昨年1月にスタートした【私的トップ10ソングス+α】企画、今回は2021年8月分です。前の月にリリースされた曲を中心に、しかしその縛りは出来る限り緩くした上で選んでみました。ミュージックビデオ等動画がない曲は巻末のプレイリスト(Spotify)でチェックしてみてください。
過去の私的トップ10ソングス、および2020年上・下半期の邦楽ベストソングスについてはこちらに。ちなみに個人的に毎回チェックしているプレイリストは現時点において主に、New Music Wednesday、New Music Friday Japan、New Music FridayおよびMonday Spinとなっています。
10位 ヴィクトリア・モネイ「Coastin'」
これまでに増して2000年前後のR&Bやヒップホップのサウンドを踏襲した曲が大挙リリースされた印象がある8月は、当時の音楽を好んで聴いた身にはたまらない1ヶ月となりました。ヴィクトリア・モネイのこの曲にはクレジットはないながらケニ・バーク「Risin' To The Top」を敷いた模様で、佇まいもどことなくメアリー・J. ブライジを思わせます。
9位 ジャングル「All Of The Time」
"UKの新ディスコ番長"と称されているらしいプロデューサーユニット。もはやJ-WAVEでも御用達となっているという彼らのアルバムから先月プレイリスト入りした2曲(この曲および「Can't Stop The Stars」)は共にお気に入りに。ソウル要素も含んでおり自分のアンテナに引っ掛かりました。
8位 BE:FIRST「Shining One」
オーディション企画"THE FIRST"は追いかけていないものの、選ばれた7名の実力からは主宰者であるSKY-HIさんの意志がはっきりとみえてきます。
個人的にはこの曲を手掛けた☆Taku Takahashiさんから香るエクスケイプ*1テイストも好み。歌い出しのメロディから「My Little Secret」がうっすら香ったり、サビの疾走感がメンバーのキャンディによるソロ作「Don't Think I'm Not」のドラムンベース的サウンドを思わせる等。さすがにエクスケイプをなぞるのは強引かもしれませんが、現在の流行が2000年前後のR&Bの踏襲であることを踏まえればその要素を見つけることもまた楽しいのです。
それにしても生パフォーマンスでの実力の高さには唸らされます。特にRYUHEIさんからは三浦大知さんらしさが伺えて、今後が楽しみです。
7位 cero「Nemesis」
ceroだからこそサビのメロディが奇妙に聴こえないというか、独自の世界観として十分成立しています。
数年前にフジロックフェスティバルでの生配信を観て、会場の規模や屋内屋外を問わずに会場の空気感を掌握することに長けているイメージを強く抱いていました。この曲も間違いなくその場を支配するのだろうと思うと、一度は生で味わってみたくなるものです。それにしても8月は、死や世界の終わりを示す曲が増えている気がしますね。
6位 ホールジー「I Am Not A Woman, I'm A God」
『妊娠と出産についての喜びと恐怖』*2をコンセプトとしたニューアルバム『If I Can't Have Love, I Want Power』のリード曲における力強い宣言に強く惹かれます。サビのメロディはとてもメロディアスとは言い難いものの不思議な中毒性を宿し、一聴すると奇妙で浮いているかのようなBメロ等のウワモノもホールジーの歌唱とうまくブレンドしているのが見事。
5位 パスター・マイク・ジュニア「Single & I Love It」
ゴスペル界の新鋭で、ファーストアルバム『Live Free』が一昨年に米ビルボードゴスペルアルバムチャートを制したパスター・マイク・ジュニアの新曲。特にBメロがラップ的だったり、ゴリゴリに歌い倒すタイプではないかもしれませんがその分、R&Bやヒップホップファンからも信頼を集めそう。
4位 ティーシャ「Power」
踊れるインストゥルメンタルが好きな自分に特に刺さった曲。ジャム&ルイスとタッグを組んだジャネット・ジャクソンがアルバムで必ずこういう系の曲を用意したことを思い出した次第。Spotifyの短尺動画リピート機能であるCANVASではおそらくティーシャ本人が踊っている映像が配置されていますが、そのループもまたビートをより躍動させることに成功していると言えます。
3位 マイケル・ディオン feat. カーディ・B「No One In The World」
2000年前後のR&Bやヒップホップ的なサウンドが流行する現在にあって、当時のひとつの潮流であった大ネタサンプリングを用いたのがこの曲。しかもエムトゥーメイ「Juicy Fruit」(1983)使いなのですから、アガらないわけにはいきません。
さらに重要なのは、このマイケル・ディオンという歌手がかなり歌えるということ。近年のR&Bはスムースな歌唱法が人気である一方でこのような歌い上げ系はあまりみられなかった印象があるため、そういう意味でも貴重と言えます。そしてカーディ・Bがアレンジに沿った、クールなラップスタイルを採っているのも見事ですね。
2位 アース・ウインド & ファイアー feat. ラッキー・デイ「You Want My Love」
米の人気企画"Verzuz"でアイズレー・ブラザーズと共演(対決)しその現役っぷりを示したアース・ウインド & ファイアー。デビューから半世紀を経過した御大の新曲は、自身の名曲「Can't Hide Love」(1976)のいわゆる換骨奪胎。とはいえその内容は比較的大きく変更され、特徴的なブラスをさらに効果的に配した作品に。
直近ではKing & Prince「Namae Oshiete」を手掛けたベイビーフェイスが手掛けたこの曲で大きくフィーチャーされているのは、2010年代後半にデビューしたラッキー・デイ。アースのエバーグリーンなサウンドにさらなる瑞々しさを与えることに成功しています。
サブスクが浸透し3分を切る曲が多くなった現在にあって、そのサブスクで大ヒットを連発するOfficial髭男dismは長尺曲が多いのが特徴。自身が伝えたい曲を発信するという芯のぶれなさが多くの方の支持を得ていることは間違いありません。
メジャーセカンドアルバム『Editorial』のリード曲となった「アポトーシス」は6分30秒という長尺ながら、一切ダレることのない強靭な推進力が見事。確かな演奏力、藤原聡さんの歌ヂカラ、そして物語の持つ説得力が三位一体となり、いつか来る別れを思う心を完璧に描ききっています。とりわけ、サビ後半に三度連続で押し寄せるメロディの波、さらにその直後に一段と高い音階を用意し"別れ"という言葉を配置することで、主人公の思いがより立体的に。その構成力にも脱帽します。
以下、次点として10曲。
・青山テルマ & Aisho Nakajima「Yours Forever」
・UQiYO「ソンバー」
・ENDRECHERI「GO TO FUNK」
・GOOD BYE APRIL「missing summer」
・Seiho & 鎮座Dopeness「iLL」
・羊文学「あの街に風吹けば」
・アドイ「Baby」
・レイラ・ハサウェイ & ロバート・グラスパー「Show Me Your Soul」
・ヴァンジェス feat. ラッキー・デイ「Slow Down」
Official髭男dismはどうしても選びたかった「ペンディングマシーン」をトップ10圏外に用意。ENDRECHERIは来月でなければニューアルバム全体がデジタル解禁されないながらも「GO TO FUNK」が安定と信頼のファンクだったゆえ選出。
8月はAisho Nakajimaさんの存在を遅ればせながら知り、強く惹かれた次第。そして同時に、現行R&Bをまとった青山テルマさんの美しさは絶品だということもあらためて実感しました*3。
Spotifyのプレイリストはこちらに。
今月も素晴らしい音楽に出逢えることを願っています。
*1:1990年代に活躍した米の女性4人組R&Bボーカルグループ。
*2:テイラー・スウィフト、ホールジーの最新アルバムを称賛。 | Vogue Japan(8月31日付)より。
*3:6年前にリリースされた清水翔太さんとの「stay」は、2015年年間邦楽ベストソング集(2015年12月31日付)で選んでいます。