ビルボードジャパンの2020年度上半期各チャートが今朝発表されました。
Billboard Japan 2020年上半期チャート発表 Official髭男dismが【TOP Artists】と【HOT 100】、King Gnuが【HOT Albums】首位に https://t.co/WHklFfEYfp pic.twitter.com/tjBYq7hWZD
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) 2020年6月4日
上半期はOfficial髭男dismとKing Gnuがチャートを席巻。アルバムチャートではKing Gnu『CEREMONY』が制し、昨秋リリースのOfficial髭男dism『Traveler』が2位に。
【ビルボード 2020年上半期HOT Albums】King Gnu『CEREMONY』が総合首位 Official髭男dism『Traveler』が続く(コメントあり) https://t.co/rDviamHdai pic.twitter.com/GwN9IYMUmd
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この2作品のヒットの動向は最近紹介しましたのでそちらもご参照ください。
この2作品はルックアップでも1位と2位にランクイン。パソコン等に取り込んだ際にインターネットデータベースにアクセスされる回数を意味するルックアップはレンタルCDの動向も予測出来る指標ですが、2位の『CEREMONY』と3位以下とでは大きな乖離があることから、この2作品が如何に突出していたか、またレンタルという形でのCDの接触も優れていることが解ります。
ソングスチャートはKing Gnu「白日」が3位、そしてOfficial髭男dismが「Pretender」と「I LOVE...」でワンツーフィニッシュを達成。ヒゲダンは「宿命」を5位に、「イエスタデイ」を7位に送り込みトップ10内に4曲がランクイン。
【ビルボード 2020年上半期HOT 100】Official髭男dism「Pretender」が総合首位、King Gnuが大躍進(コメントあり) https://t.co/4Ue1JSELyn pic.twitter.com/TLOx8YLnIy
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2020年度にリリースされた曲は「I LOVE...」とSnow Man「D.D.」(6位)、SixTONES「Imitation Rain」(9位)の3曲のみで、サブスクの再生回数を基とするストリーミングが強い曲のロングヒットが目立つ形です。
ロングヒットの理由はストリーミングのみならず動画再生を含めた接触指標群が強いこと、これら指標群が急落するタイプのものではないことに加え、上半期総括記事でも登場する『NHK紅白歌合戦』効果も大きいと思われます(実際『紅白』でパフォーマンスされたことで認知度が急上昇しさらなるステップアップを成し遂げた曲は多く、如何に重要な番組かが解ります)。ただ年間チャートとなると順位に大きな変動が生まれるかもしれません。コロナ禍の影響によりCDを主体とする作品のリリース延期が多い中、自粛期間中にTikTok人気がさらに高まり、TikTokの歌ってみた動画など弊ブログでいうところの”愛される動画”発のヒットが増えてきているのです。動画からサブスクを経てダウンロードさらにラジオエアプレイの順に波及していくのがこの形態のヒットの特徴で、上半期終盤に首位を獲得した瑛人「香水」(52位)やYOASOBI「夜に駆ける」(25位)が年間チャートでどの位置に登場するかが注目されます。
尤もこの”愛される動画”発のヒットは、ボカロPの投稿先であるニコニコ動画という先駆者的プラットフォームの貢献度も高いと思われます。米津玄師さん等を輩出した経緯を踏まえるに日本において動画発のヒット曲が生まれやすい環境が整っているため、今後動画を機とする形態のヒット曲が増えていくことは間違いないはずです。
他方、CDを主体とするヒット曲は減っています。シングルCDセールス上位10曲のうち総合でもトップ10入りしたのはSnow Man「D.D.」(セールス3位)とSixTONES「Imitation Rain」(セールス4位)のみ。デジタル指標群がアイドルの中で強い坂道グループにおいても、セールス2位の乃木坂46「しあわせの保護色」、同5位の日向坂46「ソンナコトナイヨ」は共に総合ではトップ10を逃しています。コロナ禍の影響でリリースが延期となったのみならずCDショップやレンタル店、ライブハウスや特典イベント等の自粛が支障をきたしたというのもありますが、しかしCD主体の活動がヒットに結びつきにくくなったということは歌手別の順位であるトップアーティストからも解ります。
【ビルボード 2020年上半期TOP Artists】Official髭男dismとKing Gnuの大躍進、Mrs. GREEN APPLEジワリ前進(コメントあり) https://t.co/J1vC7FolDb pic.twitter.com/3BJgJX6paB
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上位20組を指標別の順位でみると。
(上記は上半期チャートのうち”TOP Artists”の指標別アーティスト・ランキングに掲載されている表。是非ともビルボードジャパンの解説と併せてご覧いただきたいと思います。解説はこちら。)
コロナ禍の影響で4月20日付以降カラオケ指標の集計が取り止めとなっていますが、そのカラオケを含めOfficial髭男dismが6部門で首位に。King Gnuは「白日」がシングルCDとしてリリースされていませんが、アルバム『CEREMONY』が大きく影響しCDセールス指標を制しています。一方、シングルCDセールスに長けた乃木坂46は16位(CDセールス2位)、SixTONESは11位(CDセールス7位)、Snow Manは8位(CDセールス3位)。特にジャニーズ事務所所属の新人2組においてはCDセールス70位の嵐にトップアーティストチャートで敗れています。嵐の6位登場は『満を持して解禁したダウンロードとストリーミングでのポイント積み上げが大きな要因』(上記記事より)。如何にデジタル指標群を取り込むかがヒットの鍵であり、とりわけ「Love so sweet」(2007)がソングスチャート100位以内に入っているのは『』内を証明していると言えるでしょう。
Snow ManおよびSixTONESはTwitterでワンツーフィニッシュとなっていますが、このTwitter指標は総合チャートと比較的大きく乖離してきています。この指標は星野源「うちで踊ろう」のヒットのチャート面への可視化に大きな役割を果たしたことで存在意義は示されている一方、ファンによるツイート活動がどんどん高まっていることでこの指標が社会的な流行を押さえるというビルボードジャパンが当初同指標を集計に加えた意図からは外れつつあるように思います。この点は以前指摘していますが、加えてまだどこにも解禁されていない新曲がTwitter指標だけでランクインする状況も不自然ではないかと考えます。
特にジャニーズ事務所所属歌手において、曲のほとんどをデジタル解禁しているのは嵐のみ(今月にはENDLICHERIが、今月リリースの新作を除いて解禁予定)。同事務所のCDセールス偏重という姿勢が未だ強く見られますしチャート業界やメディアでもその姿勢が根強いため意識改革が必要だと感じています(この点については(追記あり) "SixTONES vs Snow Man"と"Snow Man vs SixTONES"のCDセールスは分けるのか一緒くたなのか…ビルボードジャパンとオリコンの見解が出る(1月24日付)でも記載しています)。デジタル解禁を勧める理由は、Twitter指標同様に長期安定しているルックアップの動きからも言えること。ルックアップの堅調はレンタルの好調を示すものであり、接触のニーズの高さが伺えます。接触に長けた曲が上半期チャートで好成績となった状況を踏まえれば、”ジャニーズをデジタルに放つ新世代。”とのキャッチフレーズと矛盾したと思われてもおかしくないデジタル未解禁は、接触の機会を逃したという点で至極勿体ないと思うのです。ライト層はストリーミングや動画再生といった接触指標群から触れて所有指標群へ移行することもあり、またコアなファンはダウンロードとCDを共に手に入れる可能性が高いため(ダウンロードが先行配信されたならば尚の事)、仮にSnow ManとSixTONESが共にデジタル解禁していれば「D.D.」と「Imitation Rain」はさらなるヒットとなったはずです。
Snow ManとSixTONESは動画再生指標が高くないのも特徴で、これは上記動画がフルバージョンになっていないことが要因と考えます。実は動画再生が大ブレーキとなったのがFoorin「パプリカ」。昨年の『輝く!日本レコード大賞』大賞受賞曲ながら、上半期総括記事にはほぼ出てきません。大賞受賞日を集計期間初日とする1月13日付では5位に再浮上したものの、2020年度上半期でのトップ10入りはこの一週のみとなり、集計期間最終週には100位圏外へとダウンしてしまいました。これはおそらく動画再生指標が十分に加算されていないため。
一昨年7月に解禁された上記ミュージックビデオは再生回数1億9千万を突破しているにも関わらず動画再生指標が加算されたのはわずか6週のみ。上記チャート推移(CHART insight)は直近30週分を示していますが、先述した1月13日付でも未加算となっていました。これは動画がレコード会社ではなくNHK発であり、動画再生のカウント対象となるISRC(国際標準レコーディングコード)が未付番だったためとみられますが、このISRCは後からでも付保可能なことを考えると、レコード会社等が徹底していなかったことが大きな問題と言えるでしょう。この動画再生指標問題は、『鬼滅の刃』効果でロングヒットしシングルCDもリリースされていながら動画再生が週間で最高8位にとどまったLiSA「紅蓮華」にも当てはまるものと考えます。ミュージックビデオがショートバージョンであることは再生回数増加の足かせになると思うのです。これらに関してはレコード会社側の意識の問題と言っても過言ではないでしょう。
総括の後半は思うように伸びなかった曲の原因への指摘が中心となりましたが、ビルボードジャパンソングスチャートの認知度と信頼度が高まり、このチャートを社会的ヒットの鑑としている方が増えているだろうことを踏まえれば、ポイントの取りこぼしは尚の事あってはならないと思うのです。それはなにより曲や歌手に対して失礼なことであり、レコード会社や芸能事務所はきちんと考えて欲しいと願います。