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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

(訂正あり) 全米制覇のザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバー「Stay」が日本でもヒットの兆し…その理由とは

(※追記(8月31日):弊ブログにてこれまで、「Stay」の表記をザ・キッド・ラロイ feat. ジャスティン・ビーバーと記載しておりましたが、正しくはザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバーでした。訂正してお詫びいたします。)

 

 

 

最新8月11日公開(8月16日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、ザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバー「Stay」が初めて50位以内に登場しています。

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「Stay」は海外でも大ヒット。米ビルボードソングスチャートでは最新8月14日付にて初制覇となり、ザ・キッド・ラロイはオーストラリア出身の歌手としてリック・スプリングフィールド「Jessie's Girl」以来、男性ソロ歌手では40年ぶり2組目の快挙を達成しました。これら記録については火曜のブログエントリーにて紹介しています。

米チャートでは3位に初登場後、2週連続の4位を経てトップに。米チャートにおいては初週高位置に登場しても翌週以降にデジタル指標群のダウンをラジオの上昇で補填できなければ急落必至なのですが、登場2週目のダウン幅をわずか1ランクに抑えた「Stay」はその段階で大ヒットが見込めたと言えるかもしれません。

 

そして「Stay」では日本でもヒットの兆しをみせています。ビルボードジャパンソングスチャートでトップ50に洋楽が登場すること自体、K-Popを除けば近年では稀と言えます。ここ数年ではエド・シーラン「Shape Of You」やビリー・アイリッシュ「Bad Guy」がトップ10入りしているもののこれらはテレビドラマのタイアップがより大きく影響しており*1、ノンタイアップである「Stay」のヒットはやはり特筆すべきなのです。

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(※上記グラフでは文字数の関係上、「Stay」においてジャスティン・ビーバーの名前を割愛しています。)

「Stay」は日本のSpotifyにおけるデイリーチャート、最新8月11日付で前日から3万近く再生回数を伸ばし18位に躍進。8月5日に初の8万台に突入しながら4日間はその8万台前半で足踏みしていましたが、週明けには3日連続で最高再生回数を更新しているのです。となると、次週のビルボードジャパンソングスチャートの動向も気になります。

 

 

それにしても、今なぜザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバー「Stay」が人気なのでしょうか。

 

ビルボードジャパンソングスチャートにおいてストリーミングと並び「Stay」の大きなポイント源となっているのがラジオ。最新週では7位となり初めてトップ10入りしました。ラジオは洋楽が入りやすく、また海外の動向も反映しやすい指標。ザ・キッド・ラロイは前週の米ビルボードアルバムチャートにて初の首位を獲得しており、17歳の若さというトピックも相俟ってラジオで紹介するところが多かったのかもしれません。

また、「Stay」の前に米ビルボードソングスチャートを10週連続で制していたBTSのメンバー、グク(ジョングク)がカバーしたことで日本でも話題になった可能性があります。米チャートにおける首位のバトンが「Butter」から「Stay」に渡ったことで、同曲の認知度が拡大したとも捉えることができそうです。

 

そして、ブレイクに最も大きく貢献したと考えるのはTikTokではないかと推測します。

8月4日付の下記記事では流れている音楽を特定するアプリ、Shazamで「Stay」が最も多くチェックされたことが記載されています。

ここ日本でも「ステイ」の再生回数がShazamの検索楽曲ランキング1位を獲得するなど、注目度が高まっている中

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Shazamの最新チャートを上記に(チャートはこちら。ただしリンク先は常に最新週のものとなります)。ここで書かれている"今週"の対象期間は解りかねますが、このランキングからはTikTokとの親和性が見て取れます。12位に入っているMAISONdes feat. 和ぬか & asmi「ヨワネハキ」は7月26日~8月1日を集計期間とするTikTok国内週間楽曲ランキング(TikTok HOT SONG Weekly Ranking)を制しています。

またShazamランキングで8位に登場したSEKAI NO OWARI「虹色の戦争」はTikTokを機に再ブレイクしており、本日公開予定の最新TikTok国内週間楽曲ランキングに登場するものと思われます。

「ヨワネハキ」は日本のSpotifyデイリーチャートにおいて7月31日付以降200位以内をキープし続け、8月10日付まで連日最高再生回数を更新。「虹色の戦争」も8月7日付で200位以内に登場すると再生回数が連日上昇、最新日には4万回を突破しました。そして「ヨワネハキ」については、最新8月11日公開(8月16日付)ビルボードジャパンソングスチャートで59位に初登場を果たしています。

 

TikTokで人気を得た曲がSpotify等のサブスクサービスや動画再生に波及し、総合チャートにも登場する流れは、日本では昨年のYOASOBI「夜に駆ける」や瑛人「香水」以降顕著になった印象があります。そしてそれら人気曲のひとつの潮流にメロディアスであることやエモーショナルな歌詞が在ると捉えているのですが、ザ・キッド・ラロイ with ジャスティン・ビーバー「Stay」もまたその流れにあるのではないでしょうか。

【リリース情報】

The Kid LAROI|ザ・キッド・ラロイ

ザ・キッド・ラロイxジャスティン・ビーバ-強力コラボが実現!

”君にここにいて欲しい“

『STAY | ステイ』

先程紹介したソニーミュージックの記事では、”君にここにいて欲しい“というフレーズがキャッチコピー的に用いられています。後悔の念と失った彼女を思う気持ちを記した「Stay」の歌詞のエモーショナルさは、ザ・キッド・ラロイが以前共演したジュース・ワールドを思い出させます。

リル・ピープやXXXテンタシオンらが火つけ役となり、2017年頃から存在感を増していったSoundCloud系ラップ、そしてエモラップと呼ばれる潮流や、ポスト・マローンらが実践してきたポップスやロックとヒップホップの融合、ジュース・ワールドが実践してきた刹那的なリリックと悲哀を感じさせるボーカル…そうした新時代のヒップホップスタイルをさらに柔軟に昇華したのが、ラロイのスタイルだ。

 

「ヨワネハキ」や「虹色の戦争」、そしてTikTokでの人気は現時点で証明されないながらもその可能性が高い「Stay」には偶然にも、歌詞に込められた自虐や矛盾が共通点として挙げられます。

この曲で印象深いのは、まずその歌詞であろう。冒頭の歌い出しのリズミカルな〈そういやさ そういやさ〉もさることながら、〈薄っぺらい人間です〉と少々自虐気味な告白をするフレーズのインパクトに加え、続く〈一歩前に出るのはやめときます/絡まれたくないはないからさ〉と綴られた控えめな姿勢が耳に残る。

そして「Stay」もまた、後悔の念と失った彼女を思う気持ちを歌っています。"I do the same thing I told you that I never would (君に絶対しないと言ったのにまた同じことをしてしまった)"というフレーズは、間違いなく矛盾を指すのではないでしょうか。同時期にこの3曲が勢いを示すのは興味深いですね。なお、ジュース・ワールドに代表されるエモラップの世界観を形容する際に度々用いられるフレーズが"内省"です。

 

 

元来「Stay」は、日本のSpotifyデイリーチャートにおいてリリース日以降ずっと200位以内にランクイン、新曲をいち早くチェックしたい方やヒットチャートを押さえたい方には「Stay」は既に届いていた曲と言えます。またBTSの英語詞曲が世界的にヒットし、「Dynamite」や「Butter」がビルボードジャパンソングスチャートのカラオケ指標で100位以内に入る状況が英語詞曲を受け入れやすくしたと言えるかもしれません。

その上で「Stay」はより多くの方に見つかり、急速に人気を拡大するフェーズに入りました。きっかけのひとつが米ビルボードアルバム/ソングスチャート制覇であり、またおそらくはTikTokではないでしょうか。曲のもつキャッチーさのみならず歌詞もまたTikTokと親和性が高かったと言えそうです。まずは本日発表予定のTikTok国内週間楽曲ランキング、そして次週のビルボードジャパンソングスチャートに注目しましょう。

*1:「Bad Guy」においてはリリースの翌年にドラマに起用され、リリース年よりヒットしました。