イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

藤井風「grace」がSpotifyで上昇…ビルボードジャパンでもトップ10入りを狙える、その勢いの理由とは

藤井風さんの新曲「grace」が、iTunes Storeのランキングでトップ10内を推移する等好調です。10月10日月曜からの1週間を集計対象とする10月19日公開分(10月24日付)ビルボードジャパンソングスチャートにおいてはダウンロードおよびストリーミング指標における集計期間前半3日分の速報値が本日発表予定ですが、この速報次第では強力な新曲が多い中で次週の総合ソングスチャートトップ10入りも十分考えられます。

「grace」はSpotifyにて、初登場で日本におけるデイリーチャートトップ50入りを果たしています。Spotifyでは日本のトップ50プレイリストの存在が大きく、50位以内に登場しプレイリスト入りを果たした曲が数日かけて急浮上、逆に50位圏外となりプレイリストから外れれば数日中に急落するという性質があります。50位以内にはなかなか入りにくいことから、このブログでは”50位の壁”と形容しています。

その50位の壁を、「grace」は軽々と越えてきました。藤井風さんのSpotifyデイリーチャートトップ50入りは「きらり」(2021)、「まつり」(2022)、「死ぬのがいいわ」(2020)に続くもので、「きらり」はリリース前日に138位に入った翌日に47位へ上昇、「まつり」はリリース日に112位に入り翌日に48位とリリース直後に50位の壁を超える傾向にあり、「grace」はその流れをなぞったとも言えます。

(なお「死ぬのがいいわ」は収録アルバム『HELP EVER HURT NEVER』リリースの2年後にTikTokのバズが東南アジアを機に発生し、日本でもトップ10ヒットに至っています。)

ゆえに「grace」のヒットは堅いと言えたかもしれませんが、サブスクに強い歌手でもヒットを続けることは難しい状況です(たとえばYOASOBIは「祝福」にて、2022年リリースのシングルでははじめてトップ50入りを果たしています。YOASOBI「祝福」が好調なチャートアクション…『NHK紅白歌合戦』3年連続出場なるか注目する(10月9日付)をご参照ください)。今回は藤井風「grace」のヒットの理由と背景を分析します。

 

 

「grace」は「きらり」同様CMソングのタイアップであり、CMには本人が出演。docomoの公式YouTubeチャンネルではロングバージョンもアップされています。これがリリース直後のロケットスタートに寄与したことは想像に難くありません。

近年はTikTokを用いたティザー(ティーザー)の活用がヒットに結びつく例が目立ちます。直近ではサム・スミス & キム・ペトラス「Unholy」がグローバルチャートを制し、なとり「Overdose」がビルボードジャパンソングスチャートで4位まで上昇していますが、ティザーの用意が期待値やUGG活用を高めたと言えます。このティザーの役割を、「grace」においては本人出演CMタイアップが果たしたと考えていいでしょう。

 

加えて今夏以降、注目度の高さが続いたことが「grace」の初動につながったといえます。世界でバイラルヒットした「死ぬのがいいわ」が日本でも逆輸入的にヒットする中、セカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』に収録された「damn」のミュージックビデオが先月末に公開。歌手への注目度が高い状態を維持した中で、「grace」が解禁されたのです。

(なお、「死ぬのがいいわ」はバイラルヒット後にライブ映像をYouTubeにてアップしていますが、これらについては(追記あり) 藤井風「死ぬのがいいわ」がSpotifyグローバルチャート初登場…背景にある戦略に注目、そして今後のポイント(9月6日付)等で紹介しています。)

「死ぬのがいいわ」のバイラルヒットに伴い、米ビルボードによるグローバルチャートでも同曲がランクインを続けていますが、同チャートのストリーミング指標にデータを提供するSpotifyにおいても、「死ぬのがいいわ」の凄さが可視化されています。

藤井風は、2020年にリリースされたファースト・アルバム『HELP EVER HURT NEVER』の収録曲「死ぬのがいいわ」がSpotifyグローバルTOP100に国内アーティストとして初めてチャートインし最高61位まで浮上。そしてSpotifyではグローバルを含めた全74マーケットでデイリーバイラルチャートを発表していますが、そのうち全てでTop30入り、20カ国以上で1位を獲得しています。グローバルデイリーバイラルチャートでも最高4位を記録しています。マンスリーリスナーも826万人を超えており(10月12日午前時点)、国内アーティストで600万人を超えているアーティストは他にいません。

加えてSpotifyでは、「死ぬのがいいわ」のバズ前後にて、藤井風さんのフォロワー数が2ヶ月弱で30万以上増加しています。フォローすることで新曲リリース時にアナウンスされる等、新着情報を押さえることが可能となります(フォローの意味等はアーティストをフォローする - Spotifyをご参照ください)。これもまた、上位初登場に大きく寄与したことでしょう。

(データを定点観測されている、はな-♪さんのツイートを勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします。)

 

藤井風さんは今週末、”風の秋まつり”と題したスタジアムライブを2日間開催します。

おそらくはこのスタジアムライブで「grace」が披露される可能性が高いと思われます。会場となるパナソニックスタジアム吹田は収容人数が4万弱であり(スタンド席の一部は使われないものの、アリーナ席を用意していることを踏まえれば1日の来場者数は4万前後になるのではないでしょうか)、多くの観客が予習の意味も兼ねて「grace」を覚える、それがSpotifyをはじめとするサブスクでの強さにつながったとも捉えています。

 

そしてもうひとつ。SNSでのアイコン等の変更も話題になりました。

「grace」のリリース直前にTwitterInstagramのアイコンが突如真っ黒や真っ白となり、多くの方を驚かせました(現在Twitterのそれは「grace」のデジタルジャケットに変更済。そのアイコン変更を紹介するKazeverカゼーバさんおよびみっちー(Mitchie)さんのツイートを勝手ながら紹介させていただきました。問題があれば削除いたします)。ここから思い出したのが、海外の歌手におけるSNS全削除という行動でした。

テイラー・スウィフトは2017年夏にSNS上のコンテンツをすべて削除しファンに衝撃を与えた後、蛇の動画をアップ。これがニューアルバム『Reputation』のリリース予告および先行曲の配信につながっています。

個人的に、テイラー・スウィフトの行動自体には強い違和感を覚えます。これまでシェアし続けてきたコンテンツをすべて消すことはファンとの共有財産を消したことにもなり、且つ過度な心配を与えるためです。とはいえ話題作りという点では効果が大きいことも確かであり、今回藤井風さんがSNS内コンテンツの削除に至らなかったことに安堵すると共に、アイコン変更等の行動も「grace」動向に寄与したものと考えます。

 

 

藤井風「grace」は日本におけるSpotifyデイリーチャートで10月10日付で30位に初登場すると、18→16位と上昇。再生回数も125,614→137,256→166,925回と推移しています。上位には急上昇曲が複数あるためトップ10入りは難しいかもしれませんが、直近のデイリーチャートで3曲以上がトップ50入りしている歌手は少なく、「きらり」「死ぬのがいいわ」そして「grace」を送り込んでいる藤井風さんの勢いがよく解るのです。

個人的には、世界でバズが発生した「死ぬのがいいわ」へも注目が集まる追加施策の用意も必要と感じています。新曲投入は過去曲の押し上げにもつながりますが、今週末のスタジアムライブでも何かしらの動きがあればと期待しています。そして「grace」が10月19日公開分(10月24日付)ビルボードジャパンソングスチャートで何位に初登場を果たすか、注目しましょう。