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旧ブログ名:face it。音楽チャートアナライザーとして、ビルボードジャパンや米ビルボードのソングチャートなどを紹介します。

ジャック・ハーロウ、米津玄師、ケンドリック・ラマー…直近の作品における解禁タイミング設定の好施策をまとめる

ここ最近のビルボードジャパンソングスチャートに関するブログエントリーは同社への提案に基づくものが多く、LINE MUSIC再生キャンペーンやフィジカルセールスにおける各種施策が背景にあります。しかし、施策は大なり小なり多くの歌手が取り入れているものだというのが私見です。昨日のブログエントリーに対するコメントに対し返信の形で記した内容が、自分の根底にある考えです。

ブログエントリー内コメントでも書きましたが、たとえば世界で大ヒットを続けるハリー・スタイルズ「As It Was」は米ビルボードソングスチャートを意識したダウンロード施策を実施しています(水曜のブログエントリー参照→こちら)。また最新のビルボードジャパンソングスチャートでラジオ指標を制したりりあ。「じゃあね、またね。」は集計対象局の半数がOAをしていないながらパワープレイが影響。これも施策でしょう。

大なり小なり施策は存在します。その中でLINE MUSIC再生キャンペーンやメンバー写真等のランダム封入に代表されるフィジカル独自の特典等によりライト層とコアファンとの乖離が激しくなる施策が目立ち、そのデータがそのまま反映されるならば問題と考え、自分は提案しています。フィジカルについてはコアファン向けグッズの意味合いを強めたことも踏まえ、全体的にウエイトを下げる必要があると考えます。

施策が存在しないことはあり得ないと言えるかもしれず、その中にあって極端な動向についてはチャートへの反映を抑えるべきというのが私見です。チャート対策を実施するコアファンの思い、推す歌手の作品を押し上げたいという心理は自然なものですが、ライト層に拡げるという意味での施策を練ることこそ圧倒的に重要でしょう。

 

(個人的には、推す作品を紹介するブログやnoteを用意し、その思いを伝えることをひとつの案として示します。ブログはTwitterよりも即時性は高くないものの、きちんと残るものです。そしてきちんと見つけてくれる方、支持してくださる方がいらっしゃることを、体験談として記しておきます。)

 

 

さて、ここからは直近の作品における好施策を3曲紹介します。施策として紹介しますが、もしかすると敢えて狙ったのではなく偶然の結果なのかもしれません。ゆえに自分が好施策と捉えているものという前提で取り上げようと思います。

 

 

・ジャック・ハーロウ「First Class」における絶妙のミュージックビデオ公開タイミング

ジャック・ハーロウ「First Class」は4月23日付米ビルボードソングスチャートで初登場首位を獲得。5月6日にリリースされたアルバム『Come Home the Kids Miss You』のリード曲として用意されたこの作品は、ファーギーの米ビルボードソングスチャート制覇曲「Glamorous」を使用したこと、リリース前にTikTokで話題になったこともありストリーミングの高さが首位獲得の原動力となりました。

「First Class」のミュージックビデオは長らく公開されませんでしたが、公開されたのは現地時間の5月6日。つまりアルバムリリース日となります。

ビルボードソングスチャートはストリーミング(動画再生含む)、ダウンロード(フィジカルセールスおよび歌手のホームページでの販売分含む)およびラジオの3指標で構成され、デジタル関連のラジオを除く2指標は高位置で、ラジオは低位置で初登場します。このチャートについては下記ブログエントリーにて解説しています。

ヒップホップは初速が大きい一方、2週目以降はデジタルのダウン(ダウンロードのほうがダウン幅は大きい)をラジオの上昇で補填しきれず、総合でも下がる傾向があります。

ジャック・ハーロウ「First Class」は最新5月14日付の米ビルボードソングスチャートで総合2→3位に後退しながら、ラジオ指標で早くも10位に達しました。そして翌週はアルバムチャート初登場のタイミングゆえ収録曲に注目が集まる中で、「First Class」がミュージックビデオをアップしたことでより大きな注目を集めんとしています。動画再生はストリーミング指標に含まれており、再生回数増加が十分考えられるのです。

ジャック・ハーロウ「First Class」は次週の米ビルボードソングスチャート集計期間初日となる5月6日の米Spotifyデイリーチャートでバッド・バニーに阻まれながら2位をキープ。そして翌日(→こちら)には首位に返り咲いています。日本時間の5月17日火曜朝発表予定の、5月21日付米ビルボードソングスチャートに注目しましょう。

 

 

・米津玄師「M八七」における注目度上昇必至のミュージックビデオ公開時間設定

5月18日水曜にフィジカルリリースされる米津玄師「M八七」が昨日デジタル先行で解禁されました。その解禁を予告する動画も話題になっています。

その予告通り、昨日8時にミュージックビデオが解禁。夜8時ではなく朝8時という設定時間は、通常のプレミア公開が基本的に夜であることを踏まえれば珍しいと言えます。

またミュージックビデオの公開は『シン・ウルトラマン』公開時間直前であり、聴いた/観た方は映画の没入度を高めるのではないでしょうか。

米津玄師さんはこれまでも、ミュージックビデオを朝8時に解禁することが多かったと記憶しています(解禁時間の記事が見つからないゆえ、記憶を辿る限りでとはなりますが)。今回の「M七八」については8時の全貌公開直前に各テレビ局が情報番組で一部を紹介しており、テレビを観てミュージックビデオ解禁の瞬間に立ち会ったという方も少なくないはずです。

また金曜は海外における音楽チャートの集計期間初日にあたり、米ビルボードは世界200以上の地域における主要デジタルプラットフォームを対象としたグローバルチャートを設けています。日本時間の5月24日火曜朝に発表予定の5月28日付グローバルチャート(集計期間:5月13~19日)において、米津玄師「M七八」は好位置に登場する可能性が高いと言えます。グローバルチャートについては下記をご参照ください。

「M八七」は次週5月18日公開分(5月23日付)ビルボードジャパンソングスチャートの首位候補のひとつと言えるかもしれません。

 

 

・ケンドリック・ラマー「The Heart Part 5」はアルバム未収録ながら注目度上昇に寄与

ケンドリック・ラマーが昨日、ニューアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』をリリースしました。

トラックリストは上記ツイート内リンク先から確認できます。ここで気になったのは、日本時間の今週月曜朝にリリースされた「The Heart Part 5」がアルバムに収められていないということ。

この曲についてはミュージックビデオも含めて、ユニバーサルミュージックのホームページにて池城美菜子さんが解説されています。一方でこれまでの「The Heart」シリーズはオリジナルアルバムに収められておらず、今作「The Heart Part 5」も同様です。

ケンドリック・ラマーがアルバム未収録の「The Heart Part 5」をリリースしたのは、アルバムリリースの認知度や注目度、期待値を高める目的があるものと思われます。英語版Wikipediaディスコグラフィー(→こちら)ではこの曲が"Promotional singles"としてカテゴライズされているのをみて、その考えはおそらく正しいだろうと実感しています。

ケンドリック・ラマーは4月中旬にアルバムのリリースを予告したものの、リード曲のリリースは一向にありませんでした。「The Heart Part 5」は、"The Heart"シリーズがアルバム未収録(ゆえに今作のリード曲ではない)と予想した方が少なくないだろうとして、アルバムリリースの信憑性を高めたと言えるでしょう。「The Heart Part 4」(2017年3月23日リリース)→「DAMN.」(同年4月14日リリース)の流れを彷彿とさせます。

また「The Heart Part 5」のリリースが日本時間の月曜朝、現地時間の日曜夜というのもポイント。新曲リリースは通常、チャート集計期間初日にあたる金曜に行われます。最近では木曜リリースも増えていますが、日曜解禁はほぼ耳にしません。イレギュラーな解禁は注目度を高め、実際「The Heart Part 5」は5月9日月曜の米Spotifyデイリーチャート(→こちら)で首位に初登場しています(なお8日はおそらく200位未満と思われます)。

「The Heart Part 5」はマーヴィン・ゲイ「I Want You」(1976)をサンプリングしており(上記リンク先参照)、多くの方が知る名曲を用いたことで目を惹きます。そのキャッチーさもさることながら、ケンドリック・ラマーのストーリーテラーとしての実力を示すにこの曲は十分な役割を果たしたものと考えます(この点については先述したケンドリック・ラマー、新曲「The Heart Part 5」徹底解説を是非ご確認ください)。

 

この1週間以内に俄然注目度を高めるケンドリック・ラマー。その熱が冷めやらぬうちにリリースされた『Mr. Morale & The Big Steppers』が、5月28日付米ビルボードアルバムチャートでどれだけのユニット数を獲得するかに注目しましょう。

 

 

リリースや動画公開の解禁タイミング設定ひとつで、注目度は大きく変わってくるものと考えます。そして好施策はライト層の注目を集め、話題が拡がり、最終的にはチャートにも影響を及ぼすでしょう。この3組のチャートアクション、気になるところです。