イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ビルボードジャパン上半期ソングスチャートから思う、音楽業界に対する個人的な希望や要望3点

昨日はビルボードジャパンの今年度上半期各種チャートが発表され、このブログでも私見を記載しました。

上半期各種チャートにおいては、サブスクの再生回数に基づくストリーミング指標や動画再生指標に強い曲や歌手が上位に登場。トップアーティストランキングにランクインした上位20組中、ストリーミングおよび動画再生という接触指標群でトップ10入りしたのは9組。これはダウンロード指標と並んで最多となります。下記の表は昨日も紹介した通り、トップアーティストランキングの指標毎の順位を示したものですが、接触指標群等デジタル未解禁や不徹底という取りこぼしがチャートにおいて不利な状況を導くというのが私見です(取りこぼしが如何に勿体ないかについては、昨日のブログエントリーをご参照ください)。

f:id:face_urbansoul:20200605053313j:plain

この結果を踏まえ、音楽業界に対する個人的な希望や要望をいくつか記載しようと思います。

 

ジャニーズ事務所所属歌手、米津玄師等のサブスク解禁

ダウンロード、ストリーミング共に未解禁で上半期のソングスチャート100位以内にランクインしたのはジャニーズ事務所所属歌手の5曲のみ。コロナ禍の影響でCDリリースが相次いで延期となったのも影を落としていますが、Snow Man「D.D.」(上半期6位)やSixTONES「Imitation Rain」(同9位)がさらなる浮上に至れなかったのもこの点にあると睨んでいます。

米津玄師さんも未だ日本では未解禁のまま。日本で、と書いたのは台湾等では聴取可能のため(詳細は音楽戦略や新型コロナウイルス対策…台北旅行を終えて日本の方針を考える(2月18日付)を参照)。今週米津さんが久々のツイートで『近々何かしらの情報が出る』と記載した際、Spotifyに彼のプレイリストが用意されていたことが判明したこともありサブスク解禁の期待が高まっていたのですが、昨日発表されたのはニュースアルバムリリースのアナウンス。

ジャニーズ事務所所属歌手で2組目のサブスク解禁がアナウンスされている堂本剛さんのソロユニット、ENDLICHERIはその解禁を旧譜のみ(今月リリースのニューアルバムは対象外)としていますが、仮に米津玄師さんがサブスクを解禁したとして同様の手段を採るかもしれません。

しかしながら、所有指標に長けている歌手については確実に所有行動を実施するコアなファンが付いているわけです。しかも複数種リリースの場合、そのいくつかもしくは全てを購入する傾向があります。サブスクを解禁したとしてもコアなファンが離れることはほぼないでしょうし、むしろ聴いて気に入った方が購入に至る可能性を踏まえれば、解禁は必要だと思うのです。King GnuOfficial髭男dismはライト層への訴求を徹底し今の地位を築いているのですから尚の事、なのです。

 

TikTok発等、動画を経由した新しいヒットの形の確立

上半期ソングスチャート終盤に首位を獲得した瑛人「香水」はTikTokのカバー等動画がヒットの源にあり、また上半期から下半期にかけて連覇を果たしているYOASOBI「夜に駆ける」は動画でのヒットは勿論のこと、小説を基に曲を書き下ろすというスタイルを築き上げ音の世界感を複数のメディアで訴求することに成功しています。さらにヨルシカはCDパッケージの工夫が素晴らしく、また『盗作』という次作のアルバムタイトルが今週トレンド入りを果たしていますが、先行曲の「花に亡霊」もまた動画再生指標が好調に推移しています。

TikTokYouTubeでの人気がサブスクを経由し所有指標やラジオエアプレイにつながるのが今の新しいヒットの形であり、コロナ禍でCDリリースが減った状況も相俟ってこのヒットの形がより目立つようになりました。CDリリース量が戻ったとしても新しい形のヒットはロングヒットする傾向にあることから、これら作品の動向に注目したいところ(それゆえCDセールス指標に強い曲における同指標加算2週目の総合チャートのポイント前週比、そして新しいヒットの形を経て人気になった曲のポイント前週比を共にチェックすることは必要です)。また瑛人さんやYOASOBIについてはCDとしての処女作がどうなるかも気になります。

 

③ リミックスや別バージョン等のさらなる充実と、これらのチャート上での合算

このブログでは幾度となく、オリジナルバージョンとリミックス等別バージョンをアメリカ同様合算してほしい、もしくは議論してほしいということを記載しています。リミックスについては今年に入ってから嵐、ザ・チェインスモーカーズへの新田真剣佑さんの参加等で目立ってきていますが、先月には浜崎あゆみさんがリミックス用のデータを提供してリミックスコンテストを実施し、リミックスの楽しさが多くの方に認知されてきています。

さらに今週、back numberも「クリスマスソング」等のリミックス企画を用意しています。

別バージョンにおいてはYouTubeチャンネル”THE FIRST TAKE”が代表例であり、ここで披露されたバージョンが音源化されスマッシュヒットしたことで、DISH//「猫」は北村匠海さんのソロバージョンとして(そしてDISH//の名前もきちんとクレジットされた状態で)昨日『ミュージックステーション』に出演を果たしています。今週水曜にはDISH//メンバー4名での”THE HOME TAKE”バージョンもYouTubeに登場。なによりこの”THE FIRST TAKE”ではLiSA「紅蓮華」が、オリジナルバージョンのミュージックビデオを超える再生回数を記録しているのが特筆すべき点と言えます。

ただこれらリミックスや別バージョンはオリジナルバージョンに合算されません。北村匠海さんの『ミュージックステーション』出演が叶ったのも、LiSA「紅蓮華」が2020年にさらなる躍進を遂げたのもこの”THE FIRST TAKE”シリーズの影響が大きいと思われますが、曲の勢いが可視化されるビルボードジャパンソングスチャート(弊ブログでは”社会的ヒットの鑑”と形容しています)で合算されないとなると、その勢いが伝わりにくいのではないかと思うのです。その他合算すべき理由は浜崎あゆみさんのリミックスについて紹介した上記ブログエントリーでも記載していますが、是非とも今一度考慮してほしいと願います。

 

 

このブログでは年明けにこのような希望を記載しました。

”リミックスや客演等、追加バージョンの投入”については定番化していくのではと捉えています。昨年米ビルボードソングスチャートで19週首位という新記録を樹立したリル・ナズ・X「Old Town Road」のような”TikTok発のバイラルヒットを自ら生む姿勢”という状況は生まれていませんが、レコード会社および芸能事務所未所属ながら瑛人「香水」が首位を獲得したのはリル・ナズ・Xを彷彿とさせ、いい意味で驚きました。年明けに表明した希望は少しずつ叶いつつあるように思います。 

発し手や受け手、そして仲介役にとっても、音楽環境はコロナ禍で大きく変わりました。特に発売延期や実店舗の営業自粛等で、レンタルも含めCDを手に入れにくい状況が生じ、CDセールスに長けた曲のヒットが厳しくなったのが上半期チャートの特徴であり、実際にCDセールスに頼らないヒットも生まれてきています(一方ではパッケージに工夫を凝らし、コアなファンの所有したい思いを満たす歌手も出ていますが、彼らの大半は接触についても充実させています)。今回の①~③がどれだけ叶い、そしてビルボードジャパンがチャートポリシー変更するかについて、注目したいものです。