月曜は不定期で、日米およびグローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。これまではソングスチャートにおける各指標の解説、日米ビルボードに対するチャートポリシー変更希望、ビルボードジャパンの知名度向上案やグローバルチャートにJ-Popを轟かせる方法、チャートを踏まえた『NHK紅白歌合戦』出場予想や希望等を記しました。ビルボードコラムは下記リンク先からご確認ください。
前回はソングスチャートの変革理由について記載しました。変革の結果、社会的にヒットしている曲がチャートも制するようになることで、ソングスチャートが社会的ヒットの鑑に成ったと証明できるものと考えています。そこで今回から不定期で、その鑑たる曲を採り上げます。第1回目はマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」です。
元々は1994年のアルバム『Merry Christmas』に収録、日本ではドラマ『29歳のクリスマス』(フジテレビ)主題歌としてシングル化されミリオンセールスを記録したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You (邦題:恋人たちのクリスマス)」は、そのリリース当時からヒット曲として印象付けられていることでしょう。しかし米ビルボードソングスチャートでは当時ランクインしていません。
1994年当時、米ビルボードソングスチャートはフィジカルセールスとラジオの2指標で構成。「All I Want For Christmas Is You」はラジオで12位を記録していましたが、当時のチャートポリシー(チャート集計方法)では、フィジカルリリースされていない曲は総合ソングスチャートにランクインできませんでした。
たとえばグー・グー・ドールズ「Iris」は1998年度で最もラジオヒットした曲ですが、同年度までの米ビルボードソングスチャートには入っていません。これは敢えてフィジカル化しないことでアルバムを購入してもらおうというレコード会社の思惑によるものでしたが、米ビルボードは総合ソングスチャートと実際のヒット曲との乖離を踏まえ、未フィジカル化曲もチャートインできる仕組みにチャートポリシーを変更しています。
そのチャートポリシー変更が反映された、1999年度初週となる1998年12月5日付米ビルボードソングスチャート(→こちら)では前年度のラジオヒットが大挙初登場。先述したグー・グー・ドールズ「Iris」は9位に入っています。所有(フィジカルセールス)以上に接触(ラジオ)を重視する姿勢は、ともすれば前回のビルボードコラムで紹介した米ビルボードのチャート設計思想の一環かもしれません。
マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」に話を戻すと、この曲が米ビルボードソングスチャートで初登場を果たしたのは2000年1月8日付(→こちら)での83位。そこからデジタルダウンロード、YouTubeそしてサブスクサービスが興隆することにより、季節を彩る曲はそのリリースが大分前のものであったとしても毎年のように大きく伸びるという傾向が強まっていきます。
特に現在、音楽業界において大きな影響を誇るのがストリーミング*1。「All I Want For Christmas Is You」は2017年12月30日付米ビルボードソングスチャート(→こちら)で9位となり、通算22週目の登場にして初のトップ10入りを果たします。その際の指標構成はストリーミング7位、ダウンロード13位、ラジオ36位となっており、ストリーミングの強さが目立っています。
そして2018年のクリスマス時期には総合3位に到達しましたが(2019年1月5日付(→こちら)米ビルボードソングスチャート参照)、その際「All I Want For Christmas Is You」はクリスマスソングで初となるストリーミング指標を制覇。米ビルボードではアルバムチャートにもストリーミング指標が存在しますが、その影響により『Merry Christmas』は同日付で8位に上昇し、24年ぶりにトップ10に返り咲きを果たしているのです。
主にストリーミングを味方につけたクリスマスソング。マライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」は2019年のクリスマスシーズン、遂に首位の座を射止めます。
We did it 😭❤️🐑🎄🦋 https://t.co/Cp80uhYdI9
— Mariah Carey (@MariahCarey) 2019年12月16日
クリスマスソングが米ビルボードソングスチャートを制したのはチップマンクス with デヴィッド・セヴィル「The Chipmunk Song」が1958年から翌年にかけて4週間首位を獲得して以来2曲目。2019年12月21日付米ビルボードソングスチャート(→こちら)では構成3指標中、ストリーミングおよびダウンロード指標を制しています(なおダウンロードにおいては、ホームページでシングルCDをリリースしたことも影響しています)。
2019年は『Merry Christmas』ならびに「All I Want For Christmas Is You」がリリースされてから25年という節目の年であり、マライア・キャリーはアルバムの新装盤リリースを含め、様々な施策を実施。特設サイトにおけるアドベントカレンダーや、その一環としての東京ドーム公演映像の公開に代表されるこれら施策は実際にチャートへ寄与しており、施策が重要であることを示すひとつの例と言えるでしょう。
マライア・キャリー、クリスマスまでカウントダウンする特設サイト公開 https://t.co/95cl2w2fol #MariahCarey pic.twitter.com/nJk6WZAneO
— Billboard JAPAN 洋楽 (@BillboardJP_INT) 2019年12月3日
ここ数年、マライア・キャリーはクリスマス色を強めている印象があります。たとえばハロウィン終了からクリスマスシーズン到来(10月31日~11月1日)にかけてのリアクション動画の投稿はここ数年の風物詩に。
Breaking news ❄️ pic.twitter.com/PBwOYLRpJK
— Mariah Carey (@MariahCarey) 2019年11月1日
Guess what? ❄️ pic.twitter.com/2IUNkCOyCz
— Mariah Carey (@MariahCarey) 2020年11月1日
Ready? Let’s go! 🎃➡️🎄#MariahSZN pic.twitter.com/cEaFrRBHwJ
— Mariah Carey (@MariahCarey) 2021年11月1日
最近では自身のクリスマスソングもアップデート。昨年は『Merry Christmas II You』(2010)収録の「Oh Santa!」にアリアナ・グランデとジェニファー・ハドソンをフィーチャーしたバージョンが公開され、今年はカリードおよびカーク・フランクリンが参加した新曲「Fall In Love At Christmas」がリリースされています。
現時点での最高位は、「Oh Santa!」の新バージョンが米ビルボードソングスチャートで76位に達した一方で「Fall In Love At Christmas」は100位以内に到達していませんが、ともすればこれらの作品を聴いた方が以前の大ヒット曲を想起するかもしれず、マライア・キャリーは新曲等のリリースにより「All I Want For Christmas Is You」のチャートヒットをより盤石のものとするという戦略を実行しているのかもしれません。
事実、「All I Want For Christmas Is You」は2019年のクリスマスシーズンに3週連続、2020年には通算2週首位を獲得しています。そして直近で首位を記録した2021年1月2日付においてはストリーミングが5490万を獲得し同指標を制覇。この数字は今年度においてはオリヴィア・ロドリゴ「Drivers License」の1・2週目、BTS「Butter」の初週、およびドレイク feat. フューチャー & ヤング・サグ「Way 2 Sexy」の初週に次ぐ高さとなり、「Drivers License」の2週目を除けばすべて初登場時の数字なのです。ゆえに「All I Want For Christmas Is You」の駆け上がり方が如何に特筆すべきか、そしてクリスマスソングがストリーミングを味方にしているかがよく解るのではないでしょうか。
.@MariahCarey's "All I Want For Christmas Is You" tops Billboard's Greatest of All Time #Holiday100Songs chart. 🎄🌟
— billboard (@billboard) 2021年11月18日
More details on Billboard's Greatest of All Time Holiday Charts here: https://t.co/RDil6hyMoW pic.twitter.com/B6RCdwzhBq
米ビルボードはHoliday 100というクリスマスソングに限定したチャートを2011年12月10日付から開始(Holiday 100はこちら)。そのソングスチャートで初週を制したマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」は、昨シーズンまでの通算50週常時ランクインし、そのうち45週もの間首位に立っています。それゆえ、Greatest of All Time Holiday 100ソングスチャートで首位を獲得するのは当然と言えます。
上記はGreatest of All Time Holiday 100 Songs – Billboard(日本時間11月22日7時44分現在の状況)より。そしてクリスマスソングが大挙ランクインした2020年のクリスマスシーズン(2021年1月2日付米ビルボードソングスチャート(→こちら))のトップ10をみれば、如何にクリスマスソングがチャートポリシー変更を経て上昇に至り、総合ソングスチャートで寡占を果たすようになったのかがよく解るのです。
日本でもクリスマスソングは上昇傾向にあります。back number「クリスマスソング」は昨年のクリスマスシーズンにビルボードジャパンソングスチャートで最高13位を記録し(2020年12月30日付はこちら)、今年も最新チャートで47位に達しているのですが、それを支えるのがカラオケのほか動画再生やストリーミング(下記CHART insightにおいて順に緑、赤、青で表示)であり、つまり接触指標群がチャート上昇を支えています。
ビルボードジャパンにおいてもチャートポリシー変更がその都度行われ、ライト層の支持を長く集める曲がよりヒットする傾向が高まっています。「クリスマスソング」はまさにその変革も結果に表れたと言えるでしょう。そしてマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」も2020年12月30日付ビルボードジャパンソングスチャートでは28位に上昇し、日本でも存在感を示しています。
日本時間で明日発表される11月27日付米ビルボードソングスチャートにてマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が再登場を果たし、そして今年も駆け上がっていく可能性は高いでしょう。チャート変革によって季節を彩る曲、その時期よく耳にする曲がきちんとチャートに反映された結果の賜物が、「All I Want For Christmas Is You」の米ビルボードソングスチャート首位獲得なのです。