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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

DISH//「猫」は合算ならば上半期トップ10級のヒットに…ビルボードジャパンに合算基準の明確化を求める

ビルボードジャパンが昨日、2021年度上半期チャートを発表しました。それに合わせて、このブログでは7つのトピックスを軸に解説しました。

また、日本でほぼ唯一チャート予想を行うあささんも分析記事を掲載されています。非常に読み応えがありますので、勝手ながら紹介させていただきます。

 

 

ビルボードジャパン上半期ソングスチャートは上位10曲のみが紹介され、11位以下ではLiSA「紅蓮華」(11位)や優里「かくれんぼ」(37位)等トップ10の関連作品が掲載されたのみとなっていますが、下記プレイリストからは上半期の100位以内ランクイン曲についてのおおよその順位が想像できます。

(サブスク未解禁曲は当該プレイリストには未掲載。プレイリストは世界からアクセス可能なはずで、海外在住の日本人や日本の音楽文化を求める世界の方に未解禁曲は半ば存在しないこととなります。その意味でもデジタルに明るくない姿勢は機会損失でしょう。たとえば世界を狙うならば尚の事必要だというのが私見ですが、それはまた別の機会に記します。)

 

 

さて、このプレイリストでは13番目にDISH//「猫」が、20番目に同曲のTHE FIRST TAKEバージョンが登場します。順位的にはほぼこの数字に近い形と言えますし、仮に合算したならば「猫」はトップ10級のヒットと断言できます。2021年度上半期の集計期間中はTHE FIRST TAKEバージョンが1週のみ50位未満でありその際のポイントは不明ながら、「猫」はその分を含めなくとも合算すれば185090ポイントを獲得。菅田将暉「虹」の161838ポイントを上回り、上半期6位相当になるのです

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無論、合算は仮の話ではあります。特にラジオでは同じ番組内で2バージョン双方をかけることはランキング紹介を除けばまず考えられないため。しかしながらこれは特筆すべきヒットと言っていいでしょう。

 

一方で、このTHE FIRST TAKEバージョンが合算しているかもしれない作品があります。それが、2021年度上半期ソングスチャートで10位に入ったYOASOBI「群青」。THE FIRST TAKEの公開がこの曲のさらなるヒットに貢献したことはチャート推移から明らかです。

THE FIRST TAKEが2月26日金曜に公開されるや、「群青」は公開日を起点としたYouTubeの週間ミュージックビデオランキングを制し、翌週も4位と好調に推移。 ミュージックビデオも16→20位と推移しています(YouTubeのミュージックビデオランキングはこちら)。そしてビルボードジャパンソングスチャートでは2月22-28日を集計期間とする3月3日公開(3月8日付)で動画再生指標が24→3位に急上昇し、翌週には首位に立つのです。

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(上記は5月26日公開(5月30日付)におけるCHART insight。動画再生は赤の折れ線で表示。)

動画再生指標の上昇はTHE FIRST TAKEの追加と捉えるのは自然なことと言えるでしょう。しかしここで疑問が浮かびます。「群青」のTHE FIRST TAKEバージョンの音源は、オリジナル版とは異なるのです。

2年半前、ビルボードジャパンに合算する/しないの基準を問い合わせたことがあるのですが、言語の違いは合算対象となる一方、客演やリミックス等オリジナルにない要素が追加されていると判断すれば合算しないというのがビルボードジャパンからの回答でした。「群青」の動画再生指標急上昇が音源の異なるTHE FIRST TAKEバージョンとの合算に因るものであるならば、この説明と矛盾していると言われてもおかしくないと考えます。

DISH//の場合、「猫」のTHE FIRST TAKEバージョンは別扱いとなっています。THE FIRST TAKEバージョンの音源をリリースしている場合は合算しない、そうでなければ合算するというルールがあるかもしれません。とはいえ、「猫」についてもオリジナルバージョンにおいて音源の異なるライブバージョンが動画再生指標に合算されている可能性があるのです。下記動画の概要欄における作品名は「猫」となっており、ライブバージョン等の記載はありません。

 

ビルボードジャパンには先述した問い合わせの後も、合算の基準(の変更)について伺ったことがあるものの、またそれを明確化してほしいと提案したものの、未だ明確な回答はありません。

 

動画の様々なバージョンを合算しているのはデータを提供するYouTube側の可能性が高く、またカウント対象の条件となるISRC(国際標準レコーディングコード)を、別バージョンであってもオリジナルバージョンのコードを用いてレコード会社や芸能事務所側が付番していることも想定されるというのが私見です。本来は付番においてもまたカウント時であっても厳密に分けるべきだと思うのですがが、処理等に時間がかかることを踏まえれば極めて難しいかもしれません。

 

動画指標において、オリジナルバージョンの尺をカットしたショートバージョンやティザー、曲の途中に広告等を挟んだりリミックスしたオリジナル版に手が加わった動画が加算されています。その状況をみるに、ビルボードジャパンはどの指標においてもいっそ全バージョンを合算する方向にシフトしたほうが処理の面でも簡略化されると思うのです。そしてこの合算は米ビルボードのチャートポリシーでもあります。ビルボードジャパンは今年度下半期から米ビルボードで採用しているリカレントルールをHeatseekers Songsチャートに採用しており、好いチャートポリシーを積極的に採り入れる姿勢を感じています。ならば合算についても柔軟な対応ができるはずです

リミックス文化の醸成等にもつながるだろう意味でも、合算を提案します。 

 

今回の「猫」2バージョンの合算されていない問題、および合算の提案については以前から幾度となく記載しているのですが、2021年度上半期チャート発表を機にあらためて疑問を呈したいと思い、今回紹介しました。

合算する/しないについては賛否両論あると思いますが、合算しないと判断したとしても、ビルボードジャパンは少なくとも合算の基準を明確化することが必要だというのが私見です。