一昨日のブログエントリーでは、ビルボードコラムと称してビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標について紹介し、ビルボードジャパンへの提案も行いました。
その中で、動画再生指標の特徴として最近のジャニーズ事務所所属歌手による曲のチャートインが増えていることを指摘し、デジタルの全面解禁を願うと記載しました。
本日のエントリーでは、これまでリリースしたジャニーズ事務所所属歌手(以下ジャニーズ)の曲のうちデジタルを解禁している作品を主体に特筆すべき動きを検証、分析した上で彼らのデジタル解禁の必要性をお伝えしたいと思います。リリース順に近い形で10項目、14曲を紹介します。
ジャニーズ作品のチャート分析
① 嵐「Turning Up」
※デジタル解禁曲はロングヒットする傾向
昨年活動休止した嵐は、2019年秋に積極的にデジタルへへ進出すると、ジャニーズ初となる配信限定シングルをリリース。その「Turning Up」は11週連続で総合トップ20入り、29週連続で100位以内ランクインを続け、フィジカル主体のジャニーズ関連曲の中でかなり息の長いヒットとなりました。R3HABによるリミックスも今年1月29日公開分(2月3日付)で総合14位に初登場を果たしています。
② 嵐「カイト」
※デジタル解禁がもたらす再浮上の機運
『NHK紅白歌合戦』での披露、フィジカルリリース、デジタル解禁そして東京オリンピック開催時という4度に渡って山を築いた「カイト」。NHK発の動画にISRCが付番されておらず動画再生指標を獲得できなかったり、フィジカルリリース時にデジタルを解禁しなかった問題はあれど、昨年末にデジタル解禁したことでオリンピック開催時の再浮上につながったのは間違いなく、また今夏はフィジカルセールスも伸びています。
③ 山下智久「CHANGE」および Kis-My-Ft2「Luv Bias」
※ダウンロードはフィジカルセールスを補完
(「CHANGE」は現在動画がYouTubeより削除されています。)
山下智久「CHANGE」はフィジカルリリースと同時に、レコチョク等一部デジタルプラットフォーム限定ながらダウンロードをフル尺で解禁したことによりダウンロード指標を獲得。同日フィジカルリリースとなったスピッツ「優しいあの子」を破り2019年6月26日付ビルボードジャパンソングスチャートを制しました。またフィジカル関連指標加算2週目におけるポイント前週比もジャニーズの曲の中で高くなっています。
TBS火曜22時枠のドラマ主題歌はチャートでも結果を残す作品が大半ながら、デジタルに明るくなければロングヒットには至れません。それでも『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』主題歌となったKis-My-Ft2「Luv Bias」はフィジカルリリース後、一部限定ながらデジタルプラットフォームでフル尺でのダウンロードを解禁し、順位の面で再浮上に至っています。
ドラマ主題歌という特性上、歌手のファン以外にもドラマを支持する方が購入したことも考えられます。無論iTunes Store等デジタルプラットフォーム全体に解禁すべきではありますが、一部限定でもチャート上での影響が小さくないことが解ります。
④ King & Prince「I promise」
※UGCチャートにランクイン
デジタル未解禁ですが興味深い動き。月曜のブログエントリーにてビルボードジャパンソングスチャートの動画再生指標を取り上げましたが、そこで紹介したTop User GeneratedソングスチャートにおいてKing & Princeがランクイン、それも複数回に渡り登場しています(Top User Generatedソングスチャートは以下、UGCチャートと記載)。
UGC(User Generated Contents)とは"歌ってみた"や"踊ってみた"に代表される動画であり、YouTube等にアップされたUGC動画数によるランキングがUGCチャート。このUGCからヒットした作品には瑛人「香水」等が挙げられ、ブレイクの大きな要素となるのです。
つまりKing & Princeの「I promise」をはじめとする作品群はUGCチャートに登場したことで、公式動画をはじめストリーミングやダウンロードにもより大きく波及した可能性が想像できるのです。デジタル解禁していればチャートアクションが面白くなっていたことでしょう。
⑤ SixTONES「うやむや」および Hey! Say! JUMP「群青ランナウェイ」
※ネット音楽との相性の良さ(によりネット音楽ファンを取り込める可能性)
デジタル未解禁ですが興味深い動きを2曲。ボーカロイド的アプローチのSixTONES「うやむや」はアルバム『1ST』通常盤に収録。非シングル化ながら動画再生やTwitter指標が牽引し総合チャート100位以内に登場しています。また「うやむや」は大型連休中に新たな動画が用意される等、『1ST』収録曲の関連動画がアルバムリリースの数ヶ月後に用意されたこともあり、アルバムがロングヒットに至っていることも注目です。
Hey! Say! JUMPは今年に入りネット音楽を積極的に採用。シングル「ネガティブファイター」はTikTok等で活躍するマルチクリエイターのうじたまいさんが提供し、続く「群青ランナウェイ」はNEEのくぅさんが手掛けていますが、このくぅさんはボカロPとしても活躍している方。動画再生は決して高いとは言えませんが、仮にデジタル解禁していればボーカロイド等ネット音楽ファンを取り込める可能性もあったことでしょう。
⑥ Snow Man「HELLO HELLO」および SixTONES「マスカラ」
※動画再生がストリーミングにも波及
デジタル未解禁ですが興味深い動きを2曲。Snow ManおよびSixTONESは自身のYouTubeチャンネルを所有し、カップリング曲も含め関連動画を複数アップする等により2曲とも動画再生指標が好調をキープしています。
昨年秋にはYouTube Musicのバックグラウンド再生がストリーミング指標に加算されるようにチャートポリシー変更が行われましたが、このストリーミング指標が2曲共に加算されているのです。サブスク未解禁曲でこの指標を獲得することは稀であり、動画再生の多さが影響していると言えます。仮にサブスクを先行解禁していれば、ストリーミング指標で高位置を維持した可能性も考えられます。
⑦ KAT-TUN「Roar」および「Flashback」
※フィジカルとデジタル同時解禁の重要性、カップリング曲の総合チャート登場
ジャニーズのフィジカルシングル表題曲ではじめて、フィジカルリリース日までにデジタル解禁且つミュージックビデオが用意された曲。ジャニーズの曲では珍しく2週連続トップ10入りを果たし、デジタル専用のカップリング曲である「Flashback」も総合100位以内にエントリーしています。
⑧ Sexy Zone「夏のハイドレンジア」
※リリックビデオおよびフル尺動画の貢献
デジタル未解禁ですが興味深い動き。ベストアルバムを挟んで今夏リリースされたSexy Zone「夏のハイドレンジア」は動画再生指標が安定しています。これはメンバー出演のドラマ主題歌ということもありますが、フィジカルリリース直前にリリックビデオを公開したことが影響していると言えそうです。ジャニーズの曲においてリリックビデオ自体も珍しい上、フルバージョンでの動画が注目を集めたと捉えています。
⑨ Kis-My-Ft2「A10TION」
※再生回数キャンペーンの(短期的ながら)有効性
ベストアルバムリリース日にをサブスクを同時解禁。解禁先や期間、曲数は限定されていますが、8月18日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいてLINE MUSIC独自の施策である再生回数キャンペーンを実施した「A10TION」はストリーミング指標で10位、総合で16位に入りアルバム収録曲ながら好アクションを記録。キャンペーン終了後は急失速しますが、キャンペーンのノウハウは身についたはずです。
⑩ 嵐「Whenever You Call」
※デジタル解禁による世界への認知上昇
最後は日本を含む世界での動向。ブルーノ・マーズとDマイルという、ブルーノが在籍するシルク・ソニックの曲を手掛けるふたりが制作した「Whenever You Call」。日本では他の配信限定シングルには及ばなかったものの、リリース直前に米ビルボードが新設したグローバルチャートにおいてGlobal 200で51位、Global Excl. U.S.で17位にそれぞれ初登場しました(2020年10月3日付)。
その後はLiSA「炎」やYOASOBI「夜に駆ける」がGlobal Excl. U.S.でトップ10入りしますが、嵐はこれら作品に比べてストリーミング指標が強くないためランクイン直後に失速してしまいます。しかしダウンロードが他国より強い日本の特性を活かし、且つストリーミングが盛り上がればグローバルチャート上位にランクインすることは可能ということがここから見えてきました。
今回取り上げた10項目14曲の中にはダウンロードやサブスクを解禁していない作品も少なくありません。しかし動画再生指標の好調や同指標のストリーミングへの波及を踏まえれば、デジタル解禁していたならばライト層を刺激しチャートアクションにも良い影響を及ぼしただろうと考えます。
ともすればジャニーズは、フィジカルセールスを主軸とするためにデジタル解禁を並行できないという意識が根強いかもしれません。しかしながら、昨日ビルボードジャパンに掲載されたユニバーサルミュージック合同会社の社長兼CEO、藤倉尚氏のインタビューは興味深いものがあります。このレコード会社にはSexy ZoneおよびKing & Prince(のレーベル)が所属しています。
海外とは異なり、『ですが日本のアーティストが素晴らしいのは、今もCDの売上を保ちつつストリーミングも伸ばすという発展の仕方をしている点です。』というのも興味深いですね。フィジカルとデジタル、所有(購入)と接触は両立可能ということを示しているのですから。https://t.co/V9JwNO5R6q
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月14日
今回紹介した事例はジャニーズがデジタル解禁を前向きに模索しているものと期待して取り上げたものであり、結果を出しているものもあれば成果が十分ではないものもあると言えるでしょう。無論、デジタル解禁によってすべての曲が優位に働くとは断言できませんが、コアなファンの多いジャニーズにおいては解禁してもフィジカルセールスが極度に落ちるとは考えにくく、むしろライト層獲得の大きなプラスになるはずです。