月曜は不定期で、日米グローバルのビルボードチャートに関するコラムを書いていきます。前回はソングスチャートにおけるラジオ指標を取り上げました。
二回目となる今回、同じくソングスチャートの構成要素であるTwitter指標について私見を記します。
Twitter指標は2013年12月、ルックアップとともにビルボードジャパンソングスチャートに追加されました。
信頼できるデータに基づき、検討を重ねて導入した経緯について説明された上記記事の一ページ目には、『その指標に恣意的な作為が介入する余地は無いか。』と太字で書かれているのが印象的でした。その介入の余地がないと判断した上でTwitter指標を導入したことが、現在にあっては恣意的な作為がないとしても偏りが生じるに十分な状況になっているというのが、厳しくも正直な私見です。
この点については定期的に疑問を呈しているのですが、今年度もその状況は変わりません。今年度の第1~第3四半期の状況は下記に。
そして最新9月1日公開(9月6日付)ではこのようになっています。なお、毎週のTwitter上位20曲はCHART insightで調査可能です*1。
これらを踏まえれば、Twitter指標には独特の特徴がみられます。
Twitter指標の特徴
① 男性アイドルや男性ダンスボーカルグループ、K-Pop男性アクトが強い
(ジャニーズ事務所所属歌手が強く、他事務所所属歌手も強さが目立つ)
② 総合チャートと順位が乖離する傾向が強い
③ 20位以内に複数曲を送り込む歌手が少なくない
Twitter指標首位の曲が同じ週に総合も制したケースは多い一方、Twitter指標2位以下となると総合チャートとどんどんリンクしなくなるのが特徴です。
その理由としても、そしてTwitter指標の特徴を押さえる意味でも、わかりやすいのが最新週における2組の歌手の動向でしょう。
(最新週以外も今回取り上げたような傾向があります。下記で例示するJO1とHey! Say! JUMP以外にも複数みられることを前もって記しておきます。)
最新週ではTwitter指標のトップがJO1「REAL」(前週の総合チャート首位曲)、2位がHey! Say! JUMP「群青ランナウェイ」(最新週の総合首位曲)となっていますが、この2組においてはそれぞれの曲を収録したフィジカルシングルのカップリング曲、それも全形態に収められず一部のみに入っているものも含めた全ての曲が20位以内に入っているのです。
一方で各曲のCHART insightをみると、興味深い内容が見えてきます。
デジタル未解禁のHey! Say! JUMPは「Love Your Life」および「シャッターチャンス」でミュージックビデオを用意しながら、最新週では「群青ランナウェイ」以外で動画再生が300位以内に入れず同指標加点対象外に。またJO1は「REAL」を含むフィジカルシングル収録の全曲がフィジカルセールス初加算週に少なくともダウンロード指標が加点されながら「REAL」以外は同週に総合100位以内に入れず、また最新週では「REAL」以外でダウンロードおよびストリーミングを加点することができませんでした。
SNSで話題になった曲が社会的な流行と比例するのであれば、動画再生やストリーミングでも上位を獲得できたのではないでしょうか。その一方でTwitter指標ばかりが上位に登場する状況は、Twitterにて各歌手のフィジカルシングル表題曲とカップリング曲とを一緒に検索すればその理由が見えてきます。歌手名およびフィジカルシングル収録の全曲をひとつのツイートにまとめて表記しているファンの方が少なくありません。
Twitterについて
(中略)
③「アーティストA、曲名A、曲名B、曲名C」や「アーティスト名A、曲名A、アーティスト名B、曲名B」といったように、1つのツイートの中に複数の曲が含まれている場合は、どのように集計されますか。
ツイート内で集計対象となるキーワード数に上限はありませんので、1つのツイート内に複数の「アーティスト名」および「曲名」が記載されている場合、すべて集計対象となります。
ビルボードジャパンソングスチャートについてのブログエントリーを書くうちに、同チャートの重要性を理解した上で推しの歌手をより上位へ押し上げようとするファンの思いが高まっていくのを感じています。特にTwitter指標は、デジタル未解禁の歌手においても優位に立てる指標ゆえコアなファンの頑張りが反映されやすく、ビルボードジャパンでもひとつのツイートに併記された複数曲すべてのカウントを許可しています。
ゆえにコアなファン主体にTwitter活動が行われることは自然な流れであり、複数曲がTwitter指標でトップ20入りすることも増えています。しかしTwitter指標で大きな成果が生まれながらも他指標が伴わないのならば、そのTwitter指標に恣意的な作為がないとしても偏りが生じていると思われておかしくないのではないでしょうか。
(個人的には、推しの歌手がテレビでパフォーマンスした際、番組のハッシュタグを用いた実況ツイートにファンの方が披露曲以外も含めた複数曲併記を行っている状況に違和感を抱きます。またメンバーのひとりがドラマに出演し、主題歌がその歌手による作品ではないにもかかわらず画面に登場する度にグループ名と複数曲を併記するツイートが散見されると、ファンの気持ちは理解できてもドラマファンに失礼ではと思うのです。)
Twitter指標最上位の当該指標での獲得ポイントが最新週においては500程度であり、Twitter指標の影響力は少ないと言えるかもしれません*2。しかし先述した行為が常態化してきているだろう状況を踏まえれば、指標の偏りや硬直性を踏まえてTwitter指標の総合チャートからの除外も視野に検討すべきではないかということを、ビルボードジャパンには提案します。
ここでは以前にも、Twitter指標について除外を提案しています。下記は米ビルボードが今年はじめにSNSでの歌手人気を示したSocial 50チャートを停止し、ホットトレンディングチャートを別途用意すると発表したタイミングで記載したもの。ただし社会的なヒットとリンクしてTwitter指標が盛り上がった曲が、同指標を除外することで総合チャートに反映されにくくなるという可能性が発生しかねず、それは避けないといけません。
となるとひとつ気になるのが、たとえば昨年バズを起こした星野源「うちで踊ろう」のヒットが可視化されにくくなるという件。しかしビルボードジャパンは今年度、動画再生指標からUGC(歌ってみたや踊ってみたに代表されるユーザー生成コンテンツ)を除外し独自のチャート(Top User Generated Songsチャート)を作成した経緯があります。このチャートも動画再生指標からUGCを”除外”して生まれたものであり、除外を恐れない変化を実行したビルボードジャパンの姿勢を踏まえれば、Twitter指標を除外し日本でホットトレンディングチャートを用意することは可能であり、そこで「うちで踊ろう」のようなヒットが可視化されるものと考えます。
当初は無料ダウンロードでありストリーミングが後日解禁された、星野源「うちで踊ろう」の、初チャートインから11週分のCHART insightを上記に。ラジオそして動画再生は2週目で登場していますがTwitter指標が最も順位が高く、この指標がなければ総合13位まで上昇することはできなかったと言えます。
昨年度まではいわゆる歌ってみたや踊ってみたに代表されるUGC(ユーザー生成コンテンツ)が動画再生指標の加算対象となっており、沢山のコラボ動画が生まれた「うちで踊ろう」のヒットの要因はこのUGCによる効果も大きいでしょう。しかし今年度はUGCが加算対象外となっており、この状況でTwitter指標を除外した際に「うちで踊ろう」のようなヒット曲をどう可視化するかを考えなければいけません*3。
「うちで踊ろう」が動画で人気になったことを踏まえれば、Twitter指標を除外するタイミングで動画再生指標のウェイトを上げることを検討すべきというのが私見です。
未だデジタルに明るくならない歌手が少なくなく、ともすればTwitter指標はそれら歌手のデジタル未加算分の補完の意味合いもあるかもしれません。しかし最近では、たとえばジャニーズ事務所所属歌手がミュージックビデオをフルに近い尺でアップし、それら作品の動画再生指標は上昇傾向にあります。さらにフィジカルリリース後も同指標が下がらなくなってきたことは、曲がメディアで取り上げられたタイミングで動画再生に移行する方が少なくないことの表れではないでしょうか。
社会的なヒット曲とリンクしやすい動画再生指標のウェイトを大きくすることで、Twitter指標を除外してもそれを補完しうる体制にするというのがひとつの考えとして成立するものと考えます。そもそも動画の影響力は思うよりも高いのではないかという見方もあります。ビルボードジャパンに改善案のひとつを提示し、議論のテーブルを用意することを心から願います。