イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

アルバムチャートで目立ち始めた動きを踏まえ、ビルボードジャパンや音楽業界へ(再度)提案する

ビルボードジャパンに対してはアルバムチャートについて、以前から改善提案を記載しています。

パソコン等へのCD取込数を踏まえて売上枚数に対する実際の購入者数(ユニークユーザー数)やレンタル枚数を推測できたルックアップ指標が2022年度末にて廃止となったアルバムチャートにおいて、所有と接触(サブスク)の乖離が目立っていること、所有の中でもフィジカルとデジタルで乖離が生まれていること、そしてフィジカル施策が自然とはいえない上昇を招いていることを提示してきました。

ビルボードジャパンがアルバムチャートに接触指標を導入することが、チャートポリシー変更の最善と考えます。米ビルボードにおけるSEA(ストリーミングのアルバム換算分)を日本に導入する際は収録曲数が多いほど有利となる形にならないようにする必要がありますが、SEAの導入が広く社会に浸透したアルバムの可視化につながり、フィジカルセールス施策に特化した形での再浮上が総合チャートに反映されにくくなるでしょう。

そして米ビルボードによるフィジカル施策の無効化に倣い、販売期間と到着時期にズレがあり前者にて売上が立っていることがあれば発送段階での売上計上に統一するよう、ビルボードジャパンが各歌手側に対し徹底させていく必要があると考えます。

上記提案から1ヶ月が経過しましたが、その後もチャートにおける違和感が発生していることから、再度提案を記載します。なお、今回の提案では特定の歌手における事例を紹介していますが、その歌手を非難する意図はありません。

 

 

先月、SEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』がビルボードジャパンアルバムチャートで首位に返り咲いたこと(同作品の指標構成がアルバムチャートにおけるビルボードジャパンへの改善提案を記すきっかけとなりましたが)をお伝えしました。その後急落したこのアルバムは、3月13日公開分にて再度フィジカルセールスを伸ばし、総合でも首位に再浮上を果たしています。

『SEVENTEENTH HEAVEN』の3月における再浮上の理由は、上記キャンペーンに因るものと考えます。ポスト内リンク先では『2024年3月以降準備でき次第発送』とあり、この発送分が売上に計上されたことが最新3月20日公開分まで影響を及ぼしているといえるでしょう。そして、これと近い動きは別の歌手でもみられます。

 

BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE『Back & Forth』が3週前にアルバムチャートで初登場を果たしながら、前週はフィジカルセールスおよびダウンロードがいずれも300位圏外となっていました。最新3月20日公開分にてフィジカルセールスが突如伸び(4,782枚を売り上げフィジカルセールス指標9位に再浮上)、総合でも10位に返り咲いているのですが、ここには施策の影響がみられます。

上記画像は【イメージ動画公開!!】〈3/3(日)大阪・3/17(日)東京にて開催!!〉BALLISTIK BOYZ New Album『Back & Forth』発売記念 メンバー個別直筆サイン会当日追加枠会場販売決定! | NEWS | EXILE TRIBE mobile(3月2日付)より(上記ポスト内リンクと同様)。サインをもらうには2形態もしくは3形態のフィジカルを購入する必要があります。当日参加も可能とのことで、これがチャートに反映されたと捉えていいでしょう。

 

 

これら歌手側主催のイベントはどの集計期間に売上が立つかは分かりかねるものの、計上時は(前週に比べて)急激に上昇する傾向にあります。また、フィジカルセールス指標初加算時にはダウンロード指標も伸びることが多いのですが、アルバムチャートにおけるフィジカル追加販売施策はあくまでコアファン向けを対象としているためか、ダウンロード指標は伸びません。

日本におけるSpotifyアルバムチャートでは前回の紹介以降、SEVENTEEN『SEVENTEENTH HEAVEN』は200位以内に登場していません。これはBALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE『Back & Forth』についても同様であり、先程紹介した施策がコアファン向け且つフィジカル販売を主目的とするものだとあらためて解るはずです。

 

 

ビルボードジャパン側へ提案した内容を再掲しますが、アルバムチャートへのストリーミング指標導入を願ってきたのは、2022年度までCDレンタル分も反映されたルックアップ指標が存在し、同指標が接触の役割も果たしていたためです。ただしこの指標は、コアファンによる過度な熱量の反映が散見されたためにビルボードジャパン側が取込の廃止に至っていますが、Gracenote側のサービス維持の難しさも理由と伺っています。

チャートディレクターの礒崎誠二さんがアルバムチャートへのストリーミング指標の導入に否定的であることは、ポッドキャスト等発信内容から伺っています。しかしながらフィジカル施策が目立ってきたこと、施策がコアファンとライト層(作品は気になるが歌手のファンではない方)との乖離をさらに広げること、そして接触(的な)指標がかつてあったことを踏まえれば、ストリーミング指標の導入は必要ではというのが私見です。

 

それでも米ビルボードのようなアルバムチャートへのストリーミング指標導入が難しいと思うならば、まずはサブスクサービス全体での週間アルバムチャートを、アルバムチャートの指標構成に組み込まない形で作成することを勧めます(ただしその際は、各作品の総再生回数をアルバムの収録曲数で割る方式にすることが必要です)。そうすることで、ストリーミングを組み込むか否かの議論はより立体的に成ることでしょう。

もうひとつ。これは日本の音楽業界全体に対しての願いですが、アルバムの質にフォーカスした音楽賞を用意すべきと考えます(日本レコード大賞がアルバム部門を表彰しなくなったため、尚の事です)。聴かれ続ける作品が質が高いことと必ずしもイコールではありませんが(ストリーミングヒット曲を多く収録したアルバムがより人気となるため)、所有指標のみの音楽チャートとは別の側面から光を当てることができるはずです。