(※追記(9月17日6時7分):9月8日公開(9月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートの順位およびポイントが、9月16日になって訂正されています(詳細はこちら)。ゆえに9月8日公開分におけるポイントや9月1日公開(9月6日付)からのポイント前週比は、訂正前のものとなっています。ご了承ください。)
毎週木曜は、最新のビルボードジャパンソングスチャートから注目点を紹介します。しかしながら最新週においては大きな変更が行われたため、今回はその点を紹介します。
CHART insightが最新9月8日公開(9月13日付)各種チャートを反映するタイミングで、ビルボードジャパンが下記アナウンスを行いました。
【チャートに関するお知らせ】
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年9月8日
総合ソング・チャート“HOT 100”に関して、指標別ポイントのレシオを見直し、2021年9月8日公開分からラジオ指標、ルックアップ指標、Twitter指標のポイント換算時における係数を変更いたしました。
レシオとは比率の意味。ラジオ、ルックアップおよびTwitterの3つの指標のウェイトを見直す変更を実施したことになり、これで今年度は第1四半期から四期連続でチャートポリシー変更が行われたことになります。
具体的な増減についてはアナウンスされていないため今後の動向を追いかけていく必要がありますが、チャートを分析する方々は一様に、少なくともルックアップおよびTwitterについてはウェイトが低下したと捉えています。自分も同様の意見です。
最新ソングスチャートで総合50位以内にランクインした曲におけるポイント前週比を上記に。色塗りされている作品はフィジカルシングル表題曲となっていますが、そもそもフィジカルシングル自体が少ない状況です*1。
分かりやすいのはロングヒット曲におけるポイント前週比。前週比はその多くが95%弱といったところですが、フィジカルがリリースされていない曲は菅田将暉「虹」が前週比91.1%、LiSA「炎」が同90.1%、YOASOBI「怪物」が同86.7%となり、平均値よりも高くはないと言えます。この点から、ルックアップ指標のウェイトが減少したと捉えてよいでしょう。
そもそもフィジカルシングルをリリースしている曲が多くないことに加えて、レンタル実店舗の減少も影響していると考えられます。なお、フィジカルシングルを切ってもその後アルバムに収録された曲の大半が前週比95%以上であり、シングルをレンタルしなければ触れられない曲がより大きく影響を受けていると言えます*2。
しかしながら、レンタルの減少以上にルックアップ指標の見直しに至らせた要因は、ルックアップのポイントが一部の曲にてあまりに大きくなったことにあると考えます。一例として、今夏のSnow Man「HELLO HELLO」およびSixTONES「マスカラ」のフィジカル関連指標加算初週におけるCHART insightを掲載したブログエントリーを下記に。チャート構成比の半分を占めたルックアップで、1万5千以上のポイントを獲得しています。
ルックアップが強い曲は、男性アイドルの曲で少なからず確認することができます。複数種リリースの作品が多く、中には全種類購入しなければフィジカルシングルに収録されたすべての曲を手に入れられない場合もあります。全種類購入しパソコン等に取り込む方がコアなファンを中心に少なくなかったと考えるのは自然なことです。
その一方で、チャートの重要性を意識したコアなファンの方々が、推す歌手をチャート1位にしようと呼びかけるツイートを徐々に見かけるようになりました。その呼びかけで目立つのが、購入したCDの全種類を発売週の日曜までにパソコン等に取り込みルックアップを獲得しようというもの。ともすれば、そのような活動の成果がルックアップの高騰という現象につながった可能性が高いと考えます*3。
(尤も、先述した二組の曲においては、Snow Man「HELLO HELLO」は映画主題歌に起用、SixTONES「マスカラ」はKing Gnu/millennium paradeの常田大希さん提供曲という話題性がレンタル需要を喚起していることも考えられます。)
コアなファンの活動は、Twitterにも反映されます。奇しくも今週月曜、ビルボードコラムと称して同指標への考えを提示したばかりでした。その際、JO1やHey! Say! JUMPを例に活動について紹介しています。
最新9月8日公開(9月13日付)ビルボードジャパンソングスチャートのTwitter指標ではJO1「REAL」が3週連続で首位を獲得しながら総合チャートでは50位を下回りポイント不明のため、Twitter指標での獲得ポイントは推測不可。そこで、Twitter指標で2週続けて5位以内且つ総合でも2週続けて50位以内に入った曲で確認します。上段は9月1日公開分、下段は9月8日公開分となり、円グラフは各週におけるチャート構成比となります。
・Hey! Say! JUMP「群青ランナウェイ」
(Twitter2→2位 総合1→48位 15533→1680ポイント)
・BE:FIRST「Shining One」
(Twitter3→5位 総合9→17位 5372→3503ポイント)
Hey! Say! JUMP「群青ランナウェイ」のチャート構成比におけるTwitterの割合を9月1日公開分が3%、9月8日公開分が10%と仮定すれば同指標の獲得分は466→168ポイントに。同じくBE:FIRST「Shining One」について前者10%、後者5%と仮定すればTwitter指標の獲得分は537→175ポイントとなり、共に大きくダウンしています。
この2曲のサンプルのみでTwitter指標のウェイトが減少したと断言することは、ルックアップよりは厳しいでしょう。リリースから日が経ちTwitter指標が落ち着いたためダウンしたとも考えられます。しかしながら、同指標もウェイト減少に至ったのではないかというのが私見です。
ラジオ指標のウェイトがどうなったかは現段階では判りかねますが、かつてビルボードジャパンの各種チャート一覧に掲載されたラジオチャートがいつの間にか未掲載となっており、あるタイミングでウェイト減少が行われたものと捉えています。そのラジオチャートが最新週において復活しなかったため、ウェイトを増強させたとは考えにくいというのが私見です。なお、ラジオ指標についてもビルボードコラムで紹介しています。
ラジオ指標が放送局や番組の選曲に左右されるのとは異なり、ルックアップではレンタル動向が、TwitterではSNSの口コミが反映されるため、それぞれの指標はライト層の動向を把握する材料に用いられていたと捉えています。しかしながら最近では、これら指標にコアなファンの熱意がより強く反映されるようになってきました。下記はTwitter指標に対する私見ですが、ルックアップでも同種の内容が当てはまるものと考えます。
ビルボードジャパンソングスチャートについてのブログエントリーを書くうちに、同チャートの重要性を理解した上で推しの歌手をより上位へ押し上げようとするファンの思いが高まっていくのを感じています。特にTwitter指標は、デジタル未解禁の歌手においても優位に立てる指標ゆえコアなファンの頑張りが反映されやすく、ビルボードジャパンでもひとつのツイートに併記された複数曲すべてのカウントを許可しています。
ゆえにコアなファン主体にTwitter活動が行われることは自然な流れであり、複数曲がTwitter指標でトップ20入りすることも増えています。しかしTwitter指標で大きな成果が生まれながらも他指標が伴わないのならば、そのTwitter指標に恣意的な作為がないとしても偏りが生じていると思われておかしくないのではないでしょうか。
今回のビルボードジャパンによるチャートポリシー変更は、このことを強く意識してのものだったと感じています。
.@Billboard_JAPAN の公式見解とは異なるかもしれませんが、私見を述べるならば。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月8日
ルックアップおよびTwitterにおいては、コアなファンの熱意や頑張りは素晴らしいながらもそれがより反映されやすいことでライト層や世間一般の状況と大きく乖離するようになったため、ウェイト減少に至ったと考えます。 https://t.co/WqMYSywyLq
また、ルックアップはレンタル数の推測を可能とする指標ですが、レンタル店舗の減少も影響としてあるかもしれません。とはいえ、ひとつ前のツイートで述べた点のほうが理由として大きいものと考えます。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月8日
所有指標を押さえつつ、接触指標を伸ばすことが重要。ロングヒットの鍵は接触指標です。そして接触指標の充実こそライト層人気を示し、広く世間一般に曲が浸透したことがみえてくるのです。
— Kei (@Kei_radio) 2021年9月8日
デジタル未解禁ならば、デジタルに明るくならないといけません。そしてそうなるよう進言する必要があります。
今回のビルボードジャパンによるチャートポリシー変更を支持します。
その一方で、数の多さに加えて一人ひとりの熱量が大きい歌手の曲が不利になったと言われかねない状況に、ファンの方々から様々な声が寄せられています。
しかしながら、ビルボードジャパンソングスチャートはチャートポリシー変更を経て、所有指標以上に接触指標に強い曲がロングヒットする形となりました。そして年間チャートの上位曲(その多くを占める接触指標に強い作品)がその年を代表する曲だという認識を、世間一般が抱くようになっています。
大事なのはライト層への浸透です。コアなファンの方々の強い熱意や工夫する力を、ライト層を拡げるための策を考えることに注ぐ必要があります。そして、サブスクをはじめデジタルにそもそも未解禁であるならば、その歌手そして上層部へ進言してほしいと強く願います*4。
*1:なおDISH//「猫」やMrs.GREEN APPLE feat. 井上苑子「点描の唄」はフィジカルシングルに収録されていますがカップリング扱いとなります。
*2:なお、Mrs.GREEN APPLE「青と夏」は夏季の上昇による反動であり、Da-iCE「CITRUS」は元々レンタル店での取り扱いが少ないことが影響していると捉えています。後者については以前、(追記あり) ロングヒット中のDa-iCE「CITRUS」、さらなる押し上げに必要なのはレンタル需要喚起である(7月5日付)にて言及していますのでご参照ください。
*3:ルックアップ指標のウェイト減少措置の妥当性については、チャート分析や予想に長けたあささんのこちらのツイート群を支持します。ルックアップが非常に高い曲についても一覧化されていますので、是非ご参照ください。
*4:叶わない可能性が高いことは承知でも声に出す必要があることを、自分は17年前の著作権法改正のタイミングで強く実感し、ビルボードジャパンのチャート変革の理由が公開…支持の表明や声を上げることの必要性を記す(6月6日付)等で記しています。今回の反応の中に、ある歌手のコアなファンと思しき方が「嫌がらせか」と書いていましたが、だとすればビルボードジャパンになぜそう思うかをきちんと記すべきです。無論、その際は丁寧な言葉で綴ることを強く勧めます。