10月6日公開(10月11日付)ビルボードジャパンソングスチャートで2位に初登場を果たしたback number「黄色」。カラオケを除く7指標が100位以内にランクインし、突出したフィジカルセールスで総合首位に立ったAKB48「根も葉もRumor」とは大きく異なる動きをみせています。
サブスク再生回数等に基づくストリーミングは13位で、初登場時における順位は高いほうと言えます。さらに次週(10月13日公開(10月18日付))の集計期間初日には『CDTVライブ!ライブ!』(TBS)での"back numberフェス"が放送されたことで、「黄色」をはじめとするback numberの作品が浮上することが予想されます。
【back number】#backnumberフェス
— umusicjapan (@umusicjapan) 2021年10月4日
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そのback numberフェスでも披露された「水平線」は、最新10月6日公開(10月11日付)ビルボードジャパンソングスチャートでは4位、そしてストリーミング指標は5週連続で首位を記録しています。このストリーミング指標(最新週におけるストリーミングソングスチャートはこちら)の上位陣をみると、back numberは2010年以前にデビューした歌手では唯一、同チャート20位以内に複数曲を送り込んでいることが判ります*1。
back numberのストリーミング指標における強さは、10代への浸透と大きくリンクしているのではと感じています。
新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、昨夏back numberの地元群馬県で開催されるはずだったインターハイ(全国高等学校総合体育大会)が中止となりました。back number「水平線」はその中止を受けて制作され、昨年の大会開会式が予定された日に動画を公開。経緯については上記動画の概要欄に記載されています。
「水平線」は公開から1年の時を経て、今年のインターハイが開会された8月13日に配信リリース。しかしながらCHART insightからは、配信リリースのかなり前から動画再生(赤で表示)およびカラオケ(緑)の安定した動きが見て取れます。すなわち、配信リリースされれば早々にヒットに至れることは予想できたと言えます。
「水平線」のCHART insightのうち、動画再生およびストリーミング指標(青)のみを抜き出したのが上記。配信リリース前の段階で、ストリーミング指標が100位未満ながら300位圏内に通算3週ランクインしていることが判ります。これは同指標をサブスクと共に構成しているYouTube Musicの再生回数のみで300位以内に入ったことを示しており、これはSnow ManおよびSixTONESの最新シングルでもみられた傾向です。
このことは、「水平線」の動画がYouTube Musicとしても多く聴かれていたことを示しています。音源リリースが熱望されていたと捉えることも可能でしょう。
「水平線」がインターハイの運営に携わった高校生の手紙をきっかけに誕生したことから、この曲の人気は高校生の支持の表れと考えられます。サブスクがその年代に特に活用されていることを踏まえれば、配信リリース後のストリーミング指標の高さも、高校生人気と比例していると言えるでしょう。2010年以前にデビューした歌手で同指標の人気が高い方は多くはなく、back numberの人気の高さが突出していると想像できます。
上記はこの1年ちょっとの間に発表された、10代に行われた人気歌手もしくはバンド限定のランキング(ただしアンケートによって対象範囲は厳密には異なります)。リンク先の上から順に、back numberは9位、女子高生の10位、および4位にランクイン。若手歌手やアイドルそしてK-Popアクトがランクインする中にあって、堂々たる成績を収めているのです。
2010年以前にデビューしたback numberが、彼らのデビュー時には10歳未満だった方々からの支持を集める理由として、「水平線」とインターハイとの関係性以外にも2点が挙げられます。
ひとつは、近年のback numberの曲が恋愛をモチーフにした作品の主題歌に多く起用されている点。ベストアルバム『アンコール』(2016)リリース以前もみられた傾向ですが、「瞬き」(2017)は映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』、「オールドファッション」(2018)はドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』、「HAPPY BIRTHDAY」(2019)はドラマ『初めて恋をした日に読む話』の主題歌となっています。
「オールドファッション」「HAPPY BIRTHDAY」は共にTBSのドラマ主題歌であり、また異例と言える2クール連続での起用という点に、back numberの恋愛作品からの需要の高さがうかがえます。また今年に入ってからは「怪盗」がドラマ『恋はDeepに』の、最新シングル「黄色」がABEMAの恋愛リアリティ番組『オオカミくんには騙されない』の新シリーズ"虹とオオカミには騙されない"の主題歌に、それぞれ起用されています。
恋愛リアリティ番組の出演者は20歳前後であり、【10代×恋愛×back number】という最良の方程式が生まれています。その他のタイアップ番組においては出演者(特に恋をするカップル役)が10代とは離れている場合もありますが、逆に言えば地上波を中心に10代を主人公とする映像作品自体が多くないこともあり、恋愛ドラマを観てback numberにハマった10代が増えた可能性も考えられます。
2010年以前デビューのback numberが10代から支持を集めるもうひとつの理由は、彼らのサブスク解禁がLINE MUSIC先行だった点にあると考えます。
(なおこの点について最初に紹介した上記ブログエントリーでは、一部デジタルプラットフォーム限定での解禁に加えて、その解禁アナウンスが誤解を招きかねないことに対し疑問を記しています。)
LINE MUSICは10代に特に支持されているサブスクサービスであることが、今年春に『TALK ABOUT』(TBSラジオ)が10代に対し行ったアンケート結果から解ります。なおこのアンケートでは音楽以外のサブスクサービスも含まれています。
またLINE MUSICは、Apple MusicやSpotifyに比べて流行するまでのスピードが速いのが特徴であり、その点も10代の流行の速度と合致すると言えるでしょう。
LINE MUSICにおいてはTikTokで話題だったり映像作品のタイアップだったりと、若年層に人気がある曲がいち早く上位に進出、時にロングヒットを続ける状況です。
back numberが当初LINE MUSIC限定でサブスクを解禁したのは彼らの消極的な姿勢が反映されたのではと捉えていましたが、ともすれば彼らは10代の支持を得るべくLINE MUSIC限定という手法を選んだのかもしれません。それが今の人気につながっているならば、その中長期的な戦略には驚かされます。
またこの戦略は「黄色」についても当てはまると言えるでしょう。この曲は最新チャートの集計期間初日にリリースされ1週間フル加算されていますが、リリース前日にTikTokでのライブ配信にてパフォーマンスされており、TikTokユーザーに「黄色」をより強く印象付けさせたことは間違いありません。
#backnumber「#黄色」について。
— Kei (@Kei_radio) 2021年10月6日
『9月26日のTikTokライブ配信『back number TikTok LIVE&TALK』におけるライブ初披露を起点に開始し、翌27日に「ミュージックビデオがback numberの公式YouTubeチャンネルでプレミア公開された。同日のデジタル解禁、29日にフィジカル発売』
戦略、徹底していますね。 https://t.co/6C9oVafIu9
サブスクおよびその再生回数に基づくストリーミング指標が、ビルボードジャパンソングスチャートでの躍進や社会的ヒットを築くための主流になった現在にあって、2010年代前半以前にデビューやブレイクした歌手はサブスクでのヒット誕生に苦心している印象があります。その点においてback numberのヒットは、下地作りも含めて見事と言えるのではないでしょうか。
*1:back numberは2009年、ミニアルバム『逃した魚』でデビュー。