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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

【ビルボードコラム】ソングスチャート構成指標のひとつ、動画再生指標の3つの特徴と3つの改善案

月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。

2回続けてソングスチャートを構成する指標について取り上げましたが、そのラジオおよびTwitterは前週発表分(9月8日公開(9月13日付))にてウェイト変更(チャートポリシー変更)の措置が採られました。

ラジオにおけるウェイトの増減は不明ながら、Twitterはルックアップ共々ウェイト減少した模様であり、個人的にはこの変更を歓迎します。一方、他にも変更すべき指標があると捉えており、フィジカルセールス指標については前週提案したばかりです。

では今回、動画再生指標について取り上げます。

 

 

動画再生指標がビルボードジャパンソングスに組み込まれたのは2015年度の下半期。YouTubeの再生回数が当該指標の基となり、同時にプチリリの歌詞表示回数から推定されたストリーミング数がストリーミング指標としてカウントされるようになりました。

現在は動画再生指標にGYAO!が、ストリーミング指標にはSpotify等各種デジタルプラットフォームをはじめYouTubeのオーディオストリーミングも含まれています。

この動画再生指標について、今年度の推移をみると総合チャートとの順位に近いという接触指標ならではの特徴を持っていることが解ります。つまりは社会的ヒットの鑑に近い指標なのですが、一方で改善点も少なくありません。そこで3つの特徴を記すと共に、項目毎に改善提案を記していきます。

 

 

ビルボードジャパンソングスチャート、2021年度における第1~第4四半期の状況を下記に。なお、毎週の動画再生指標上位20曲はCHART insightで確認可能です→こちら。表における色付けの内容は後述します。

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最新9月8日公開(9月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは動画再生指標トップ10のうち6曲が総合でも10位以内に、8曲が総合20位以内に登場しており、他指標に比べて総合チャートとの乖離は少ない方と言えます。最上位は固定される傾向がありますが、オーディション企画から登場したBE:FIRST「Shining One」の強さがここ最近は際立っています。

 

この動画再生指標の特徴、総合チャートとの乖離の少なさ以外では以下の3点が挙げられるものと考えます。

動画再生指標の特徴

それでは項目毎にみていきましょう。

 

 

① THE FIRST TAKEの影響が大きい

先程の表による色付けのうち、緑が集計期間中にTHE FIRST TAKEが公開された曲、黄緑が集計期間の前週にTHE FIRST TAKEが公開された曲を指します。

最新9月8日公開(9月13日付)では、9月3日に公開されたポルノグラフィティ「サウタージ」が10位に登場。動画の登場から集計期間終了までわずか2日と2時間ながら、大きな飛躍を遂げました。その他、先ごろストリーミング1億回再生を突破したDa-iCECITRUS」等、THE FIRST TAKE動画によって動画再生指標のみならず総合チャートでもより強い存在感を示すようになった曲は少なくありません。

THE FIRST TAKEがチャートにおいても、そして日本の音楽業界においても、なくてはならないコンテンツになっていることがよく解ります

 

一方で気になるのは、DISH//「猫」およびアイナ・ジ・エンド「オーケストラ」以外は動画再生指標において"THE FIRST TAKE"の表記がないこと。そのためTHE FIRST TAKEバージョンがオリジナルバージョンと合算されているだろうと推測されるのですが、言語のみが異なる曲以外のバージョン違いを合算しないというビルボードジャパンのポリシーに矛盾することになるのです。この問題は以前から指摘しています。

特にこの合算しない例が顕著に出たのはDISH//の大ブレイクにつながった「猫」でした。その旨はDISH//「猫」は合算ならば上半期トップ10級のヒットに…ビルボードジャパンに合算基準の明確化を求める(6月5日付)で記載し、上記9月4日公開のブログエントリーであらためて紹介しています。

(先程の表による色付けのうち、黄色はDISH//「猫 ~THE FIRST TAKE ver.~」を指し、後述する表においては「猫」のオリジナルバージョンをオレンジで示しています。)

合算/非合算の問題に関連して、「猫」のTHE FIRST TAKEバージョンにおいては動画再生指標が一時途切れるという事態も発生しています。

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上記は2つのバージョンの直近60週におけるCHART insight。これを総合(黒の折れ線で表示)および動画再生(赤)に絞って表示すると。

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「猫」のTHE FIRST TAKEバージョンにおける動画再生指標が途切れたのは昨年8月19日~9月30日公開分。その間、オリジナルバージョンにおける動画再生指標では大きな山が築かれており、一時的に動画再生のポイントがオリジナルバージョンに集約されていることが容易に想像できます。

動画再生指標の加算対象となるのは、国際標準レコーディングコード(ISRC)を付番した動画であり、動画投稿後でも付番が(またおそらくは修正も)可能となります。おそらくほとんどのTHE FIRST TAKE動画にはオリジナルバージョンの動画が付番され、先述の「猫」においてはTHE FIRST TAKEのISRCが一時的にオリジナルバージョンのそれに替わっていた可能性が考えられます。

 

たとえばTHE FIRST TAKEの運営側が、動画再生指標上昇を目的にオリジナルバージョンのISRCをTHE FIRST TAKE動画にも適用したならば問題です。また「猫」オリジナルバージョンにおける動画再生指標加算対象の下記動画も厳密には音源の異なるライブバージョンであり、その動画にオリジナルバージョンのISRCを付番することも本来は正しくありません。

(上記動画の概要欄には、この動画の音楽欄に「Neko」とクレジットされていますが、オリジナルバージョンやライブバージョンの別は記されていません。)

今月上旬のブログエントリーでの結論と同じ内容を繰り返しますが、ビルボードジャパンはソングスチャートにおけるリミックス等のバージョン違いを合算するよう、チャートポリシー変更を願います。合算しない旨を続けるならば、THE FIRST TAKEを合算する/しないについて、DISH//「猫」がチャート上で大きく損をした件について説明を尽くしてほしいとも願います。そして合算したほうが、圧倒的に楽だと思うのです。

 

 

ジャニーズ事務所所属歌手の登場が少なくない

先程の表による色付けのうち、水色がジャニーズ事務所所属歌手の曲を指します。

嵐等の一部歌手を除いては未だデジタルにおいて前向きになれていないながら、ジャニーズ事務所所属歌手が動画再生指標で上位に進出する傾向が強まっています。特に7月21日公開分においてはSnow Manが3曲、SixTONESが2曲を同時に送り込んでいますが、それぞれの最新シングルのカップリング曲にも何かしらの動画を用意し、きちんと成果を挙げていることが解ります。

直近でCDデビューを果たした2組はそれぞれ公式YouTubeチャンネルを持ち、YouTubeでの活動を積極的に行うことで動画への待望度が他のジャニーズ事務所所属歌手より高いだろうことが伺えます。またカップリング曲も投稿の度にチャートインする状況からは、コアなファンの視聴回数の多さが伺えます。

他方で「HELLO HELLO」も「マスカラ」も、下降のスピードが速いと言えます。そもそもデジタルに明るくないジャニーズ事務所所属歌手の曲をYouTubeで聴くという傾向がライト層では高くない、コアなファンがフィジカルリリース後に動画視聴先を同梱映像盤へ移行する、そして動画には明るくなりながらも未だショートバージョンがほとんどであり信頼を勝ち得ていない...これら3つの可能性が影響していると言えるでしょう。

ジャニーズ事務所所属歌手、そして上層部は時代に迎合しようとの動きを示しつつ、未だフィジカルセールス主体という姿勢を続けているように思います。数は多くないながらデジタルでリリースした曲の検証を実施し、ダウンロードやサブスク、およびミュージックビデオのフルバージョンでの公開といったデジタル全面解禁に移行するべきだと強く願います。これは過去の作品群についても同様です。

 

 

③ ネットでのバズが時折登場

ジャニーズ事務所から今年登場した公式YouTubeチャンネル、ジャにのちゃんねるでも取り上げられたのがP丸様。「シル・ヴ・プレジデント」でした。

先程の表による色付けのうち、赤がP丸様。「シル・ヴ・プレジデント」を指します。

この春からブレイク傾向にあった「シル・ヴ・プレジデント」は5月初旬にTikTok週間楽曲ランキングを制すと*1、メディアでも取り上げられる等により動画再生指標でも人気が継続。最新9月8日公開(9月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標では19位にランクインしています。

一方、ビルボードジャパンソングスチャートにおいてP丸様。「シル・ヴ・プレジデント」は一度も総合50位以内に達していません。

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P丸様。「シル・ヴ・プレジデント」においては、TikTokYouTubeでは手の振りが特徴的な"踊ってみた"動画が多くアップされています*2。他にも人気の曲には"歌ってみた"動画も多く登場していますが、しかしながらこれらUGC(ユーザー生成コンテンツ)は昨年度を最後に動画再生指標の集計対象から外れました。これは米ビルボードと同様の措置となります。

 

UGCは動画再生指標からは外れながら、チャートへの影響が大きいとして独自のチャート(Top User Generated Songsチャート。以下UGCチャート)が今年度初週に設けられました。ネットのバズを可視化することがUGCチャートの目的ですが、一方ではUGCを動画再生指標から外したことでネットのバズが総合ソングスチャートに反映されにくくなったのではとも考えられるのです。

では、UGCチャートの上位曲の推移をみていきます。

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UGCチャートで色付けしたのはKanaria「KING」、Chinozo「グッバイ宣言」そしてSHAWN「Way Back Home」。特に「KING」および「グッバイ宣言」は長期エントリーを果たしながらも、ビルボードジャパンソングスチャートでは今年度一度として50位以内に入っていません。とりわけ「KING」はUGCチャートが新設されて以降常時3位以内に入っているにも関わらず、なのです。

Chinozo「グッバイ宣言」はCHART insightで確認することができませんが*3、Kanaria「KING」は確認可能。そして「KING」でははっきりと、UGCが外れたことによる効果が出ています。

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UGCが動画再生指標から外れた2021年度初週、Kanaria「KING」の動画再生指標は4→70位へ急落しています。その後一旦は持ち直すものの、2020年12月30日公開(2021年1月4日付)以降は動画再生指標が1週を除いて100位未満(300位圏内)にとどまってしまうのです。

Kanaria「KING」は今年度上半期のUGCチャートを制し、人気は継続しています。カラオケの上昇も相俟って昨年度最終週には総合チャートで42位に至ったものの、今年度は一度も100位以内に入っていません。仮にUGCが動画再生指標から除外されなかったならば「KING」も、また上半期UGCチャート5位且つ上半期TikTok楽曲ランキング制覇のChinozo「グッバイ宣言」も、総合チャートで存在感を示したはずです。

UGCが動画再生指標から外れたことによる影響はKanaria「KING」にとどまりません。昨年度第4四半期の動画再生指標チャートをみれば、ピンクで色付けしたUGCを主として上昇した曲が今年度に入り軒並み順位を落としていることが解ります。その中のひとつがSHAWN「Way Back Home」であり、動画再生指標は急落しています。

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UGCが動画再生指標から外れたことで当該指標を大きく落とす理由としては、① オリジナル動画にUGCが付番されていない、② UGCからオリジナル動画へと遷移されにくい、③ 視聴者がUGCからオリジナル動画へ遷移する意欲が高くない、という3つの可能性が考えられます

②においては、TikTokInstagramのストーリー機能において有名曲が用いられながらも曲名がきちんとクレジットされていない動画が散見されます。一部投稿者の曲に対する対応に疑問を抱くのみならず、オリジナル曲の動画へ遷移しにくい状況が生まれるのは機会損失であると強く感じます。

投稿者が意識を高めることを望むと共に、オリジナル曲の歌手は動画にISRCが付番されているかを今一度確認する必要があるとも考えます。また、オリジナルバージョンの動画の訴求自体を徹底することも必要です。これらにおいては、ネットでバズが起きた曲をより高みへ到達させ得るような第三者によるサービスがあると良いかもしれません。

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サービスの必要性は、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』がヒットしたことで注目を集めるVarious Artists名義の「うまぴょい伝説」においても強く感じています。ダウンロード指標は7週連続で20位以内に入りながら、動画再生指標は一度として100位以内に入っていません。公式動画が見当たりにくい状況は機会損失が大きいと考えます*4。下記は「うまぴょい伝説」の動画再生指標のみを抽出したものとなります。

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UGC、そしてオリジナルバージョンの投稿者による意識の改善が必要と考えますがそれと同時に、UGCが動画再生指標から外れたことを機にチャートを大きく下げた曲があることを把握し、TikTok人気や『ウマ娘…』のようなヒット作品と総合チャートとの乖離が大きく起きている可能性を検証の上、ビルボードジャパンはソングスチャートにおける動画再生指標のウェイトを上げることを視野に入れる必要があると提案します

動画再生指標のウェイト上昇案については、前週のビルボードコラムでも記載しています(→こちら)。ビルボードジャパンは最新ソングスチャートにおいてTwitter指標のウェイト減少を行っており、指標自体を除外することはおそらく視野に入れていないかもしれません。ならば、総合チャートと乖離の少ない動画再生指標のウェイトを見直し、UGCばかりに強い曲も拾い上げる策を講じる必要があるのではないでしょうか

 

 

以上が動画再生指標の3つの特徴および改善案となります。ビルボードジャパンは2022年度初週にチャートポリシー変更を行う可能性が高いだろうと考えます。今回提示した案がチャートポリシー変更の議論に至るきっかけとなるならば幸いです。

*1:【TikTok週間楽曲ランキング】P丸様。「シル・ヴ・プレジデント」初の首位獲得 TWICE「Kura Kura」など初登場 | Daily News | Billboard JAPAN(5月14日付)参照。

*2:それでも「シル・ヴ・プレジデント」はTop User Generated Songsチャートにおいて3週のチャートインにとどまっているのですが。

*3:無料会員は総合および各指標20位以内に入った曲をCHART insightから確認可能。

*4:該当する公式動画が見当たらなかったため、今回のブログエントリーにおいては「うまぴょい伝説」の動画を貼付しておりません。