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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「Permission To Dance」の初週チャート動向等を踏まえ、米におけるBTSの浸透度への私見や提案を記す

最新の米ビルボードソングスチャート、BTS「Permission To Dance」が初登場で首位を獲得しました。

BTSが首位を獲得すると、とりわけ世界中でSNSが盛り上がります。今回も、「Permission To Dance」の首位獲得がひと目で解るハッシュタグが登場しました(下記ツイート参照)。しかしながらその指標構成をみれば、厳しい物言いにはなりますが手放しで喜ぶことはできないと考えます。

 

 

ビルボードソングスチャートについては、こちらに各指標の内容等を記載しています。

ビルボードソングスチャートの構成3指標は、ウェイトの大きい方から順にストリーミング、ラジオそしてダウンロードとなります。上記ブログエントリーより以下の表を抜粋します。

ビルボードソングスチャートの記事では、首位獲得曲における3指標の動向をほぼ必ず掲載します。ほぼ、と書いたのは未記載のときもあるためですが、未記載の大半が最もウェイトの低いダウンロードとなります。しかし最新チャートにおいては、ビルボードジャパンの翻訳記事では「Permission To Dance」のラジオ指標について記載がありませんでした。

7月9日にリリースされた「Permission to Dance」は、初週140,100を売り上げてデジタル・ソング・セールス・チャートでも同1位にデビュー。セールス・チャートでの首位獲得は通算8曲目で、グループの歴代最多記録をさらに更新した。ストリーミング・ソング・チャートでは、初週1,590万回を記録して8位に初登場している。

一方で元記事ではきちんと明記されています。

Following its July 9 release, "Permission to Dance" drew 15.9 million U.S. streams and 1.1 million radio airplay audience impressions and sold 140,100 downloads (via its original and instrumental digital versions, each on sale for 69 cents) in the week ending July 15, according to MRC Data.

火曜のブログエントリーでも書きましたが、「Permission To Dance」はラジオで110万を獲得しています。ビルボードジャパンの記事でなぜこの指標が抜けていたかは不明です。ただ失念していただけかもしれませんが、邪推と前置きして書くならば、好ましくない数値だったため伏せたかったのではと考える自分がいます。ただ、客観的な翻訳記事においてそのような対応は好ましくないと考えています。

 (なお、以前は自分も米ビルボードソングスチャートの翻訳記事において私見を追記していましたが、今後は翻訳の際は私見をできる限り排し、別日に記載するよう心がけます。)

 

 

ラジオの110万という数値について述べる前に、先週このようなブログエントリーを掲載したのであらためて紹介します。

「Butter」の指標構成が日本とは異なることについて上記で触れましたが、ここで掲載した表をアレンジし、再掲します。「Permission To Dance」を含む初登場首位獲得曲をオレンジで表示し、また首位獲得曲が各指標も制した場合はその指標を黄色で表示しています。

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全体的に、首位獲得曲はストリーミングに強い傾向が見られます。この指標で20位未満なのは「Butter」(4、6および7週目)のみです。

では、初登場曲で首位を獲得した曲に絞って3指標の動向を見てみましょう。 BTSについては水色で表示しています。

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 ストリーミング指標で5位以内に入らなかったのは3曲ありますが、BTSは「Life Goes On」と今回の「Permission To Dance」が該当。またラジオは大半が50位未満となっていますが、200万に満たない曲が「Permission To Dance」を含め5曲あります。一方で、ダウンロード10万超えの作品は7曲あり、BTSは4曲すべて達成している状況です。

しかしこのダウンロード10万超えについては、昨年10月以降ほぼなくなります。これは米ビルボードがフィジカル施策を実質無効化したことに因るもの。フィジカル施策とは、歌手のホームページにて販売されたフィジカル(CD、レコードおよびカセットテープ)について、予約段階で売上としてカウントし、また発送するまでの間楽しんでもらうべく別途用意されたダウンロードもカウントするという、いわば二重取りの策でした。

昨年10月以降、フィジカルは発送段階でのカウントとなり、別途用意されたダウンロードはカウント対象外に。これがダウンロード指標を落ち着かせる要因となりましたが、しかしながらBTSの場合は初週10万超えのみならず、「Butter」については7週連続で10万を超えていました。

昨日、モデルプレスの記事が話題になっていましたが、その"予言"と称した内容が的中したのは記事にもある通り『彼らの夢を共に叶えていく献身的なARMYの尽力』が支えたのは間違いありません。事実「Butter」は首位を明け渡した当週、ダウンロードは前週の半分弱となり総合でも7位に大きくダウンしています。バトンタッチまでの間にコアなファンが支えたと考えるのは、以下の分析も踏まえれば自然なことなのです。

 

その分析とはグローバルチャートを読むこと。グローバルチャートについても以前まとめています。

最新7月24日付グローバルチャートにおいて、「Permission To Dance」はGlobal 200でダウンロードが138600、Global 200から米の分を除いたGlobal Excl. U.S.では94600となり、主要デジタルプラットフォームにおける「Permission To Dance」の米におけるダウンロードは44000と判明。一方で歌手のホームページにおける販売分も含む米ビルボードソングスチャートのダウンロードは140100であり、これらからホームページ経由で購入された分が96100と推測できるのです。

前作「Butter」でも見られた歌手のホームページ経由の購入の多さはグローバルチャートの登場により可視化できるようになりましたが、歌手のホームページで購入する心理について、以前このように推察しています。

BTS「Butter」がデジタルプラットフォームでも安価販売されていながら、歌手のホームページで購入するという心理とはどのようなものでしょうか。前者での購入ならばパソコンやスマートフォンの新調や紛失等の際、追加料金無しでダウンロード可能となり利便性がより高いはずですが、より直接的な利益になってほしい、もしくは万一の際に追加料金を支払うことをいとわないという心理が働いているのではと考えます。

仮にそうならば、この心理はコアなファンにこそ多いものと言え、ゆえに米におけるダウンロード指標の多くが歌手のホームページ経由で、ファンの熱量により買われていると想像することが可能です。強引な結論かもしれませんが、接触指標以上に所有指標が強いこと、その中にあって歌手のホームページでの購入分が大きいことから、米における「Butter」のヒットはコアなファンがより強く支えていると言えるのです。

最新週における「Permission To Dance」の指標内容から、購入者の大半がコアなファンであると捉えることができます。

 

 

さて、先述したように「Permission To Dance」はラジオが振るいませんでした。レコード会社のラジオ局へのプロモーションも功を奏し高位置に登場した「Butter」に次ぐ作品だけに、110万という数字には強い引っ掛かりを覚えます。

引っ掛かりを覚える理由は「Butter」との比較にとどまりません。ソングライターとして参加したエド・シーランは、自身の最新曲「Bad Habits」がラジオ指標登場3週目にして早くもトップ10入りを果たしています。ラジオに強いエドが制作に関与しながら「Permission To Dance」がラジオで伸び悩むのは疑問であり、「Butter」の7連覇が大きく影響していないのではと言えるのです。

 

 

「Permission To Dance」については、今のところ「Butter」や「Dynamite」で採られたリミックス投入は行われていません。フィジカルもCD以外は登場しておらず、またそのCDも「Butter」のカップリング扱いとなるため「Permission To Dance」のダウンロード指標には反映されないものと考えます。

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(上記はOfficial BTS Music Store | BTS US Storeより。)

ともすればBTSサイドは、「Permission To Dance」を「Butter」および「Dynamite」とは異なり、チャート振興策とも言えるリミックスやフィジカルの投入をせず、「Butter」の成功を経ての知名度や浸透度、そしてエド・シーラン参加という内容で勝負に挑んだのではないでしょうか。しかしその結果が「Butter」に比べてストリーミング半減、ラジオ110万であるとすれば、米での知名度等はそこまで大きくないと考えていいかもしれません。これはBTSの米における運営サイドの課題といえます。

 

そして、米ビルボードはチャートポリシーの改善を議論するタイミングにきているかもしれません。フィジカル施策の無効化は、大きすぎたフィジカルセールスと社会的ヒットとの乖離、および首位獲得の翌週における急落を踏まえ、首位という称号の形骸化をこれ以上生ませないという意味での措置でした。BTSにおいては所有指標の偏りが続くことで、今後首位獲得は増えるだろうものの翌週急落することが予想できます。

無論「Permission To Dance」の次週の動向を踏まえて判断する必要がありますが、リミックス施策が採られないならば「Life Goes On」の1→28位のようなチャート推移を辿る可能性もあります。初登場時ラジオ指標84.4万ながらストリーミングの強さで総合2連覇を達成したポロG「Rapstar」の例もありますが、所有指標は維持が難しく、「Permission To Dance」が次週も10万以上のダウンロードをキープできるか微妙です。

ビルボードジャパンにおいてはフィジカルセールス指標において一定枚数以上の売上に係数処理が行われていますが、その方式を採用するのもいいでしょう。歌手のホームページにおける販売分に係数処理を採用することや、そもそもダウンロード指標のウェイトを下げる等の措置も考える必要があるでしょう。米ビルボードはそれらを採用するしないに関わらず、まずは議論することを願います。

 

 

このように書くと、BTSへの個人的な見方が強く反映されているのではと問う向きがあるかもしれません。しかし、たとえば「Butter」についてはその内容を高く評価しています。

その一方で、客観的なデータやチャートポリシー変更の歴史を踏まえれば、冷静に指摘することの必要性を感じます。BTSは首位初登場が当然の状況になっており、また今後も続くでしょうが、ストリーミングやラジオといった接触指標がきちんと伸びてこそ、より社会的ヒットに成るものと考えます。つまりはライト層の拡充が重要であり、運営側やコアなファンが如何にライト層との乖離をなくすかが問われると感じています。