毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。
5月24~30日を集計期間とする6月2日公開(6月7日付)ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。BTS「Butter」がデジタルで圧倒し、初の首位に輝きました。
【ビルボード】BTS「Butter」、503,745枚を売り上げた日向坂46「君しか勝たん」を抑え総合首位 https://t.co/AWd4H2LeHE pic.twitter.com/QCWLpbExoz
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年6月2日
下半期初週、ビルボードジャパンは3つの大きな変革(チャートポリシー変更)を実施し、ますます社会的ヒットの鑑と言える存在になりました。今回はこの3つの変革をメインにお伝えします。
実は今週、チャートポリシー変更前ならば日向坂46「君しか勝たん」が首位になるはずでした。
総合2位となった日向坂46の「君しか勝たん」は、シングル初週売上503,745枚と、昨年2月にリリースされた「ソンナコトナイヨ」の初週売上556,724枚と遜色ない枚数を売り上げ、シングル1位とルックアップ1位の2冠となったが、他指標でTwitter 3位、ダウンロード6位、ラジオ30位、動画再生70位と今ひとつポイントを積み上げられず、次回に期待は持ち越しとなった。
前作「ソンナコトナイヨ」はフィジカルセールス加算初週に36084ポイントを獲得しており、同指標が前作と遜色ない「君しか勝たん」はおよそ35000ポイントを獲得すると見込まれていました。しかし蓋を開けると2万をわずかに超える程度だったのです。
下半期初週となる今回、ビルボードジャパンはフィジカルセールス指標のウェイト減少に踏み切りました。
2017年以降、シングル・セールスをHOT 100に合算する際、レシオの平均値が大きく変わる週に関しては、係数を掛けて合算していました。2021年6月2日公開以降、シングル・セールスとデジタル・セールスのバランスをさらに安定させるため、係数を変更しております。今後とも、よろしくお願い致します。
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年6月2日
一定枚数を超えるフィジカルセールスに対し係数処理が行われていましたがその上限を下げたということ。ビルボードジャパンは具体的な枚数を明かしていませんが、30万→10万となったと複数の方が指摘されています。
チャート設計変更の公式アナウンスが出た。一週間のCD売上が多すぎる場合に適用される「係数処理」が変更されたとのこと。手元計算した結果、従来は「30万枚以上」のCDが通常のポイント換算率の1/10程度に抑えられていたが、これが「10万枚以上」に変更された可能性が高い。https://t.co/vZ3EJLuLVj
— あさ (@musicnever_die) 2021年6月2日
よってCD50万の換算点は従来3.2万点((30万枚+20万枚/10)*0.1)だったところ今回1.4万点((10万枚+40万枚/10)*0.1)になったと理解できる(実際の計算方法は不明のため数千点誤差あり)。なおCD指標2位以下に関しては既存換算率のままだった。この変更の影響を受けるのはCD売上が多すぎるアーティストのみ。
— あさ (@musicnever_die) 2021年6月2日
日本で数少ないチャート予想担当のあささんによる指摘は、係数処理枚数の引き下げを証明するに十分と言えます。これで、フィジカルセールスが著しく高い作品がことごとく影響を受ける形となりました。
フィジカルセールス指標のウェイト減少は、上半期の動向を踏まえれば納得がいくものです。
上記は今年度上半期の1位獲得曲一覧ですが、23曲もの首位が代わる代わる誕生してはその大半が翌週急落しています。急落曲はフィジカルセールスの強さが際立つことが共通点でした。
明日発表されるビルボードジャパン上半期ソングスチャートでは優里「ドライフラワー」の最上位が見込まれますが、この曲は週間チャートを制していません。
これはBTS「Dynamite」においても同様。フィジカルセールスに強い曲が首位を獲得しやすい環境が強く影響しており、ビルボードジャパンソングスチャートは長らく首位という称号の形骸化に陥っていたのです。2017年度に係数処理を導入し、2021年3月3日公開分(3月8日付)でフィジカルセールス指標のウェイトを減少していますが、それでもこの状況は続いていました。
フィジカルセールスばかりが突出した曲に、より認知度の高いデジタルでの人気曲が首位の座を阻まれるチャートは健全とは言えませんでした。その状況を憂い、ビルボードジャパンには常に改善要望を提案してきましたが、それが叶ったことに喜びを覚えます。
フィジカルセールス指標の係数処理対象を10万枚にすべきというのは、昨年度のビルボードジャパン年間チャートを踏まえて述べています。その通りになったことに対して嬉しいと述べるのはおかしいかもしれませんが、個人的には強く安堵しています。https://t.co/Vgk9VEG04h
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日
これでビルボードジャパンがますます社会的ヒットの鑑になったと断言していいでしょう。デジタルで人気を誇る曲の、首位獲得とロングヒットの両立を可能にしたのです。
フィジカルセールスに偏った曲はデジタルでヒットしなければ真のヒット曲とは言い難くなりました。そもそもデジタル未解禁であることはもはや許されないレベルに達した…そう言っても過言ではありません。
ビルボードジャパンがフィジカルセールス指標のウェイト減少に踏み切ったことは、首位が激しく入れ替わる点においてオリコンとの差異が感じられないと捉えていた方々に、見方の大きな変革をもたらすことでしょう。
ビルボードジャパンについては未だオリコンとの差がおぼろげな方も少なくないでしょう。オリコンも合算ランキングを用意しましたがフィジカルセールス偏重であり最新チャートは #BTS_Butter が #日向坂46「#君しか勝たん」の1/4未満…体感的にどちらが鑑か解るはずです。https://t.co/TFVViSdeH5
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日
オリコンについては6年半前に問題点を記載。その後設けた合算ランキングがフィジカルセールス偏重となっているはブログで触れた理由も在ると推測します。
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日
ビルボードジャパンの今回のチャートポリシー変更は、チャートの断固たる独立性を示す上でも大きな意味がありますね。https://t.co/68HyqFifr4
これは邪推と前置きして書きますが、オリコンが変革に至れないのはデジタルに明るくなろうとしない歌手への救済措置という目的が少なからず在るかもしれません。しかしそれではチャートの独立性を自ら捨てたことになるのではないでしょうか。過度な肩入れが自らの信頼失墜に繋がることは、ビルボードジャパンの変革と対照的と言えます。
さて、ビルボードジャパンのチャートポリシー変更はこれだけではありません。
Amazon Musicがプライム会員向けの音楽ストリーミングのデータをBillboard JAPANに提供開始 https://t.co/kTp0agSVrG pic.twitter.com/9qx8o1Zxx8
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年5月28日
Amazon Music Primeのストリーミングデータの反映は事前アナウンス済でしたが、この追加により最新チャートでのストリーミング指標は全体的に大きく伸びたと言えます。
10位の再生回数は今年度2位の高さに。Amazon Music Primeの追加により社会的ヒット曲におけるストリーミングの重要度が高まるのは間違いありません。
そしてHeatseekers Songsチャートにも変更がありました。
ビルボードジャパン、Heatseekers Songsチャートにリカレントルールを導入。
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日
『直近6か月(26週)中4か月相当(17週)以上20位以内にチャートインしたアーティストは除外する新ルールを設けた』とのこと。米ビルボード導入中の新陳代謝を目的としたルールがビルボードジャパンで初めて投入されました。 https://t.co/kOggQqbP8X
こちらの変更はチャート詳報時にアナウンス。リカレントルールは総合チャートには適用されませんが、このルールを設けたことで新陳代謝が生まれ、チャートが活性化されることでしょう。また今後、総合チャートでも導入される可能性が生まれたと言えます。
ビルボードジャパンに対しては、フィジカルセールスのウェイト減少についてアナウンスが遅かったこと(13時台のチャート速報、16時台の詳報の段階で記載無し)に違和感を抱いていました。しかし他の2つの変更を踏まえるに、指標の追加や指標内の拡充およびチャートルールの大きな変更の際にはアナウンスを行い、各指標のウェイト増減のみの場合は行わないというのがビルボードジャパンの基本的な考えでしょう。個人的にはアナウンスは事前に行われるほうが好いと考えますが、ここではこれ以上の言及は控えます。
今回のチャートポリシー変更により、BTS「Butter」が首位を獲得しました。
アメリカそしてグローバルチャートを席巻する同曲のヒットが、ビルボードジャパンでもはっきりと可視化されたことになります。海外の動向については昨日のエントリーをご参照ください。
「Butter」はストリーミングにおいて、これまでの記録を1100万以上も上回り歴代最高を更新したのですから、総合首位獲得は納得であり、そして当然でしょう。
【ビルボード】BTS「Butter」がストリーミング2連覇 再生回数の歴代記録を大きく更新 https://t.co/n6gA1MOVsp pic.twitter.com/WU8TTmwFlV
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年6月2日
カラオケは徐々に伸びる指標ゆえ300位以内にランクインしていないのは自然なこと。フィジカル関連の2指標およびカラオケを除く5指標が2位以上、そしてダウンロード以外は首位というのが、「Butter」の圧倒的な首位獲得の理由なのです。
他方、フィジカルセールスに強い曲においてはデジタルの拡充がますます必須となります。日向坂46「君しか勝たん」はストリーミング100位未満ながら300位以内となり加点対象となりましたが、ストリーミング指標の順位が低くとも十分ポイントを獲得していることが解ります。つまり、フィジカルセールスに強い曲がデジタルにも強くなれば完璧な勝利を掴むことができるということなのです。
今後、ヒットの理想形を描くフィジカルリリース曲が登場すること、そしてデジタル未解禁曲がきちんと解禁されることを願います。今回のビルボードジャパンのチャートポリシー変更は、チャートのみならず音楽業界そのものの健全化を促すものと期待します。
このタイミングでのアカウント開設と、ビルボードジャパンソングスチャートにおけるフィジカルセールス指標のウェイト減少とを絡めて呟く方が少なくありません。
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日
チャートポリシー変更は当該事務所所属歌手において不利となり、それに危機感を抱いた事務所側が開設に至った…そんな見方がみられます。 https://t.co/aLDFZkMQxr
単なる偶然だろうとは思います。しかしながらそのような見方は、ジャニーズ事務所に対しデジタル解禁等ネットの充実を求める声が少なくないことの表れではないでしょうか。
— Kei (@Kei_radio) 2021年6月2日