イマオト - 今の音楽を追うブログ -

旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

米でTikTokが全面禁止となる可能性を踏まえ、米ビルボードがTikTokと”一発屋”との関連性に言及した記事を読む

先日のブログエントリー、通常より多くの反響をいただいております。感謝申し上げます。

米でTikTokが禁止となった場合に音楽チャート(主に米ビルボードソングチャート)に起こる可能性について、米ビルボードが5つのポイントを挙げています。そのひとつが【一発屋の減少】でしたが、この点については別のコラムもアップされています。今回はこのコラムについて、意訳し紹介します。

 

 

先月末に米ビルボードが掲載したコラムには、【TikTokは実はもっと多くの一発屋を生み出している?】というタイトルが付けられています。

 

Spotifyのダニエル・エクCEOは1月31日に行われたアナリストとの会談にて、ストリーミングが音楽業界にもたらした革命に関するポジティブな側面を強調し、かつてないほど多くの歌手が重要な存在になっているとしながら、一方では”一発屋が増えるのか?”という不安についても認めています。そして現在の音楽業界は双方が少しずつ大きくなっているとしています。

とりわけTikTokが音楽業界に大きく影響を与える現在、アプリのトレンドに伴いチャートを上昇する曲が登場し、その歌手がレコード会社と契約したりマーケティングのキャンペーンにも波及することがあります。それに伴い一発屋が増え、歌手の育成が欠如すると悩む経営者の声を耳にする機会が増えているのです。

 

Spotifyが先日実施したイベントの中で、共同社長を務めるグスタヴ・ソダーストロムはSpotifyにおけるRelease Radar機能がストリーミングおよび長期的エンゲージメントの確立の双方を促進する力を持っていると訴求。”Spotifyでの発見は他のプラットフォームとは異なり、歌手にバイラルな一瞬の名声を超えるものを与える”と語っています。TikTokの名前こそ出さなかったもの、何をターゲットにしているかは明白です。

(※このイベント、【Stream On】については、Spotifyが「Stream On」にてクリエイターがアクセスできるさらなるチャンスや機能を紹介 - Spotify Japan — For the Record(3月9日付)をご参照ください。)

他方、TikTokの音楽部門グローバル責任者のオーレ・オーバーマンは米ビルボードに対し、TikTokが長期的で健全なキャリアより瞬間的な人気の確立を優先しているという声について、TikTokの音楽チームが音楽クリエイターやレーベルコミュニティと数年に渡り密接に協力したことであらゆる歌手を支援するという私たちのコミットメントが新たな才能や、レガシー歌手を新たな成功のポイントに押し上げるのに役立ったと反論。リル・ナズ・X等、TikTokをきっかけにブレイクした歌手が米ビルボードソングチャートで複数のヒットを記録したこと、またTikTokでファンベースを拡大し、個々のヒット曲に基づくのではなく幅広い音楽キャリアを構築する歌手も見受けられると語っています。

(※リル・ナズ・Xと同列で紹介されたアイス・スパイスやコイ・リレイについては今年になって初めて米ビルボードソングチャートでトップ10入りを果たしているため、オーレ・オーバーマンの発言には一部違和感を覚えるという私見を記しておきます。)

 

音楽業界の関係者の多くは、一発屋が新たに溢れてきていると捉えています。そこで一発屋と指摘された歌手は果たしてその後も米ビルボードソングチャートに登場しているのかについて考えます。

 

一発屋”について、ここでは米ビルボードのソングチャート(Hot 100)で40位以内に入り、その後トップ40ヒットを輩出していない歌手と定義します。すると、この基準に当てはまる歌手の割合は2002年から2019年までは比較的安定しているのです。この期間にトップ40入りした歌手のうち54%は2回目のトップ40ヒットを輩出できていません。その範囲は39~61%となり、時間の経過と共に著しく増加するわけではありません。

(グラフは今回の米ビルボードによるコラムより。)

それが調査対象の最終年となる2020年には、二度目のトップ40ヒットを輩出できない歌手が70%となり最も高くなっています。ただし今後輩出する可能性もあるため、この割合は下がるかもしれません。仮に一発屋の定義を”トップ40に入った後、2年以内に再度輩出できなかった歌手”と定義し直すと2019年までの水準は平均7%以上跳ね上がることになり、2020年の一発屋については例年並みになる可能性が高いのです。

 

この一発屋とは対象的に、コンスタントにヒットを輩出している”キャリア歌手”についてもみてみましょう。客演参加も含めトップ40内に10曲以上輩出する歌手をキャリア歌手と定義した場合、2002年から2020年の間に一度でもトップ40入りした歌手のうちその基準を満たしたのはおよそ10%でした。またキャリア歌手の出現頻度は年々変化しており、調査期間の前半と後半とでほぼ同数が出現しています。

(グラフは今回の米ビルボードによるコラムより。)

トップ40のデータにはもうひとつの顕著な傾向が。上位に登場する新人歌手の数は時間のと共に緩やかに減少しており、2年におよそ1組の割合で新人歌手が減っています。これはトップ10ヒットを輩出する新人歌手の減少を反映していますが、トップ40に範囲を拡げるとこの傾向はあまり顕著ではなくなります。トップ10よりもトップ40入りするほうが難しくないこと、また毎年トップ10入りする曲の数が少ないためと考えられます。

 

20年前に比べてトップ40ヒットを輩出することは難しくなった一方、一度ブレイクした歌手が最終的にキャリアを重ね二桁のトップ40ヒットを輩出する確立はほぼ同じだと言えます。前者は気掛かりなことである一方、後者は状況が変わったとして同じことが繰り返されているということです。

 

 

記事を意訳しました。

TikTokが仮に米全体で使えなくなった場合、たしかに一発屋は減るかもしれません。ただ現状にて一発屋が多いかどうかについては、その後ヒット曲を輩出したかを数年後に振り返った上で判断しなければいけないという米ビルボードの指摘に同意します。確実なことは、仮にTikTokが禁止されれば全体的なチャート推移は今よりは穏やかになっていくだろうということです。

他方、現在はアルバム初登場週に収録曲がソングチャートでも大量エントリーすることが少なくありません。直近ではテイラー・スウィフトやドレイク & 21サヴェージ、モーガン・ウォレンが該当しますが、これはアルバム/ソングチャート双方の原動力がストリーミングであり、話題の歌手が高い人気を保ったままアルバムをリリースすればトップ40ヒットをこれまで以上に多く輩出できるというチャートポリシーゆえです。

 

TikTokでブレイクした歌手をレコード会社が率先して契約する傾向は今後も続くかもしれません。その場合、キャリア歌手にどうやって育てるが大きな課題となるのではないかと考えます。