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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

Spotifyで日本歴代最高のデイリー再生回数を記録したYOASOBI「夜に駆ける」、その勢いに影響を与えたものとは

6月7日日曜の日本におけるSpotifyデイリー再生回数、YOASOBI「夜に駆ける」がおそらく前人未到の記録を達成した模様です。

おそらく、と記載したのは日本のSpotifyが公式見解を発表していないため。そこで日本のSpotifyデイリーチャート(→こちら)や、曲毎の最高記録が掲載されたサイト(こちらより辿ることが可能)から上記ツイートの4曲にブレイク中の瑛人「香水」を加えた5曲の【日本におけるSpotifyデイリー再生回数推移】をグラフ化してみました。

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グラフの対象期間はビルボードジャパンの2020年度に準じ、6月8日分までを掲載していますが、今回取り上げた5曲はいずれもデイリー再生回数で今年度に最高を更新。そして実際にYOASOBI「夜に駆ける」が他の曲を上回り且つデイリー初の25万回再生を突破しています。コロナ禍による自粛等でサブスク利用者が伸びたことを踏まえても、これは間違いなく最高記録達成と言えます。

 

5曲の最高記録達成日には特徴があり、King Gnu「白日」は1月19日日曜。基本的に土日が伸びるのがSpotifyの特徴ですが、アルバム『CEREMONY』が同月15日にリリースされていることからアルバムの勢いが如実に表れた形。Official髭男dism「I LOVE...」の最高記録は3月20日金曜で、主題歌に起用されたドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS)の最終回放送の3日後でありドラマ熱の反映と言えます。新しい曲の人気が以前リリースした曲の再浮上も促すことは、「Pretender」が同じ日に最高を記録したことからも証明可能です。

そしてYOASOBI「夜に駆ける」は6月7日日曜で、瑛人「香水」もこの日初の20万回再生を突破。おそらくは6月5日にYOASOBIが『あさイチ』(NHK総合 月-金曜8時15分)で、瑛人さんが『ミュージックステーション』(テレビ朝日 金曜21時)で取り上げられたことが大きく寄与していることは如実に想像出来ます。今後テレビ番組でパフォーマンスされる機会があれば、再生回数がさらに上昇するかもしれません。つまり、最高記録達成日にはきちんとした理由があるのです。

 

さて、サブスクリプションサービスの中でもSpotifyで人気を博すことは、その曲がサブスクを主に利用すると思しき若年層を越えて広い世代で人気になっていることの証明と捉えています。

そんな中でYOASOBIは、これまでリリースした3曲についてSpotifyの映像ループ機能を付加。このことも、Spotifyでの再生回数上昇のステップとして大きな役割を果たしたのではないでしょうか。このブログでは以前から彼らの施策の素晴らしさを紹介しているのですが、このループ機能の早期導入についてもただただ感服するばかりです(他方このループ機能は、日本の歌手で利用する方が未だ少数であり、非常に勿体ないと考えます)。この映像ループ機能については以前紹介しています。

 

今日発表される6月15日付ビルボードジャパンソングスチャートにおいて、チャートを構成するストリーミング指標(サブスクの再生回数を基とする)の集計期間前半の速報ではYOASOBI「夜に駆ける」が首位を独走していました。最終的にストリーミングで新記録を樹立し、総合で3連覇を果たすかに注目しましょう。

 

なお、自分がスタッフの一員を務めるラジオ番組、『わがままWAVE It's Cool!』(FMアップルウェーブ 日曜17時)では6月14日の放送で【YOASOBI特集】をOAします。彼らの曲としての魅力をDJたくみくんがプレゼンし、ここで書いてきたチャート推移や施策等については自分が紹介する予定です。どうぞよろしくお願いします。

ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」が首位獲得、TikTokで月45億再生された「Roses」がトップ10入り…6月13日付米ビルボードソングスチャートをチェック

ビルボードのソングスチャートをチェック。現地時間の6月8日月曜に発表された6月13日付最新ソングスチャート、前週フィジカル施策が功を奏し初登場で首位を獲得したレディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」が5位に後退。ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」が前週から2ランクアップし初の首位を獲得しました。

「Rockstar」はストリーミングが3480万を獲得、前週比2%ダウンながら同指標3週目の首位に。ダウンロードは前週比10%ダウンの11000(同指標4位)、ラジオエアプレイは同22%アップの2000万(同指標36位)となっています。ポスト・マローン feat. トゥエニーワン・サヴェジの同名異曲、「Rockstar」が2017年10月から8週間首位を獲得していますが、ダベイビー版はどこまで伸ばすでしょうか。

ダベイビーは米ビルボードソングスチャート(Hot 100)エントリー38曲目にして首位に到達。初のエントリーは昨年4月13日付での「Suge」(同年7月に最高7位を獲得)であり、短期間で頂点に上り詰めたことが解ります。一方ロディ・リッチは今年「The Box」で初の頂点に立ち11週首位を獲得。同じ年に初の1位を輩出しさらに首位曲を生んだことになり、エド・シーランが2017年に「Shape Of You」、そしてビヨンセを迎えた「Perfect」で達成した以来となります。

5月9日付(トラヴィス・スコットとキッド・カディによるザ・スコッツ「The Scotts」が制覇した週)以降、6週連続で首位が入れ替わりそのすべてが初の首位になった米ビルボードソングスチャート(しかもその全てがコラボ曲)。そのうち前週首位を獲得したレディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」までの5曲がいずれもフィジカル施策を実施。CDやレコード、カセットテープといったフィジカルが公式サイトで販売され、購入者には買ったタイミングでダウンロードが可能になるというこの方式は、ダウンロード指標を押し上げるのに有効ながらもその施策効果が薄れる翌週に同指標のみならず総合でも急落する可能性が高いという諸刃の剣なのです。現に前週首位の「Rain On Me」は5位に後退、ストリーミングは前週比36%ダウンの2000万(同指標3位)、ラジオエアプレイは同59%アップの1760万(同指標41位)、そしてダウンロードは同91%ダウンの6000(同指標11位)となっています。今週の米ビルボードアルバムチャートはレディー・ガガの『Chromatica』が制していますが、仮に同作のリリースタイミングが遅れていたならばストリーミングを稼げず、「Rain On Me」のトップ10落ちもあり得たでしょう。そう考えれば、フィジカル施策未実施の「Rockstar」でようやく、真に社会的ヒット曲が首位に立ったのではと言えるかもしれません。また5月2日付まで通算4週首位に立っていたザ・ウィークエンド「Blinding Lights」は今週1ランクアップし3位に。ラジオエアプレイが前週比1%ダウンしながら7630万を獲得し同指標9週目の首位に輝いていることを踏まえれば、相次ぐ首位後退という嵐にも負けず踏みとどまるこのような曲こそ真のヒットと言えるはずです。ちなみにダウンロード指標を制したのはミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」(総合2位)で、前週比18%ダウンの14000を獲得しています。

 

新たなトップ10入りを果たしたのはセイント・ジョン「Roses」。ストリーミングは前週比15%アップの1670万(同指標9位)、ダウンロードは同4%ダウンの8000(同指標7位)、ラジオエアプレイは同10%アップの2680万(同指標22位)と、いずれの指標もきちんと稼いでいます。元々「Roses」は2016年7月にリリースされていましたが、昨年9月にカザフスタンのDJ、イマンベックオリジナルバージョンの声を早回ししダンサブルなトラックに仕立てたバージョンがリリースされるとTikTokで話題となり、リミックスバージョンが使われた投稿動画の今年4月の総再生回数は45億を記録(データはこちらより)。これが世界の公式チャートに波及しイギリスでは今年春に2週間首位を獲得、そして遂にアメリカでも…というヒットの形なのです。さらには今週のダウンロードおよびストリーミング集計期間初日にあたる5月29日に新たなリミックスとしてフューチャー参加版を投入したことも、トップ10入りの原動力と言えるでしょう。

 

最新のトップ10はこちら。

 
 
 
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#Hot100 (chart dated June 13, 2020)

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[今週 (前週) 歌手名・曲名]

1位 (3位) ダベイビー feat. ロディ・リッチ「Rockstar」

2位 (2位) ミーガン・ジー・スタリオン feat. ビヨンセ「Savage」

3位 (4位) ザ・ウィークエンド「Blinding Lights」

4位 (5位) ドージャ・キャット「Say So」

5位 (1位) レディー・ガガアリアナ・グランデ「Rain On Me」

6位 (6位) ドレイク「Toosie Slide」

7位 (7位) デュア・リパ「Don't Start Now」

8位 (9位) ジャスティン・ビーバー feat. クエイヴォ「Intentions」

9位 (8位) ロディ・リッチ「The Box」

10位 (14位) セイント・ジョン「Roses」 

次週以降「Rockstar」の、特にラジオエアプレイの動きに注目すると共に、「Rain On Me」がどこまで踏ん張れるかにも注視したいところです。

今日から首都圏ラジオ局は聴取率調査週間…今週のラジオの動き、そして私見を記す

首都圏ラジオ局は今日から1週間、聴取率調査週間に入ります。個人的に気になる動きを追いかけていきます。

 

前期も聴取率首位を獲得したTBSラジオ(この件に関してはこちらの見出しで確認出来ます)、本日放送の『たまむすび』(月-金曜13時)よりパーソナリティの赤江珠緒さんが復帰。またJ-WAVEでは金曜朝の『-JK RADIO- TOKYO UNITED』(金曜6時)にジョン・カビラさんが復帰します。カビラさんは喉のポリープ除去手術等を終え、そして赤江さんは新型コロナウイルス感染から回復。

赤江珠緒さんはテレビの情報番組を担当されていたこともあり、自身の経験談や現場で聞いたこと等を数回に渡ってラジオ局に報告。ジャーナリストとしての姿勢に感銘を受けた方は少なくないでしょう。一方でその報告が自身の番組『たまむすび』ではなく同じTBSの別番組、『荻上チキ Session-22』(月-金曜22時)だったことに個人的には引っ掛かりを覚えた次第です。

『たまむすび』でも全文が掲載されていますが、赤江珠緒さんをはじめ出演者陣がこの番組については”(いい意味で)聴いた後に何も残らない”がコンセプトだと幾度となく口にしています。そのことはよく解るものの、しかしここまではっきり棲み分けさせないといけないのはやりすぎではないかと思うのです。

これは邪推かもしれないという前提で書きますが、おそらく『たまむすび』は未だに前番組『小島慶子 キラ☆キラ』(2009-2012)の影を引きずっているのではないでしょうか。特に火曜や、前任の木曜パートナーの方が小島さんを、その名を出さずとも悪い意味でイジるのを何度か耳にしていますし、リスナーもTwitter上で『たまむすび』ハッシュタグを用いて小島さんを蔑視する姿勢を幾度となく目にしてきました。『キラ☆キラ』の関係者で小島さんに好意的且つ今でも交流があると名言しているのはRHYMESTER宇多丸さんくらいではと捉えています。小島慶子さんが番組を離れた理由、フリーアナウンサーになった理由を快く思っていない方は少なくないかもしれませんが個人的にはその理由に納得出来ますし、なにより『たまむすび』ははじまってから既に9年目となり『キラ☆キラ』の倍以上の年月を歩んでいるのですから、未だ比較対象をみつけて貶すことで番組の価値を上げる必要はないはずです。また、おそらくは『キラ☆キラ』が小島慶子さんの真面目さも反映された番組ゆえに『たまむすび』の番組コンセプトにはその反動が生じているのかもしれませんが、新型コロナウイルスの件については堂々と『たまむすび』で話して好いのではないかと思います。

 

聴取率調査週間に合わせて毎回放送されるTOKYO FM『村上RADIO』については次回放送もこの調査週間最終日に放送されます。

この番組の内容の高評価は耳にします。自分はその内容自体について否定するつもりは一切ありません。ただしこの番組のためにたとえば前週も”プレ”スペシャルを組むなど、村上春樹さん推しが強すぎないかと思うところはあり、あらあめて記載します。

 

TBSラジオに話を戻すと、『久米宏 ラジオなんですけど』(土曜13時)が今月いっぱいで終了することが明らかになりました。6日の番組冒頭で久米宏さん本人が語っています。

(radikoタイムフリーは13日29時まで聴取可能です。)

終了に関する発言は、みやーんさんが書き起こしされています。

ここで気になったのは”打ち切り”という言葉。この引っ掛かりを踏まえ、私見をつぶやきました。

言い間違い、または滑舌については気にならなかったと言われれば嘘になりますが、しかし自分は気にしすぎるほどではありませんでした。ただ久米宏さんはアナウンサー出身であり、ご本人にとっては難しい問題だったのかもしれません。しかしやはりこのタイミングでの終了には違和感を覚えた次第。

久米宏さんは昨年7月、『あさイチ』(NHK総合 月-金曜8時15分)に出演しています。

この回も含め、久米宏さんを政府が気に入らなかったのでは考えるのは、先週発覚した官邸のメディア監視報道を踏まえれば自然なことだと考えます。『あさイチ』やラジオ番組が対象外であったとしても、気に入らない方を貶すという姿勢はこの監視問題から如実に表れているのではないでしょうか。

(個人的には、様々なメディアで政府が批判された(ただし決して誹謗中傷ではない)タイミングで、必ずといっていいほどその批判した者を誹謗中傷する特定のTwitterアカウントの存在を疑問視しているのですが、そちらについても邪推されかねないのでは?と思うのです。)

この件においては、監視対象の有無に関わらずテレビやラジオといったメディアがスクラムを組んで政権に対し問い質さないといけないと思うのです。しかし官邸によるメディア監視の問題はそれらメディアからは浮かび上がらず、個人の方が雑誌媒体と組んだことで発覚したわけです。屈していたと思われてもおかしくなく、そしてその結果が様々な番組の終焉だったのではないでしょうか。

自分はこの思いを強く抱いた次第です。

2020年5月の私的トップ10ソングス+α、選出しました

1月からはじめた【私的トップ10ソングス+α】企画。前の月にリリースされた曲を中心に、しかしその縛りは出来る限り緩くした上で選んでみました。ミュージックビデオ等動画がない曲は巻末のプレイリスト(Spotify)でチェックしてみてください。過去の私的トップ10ソングスについてはこちらをご参照ください。

 

 

10位 小林大吾「処方箋 (rebuilt)」

小林大吾さんの代表曲「処方箋 / sounds like a love song」。自分の大好きな曲がセルフカバーされ2年前にリリースされていたものが今月サブスク解禁されたことでエントリー。言葉により強い説得力が宿っています。詳細は以前記載したブログエントリーにて。

 

9位 ケム「Lie To Me」

日本で国内盤が未だリリースされない一方、アメリカでは絶大な支持を集めるR&B歌手、ケムによる久々の新曲。いかにもケムだと思わせる安心なサウンド。4月末リリースの曲ですが今月の1曲にエントリー。

 

8位 ジェシー・ウェア「Save A Kiss」

リモートで作られたミュージックビデオも含め、エレガントさが際立った作品。ビート、コーラス、そしてストリングスの重なりが見事。ジェシー・ウェアについては3月に「Spotlight」を首位としたこともあり、今月19日に登場する4枚目のオリジナルアルバム『What's Your Pleasure?』が楽しみでなりません。

 

7位 フォー・キング・アンド・カントリー with トリー・ケリー & カーク・フランクリン「Together」

クリスチャンミュージック界で活躍し今年のグラミー賞で2部門を受賞したデュオ、フォー・キング・アンド・カントリーがトリー・ケリー、そしてトリーのゴスペル作も手掛けた若き重鎮カーク・フランクリンを招いて制作。ミュージックビデオでも解るようにコロナ禍における連帯を強く謳った曲ですが、個人的には今のアメリカに巣食う人種差別へのプロテストソングとしても強く掲げるべき曲ではないかと思うのです。

 

6位 ジェイコブ・コリアー feat. マヘリア & タイ・ダラー・サイン「All I Need」

ミュージックビデオは未着ながらテレビ番組向けにリモート撮影されたパフォーマンス動画がものすごくファニーで、これだけでもジェイコブ・コリアーの魅力が十分に伝わるはず。4月のベストに挙げた「In My Bones」をプリンスが生きていたら嫉妬したかもと形容しましたが、こちらはアース・ウィンド & ファイアーへの愛に溢れています。夏に出る予定のアルバムが楽しみです。

 

5位 長谷川白紙「Sea Change」

昨年リリースされた初のフルアルバム『エアにに』も絶賛された長谷川白紙さんによるカバーアルバム『夢の骨が襲いかかる!』収録の唯一のオリジナル曲。シンプルなアレンジだからこそ際立つメロディセンス、そして声の美しさに魅了されます。

 

4位 イエバ「Distance」

イントロで虜になった曲。プロデュースはマーク・ロンソン。ドラムはクエストラヴ…さらに初のフルアルバムリリース前にグラミー賞受賞経験を持つイエバの、ファーストアルバムからの先行曲。素晴らしい方々と共演する一方、ここまでの道のりには大きな悲しい出来事が(詳細はソニーミュージックに掲載されたバイオグラフィーをご参照ください→こちら)。失恋の曲ではあれど、その悲しみを天へと届けんとするかのようにも感じた次第。

 

3位 アンドラ・デイ「Make Your Troubles Go Away」

コロナ禍の状況でいち早く、WHO等が主宰しレディー・ガガがキュレートしたイベント”One World: Together At Home”の冒頭を飾ったのはアンドラ・デイによる、心を強くするアンセム「Rise Up」でした。その曲のリリースから5年、届けられた新曲は「Rise Up」に至るための心を築き上げる応援歌といえる内容。「Rise Up」を歌った彼女だからこそ、より強い説得力を有するのです。

 

2位 宇多田ヒカル「誰にも言わない」

ミュージックビデオ、リリックビデオ、オーディオがYouTubeに存在しないため、この曲が用いられたCM関連映像を紹介。Spotifyで曲を聴くとこのCM映像の場面場面がループし、邦楽では未だ多くないSpotifyでの映像提供に拍手したものです(この映像表現についてはSpotifyにおけるミュージックビデオのさらなる活用法、実はSpotify自身が提唱していたので多くの歌手に使ってもらいたい(4月12日付)をご参照ください)。

トップ10はひと組の歌手につき1曲と決めているのですが、このルールがなかったら「Time」もトップ10に入れたほどの傑作。2曲の解説についてはライターで評論家のimdkmさんによる記事、宇多田ヒカル「誰にも言わない」から感じる“私”であることを貫く詞の凄み 「Time」とは対照的なサウンドプロダクションも - Real Sound|リアルサウンド(5月29日付)を是非ご参照いただきたいのですが、その他にも、たとえば盟友の椎名林檎さんが近年の作品でアウトロを長尺にし曲の世界観を強めているように、宇多田ヒカルさんの場合は2番の後の展開にこそ主軸が置かれているかのようで、曲を通して聴いてくれという思いが強く感じられます。4分半を超えるプロダクションは近年の流行に反すると言えるくらいに長尺ですが、心を鷲掴みにされあっという間に時間が過ぎていくのです。

 

1位 藤井風「罪の香り」

ファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』は好事家から称賛され、さらにはビルボードジャパンアルバムチャートも制覇。藤井風さんに今後ますます注目が集まることは間違いありません。アルバム発売の直前にカットした「キリがないから」も素晴らしいのですが、アルバムでは先行公開済の4曲に続いて配置された「罪の香り」のイントロで完全にノックアウトされてしまいました。ルーツである昭和歌謡をアップデートしたアレンジ、主人公が深みにハマっていく様子(そして最後の最後で”堕ちた”ことが如実に解る様)を描いた歌詞に、解る解る!と深く頷きながら何度も聴いています。

素晴らしいのは、ミュージックビデオ未制作の曲もYouTubeにオーディオが用意され、アルバムがYouTubeで全曲フルサイズで聴ける体制となっていること(→こちら)。ここ数年で登場した歌手がブレイクする理由はこの、曲や歌手を気になって検索した方が素早く曲に触れられる仕組みをきちんと構築していることにあるのではないでしょうか。

 

以下、次点として10曲。

宇多田ヒカル「Time」

・TAMTAM「Summer Ghost」

・藤井風「キリがないから」

・Mom「カルトボーイ」

・yama「クリーム」

・クロイ&ハリー「Do It」

・ハイム「Don't Wanna」

レディー・ガガ「Free Woman」

・レノン・ステラ feat. チャーリー・プース「Summer Feelings」

・モーゼス・サムニー「Bless Me」

トラップも含め幾多のジャンルを飲み込むMom「カルトボーイ」に彼の才能の凄さを実感。ハイムやレディー・ガガはさすがの安定感。 クロイ&ハリーは今週リリースされるニューアルバム『Ungodly Hour』からの先行曲でCDは用意されないようですが、アルバムが楽しみです。

 

Spotifyのプレイリストはこちらに。

今月も素晴らしい音楽に出逢えることを願っています。

ビルボードジャパン上半期ソングスチャートから思う、音楽業界に対する個人的な希望や要望3点

昨日はビルボードジャパンの今年度上半期各種チャートが発表され、このブログでも私見を記載しました。

上半期各種チャートにおいては、サブスクの再生回数に基づくストリーミング指標や動画再生指標に強い曲や歌手が上位に登場。トップアーティストランキングにランクインした上位20組中、ストリーミングおよび動画再生という接触指標群でトップ10入りしたのは9組。これはダウンロード指標と並んで最多となります。下記の表は昨日も紹介した通り、トップアーティストランキングの指標毎の順位を示したものですが、接触指標群等デジタル未解禁や不徹底という取りこぼしがチャートにおいて不利な状況を導くというのが私見です(取りこぼしが如何に勿体ないかについては、昨日のブログエントリーをご参照ください)。

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この結果を踏まえ、音楽業界に対する個人的な希望や要望をいくつか記載しようと思います。

 

ジャニーズ事務所所属歌手、米津玄師等のサブスク解禁

ダウンロード、ストリーミング共に未解禁で上半期のソングスチャート100位以内にランクインしたのはジャニーズ事務所所属歌手の5曲のみ。コロナ禍の影響でCDリリースが相次いで延期となったのも影を落としていますが、Snow Man「D.D.」(上半期6位)やSixTONES「Imitation Rain」(同9位)がさらなる浮上に至れなかったのもこの点にあると睨んでいます。

米津玄師さんも未だ日本では未解禁のまま。日本で、と書いたのは台湾等では聴取可能のため(詳細は音楽戦略や新型コロナウイルス対策…台北旅行を終えて日本の方針を考える(2月18日付)を参照)。今週米津さんが久々のツイートで『近々何かしらの情報が出る』と記載した際、Spotifyに彼のプレイリストが用意されていたことが判明したこともありサブスク解禁の期待が高まっていたのですが、昨日発表されたのはニュースアルバムリリースのアナウンス。

ジャニーズ事務所所属歌手で2組目のサブスク解禁がアナウンスされている堂本剛さんのソロユニット、ENDLICHERIはその解禁を旧譜のみ(今月リリースのニューアルバムは対象外)としていますが、仮に米津玄師さんがサブスクを解禁したとして同様の手段を採るかもしれません。

しかしながら、所有指標に長けている歌手については確実に所有行動を実施するコアなファンが付いているわけです。しかも複数種リリースの場合、そのいくつかもしくは全てを購入する傾向があります。サブスクを解禁したとしてもコアなファンが離れることはほぼないでしょうし、むしろ聴いて気に入った方が購入に至る可能性を踏まえれば、解禁は必要だと思うのです。King GnuOfficial髭男dismはライト層への訴求を徹底し今の地位を築いているのですから尚の事、なのです。

 

TikTok発等、動画を経由した新しいヒットの形の確立

上半期ソングスチャート終盤に首位を獲得した瑛人「香水」はTikTokのカバー等動画がヒットの源にあり、また上半期から下半期にかけて連覇を果たしているYOASOBI「夜に駆ける」は動画でのヒットは勿論のこと、小説を基に曲を書き下ろすというスタイルを築き上げ音の世界感を複数のメディアで訴求することに成功しています。さらにヨルシカはCDパッケージの工夫が素晴らしく、また『盗作』という次作のアルバムタイトルが今週トレンド入りを果たしていますが、先行曲の「花に亡霊」もまた動画再生指標が好調に推移しています。

TikTokYouTubeでの人気がサブスクを経由し所有指標やラジオエアプレイにつながるのが今の新しいヒットの形であり、コロナ禍でCDリリースが減った状況も相俟ってこのヒットの形がより目立つようになりました。CDリリース量が戻ったとしても新しい形のヒットはロングヒットする傾向にあることから、これら作品の動向に注目したいところ(それゆえCDセールス指標に強い曲における同指標加算2週目の総合チャートのポイント前週比、そして新しいヒットの形を経て人気になった曲のポイント前週比を共にチェックすることは必要です)。また瑛人さんやYOASOBIについてはCDとしての処女作がどうなるかも気になります。

 

③ リミックスや別バージョン等のさらなる充実と、これらのチャート上での合算

このブログでは幾度となく、オリジナルバージョンとリミックス等別バージョンをアメリカ同様合算してほしい、もしくは議論してほしいということを記載しています。リミックスについては今年に入ってから嵐、ザ・チェインスモーカーズへの新田真剣佑さんの参加等で目立ってきていますが、先月には浜崎あゆみさんがリミックス用のデータを提供してリミックスコンテストを実施し、リミックスの楽しさが多くの方に認知されてきています。

さらに今週、back numberも「クリスマスソング」等のリミックス企画を用意しています。

別バージョンにおいてはYouTubeチャンネル”THE FIRST TAKE”が代表例であり、ここで披露されたバージョンが音源化されスマッシュヒットしたことで、DISH//「猫」は北村匠海さんのソロバージョンとして(そしてDISH//の名前もきちんとクレジットされた状態で)昨日『ミュージックステーション』に出演を果たしています。今週水曜にはDISH//メンバー4名での”THE HOME TAKE”バージョンもYouTubeに登場。なによりこの”THE FIRST TAKE”ではLiSA「紅蓮華」が、オリジナルバージョンのミュージックビデオを超える再生回数を記録しているのが特筆すべき点と言えます。

ただこれらリミックスや別バージョンはオリジナルバージョンに合算されません。北村匠海さんの『ミュージックステーション』出演が叶ったのも、LiSA「紅蓮華」が2020年にさらなる躍進を遂げたのもこの”THE FIRST TAKE”シリーズの影響が大きいと思われますが、曲の勢いが可視化されるビルボードジャパンソングスチャート(弊ブログでは”社会的ヒットの鑑”と形容しています)で合算されないとなると、その勢いが伝わりにくいのではないかと思うのです。その他合算すべき理由は浜崎あゆみさんのリミックスについて紹介した上記ブログエントリーでも記載していますが、是非とも今一度考慮してほしいと願います。

 

 

このブログでは年明けにこのような希望を記載しました。

”リミックスや客演等、追加バージョンの投入”については定番化していくのではと捉えています。昨年米ビルボードソングスチャートで19週首位という新記録を樹立したリル・ナズ・X「Old Town Road」のような”TikTok発のバイラルヒットを自ら生む姿勢”という状況は生まれていませんが、レコード会社および芸能事務所未所属ながら瑛人「香水」が首位を獲得したのはリル・ナズ・Xを彷彿とさせ、いい意味で驚きました。年明けに表明した希望は少しずつ叶いつつあるように思います。 

発し手や受け手、そして仲介役にとっても、音楽環境はコロナ禍で大きく変わりました。特に発売延期や実店舗の営業自粛等で、レンタルも含めCDを手に入れにくい状況が生じ、CDセールスに長けた曲のヒットが厳しくなったのが上半期チャートの特徴であり、実際にCDセールスに頼らないヒットも生まれてきています(一方ではパッケージに工夫を凝らし、コアなファンの所有したい思いを満たす歌手も出ていますが、彼らの大半は接触についても充実させています)。今回の①~③がどれだけ叶い、そしてビルボードジャパンがチャートポリシー変更するかについて、注目したいものです。

ビルボードジャパンが2020年度上半期チャートを発表…サブスクや動画再生がヒットの要、取りこぼしはあってはならないと願う

ビルボードジャパンの2020年度上半期各チャートが今朝発表されました。

上半期はOfficial髭男dismとKing Gnuがチャートを席巻。アルバムチャートではKing Gnu『CEREMONY』が制し、昨秋リリースのOfficial髭男dism『Traveler』が2位に。

この2作品のヒットの動向は最近紹介しましたのでそちらもご参照ください。

この2作品はルックアップでも1位と2位にランクイン。パソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる回数を意味するルックアップはレンタルCDの動向も予測出来る指標ですが、2位の『CEREMONY』と3位以下とでは大きな乖離があることから、この2作品が如何に突出していたか、またレンタルという形でのCDの接触も優れていることが解ります。

 

ソングスチャートはKing Gnu「白日」が3位、そしてOfficial髭男dismが「Pretender」と「I LOVE...」でワンツーフィニッシュを達成。ヒゲダンは「宿命」を5位に、「イエスタデイ」を7位に送り込みトップ10内に4曲がランクイン。

2020年度にリリースされた曲は「I LOVE...」とSnow Man「D.D.」(6位)、SixTONES「Imitation Rain」(9位)の3曲のみで、サブスクの再生回数を基とするストリーミングが強い曲のロングヒットが目立つ形です。

ロングヒットの理由はストリーミングのみならず動画再生を含めた接触指標群が強いこと、これら指標群が急落するタイプのものではないことに加え、上半期総括記事でも登場する『NHK紅白歌合戦』効果も大きいと思われます(実際『紅白』でパフォーマンスされたことで認知度が急上昇しさらなるステップアップを成し遂げた曲は多く、如何に重要な番組かが解ります)。ただ年間チャートとなると順位に大きな変動が生まれるかもしれません。コロナ禍の影響によりCDを主体とする作品のリリース延期が多い中、自粛期間中にTikTok人気がさらに高まり、TikTokの歌ってみた動画など弊ブログでいうところの”愛される動画”発のヒットが増えてきているのです。動画からサブスクを経てダウンロードさらにラジオエアプレイの順に波及していくのがこの形態のヒットの特徴で、上半期終盤に首位を獲得した瑛人「香水」(52位)やYOASOBI「夜に駆ける」(25位)が年間チャートでどの位置に登場するかが注目されます。

尤もこの”愛される動画”発のヒットは、ボカロPの投稿先であるニコニコ動画という先駆者的プラットフォームの貢献度も高いと思われます。米津玄師さん等を輩出した経緯を踏まえるに日本において動画発のヒット曲が生まれやすい環境が整っているため、今後動画を機とする形態のヒット曲が増えていくことは間違いないはずです。

 

 

他方、CDを主体とするヒット曲は減っています。シングルCDセールス上位10曲のうち総合でもトップ10入りしたのはSnow Man「D.D.」(セールス3位)とSixTONES「Imitation Rain」(セールス4位)のみ。デジタル指標群がアイドルの中で強い坂道グループにおいても、セールス2位の乃木坂46「しあわせの保護色」、同5位の日向坂46「ソンナコトナイヨ」は共に総合ではトップ10を逃しています。コロナ禍の影響でリリースが延期となったのみならずCDショップやレンタル店、ライブハウスや特典イベント等の自粛が支障をきたしたというのもありますが、しかしCD主体の活動がヒットに結びつきにくくなったということは歌手別の順位であるトップアーティストからも解ります。

上位20組を指標別の順位でみると。

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(上記は上半期チャートのうち”TOP Artists”の指標別アーティスト・ランキングに掲載されている表。是非ともビルボードジャパンの解説と併せてご覧いただきたいと思います。解説はこちら。)

コロナ禍の影響で4月20日付以降カラオケ指標の集計が取り止めとなっていますが、そのカラオケを含めOfficial髭男dismが6部門で首位に。King Gnuは「白日」がシングルCDとしてリリースされていませんが、アルバム『CEREMONY』が大きく影響しCDセールス指標を制しています。一方、シングルCDセールスに長けた乃木坂46は16位(CDセールス2位)、SixTONESは11位(CDセールス7位)、Snow Manは8位(CDセールス3位)。特にジャニーズ事務所所属の新人2組においてはCDセールス70位の嵐にトップアーティストチャートで敗れています。嵐の6位登場は『満を持して解禁したダウンロードとストリーミングでのポイント積み上げが大きな要因』(上記記事より)。如何にデジタル指標群を取り込むかがヒットの鍵であり、とりわけ「Love so sweet」(2007)がソングスチャート100位以内に入っているのは『』内を証明していると言えるでしょう。

Snow ManおよびSixTONESTwitterでワンツーフィニッシュとなっていますが、このTwitter指標は総合チャートと比較的大きく乖離してきています。この指標は星野源「うちで踊ろう」のヒットのチャート面への可視化に大きな役割を果たしたことで存在意義は示されている一方、ファンによるツイート活動がどんどん高まっていることでこの指標が社会的な流行を押さえるというビルボードジャパンが当初同指標を集計に加えた意図からは外れつつあるように思います。この点は以前指摘していますが、加えてまだどこにも解禁されていない新曲がTwitter指標だけでランクインする状況も不自然ではないかと考えます。

特にジャニーズ事務所所属歌手において、曲のほとんどをデジタル解禁しているのは嵐のみ(今月にはENDLICHERIが、今月リリースの新作を除いて解禁予定)。同事務所のCDセールス偏重という姿勢が未だ強く見られますしチャート業界やメディアでもその姿勢が根強いため意識改革が必要だと感じています(この点については(追記あり) "SixTONES vs Snow Man"と"Snow Man vs SixTONES"のCDセールスは分けるのか一緒くたなのか…ビルボードジャパンとオリコンの見解が出る(1月24日付)でも記載しています)。デジタル解禁を勧める理由は、Twitter指標同様に長期安定しているルックアップの動きからも言えること。ルックアップの堅調はレンタルの好調を示すものであり、接触のニーズの高さが伺えます。接触に長けた曲が上半期チャートで好成績となった状況を踏まえれば、”ジャニーズをデジタルに放つ新世代。”とのキャッチフレーズと矛盾したと思われてもおかしくないデジタル未解禁は、接触の機会を逃したという点で至極勿体ないと思うのです。ライト層はストリーミングや動画再生といった接触指標群から触れて所有指標群へ移行することもあり、またコアなファンはダウンロードとCDを共に手に入れる可能性が高いため(ダウンロードが先行配信されたならば尚の事)、仮にSnow ManSixTONESが共にデジタル解禁していれば「D.D.」と「Imitation Rain」はさらなるヒットとなったはずです。

Snow ManSixTONESは動画再生指標が高くないのも特徴で、これは上記動画がフルバージョンになっていないことが要因と考えます。実は動画再生が大ブレーキとなったのがFoorin「パプリカ」。昨年の『輝く!日本レコード大賞』大賞受賞曲ながら、上半期総括記事にはほぼ出てきません。大賞受賞日を集計期間初日とする1月13日付では5位に再浮上したものの、2020年度上半期でのトップ10入りはこの一週のみとなり、集計期間最終週には100位圏外へとダウンしてしまいました。これはおそらく動画再生指標が十分に加算されていないため。

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一昨年7月に解禁された上記ミュージックビデオは再生回数1億9千万を突破しているにも関わらず動画再生指標が加算されたのはわずか6週のみ。上記チャート推移(CHART insight)は直近30週分を示していますが、先述した1月13日付でも未加算となっていました。これは動画がレコード会社ではなくNHK発であり、動画再生のカウント対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)が未付番だったためとみられますが、このISRCは後からでも付保可能なことを考えると、レコード会社等が徹底していなかったことが大きな問題と言えるでしょう。この動画再生指標問題は、『鬼滅の刃』効果でロングヒットしシングルCDもリリースされていながら動画再生が週間で最高8位にとどまったLiSA「紅蓮華」にも当てはまるものと考えます。ミュージックビデオがショートバージョンであることは再生回数増加の足かせになると思うのです。これらに関してはレコード会社側の意識の問題と言っても過言ではないでしょう。

 

 

総括の後半は思うように伸びなかった曲の原因への指摘が中心となりましたが、ビルボードジャパンソングスチャートの認知度と信頼度が高まり、このチャートを社会的ヒットの鑑としている方が増えているだろうことを踏まえれば、ポイントの取りこぼしは尚の事あってはならないと思うのです。それはなにより曲や歌手に対して失礼なことであり、レコード会社や芸能事務所はきちんと考えて欲しいと願います。

6月8日付ビルボードジャパンソングスチャートは”愛される動画”発ヒット曲の勢いに陰り? 一方の米ビルボードは次週”Black Lives Matter”が反映されるか

毎週木曜は、前日発表されたビルボードジャパン各種チャートの注目点を、ソングスチャート中心に紹介します。今回は米ソングスチャートの次週予測についても記載します。

 

5月25~31日を集計期間とする6月8日付ビルボードジャパンソングスチャート。YOASOBI「夜に駆ける」が2週連続で首位を獲得しました。

これまで大きくポイントを伸ばし続けてきた「夜に駆ける」の今週におけるポイント前週比は100.8%。前週160.4%を記録した時に比べると勢いは明らかに鈍化しています。また2位に浮上した瑛人「香水」は同104.2%で増加はしているものの大きく上昇したとは言い難く、前週カテゴライズした”愛される動画”発のヒット曲の多くは今週足踏み状態と言えるかもしれません。ちなみにこれら動画発のヒットの中で、今週新たにトップ10入りを果たしたyama「春を告げる」はポイント前週比125.5%と勢いがあり、さらなるブレイクを果たすか注目です。

 

”愛される動画”という括りについては先日記載したブログエントリーをご参照ください。

上記でも触れましたが、今週金曜の『あさイチ』(NHK総合 月-金曜8時15分)でYOASOBIが、『ミュージックステーション』でDISH//北村匠海さんやShutaSueyoshiさん、瑛人さん等が出演するため、動画発のヒットにさらなる注目が集まりそうです。シングルCD未リリースの楽曲がさらなるステップアップを図るにはメディア出演が必要ではないかと考えるゆえ、金曜以降の動向に注目したいと思います。

 

そのDISH//ですが、「猫」の新たなバージョンが一発録りのYouTubeチャンネル、THE FIRST TAKEの自宅録音版”THE HOME TAKE ver.”として昨日公開されています。

元々3年前にシングルCDのカップリングに収録されたあいみょんさんによる提供曲が注目を集めたのはTHE FIRST TAKEへの出演がきっかけ。そこで披露されたバージョン(THE FIRST TAKE ver.)が音源化され、ビルボードジャパンソングスチャートでは5週連続でトップ40内をキープしています。

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今回のバージョンは冒頭のウィンドチャイムの挿入で判るように、THE FIRST TAKE ver.とは異なります。

次週のチャートでTHE HOME TAKE ver.がTHE FIRST TAKE ver.に合算されるということはありませんが、この動画を機にTHE FIRST TAKE ver.が、『ミュージックステーション』出演も相俟ってさらに注目を集めることでしょう。ひとつ気掛かりなのは、THE HOME TAKE ver.の登場を踏まえれば尚の事、『ミュージックステーション』においてはリモートセッションの形でもいいのでDISH//として出演は出来なかったのか、ということを書き記しておきます。

 

 

さて、今朝新たなポッドキャストをアップしました。

一昨日紹介した米ビルボードソングスチャートの次週予測について簡単に取り上げたのですが、そこれも触れたように、黒人が差別され殺害された事件に対する”Black Lives Matter”の抗議活動を踏まえ、音楽業界が”Black Out Tuesday”を実施した結果が反映されるかもしれません。

Spotifyではこのようなプロテストソング等をまとめたプレイリストをアップ。

そして6月2日付米Spotifyデイリーチャートでは。

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アメリカの現状を強烈なミュージックビデオと共に提示したチャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」(2018)が2位へ浮上。尤もこの曲はこの2日前に143位に再登場し97位を経ての2位到達ですが急上昇であることは事実。さらにケンドリック・ラマー「Alright」(2015)が11位、ジェームス・ブラウン「Say It Loud - I'm Black And I'm Proud」(1968)が65位等、プレイリスト収録曲が再登場もしくは初登場を果たしてます。

今回の抗議活動とそのきっかけとなった事件、さらにこれまでの歴史やエンターテイナーの行動については様々な記事で確認可能です。代表的なものとして、ライターで翻訳家の池城美菜子さんによる記事を紹介します。

”Black Out Tuesday”についてはSNSが黒く染まる。広がる「Black Out Tuesday」とは? 黒人差別に抗議、米音楽業界で大規模なストライキ実施へ | ハフポスト(6月2日付)が解りやすいかもしれません。

 

アメリカの人々は、社会を良くするためにどうするかを自発的に考え、動く方が多い印象があります。次週の米ビルボードソングスチャートに「This Is America」等が再度ランクインを果たしたならば尚の事、差別への抗議活動が高まるのではないでしょうか。チャートの動向を注視するとともに、アメリカに蔓延る差別が解消されることを心から願います。