毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を紹介します。
3月1~7日を集計期間とする3月15日付ビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)。Ado「うっせぇわ」が初の首位を獲得しました。
【ビルボード】Ado「うっせぇわ」自身初の総合首位 話題の藤井風「旅路」が総合10位に登場 https://t.co/mXgfqLhDHw pic.twitter.com/bQuEfwKqtO
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2021年3月10日
今週は8週ぶりに、フィジカルセールス指標を制した曲が総合首位を逃した形となりました(フィジカルセールス1位のBEYOOOOONDS「激辛LOVE」は総合9位)。前週2位の優里「ドライフラワー」と同3位のAdo「うっせぇわ」の戦いは蓋を開けると、両曲共にポイント前週割れを起こしているものの「うっせぇわ」のポイント前週比が98.5%だったのに対し「ドライフラワー」が同93.9%となり逆転、242ポイント差をつけ「うっせぇわ」が初の首位を獲得した形です。
優里「ドライフラワー」は、自分が抱いていた最悪のシナリオをなぞる形となってしまいました。
2月16日に突如、ミュージックビデオがフルバージョンから短尺版に差し替えられた(それでいて再生回数は引き継がれた)「ドライフラワー」。3月11日午前5時の段階でもミュージックビデオはショートバージョンのままです。なお、優里さんの他のミュージックビデオにおいてフルバージョンには(フル)と動画タイトルに付けられており、ともすれば優里さん側にとって短尺版がデフォルトなのかもしれませんが、他の歌手の作品の多くがフルバージョンにフルと付けないことを踏まえれば、やはり腑に落ちないというのが正直なところです。
ショートバージョンにより再生回数は急激に鈍化したのみならず、動画の説明欄に掲載されたURLを経由してダウンロードやストリーミングの各デジタルプラットフォームに遷移する数も減ったというのがこの3週の流れとなってしまいました。
とはいえ最新チャートにおいてはダウンロードが前週比100.4%、ストリーミング再生回数が同94.1%であり、総合ポイントの前週比(93.9%)を上回っています。これは集計期間初日に『CDTVライブ!ライブ!』 (TBS)でのパフォーマンスが影響したものと考えられますが、しかしテレビ出演は本来もっと大きな上昇につながるはずであると考えれば、その効果の鈍さにはミュージックビデオ短尺版化が影響を及ぼしたと考えるのが自然でしょう。なお、現在報じられている内容が不信感となって優里さん離れにつながったという話を昨日になって耳にしたのですが、自分はゴシップに疎くその点はよく解りません。たしかにラジオ指標の41位→100位未満(300位圏内)という急落はその影響があるのかもしれませんが、個人的にはミュージックビデオ短尺版化に伴う不信感のほうが高かったと考えざるを得ません。
他方、Ado「うっせぇわ」は3月5日に登場した現代ビジネスの記事も大きく影響。1万を大きく上回るリアクション数が曲の話題性につながりTwitter指標24→11位に、そして総合首位に押し上げたと言っても過言ではないはずです。
「うっせぇわ」を聞いた30代以上が犯している、致命的な「勘違い」 : https://t.co/u6J9mqB5p8 #現代ビジネス
— 現代ビジネス (@gendai_biz) 2021年3月4日
昨日のブログエントリーでは『関ジャム 完全燃SHOW』に関連した内容を紹介しましたが、この番組放送中に以下のツイートを記載しています。
仮に #関ジャム @kanjam_tvasahi で【音楽チャートに大きな影響を与えた曲】企画があったなら。
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月4日
CDセールスに係数処理が施された2017年度以降でざっと思いつく限り、
「#ShapeOfYou」「#打上花火」「#Lemon」「#USA」「#アイデア」「#ダンシング・ヒーロー」「#Blizzard」「#夜に駆ける」「#炎」等かな
ロングヒット、プレイリストの活用、2年連続チャート制覇、再ブレイク、配信のみでの連覇達成、UGCによる再ブレイク、Twitter指標の攻略、ファンとのエンゲージメントやTHE FIRST TAKEの活用、フィジカル/デジタルの同週リリース…ひとつ前のツイートで挙げた曲の特徴はこういったところでしょうか
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月4日
取り上げた曲は成功例ですが、厳しくも優里「ドライフラワー」のミュージックビデオ短尺版化はこの真逆として紹介する必要がある…それだけ今回の短尺版化は全くもって意味がなかったと捉えています。
その一方で、ビルボードジャパンにも問題があるというのが厳しくも私見です。
最大の問題「高CD売上曲による週間1位占拠」はビルボードの要改善点。「特定アーティストはCDを出せば楽曲人気に関係なくほぼ確実に1位になる(そして翌週TOP10圏外に吹き飛ぶ)」今の集計方法は楽曲人気チャートとしては欠陥。今週のKAT-TUNの推移も見ながら更なるCD換算率減少余地を探ってほしい。
— あさ (@musicnever_die) 2021年3月10日
チャート分析に長け予想も行うあささんが指摘する"欠陥"というのは、大袈裟のようにみえてそんなことはありません。
2020年度以降の週間首位獲得曲について表にまとめていますが、フィジカルセールス1位の曲が総合首位を獲得しながら、その翌週にはトップ10落ちに至るパターンが散見されるのです。Ado「うっせぇわ」が首位を獲得する前の7週間に首位の座に就いていた曲のうち首位獲得の翌週にトップ10内に残ったのは3曲ありますが、ポイント前週比は高くても3割には届かないのが現状。それを踏まえれば、フィジカル未リリースの優里「ドライフラワー」が如何に安定し、首位の座をうかがいながらも初週フィジカルセールスに長けた曲に抑えられてきたかがよく解ります。
長期に渡り上位に登場する「ドライフラワー」が現段階まで首位を獲れない事態はミュージックビデオの短尺化問題も一因ですが、フィジカルセールス指標に長けながら同指標加算2週目に総合順位を大きく落とす曲が入れ替わり首位に就く状況、すなわちフィジカルセールスの影響度の大きさが問題であると考えます。たとえば現在30万と言われている係数処理基準値を10万にする等(これは一例ですが)、フィジカルセールス指標のウェイト減少を強く希望します。
フィジカルセールスをそこまで弱くしていいのかという意見もあるかもしれません。ビルボードジャパンが用意するCHART insight(下記リンク参照)では、総合首位および各指標毎の順位を並べ替えて表示できるのですが、ストリーミングや動画再生とフィジカルセールスでは、後者の順位が総合と著しく乖離していることが解ります。この点が、フィジカルセールスのウェイト減少を望む理由と言えば納得していただけるはずです。
フィジカルセールスに強い曲は同指標の加算2週目におけるチャートアクションをみて真の社会的ヒットに至れるかを判断すべきである…ブログではいつも述べていることですが、本来は1週分見ただけでも真の社会的ヒットがみえる、最上位に来ているという状況こそチャートの望ましい形なのです。