月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いています。これまではビルボードジャパンソングスチャートにおける各指標の解説、日米ビルボードに対するチャートポリシー変更希望、ビルボードジャパンの知名度向上案やグローバルチャートにJ-Popを轟かせる方法、チャートを踏まえた『NHK紅白歌合戦』出場予想や希望等を記しました。ビルボードコラムは下記リンク先からご確認ください。
今回はビルボードジャパンアルバムチャートについての提案です。
今回の記載は、ビルボードジャパンアルバムチャートがソングスチャートほど社会的ヒットの鑑になっていないのではという疑問を以前から持ち合わせていたこと、そしてブログ【Billion Hits!】(リンク先はこちら)の管理人であるあささんとのTwitter上でのやり取りを機にその点についてあらためて考えたことがきっかけとなっています。
「もはやアルバム売上はコアファンによるアーティスト人気の濃度を計る指標に変化しており、作品人気量を計る指標としての機能性はほとんど消失している。」
— あさ (@musicnever_die) 2021年10月1日
「今後のヒットシーンは楽曲単位でのヒットを重視して追うことが必要となっている。」https://t.co/uCIVNBf1LF
仮にビルボードジャパン(@Billboard_JAPAN)が米ビルボード同様に、ストリーミング再生回数のアルバム換算分および単曲ダウンロードのアルバム換算分を加味したユニット単位でのアルバムチャートに変革したならば、#YOASOBI『#THEBOOK』は最上位に進出した可能性が十分ありそうですね。 https://t.co/mMJ02tDKTv
— Kei (@Kei_radio) 2021年10月1日
ビルボードジャパンアルバムチャートがより社会的ヒットの鑑になるには、米ビルボードアルバムチャートのように接触指標を加えたユニット単位でのアルバムチャートを採用することが必要ではないかと考えます。以下、新たなチャート案を米ビルボード方式として記載します。
まずは、現在のビルボードジャパンアルバムチャートを確認します。下記は最新10月20日公開(10月25日付)ビルボードジャパンアルバムチャートのCHART insightとなります。
アルバムチャートはフィジカルセールス、ダウンロードおよびルックアップという3つの指標で構成されています。フィジカルセールスはレコードの売上を含み、そのリリースに伴い再浮上する作品は少なくありません。
【ビルボード 2021 上半期総合アルバム・チャート“HOT ALBUMS”】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年6月3日
1位 SixTONES
2位 YOASOBI
3位 Mr.Children
4位 BTS
5位 宇多田ヒカル
6位 Hey! Say! JUMP
7位 ジャニーズWEST
8位 米津玄師
9位 Sexy Zone
10位 NCT 127https://t.co/ss1xnIN6Ax pic.twitter.com/vtqDPpaant
こちらは2021年度上半期のアルバムチャート。YOASOBIのEP『THE BOOK』がフィジカル限定リリースながらダウンロードおよびレンタルの高値安定により総合2位を獲得していますが、圧倒的なフィジカルセールスによりトップに立ったSixTONES『1ST』のみならず、Hey! Say! JUMPやジャニーズWEST、Sexy Zoneといったダウンロードやストリーミング未解禁の作品が上位に進出しています。
一方で、SixTONES『1ST』以外においてはアルバムチャートで勢いを保てないながらも上半期では上位に登場し、また『1ST』は圧倒的な売上で上半期を制しながらもアルバムリリース後に収録曲がソングスチャートで勢いを示すことはほぼありませんでした。現在のアルバムチャートは、特にフィジカルセールスに強い作品が中長期においても有利となり、またソングスチャートとのリンクが発生しづらい状況と言えます。
ジャニーズ事務所所属歌手のアルバムチャート推移は上記リンク先を、SixTONES『1ST』およびYOASOBI『THE BOOK』収録曲のソングスチャートにおける動向については下記リンク先をご参照ください。
ソングスチャートとは異なりデジタルの勢いが大きく反映しないこと、アルバムの勢いがソングスチャートにリンクしづらいこと…これらが現在のビルボードジャパンアルバムチャートにおける問題点と考えます。そしてこれらを解決するには、米ビルボード方式を採用することがひとつの案として有効ではないかと思うのです。
米ビルボードによるアルバムチャートはダウンロードやフィジカルといったセールスに加えて、単曲ダウンロードのアルバム換算分(以下TEA)、およびストリーミング(サブスクおよび動画)再生回数のアルバム換算分(以下SEA)で構成されます。この単曲ダウンロード、およびストリーミングのアルバム換算をビルボードジャパンでも採用できないかというのが今回の提案内容です。
ただその場合、指摘されかねない疑問がいくつか浮かんできます。そのひとつが、そもそも現在の米ビルボードアルバムチャート自体に問題があるということです。
ストリーミングのユニット換算(Streaming Equivalent Album。以下SEA)の計算方法は有料オーディオ配信が1250再生、広告支援オーディオ配信は3750再生をそれぞれ1ユニットとし、単曲ダウンロードのユニット換算(Track Equivalent Album。以下TEA)は10曲を1ユニットとしています。この状況で、アルバムの特定曲だけ集中して聴くもしくは買う人が多いならば、収録曲数が多いほうが有利と考えるのは自然なことでしょう。
計算式における分母が収録曲の多さ/少なさに関わらず同数であるため、収録曲数が多いほうがTEAやSEAも伸びやすい状況です。さらに米ではオリジナル版のリリース直後にデラックスエディションが連発される傾向にあるのですが、これはこのチャートシステムの特性を考慮した上での戦略と言えます。仮に米ビルボード方式をそのまま採用すれば、特に前者の問題が日本でも発生してしまいかねません。
収録曲数に応じて作品毎にユニット数の単位(分母)を変えること、デラックスエディションが登場した際はその増えた曲数で分母を決めるよう変更することを米ビルボードには強く求めます。
この、収録曲数に応じて作品毎にユニット数の単位(分母)を変えること、ならびにデラックスエディションが登場した際はその増えた曲数で分母を決めるよう変更することが採用されるならば、米ビルボードアルバムチャートにおける問題は大きく解消可能ではないかと考えます。そして米ビルボード方式をビルボードジャパンが採用する際には、あらかじめ作品毎に分母を変える方式を採る必要があります。
米ビルボードアルバムチャートのユニット換算方式をビルボードジャパンが採用する際に発生しかねない疑問の2つ目として、そもそもストリーミングという接触指標を採り入れていいのかということが挙げられます。
しかしながらビルボードジャパンアルバムチャートでは現段階において、ルックアップ指標が構成指標のひとつとして存在します。ルックアップとはCDをパソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースのGracenoteにアクセスする数を示し、購入者のみならずレンタルの取込も指します。つまり、ビルボードジャパンアルバムチャートは現段階で既に、所有指標のみならず接触指標も含まれているのです。
(付け加えるならば、現段階で既にユニット換算されているとも言えるのですが、そのユニット換算方式をより強化しようというのが今回の提案内容となります。)
そのレンタルについては店舗数の減少やそもそもレンタルという事業自体がどうなるかという疑問が拭えません。そしてレンタル環境の悪化も踏まえてレンタルからサブスクに接触行動を移行した(もしくは主軸に据えた)方も少なくないでしょう。ならばビルボードジャパンアルバムチャートに米ビルボード方式を採用してストリーミング再生回数のユニット換算を導入することに、異論はあまり生じないはずです。
浮かんでくる疑問の3つ目は、アルバムチャートを米ビルボードと同様の方式にした場合、これまでのチャートとどちらがより説得力を持つかについて。こちらについては、たとえば1年間という期限を設けてこれまでのチャートと米ビルボード方式との2本柱で発表するという方式を採ることを勧めます。
特にストリーミング再生回数のユニット換算を採用することで、ソングスチャートでロングヒットする曲を収録したアルバムも上位に進出しやすくなり、米ビルボード方式では現行のアルバムチャートに比べてロングヒット化しやすい状況が生まれます。現行のアルバムチャートと米ビルボード方式のどちらを好むかは分かれるでしょうが、リアクションのより好いほうを後にメインに据えるのは如何でしょう。
ただし重要なのは、どちらが優先するかについて必ず結論を出すことです。ビルボードジャパンの発足以前から長きに渡って音楽ランキングを発表してきたオリコンは、ビルボードジャパンの影響を受けてか後日合算ランキングを用意していますが、フィジカルのみのランキングとでどちらをメインに据えるかについては曖昧なままと言えます。信頼を勝ち得るためには、はっきりとした対応が必要だというのが私見です。
ビルボードジャパンがアルバムチャートにおいて米ビルボード方式を採用する場合、考え得る3つの疑問はこのように解消可能であると考えます。
ただ、米ビルボードにおける現在の計算方法は、米がフィジカル(特にCD)のリリースを行わなくなったことを踏まえた救済措置として採用したという側面もあるでしょう。ゆえに、仮にこの米ビルボード方式をビルボードジャパンがメインチャートに据えた場合、日本においてもフィジカルセールスが減るのではないかという懸念が拭えないことを記しておきます。
そしてもうひとつ。所有指標、特にフィジカルセールスに長けた作品の歌手側から批判が寄せられる可能性もあるでしょう。ただその点においてははっきりと、現代にあってはデジタルに深く寄り添う姿勢を持つべきである意見を述べさせていただきます。