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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

竹内まりや「プラスティック・ラブ」が遂に100位以内到達…なぜ今までランクインしなかったのか

最新11月10日公開(11月15日付)ビルボードジャパンソングスチャート(→こちら)では82位に竹内まりや「プラスティック・ラブ」が登場。1984年にリリースされた曲が、2008年にはじまったビルボードジャパンソングスチャートでは初めて100位以内に到達しました。

(上記動画はショートバージョンとなります。)

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(上記チャート推移(CHART insight)は直近120週分となります。)

 

今回の100位以内到達は、5位に入ったフィジカルセールス指標の影響が大きい一方でルックアップ指標は300位にも入っていません。というのも今回、「プラスティック・ラブ」はレコードでリリースされています。

36年ぶりに12インチ・シングルが再販された竹内まりやの『PLASTIC LOVE』(11,633枚)が5位に登場。

ルックアップ指標はパソコン等にCDを取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスされる数を指すため、レコードにおいてはこの指標が生まれないことになります。

 

 

それにしても、今回初めて100位に登場したのは意外と思われるかもしれません。というのも、2010年代後半になって「プラスティック・ラブ」はシティ・ポップのムーブメントを代表する曲として世界で知られるようになり、日本にも波及しているのです。下記は音楽ジャーナリストの柴那典さんによる2019年の記事。

特に昨年から今年にかけて海外で大きなバズを起こしたのが、アルバム『Variety』に収録された竹内まりやの代表曲「Plastic Love」だ。

その人気はGoogle Trendによるアーティスト名の検索数の推移でも裏付けられる。「Mariya Takeuchi」の検索回数の推移を調べると(6月15日現在)、2016年までは極めて少なかった検索数が、2017年夏から徐々に上昇して昨年8月にピークに達し、その後は一度落ち着きを見せるも、今年春から再び上昇を見せている。検索されている地域のTOP5は韓国、フィリピン、香港、シンガポールインドネシア。関連キーワードには「Plastic Love」と表示される。

(引用箇所は2ページ目に記載されています。)

このような記事が登場し、話題になると尚の事音楽チャートに反映されていくのですが、「プラスティック・ラブ」は2019年のビルボードジャパンソングスチャートでは一度も300位以内に入っていません。一方で3年前、ラジオ指標が急伸した時期があります。

総合および各指標の順位は上記CHART insight(チャート推移)から確認できます。2018年11月25日のデビュー40周年に合わせて映画『souvenir the movie ~MARIYA TAKEUCHI Theater Live~』が公開されており、予告編でも流れている「プラスティック・ラブ」が話題になったものと思われます。もしくは映画を宣伝する際、この曲がメインに用いられたのかもしれません。

しかしそれでも、「プラスティック・ラブ」がビルボードジャパンソングスチャートで100位以内に登場するのは、フィジカルセールスが加算される最新週まで待たないといけなかったわけです。この理由は、柴那典さんによる別の記事からみえてきます。

――2020年には竹内まりやさんの楽曲もストリーミングで配信されるようになりましたし、少しずつ海外のシティ・ポップのファンの間で人気になっている曲の配信が解禁されていっているように思います。

Night Tempo:そうですね。みんなが聴けるようになってきていると思います。秋元薫さんの「Dress Down」や大貫妙子さんの「4:00A.M.」も配信が解禁になった。でも、まだ解禁されていない曲も多いんですよ。

(引用箇所は7ページ目に記載されています。)

2年前の記事でも登場したNight Tempoさんは、当時のシティ・ポップの中で未だデジタル解禁されていない作品が多いと述べています。そしてインタビューした柴那典さんの言葉にもあるように、竹内まりや「プラスティック・ラブ」のサブスク配信は、収録されたベストアルバム『Expressions』が2020年12月11日に解禁されるまで待たなければならなかったのです*1

 

11月12日5時の段階で、Spotifyにおいて「プラスティック・ラブ」は『Expressions』収録版が1750万回以上再生されています。しかしこの再生回数は、世界的に注目を集めた曲としては少ないと言わざるを得ないでしょう。

Spotifyの日本上陸5周年を記念して各種チャートが今週発表され、【1億再生を突破した日本のアーティストの楽曲】として19曲が紹介されています。この中にはTK from 凛として時雨「unravel」やTeriyaki Boyz「Tokyo Drift (Fast & Furious)」といった海外で人気の曲も入っているのですが、仮に「プラスティック・ラブ」が早々にサブスク配信を開始していたならば、Spotifyだけでも1億回再生を突破したことでしょう。

さらに、シティ・ポップムーブメントにおいてはオリジナルアルバム経由で聴く(もしくは中古盤をディグする)傾向があるはずです。「プラスティック・ラブ」が収録されたオリジナルアルバム『VARIETY』(1984)はレコードでの復刻同様11月3日に配信されたばかりであり*2、可能性は高くないかもしれませんがベストアルバム収録に気付かず聴き逃がすということも考えられます。

 

 

音へのこだわり等を理由に解禁を遅らせる、もしくは解禁自体しないという歌手側の理由を理解できないわけではありませんが、至極勿体ないというのが正直な私見です。収録されたオリジナルアルバムがサブスクで解禁されたにも関わらず、「プラスティック・ラブ」は最新ソングスチャートでストリーミング指標が未加算なのは気付かれていない証拠と言えるかもしれません。

「Dreams」のミュージックビデオや、同曲が収められた名盤の誉れ高き『Rumors』(1977)のサブスク解禁等はきちんと成されています。つまりはTikTokの人気がデジタルの増加につながり、そのデジタル環境を整えていることがリバイバルヒットにつながっているわけです。

(中略)

仮に、このような日本の音楽業界の下で今回のフリートウッド・マック「Dreams」のようなバズが発生した際、リバイバルヒットのうねりがより大きくなりはしないのではという強い疑問を覚えるのです。至極単純に、”解禁していないんだ…”という印象を抱かせイメージを悪化させかねない点においても、未解禁は勿体無いと思わざるを得ません。

フリートウッド・マック「Dreams」はTikTokのムーブメントに乗り、米ビルボードソングスチャートで昨年秋に12位まで上昇しています*3。これはデジタル環境を既に整備しるからこそ、TikTokのバズがきちんと移ったと言えます。

一方で竹内まりや「プラスティック・ラブ」はYouTubeにおいても、これまで公開されていたミュージックビデオ(2019年制作)はショートバージョンに限定。公式オーディオもなく、またショートバージョンは検索の最上位に登場していませんでした。

 

それが今日になって、「プラスティック・ラブ」ミュージックビデオのフルバージョンが公開されています。曲名を日本語/英語の双方で検索すると最上位にこのフルバージョンが登場することも含めて、安堵しています。

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しかしながら動画概要欄にある”遂に公開!”や”満を持してのフル・サイズ公開”には引っ掛かりを覚えます。既に海外の方々からのコメントが散見され、待ち望んだ方が多かったことがうかがえます。長きに渡る機会損失と言っていい状況を踏まえれば、ユーザー(リスナー)の心情を察するに”ようやく…”というのが正しい解釈と言えるでしょう。

 

 

竹内まりやさんに限らず、またシティ・ポップ関連曲にとどまらず、過去作品のデジタルアーカイブを徹底させ、ムーブメントやバズの発生時に機会損失を招かないことが必要です。海外の音楽ファンが日本の音楽に触れたくても触れられない、もしくは触れたとしても十分な解禁状況ではないため不満を抱かせかねない事態の発生は、世界からの日本の音楽に対する失望につながると言っても過言ではないでしょう。

*1:詳細はベストアルバム『Expressions』のサブスク配信が決定しました! | 竹内まりや | Warner Music Japan(2020年11月26日付)をご参照ください。

*2:竹内まりや「VARIETY」明日よりサブスク解禁決定! | 竹内まりや | Warner Music Japan(11月2日付)参照。

*3:2020年10月24日付米ビルボードソングスチャートで記録。同日付チャートはこちら