3月3日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』が評判と、一方では波紋を呼んでいます。
今週はスペシャル番組が続々‼️
— テレビ朝日宣伝部 (@tv_asahi_PR) 2021年3月3日
今夜6:45※一部地域を除く
「#関ジャム 完全燃SHOW」ゴールデン2時間SP
J-POP20年史 プロが選んだ最強の名曲ベスト30#関ジャニ
3/6(土)よる6:56 「#中居正広 の #ダンスな会」
3/7(日)よる6:30「#ノブナカなんなん?」ゴールデンSP#ノブナカ #ノブ #弘中綾香 pic.twitter.com/ri5TdqnoNc
【J-POP20年史 プロが選んだ最強の名曲】企画で選ばれた曲は2000年代前半および2010年代後半の楽曲が大半。前者はオリコンランキング、いわゆるフィジカルセールスが社会的ヒットの鑑と言えた時代のヒットであり、後者はビルボードジャパンソングスチャートが徐々認知度と信頼度を高めて以降、ストリーミングやダウンロード等複合指標に基づくヒット。後者においては個人的に、ビルボードジャパンが2017年度よりフィジカルセールスにおいて係数処理を導入したことが尚の事貢献していると考えていますが、ビルボードジャパンとオリコンのいわば"狭間のヒット曲が見えにくかった"ことが、選出されにくかった理由と言えるでしょう。
尤も、選者が"最強の名曲"を何を基準にして決めたかは人それぞれであり、その選出基準を番組側が絞らなかったことによる曖昧さも影響していると考えます。音楽業界にとってエポックメイキングであったこと、純粋に名曲であると考えること、社会的なヒットと考えること、個人的な思い入れ等その基準は様々でしょうが、各選者のランキングを総計すれば各々の選出基準が均され、狭間のヒット曲が抜け落ちた現象が生まれたのではないでしょうか。
この点について、音楽分析に長けビルボードジャパンソングスチャートを細かく予想する、ブログ Billion Hits!筆者のあささんは、狭間の時期においてヒットの指標となるダウンロードのミリオンセールスを紹介するよう申し出ています(下記ツイート参照)。『関ジャム 完全燃SHOW』にはご意見・ご要望募集フォームがあります(→こちら)。あささんの思いを番組に送ったほうが好いと伝えた身として、このダウンロードのヒット曲に光を当てる意味も含め、自分は【ビルボードジャパンソングスチャートについてきちんと紹介する機会を設けるべき】との意見を提出しました。
昨日のあささん(@musicnever_die)の意見投函 https://t.co/EssU0tOgXs を踏まえ、自分も #関ジャム(@kanjam_tvasahi)宛に意見を送付しました。チャート紹介企画を軸に記載しています。 pic.twitter.com/fMZMOmJhih
— Kei (@Kei_radio) 2021年3月4日
今回、問い合わせ内容を開示したのは、以前『CDTVサタデー』(TBS)におけるランキングの不自然さを問い合わせながら終ぞその回答を得られなかったことを踏まえてのものです(この問題については日本も世界も席巻するLiSA「炎」が『CDTVサタデー』で首位未到達という疑問について(2020年10月28日付)にて記載しています)。またこの指摘を踏まえ、近日中にビルボードジャパンソングスチャート(Hot 100)について、自分なりに基礎的解説をブログにまとめる予定です。
それにしても、今回のランキングへのリアクション、特に"波紋"においては様々考えさせられることがありました。たとえば、選者のひとりがあるジャンルの不在を糾弾していた件。
#関ジャム「プロが選ぶJ-POP最強の名曲ベスト30+20(2000年~2020年リリース)」の反響が大きい。
— 松尾潔 (@kiyoshimatsuo) 2021年3月6日
諸意見あろうが、選者のひとりとして最も驚くのは、ラップは41位の「楽園ベイベー」ただ1曲だったこと。言葉を失う。
この20年間ヒップホップが存在していなかったかのよう……この国のおそろしさ!
RHYMESTERファンの自分としてはたしかに残念ですが、しかし"この国のおそろしさ"という表現は国民を愚弄しているのみならず、同じ選者(の存在や考え方)をも否定してやいないでしょうか。そして先述したように、選出基準を明確化していなかったことも問題だと思うのですが、強固な私見に基づく強烈な非難はどんな言葉を投げかけるのも無意味なくらい、それこそ言葉を失わせるものです。
ヒップホップが軽視されているということはともすればそのとおりかもしれませんが、ヒプノシスマイクの人気等で緩やかながらヒップホップの重要度は認知されてきているところでしょう。音楽評論を生業にする方が行うべきは過度な非難ではなく、どうすればもっと広く国民に伝えられるかを考え行動することだというのが私見。敵視することは論外だと思うのです。
こないだの関ジャムの「プロが選ぶJ-POP最強の名曲ベスト30 2000−2020」にラップやヒップホップのヒット曲がほとんど選ばれていないという話。いろんな説があると思うけど「一青窈のルーツがローリン・ヒルだった」というのは、とても示唆的なエピソードだと思う。https://t.co/IqeSZfJ0xl
— 柴 那典 (@shiba710) 2021年3月8日
音楽ジャーナリストの柴那典さんは過去の自身のコラムを紹介しています。このエピソードはたしかに示唆的かもしれませんが、たとえば一青窈さんのルーツにフージーズのローリン・ヒルがいること、「ハナミズキ」(2004)とブラック・アイド・ピーズ「Where Is The Love?」との比較等を紹介すれば、「ハナミズキ」を知っている方に対し小さくともヒップホップへの興味を芽生えさせることができるのではないでしょうか。音楽を紹介する方が語るべきことはこういうことだと思うのです。
また、あささんの指摘を紹介した記事もありましたが、その表現には引っ掛かるものがあります。
先日触れた『関ジャム 完全燃SHOW』の企画について、再度整理し直して記事化しました。音楽メディアの変化とオリコンの機能不全によって、ヒットが見えにくい時期がありました。
— MATSUTANI Soichiro (@TRiCKPuSH) 2021年3月8日
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J-POPの失われた10年──“ヒット”が見えにくかった2006~2015年(松谷創一郎) - Y!ニュース https://t.co/Z86r6KaRKy
書き手である松谷創一郎さんは以前のコラムでもK-Pop紹介時に日本のアイドルグループを比較対象として用いた上で貶しており、今回はオリコンランキングについて『ぶっ壊れた』と形容…このようなやり方は全くもって快いと思えません。
たしかにオリコンランキングが社会的ヒットの鑑ではなくなっていることには同意しますが、であればメディアで活動する松谷さんはオリコンに対しきちんと意見を提示してきたでしょうか。この疑問は同時に、松谷さんのような感情を抱きつつ行動しなかったであろう音楽業界全体に対しても持ち合わせています。ビルボードジャパンがローンチし今に至るまでブラッシュアップを続けてきたことで同チャートが社会的ヒットの鑑になったと言えるでしょうが(とはいえその認知度はオリコンに劣るだろうというのが私見であり、だからこそ『関ジャム 完全燃SHOW』で取り上げてほしいと思うのです)、仮にビルボードジャパンが今も存在していないならば、現在の日本の音楽の尺度は果たしてどうなっていたのでしょう。本来ならばオリコンランキングがビルボードジャパンのようなスタイルへと早々に是正する必要があったのではないかと思うと、オリコンが変わってこなかったことを問題と思いながら放置したこと、非難を燻ぶらせることに終始したことは正しくないと思うのです。
『関ジャム 完全燃SHOW』での【J-POP20年史 プロが選んだ最強の名曲】が波紋を呼んだと冒頭では記載しました。その波紋を番組への提案の形に昇華させるか、ただの非難の形にとどめさせるかでは、今後の日本の音楽業界が大きく異なっていくと考えるのは決して大袈裟ではないでしょう。あささんや自分の意見が番組側へきちんと届くことを願うと共に、無礼な言葉を平気で述べる方はその言葉に宿る刃や自身の影響度の大きさも鑑みて、やわらかな言葉に変えてほしいと切に願います。これは何も音楽業界に限った話ではありません。