翻って日本はというと、ビルボードジャパンソングスチャートのラジオエアプレイ指標では初登場で上位に登場する例が少なくなく、たとえばスピッツ「ありがとさん」は9月16日付のラジオエアプレイ指標で初登場1位を獲得しています。邦楽の場合は新鋭の歌手の作品も速やかに上位に進出することが多く、ストリーミングが十分に浸透していないだろうことなどを踏まえるに、アメリカほどストリーミングとラジオエアプレイには乖離が生まれていないように思います。しかしながら前回取り上げたメイベル「Don't Call Me Up」は輸入盤ではなく国内盤がリリースされたタイミングが最も盛り上がっており、同時にラジオエアプレイの盛り上がりが他指標(ストリーミング等)に波及していないことが、ラジオの流行をいち早く捉えたり追う力、影響力の乏しさ、さらには保守的な姿勢を物語っています。ラジオが海外の流行に乗り遅れていることや、結局はCDリリース(それも日本のレコード会社発)ありきのエアプレイになっているだろうことがリスナーにバレているかは分かりませんが。
仕掛けとは、米ビルボードソングスチャートを押し上げるべく追加投入される、新たなミュージックビデオやリミックスのこと。以前からこのチャートではよく見られていたことですが、なんといっても今年インパクトが大きかったのはリル・ナズ・X「Old Town Road」における、ベテランカントリー歌手のビリー・レイ・サイラス客演版でしょう。その「Old Town Road」の首位陥落後、リゾは「Truth Hurts」に2つのリミックスを追加投入し初のチャート制覇を成し遂げていますが、とりわけラッパーのダベイビーが参加したリミックスが「Truth Hurts」を首位へ押し上げたのみならず、最新9月28日付チャートにおいてはリル・ナズ・X「Panini」にダベイビーが参加したバージョンが1週間フルで加算されたことで、リル・ナズ・Xに2曲目のトップ10ヒットをもたらしています。
リゾ「Truth Hurts」は最新9月28日付米ビルボードソングスチャートで首位を制しながら、チャートを構成する3指標のうち唯一ダウンしたのがダウンロードでした。それも前週比12%と2桁のダウン。おそらくリゾはこのダウンロードにメスを入れたかったものと考えます。K-POPアクトはBTSやBLACKPINK等がアメリカで成功を収めていますが、アメリカにおけるK-POPアクトは接触が多くない一方所有が強いという特徴があることから、次週「Truth Hurts」のダウンロードはある程度歯止めがかかる可能性があります。実際、先述した「Old Town Road」においてはBTS のRMを迎えたバージョンが投入され、1週間フル加算で反映された8月10日付米ビルボードソングスチャートではダウンロードが前週よりアップしています(その反動ゆえか、翌週のダウンロードは前週比28%の大幅減になりましたが)。
「Old Town Road」も「Truth Hurts」も、どちらから客演のアプローチがあったのかは判りかねますし、AB6IXの知名度がアメリカでどのくらいかは不明。しかしながらK-POPのチャート特性を踏まえ、ダウンロードを押し上げるべくリミックスを制作したのだとしたら戦略の巧さには唸るばかり。同時に、アメリカではK-POPが売れるということが常識となったということも理解出来ます。
アルバムチャートを制したのはPerfumeのベストアルバム『Perfume The Best "P Cubed"』。アルバムチャートを構成するアルバムCDセールス、ダウンロードおよびルックアップ全てで1位となる完全制覇を達成しています。このベストアルバムリリースのタイミングで、Perfumeはストリーミングを解禁。
リゾ「Truth Hurts」はラジオエアプレイで前週比4%アップの1億1640万を獲得し同指標初の1位を獲得。ヒップホップが同指標で首位を獲得したのは1年以上前、カーディ・Bがバッド・バニー&J・バルヴィンと共演した「I Like It」以来となります。ダウンロードは同12%ダウンの27000(同指標1位)、ストリーミングは同1%アップの2940万(同8位)に。「Truth Hurts」は今回4週目の首位獲得となり、女性単独(客演なし)によるヒップホップ楽曲の最長首位記録を更新しました(これまでの記録はこちらもカーディ・Bによる「Bodak Yellow (Money Moves)」(2017)の3週)。
前週はポスト・マローンがアルバム『Hollywood's Bleeding』を初めてチャートに送り込んだ影響でソングスチャート100位以内に全曲がランクイン、トップ10には4曲が登場したのですが今週は2曲にとどまっています。その中でルイス・キャパルディ「Someone You Loved」が抜け出し、前週から5ランクアップし4位に到達。ダウンロードは前週比20%アップの21000(同指標3位)、ラジオエアプレイは同10%アップの8690万(同5位)、ストリーミングは同9%アップの2420万(同13位)といずれも高成長。次週はトップ3入りの可能性も充分です。
10位 (11位) リル・ナズ・X feat. ビリー・レイ・サイラス「Old Town Road」
「Truth Hurts」および「Panini」にダベイビーがクレジットされていないのは、ダベイビー参加版よりもオリジナルのほうが人気のため。また前週紹介した、アリアナ・グランデ、マイリー・サイラス&ラナ・デル・レイ「Don't Call Me Angel」は初登場13位という結果に。ダウンロードは26000(同指標2位)、ストリーミングは2630万(同11位)となり、初週に強くないラジオエアプレイ(750万、同指標50位未満)をデジタル2指標でカバー出来ませんでした。