イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

「きらり」「三原色」…新たに用意されるCMソングがヒットする状況を踏まえ、企業の攻めの姿勢を願う

7月2日にリリースされた、YOASOBI「三原色」が好調です。

NTTドコモ"ahamo"CMソングとして春からOAされている「三原色」。日本のSpotifyデイリーチャートでは7月2日付で20位を記録し、iTunes Storeではリリース日の午前2時以降毎時首位を記録し続けています。

 

 

さて、YOASOBIにおいては面白い流れが生まれています。

タカラトミーが今月発売するぷにるんずのCMソングに昨年の「ハルカ」が起用。さらにNintendo Switchでは「ハルジオン」、ダイハツのタフトでは「あの夢をなぞって」というように、リリースから1年前後が経過した曲がタイアップに使われているのです。ikura(幾田りら)さんの声の良さや曲のキャッチーさ、YOASOBIの認知度の高さや信頼感を受けての起用かもしれません。

曲のリリースから数年経てのタイアップ起用は珍しくなくなってきています。あいみょんさんの4年前のフィジカルシングルに収録された「青春と青春と青春」は今月9日にミュージックビデオが解禁。CMソングに使われたことが背景にあるのは間違いないでしょう。

 

 

リリースから数年経過した曲がタイアップに起用されているのは面白い現象ですが、CMソングの主流は現在においても過去曲の替え歌にあることは間違いないでしょう(上記記事参照)。耳馴染みのあるメロディに意外性のあるフレーズを挿入することによる引きの強さやネットでの話題につながることがこの背景にあり、オリジナルのCMソングが減少していると言えます。

(なお数年前の曲をタイアップに用いることは、起用される曲が大きくヒットしていなくとも、認知度等の高い歌手を起用することで商品やサービスの信頼度を補強することが理由にあると考えます。先述したあいみょん「青春と青春と青春」はカップリング曲であり、またYOASOBIの曲のうち「あの夢をなぞって」は彼らのオリジナル曲の中でもチャートアクションが特に高くありません。)

また、以下の記事ではCMのためにオリジナルソングを書き下ろすことの良し悪しを関係者が語っています。

『新曲は楽曲使用料、放送使用料が安かったり免除もあったりで、使用する側としてはありがたいけど、その分、歌を聴かせたいとかサビを使いたいとか、条件も多い』そうですが(『』内は上記記事より)、この指摘は歌手のこだわりをわがままだと思わせかねず違和感を覚えます。そしてそれ以上に引っかかるのが、オリジナルソングで勝負しようとしない企業側の守りの姿勢。数年前の曲の起用も守りの一種ではないでしょうか。

 

 

だからこそ、この曲の意義がより高まるというものです。

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藤井風さんがHonda VEZEL e:HEV CMソングのために書き下ろした「きらり」は、ビルボードジャパンソングスチャートにおいて前週まで7週連続でトップ10をキープ。ヴェゼルのCM起用曲は歌手にさらなる箔をつけると以前ブログで記しましたが(下記参照)、「きらり」が藤井風さんにとって最大のヒット曲となっているのはまさにその証明と言えます。

「きらり」がヒットに至った理由のひとつが、CMの高い好感度の獲得。その理由に惹かれます。

40歳代をはじめとした成人層を中心に支持を集め、軽快なCMソングを高く評価するコメントが相次いだ。CM好感要因は「音楽・サウンド」で多くの票を得た。

また公式サイトやSNSではCM楽曲をフルバージョンで楽しめるブランドムービーや、GOOD GROOVERがそれぞれの視点、表現でVEZELの魅力を伝えるコンテンツを発信するなど、“参加・共体験・共有型”のコミュニケーションを展開している。これらの取り組みが奏功し、本作は総合10位にランクイン。

YouTubeにアップされたブランドムービーはテレビCMのような尺の制約がないため、曲をフルで使用しています。テレビCMで抱いた好印象をより強固にする効果をブランドムービーがもたらし、藤井風さんが書き下ろした「きらり」のインパクトもさらに高めることにつながったのではないでしょうか。

 

 

さて、冒頭で紹介したYOASOBI「三原色」はリリース前からahamoのCMソングに起用されており、3月度のCM好感度ランキングでは首位を獲得しています。

YOASOBI側もCM用のスペシャルムービーを制作しており、CM好感度の上昇に寄与しているだろうことが解ります。

 

新曲が用意されたCMが高い好感度を獲得すれば、ブランドイメージや認知度の向上、さらにタイアップ曲のヒットという結果に大きくつながるのではないでしょうか。「三原色」の今後のチャート動向を注目しつつ、同時に企業側が起用するCMソングにおいて、保守ではなく挑戦する姿勢を持つことを願うばかりです。