【タイアップの有無】が、今回取り上げた2020年度以降のヒット曲における勢いの差に表れているとして取り上げました。2022年度終了まであと10週(予定)であり、「残響散歌」や「一途」がこのまま逃げ切ることができるか注目です。